楽しいエレクトロニクス工作
前回、ツェッペリンアンテナの共振周波数と給電する先端のインピーダンスを測定しましたが、今回は共振点の補正とそれに合う梯子フィーダーを作って行きたいと思います。
前回、このアンテナを測定した結果、共振周波数が3.50MHz丁度であることが分かりましたが、目標の上のバンドの3.75MHzまで上げる必要があります。エレメントの長さにすると2.85m程度短くする必要があり、短縮コイルの巻き数にすると15t位になります。
そのまま巻き戻すとまた行き過ぎる恐れがあるので短縮コイルを12t巻き戻して26tとし、エレメントを2m切って様子を見てみました。その結果、共振点は3.65MHzになりましたがもう少し調整が必要です。ここで更にエレメントを短くし、最終的に合計3.2m切って3.75MHzに合わせました。短縮コイルを含めたエレメントの全長は36.8mとなりました。
300Ωフィーダーの端にバランを通してアンテナアナライザーでインピーダンスを測定すると予測より低い値を示し、言い換えると給電点は11.2kΩにもなる高いインピーダンスになっていました。
前回と同様の方法で給電点の11.2kΩを50Ωに変換する梯子フィーダーのインピーダンスをスミスチャートで探してみると750Ωになってしまいます。
750Ωの梯子フィーダーは、近代科学社の電子工学ハンドブックの次の図にも載らない50cmを超えるスペーサーの寸法になるため、作ることが実用的でないことが分かりました。
そこで以前に作ったことのあるスペーサーの線間間隔80mmで梯子フィーダーを作り、片方をアンテナに接続して他端をショートした梯子フィーダーで、50Ωになるポイントを探す方法に変更します。スペーサーの線間間隔80mmで梯子フィーダーに使う1.5D2Vの外皮導体が2.1mmΦなのでD/dが38.1位になり、上図よりインピーダンスは520Ω位になると思います。
梯子フィーダーのスペーサーは1mm厚のPET(Polyethylene terephthalate)樹脂の板で作ります。PET樹脂の板はアクリル板より価格が安く、一般的なホームセンターで手に入ります。梯子フィーダーではスペーサーの誘電率や誘電体損失はあまり影響なく、PET樹脂は耐候性も良く問題なく使えますが、価格を気にしなければもちろんアクリル板でOKです。
梯子フィーダーの必要な長さはλ/4ですが、300Ωテレビフィーダーと短縮率が違うため長さが異なり、余裕を見て1.5D2Vの同軸を20mに2本切って梯子フィーダーを作り、実験後に長さを調整します。このスペーサーを30cm間隔で入れると20m/30cmで66枚位必要です。
梯子フィーダー
1.5D2Vのビニール被覆を含んだ外形は実測3mmφなので、PET樹脂の板を幅20mm長さ100mmの長方形に切り、間隔80mmで3.1mmφの穴を開けて作ります。66枚もの板に同軸の線を30cmおきに通すのは結構大変ですが、両側から根気よく通していくしかありません。
スペーサーの板を全部通したら両端をどこかに固定して引っ張り、全部のスペーサーが線と直角になるよう修正してビニール用ボンドで止めます。他の接着剤では軟質ビニールの同軸の外皮に接着できないので注意が必要です。
これで520Ωの梯子フィーダーが完成しましたので、300Ωのテレビフィーダーの試験の時と同様にλ/4の長さを確定します。λ/4フィーダーで変換されると50Ωになるインピーダンスは5.4kΩです。これに等しい抵抗を接続してもう一方にバランを通してアンテナアナライザーに接続して確認します。5.4kΩは5.6kΩと150kΩを並列に接続すると可能です。
この接続状態で、アンテナアナライザーが3.65MHzで50Ωを示すように梯子フィーダーの長さを調整します。その結果は電気的なλ/4は19.58mになり、短縮率は0.953位で、300Ωテレビフィーダーと比べて3.15m長くなりました。
梯子フィーダーができたので、ツェッペリンアンテナのエレメントに梯子フィーダーを接続して目的の場所に設置しました。
この梯子フィーダーを使ってインピーダンスのマッチングを取ります。1.5D2Vの同軸で作ったフィーダーなので、線材が外被を被っていてマッチングポイントを見つけるのは難しいですが、一番高い11.2kΩからショートした0Ωまでインピーダンスは多分Sin状に分布していると思われ、計算上50Ωのポイントはショートした端から60cm付近と推測しました。このやり方が昔からのツェッペリンアンテナのマッチングでは一般的な方法のようです。
このアンテナの製作を計画した時点で、80mバンドの上側と下側の2バンドの切替え方法を色々考えましたが、2バンドに切替える良い方法を思い付きました。それは先端のエレメントの長さをリレーで切り替える方法です。
これまでこのエレメントになぜ1.5D2Vの同軸を使うかを説明していませんでしたが、バラン、梯子フィーダー、エレメントとすべて1.5D2Vの同軸を使うことで、芯線にリレー用の電源を重畳して送る方法をとりたかったからです。
小型のリレーを使えばエレメントの端にリレーを付けてもそれほど容量負荷にならないのではないかと思われます。使用したリレーは、オムロンの小型リレー G6P 1117で今は新型に変わっているようですが同様なものが使えます。
アンテナの端は高圧になると思われますが、これは大地との電圧で追加するエレメントとの間の電圧は高くならないのではないかと思います。従ってリレーの接点の耐圧も心配ないように思います。もちろんこの部分はエレメントの端に近いため電流のレベルは低く、接点容量も気にしないでもいいと思います。
長い1.5D2Vの同軸を使うのでリレーの電流による電圧降下の懸念がありましたが、この同軸を100m巻で買ってきた時点で芯線の抵抗を測りましたが、全体で10Ω程度だったため、気にしなくても良いことが分かりました。
同軸の端をリレーのコイルに接続した所で、念のため同軸の芯線と外皮の高周波的電位を同じにするため4.7nFのコンデンサーでバイパスしています。ここでは移動局用の50Wまでを対象にしていますので200W以上1kWまでは別途慎重な検討が必要と思います。
最終的なアンテナの構成
エレメントの長さはリレーがOFFの時に上側の周波数3.75MHzに合わせ、ONの時に下側の周波数3.55MHzになるよう、その差2.2mのエレメントを追加してその長さを合わせます。リレーがOFFの時、接点が追加エレメントだけ接続されていると直流的にフローティング状態になり静電気が溜まって接触不良になることがあるので、接点間に100kΩ~1MΩ位の高抵抗を入れて静電気をバイパスしておきます。
今回使ったバランは、元は大進無線のバランを改造変更したものです。購入した時のバランの蓋は接着剤でしっかり固められているため開けるのに苦労しました。エレメント切り替え用リレーの電源を送るため、バラン内部の線の1本を1.5D2Vの同軸に取り替えて一番高周波電位の低い所から取り出し、切り替え用の直流を送ります。バランと無線機からのコネクターの間に直流カットのコンデンサーが必要です。これは無線機側で直流的にショートされていると切り替えリレーが働かないためです。
先に述べたように、端をショートした520Ωの梯子フィーダーをアンテナに接続して50Ωにマッチングするポイントを探しました。カットアンドトライで色々接続点を変えて探しましたが結果的に次のポイントが良いことが分かりました。
給電する点はアンテナ接続点から17.75mで、その点から78cm先の所をショートします。その結果は次のようになりました。
この結果に満足した訳ではありませんが、SWR 2.0以下が2ポイント見つかったので一区切りつけることにしました。グラフには表れていませんが、最良点は上のバンドで3.68MHz SWR1.2、下のバンドで3.59MHz SWR1.2になっていました。
本当はHighバンドとLowバンドでそれに合った梯子フィーダーにすべきですが、共用で中間的なフィーダーにしたため特性が中程に寄ったように感じます。SWRの値が狭帯域なのはインピーダンス特性の急峻な部分に当たるためで、インピーダンスのピークを目的周波数まで動かし、更にそれでマッチングが取れれば良くなるのではないかと思います。ただそのためにはどうすればいいのか今の所アイデアがありません。
同一周波数帯の2バンドに切り替える方法自体はうまく行きましたが、マッチングの面でまだ課題を残した実験結果になりました。このままの状態でもアンテナチューナーを通せば実用になると思います。今後改良点を探して更に検討してみたいと思っています。
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