Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

テクニカルコーナー

My Project/第16回 【コンパクト収納】144MHzバンド6エレアンテナ

JP3DOI 正木潤一

私は大阪に住んでいますが、故郷は山口県で、年に3度は帰省します。地元では144MHzバンドがポピュラーで、私も実家や近くの山からQRP運用します。かねてから144MHzバンドの八木アンテナを作ってみたいと思っていましたが、最も長い反射器は1メートルを超え、ブーム長は6エレの場合1.5m以上になります。新幹線と在来線を乗り継ぐ道中で難なく持ち運べるくらいにまで分解できなければ、山口に持って帰れません。具体的には、旅行バッグに収納できるように、各パーツの長さを50cm程度に収める必要があります。

今回は、分割式のブームと折りたたみ式のエレメントを持つ、144MHzバンドの6エレ八木アンテナを製作します。


<山口県岩国市銭壷山(ぜにつぼやま)から瀬戸内海を望む眺め (SOTA JA/YG-082 540m)>

430MHzから144MHzの部材変更:

以前、Masacoさん(JH1CBX)が製作にチャレンジした430MHzバンドの6エレ八木アンテナには、アルミパイプ、樹脂ボルト、配線カバーを使いました。今回も同様の部材を使いますが、波長が約3倍でアンテナサイズも約3倍となるため、強度確保のために大きなものを使います。


<バンドごとの主要部材>

分割式ブーム:

ブームとして使う配線カバー(モール)は、床や壁面にケーブルを這わせるための物で、ケーブルを収める部分とカバーとで分離できるようになっています。カバーの上下をハメ込んで固定できることをブームの連結に利用します。繋げる際は「パチン」とハメ込み、分離する際はスライドさせて引き抜きます。今回は持ち手部分に20cmを確保するので、ブームの全長は172cmになります。ブームを5分割にすることで、1本あたり52cm以下となりました。(接合部分が10cmずつオーバーラップするので、単純に”172cm÷5”とはならない)


<連結式ブーム。ケーブルを収める部分(ブラック)とカバー(グレー)が分離する。光モール製の『タフモール(20mm幅)』を使用。>

折りたたみ式エレメント:

キャンピング用のドーム型テントのフレームは、中心にショックコードの通った複数のパイプで構成されています。ショックコードによって個々のパイプが引っ張られて合体し、一本の長いパイプになります。


<ドーム型テントのフレーム>

今回のアンテナエレメントは、これと同じ構造にします。エレメントを3分割して、真ん中のエレメントはジョイントを介してブームに固定、両サイドのエレメントを折りたたむ構造にしました。


<ジョイントとエレメント>

パイプ同士はショックコードによって引っ張られることで導通し、1本のエレメントになります。引っ張る力だけではグラつくので、パイプ同士の接合部にはスリーブを被せます。


<パイプの中に通したショックコードで引っ張られてエレメントとなる>

アンテナの設計:

今回もマッチング部の不要なOWA(Optimized Wideband Antenna)アンテナとしました。インターネットで集めた寸法データを元に、アンテナ解析ソフト『MMANA』を使ってシミュレーションします。


<MMANAによるシミュレーション結果(左)と実測したSWR(右)>

製作:

・ブーム
1. 配線カバー(モール)を寸法どおりにカットします。

2. カットした各パーツを10cmずつスライドさせ、結合部とします。(両端は10cm余るので切り落とす)

3. 図のように連結させます。

4. 後の作業中にカバーの上下がずれないように、各パーツの中心付近にテープを貼って固定しておきます。
ブームにジョイントをボルト留めしたあとに剥がします。
5. 図のように8mm径の穴を6箇所開けます。

・ジョイント
樹脂製のM8ボルトにナットを通し、ナットごと4.1mm径(※)の穴を開けます。これは全エレメント共通で使うので、6個作ります。この加工には精度が求められるので、卓上ドリルの使用をお勧めします。

※4mm径のパイプを通すには、穴の大きさを4.1mmにする必要があります。

・エレメント用アルミパイプ
4mm径のアルミパイプを寸法どおりにカットします。


必ずパイプカッターを使って切断面が平らになるようにカットします。


<パイプ同士の接合状態。キレイな断面(左)とイビツな断面(右)>

・エレメント(導波器と反射器)
1. 4cmのパイプをジョイントに挿入し、ボルトに接する箇所を少し凹ませて固定します。これは放射器以外に使うので5個作ります。

2. パイプとジョイントにショックコードを通し、抜けないように結び目を作ります。
(ショックコードを回転させるようにパイプに押し込むと通しやすい)

3. もう片方からコードを強く引っ張り、パイプ同士がしっかり接合するくらいのテンションを掛けた状態で結び目を作ります。張りが緩いとパイプ同士の導通が悪くなります。

・エレメント(放射器)
1. アルミパイプにスペーサーを通して、パイプの端から5mmのところで止まるように、パイプをかしめます。

2. パイプと、4.1mmの穴を開けただけのジョイントにショックコードを通して、抜けないように結び目を作ります。
3. もう片方からコードを強く引っ張り、パイプがしっかりジョイントに固定されるくらいのテンションを掛けた状態で結び目を作ります。ジョイント内で左右のエレメントが接触しないことを確認してください。

・給電部(同軸ケーブル)
1. 図のように丸型端子の1部を切り取ります。
2. 丸型端子に同軸ケーブルをハンダ付けします。

・組み立て
1. 各エレメントをブームに取り付け、ジョイントの裏側からナットを締めて固定します。
ゴムワッシャーを挟むと、エレメントが回転しにくくなります。

2. 給電部は、放射器とジョイントの間に丸型端子を割り込ませて挟みます。
3. 同軸ケーブルの給電部付近にクランプコアを取り付けます。

<参考:同軸ケーブルと簡易バラン(チョーク)>
放射器が平衡であるのに対して、同軸ケーブルは不平衡なので、給電点にバランを挿入する必要があります。バラン無しに同軸ケーブルから放射器に直接給電すると、電流分布が同軸ケーブルのシールド導体にも乗ることになります。
給電点付近にRFチョークを入れて、同軸ケーブルと放射器を高周波的に切り離すことで擬似的にバランを挿入する方法があります。このような簡易的なバランは、『フロート・バラン』や『ソータ・バラン』と呼ばれます。430MHzの八木アンテナではクランプコアを1個挿入しました。今回は周波数が1/3なので3個使いました。

運用:

運搬時には、ブームを切り離し、エレメントをブームに沿わせて畳んでバッグに収めます。なお、ブームからジョイントを取り外して完全分解すれば、組み立てに時間が掛かかりますが、さらにコンパクトになります。


<通常分解状態(左)と完全分解状態(右)>

使用時には、エレメントを結合させてブームを連結し、放射器のエレメントとジョイントとの間に丸型端子を挟み込んで給電接続します。なお、ハンダ付け部にシリコン系接着剤スーパーXを塗布してコーティングすると防水対策になります。


<同軸ケーブルの給電部。切り欠きにショックコードを通して放射器に取り付ける>

カメラの3脚へはブームの中央で固定します。ブームの材質が樹脂なので、端で固定するとグニャリとたわんでしまいます。今回は、50cmの樹脂パイプ(配線材)をマストにして、配管取り付け具を使ってブームの中心を固定しました。


<三脚への取り付け例>

カメラの三脚への固定には工夫が必要です。ブームの材質が樹脂なので、端で固定するとグニャリとたわんでしまいます。今回は、50cmの樹脂パイプ(配線パイプ)をマストにして、水道管取り付け具を使ってブームの中心を固定しました。


<ブームの固定具例。水平偏波にも対応。>

マストの三脚への取り付け用として、1/4インチねじ(カメラねじ)用ねじ穴を切ったベースに、マストを装着するパイプをねじ止めしてアダプターを製作しました。外形が16mmの水道パイプのジョイントに、ネジ穴を切った樹脂のベースを装着しています。マスト(配線用パイプ)は内径が16mmなので、被せるだけで固定されます。
ベース材としては、手ごろなサイズの樹脂材であれば何でもよいと思いますが、今回はタカチ製ケースのアクセサリ『アルミカバー付ビス止ゴム足』を使いました。タップを使って中心に1/4インチねじ穴を切って、カメラと同じように三脚に固定できるようにしています。


<三脚アダプターの例>

使用感:

2018年8月19日、今回の記事に掲載する写真を撮影した大阪府茨木市内の公園から、徳島県剣山(SOTA JA5/TS-001 1955m)の局とFMモード、1WでQSOできました。2局間の距離は172kmありましたが、終始59+で交信できました。なお、導波器2本を取り付けずに4エレアンテナとすることで指向性がブロードになってSWR も若干上がりますが、シンプルに運用することができそうです。これなら手持ちでも楽に使えます。


<4エレ状態におけるMMANAによるシミュレーション結果(左)と実測したSWR(右)>

最後に:

今回も、安価な部材を用いた、加工し易い構造を心がけました。ショックコードを使ったエレメントの連結方式は、八木アンテナに限らず、他のバンドのアンテナでも参考になると思います。また、予備の部材を揃えやすいので、フィールドでの運用時には一緒に携行して破損時に備えられます。

八木アンテナは「固定局で使用」というイメージが強いですが、実はコンパクトであれば気軽に持ち出して遠くの局を狙うのに使えると思います。また、移動運用ではコンディションにより頻繁にローケーションを変えることもあり、移動の足手まといになりにくいコンパクトに分解可能な八木アンテナは一定の需要があると思います。

My Project バックナンバー

2018年9月号トップへ戻る

次号は 12月 1日(木) に公開予定

サイトのご利用について

©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.