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テクニカルコーナー

My Project/第5回 【パキパキ畳んでコンパクト】ハンディー機用ノンラジアルアンテナの製作

JP3DOI 正木潤一

ハンディー機で一般的に使われている1/4λアンテナは、無線機の筐体がGNDの役割を果たします。したがってアンテナの性能はGNDの状態によって変化します。また、ハンディー機の筐体は小さいので、周波数によってはGNDとして不十分です。一方、1/2λアンテナはエレメントだけでアンテナ体系が完結しているのでGNDを必要としません。今回は、アンテナアナライザとスミスチャートを使ったアンテナ設計手法を、144MHz帯の1/2λアンテナ(ノンラジアルアンテナ)の製作を例に紹介します。

軍用無線機の『ブレードアンテナ (Blade Antenna)』:

兵士が使う携帯無線機は、ローバンドVHFからUHFを扱います。携行する際に長いエレメントが邪魔にならないように折りたためるようになっています。また、無線機の向きに関係なくエレメントを垂直に保てるように、アンテナ基部を曲げられるようになっています。今回はこのアンテナをモデルにします。


軍用無線機に取り付けられたブレードアンテナ
(引用/U.S. Naval Forces Central Command/U.S. Fifth Fleet)

マッチング回路の設計:

1/2λアンテナは給電点のインピーダンスが高いため、50Ωへのマッチング回路が必要です。理論については、JA3FMP 櫻井氏の『楽しいエレクトロニクス工作 第38回 電圧給電アンテナ』を参照してください。まず、1/2λのエレメントのインピーダンスをアンテナアナライザで測ります。145MHzにおいて、95cmのエレメントのインピーダンスは24.8Ω-j161.4Ωです。極めて高いSWRです。


1/2λのエレメントだけの状態(SWR=23.5)

次に、スミスチャートを使って整合に必要なコイルとコンデンサの値を求めます。アンテナアナライザで測ったインピーダンスをスミスチャートプログラム『Smith』に入力し、スミスチャート(イミタンスチャート)上にプロットします。


『Smith』にインピーダンスを入力

50Ωに整合させるには、直列のコンデンサと並列のコイルを挿入します。『Smith』の“Elements”メニューから、並列コイル、直列コンデンサの順に選択します。


スミスチャートを使って整合回路を求める

すると、“Schematic”ウインドウ(図左下)に回路が表示されます。約5pの直列コンデンサと約100nHの並列コイルで、ほぼ50Ωに整合されることが分かります。


144MHz帯 1/2λアンテナ

後述の手順でマッチング回路を実装したあとで計測した結果、SWRがほぼ1になりました。
GND部分に触れてもSWRにほとんど変化が無いため、ノンラジアル動作していることが分かります。


マッチング回路を付けた結果

使用部品:

このアンテナは、エレメント部、ネック部、コネクター部で構成されます。分割方式なので、ネック部とコネクター部を取り外すことでさらにコンパクトになります。また、破損してもパーツ単位で交換できます。エレメントには13mm幅のコンベックスメジャーを使用します。2 本を向かい合わせて熱収縮チューブで包むことで、1本のエレメントになります。自在に曲げられるネック部には、デジカメ用のフレキシブル三脚を使用します。エレメントの角度を調節できるので、無線機の角度に関係なく垂直に保てます。コネクター部にはマッチング回路を内蔵します。エレメントとSMA端子の固定にはユニバーサル基板を使います。


主要部材:コンベックスメジャーと三脚


部品表

製作手順:

以下におおまかな製作手順を示しますが、具体的な加工については動画をご覧ください。

<エレメント部>
1.メジャーのテープをエレメントの長さに切り、末端に6mmの穴をあけます。(2本作る)
2. エレメントの両サイドにヤスリをかけて塗装をはがします。(2本とも)
→ 2本を向かい合わせてくっ付けたとき、電気的に導通するようになります。
3. 穴の周辺と末端の塗装をはがします。(2本とも)
4. テープを向かい合わせ、穴を開けたほうの末端にM3ボルトとナットを取り付けます。

5. M3ボルトの頭とナットをメジャーテープにハンダ付けします。(両面とも)
6. エレメントに熱収縮チューブを被せ、熱を加えて収縮させます。
7. 2cmに切り取った熱収縮チューブを先端に被せて収縮させます。
→ 柔らかいうちに指で摘んで潰して末端処理します。
8. M3ボルトを取り付けた末端側にも5cmに切り取ったチューブを被せ、収縮させます。

<ネック部>
1. 三脚から足を抜き取ります。
2. 両端にヤスリをかけて、接着剤や塗装を取り除いて半田が乗るようにします。
3. 内部に被覆付き針金をねじ込み、補強します。
4. 六角スペーサーを両端に半田付けします。

5. 熱収縮チューブを被せ、収縮させます。
6. はみ出した部分をハサミで切り取ります。

<コネクター部>
1. ユニバーサル基板を図のように切り取り、穴を開けます。

2. 図のように、各部品を取り付けます。

3. SMA端子の芯線とM3皿ネジの間にトリマーコンデンサをハンダ付けします。
4. M3皿ネジとM2.6スペーサーの間にコイルをハンダ付けします。
5. エレメントをネック部に取り付け、さらにネック部にブッシュを通してコネクター部に取り付けます。

<調整と仕上げ>
1. 調整はできるだけ広い屋外でおこないます。
アンテナアナライザ(またはSWR計)を見ながらトリマーコンデンサを回して、SWRがもっとも低くなる位置に合わせます。もしSWRが下がりきらない場合は、コイルを伸縮させて微調整してください。
2. コネクター部に20mm幅の熱収縮チューブを被せ、収縮してマッチング部を覆います。

使用について:

1/2λという長いエレメントですが、折りたたむとコンパクトになります。畳むとSWRが高くなるので、待ち受けや近距離通信用といったところです。畳み方をいろいろ試しましたが、畳むとSWRは3~4となります。


運用イメージ
畳んだ状態で近距離通信(左) 伸ばして遠距離通信(右)

このアンテナはアースを必要としないので、同軸ケーブルを介して木の枝などの高い所に吊るしたり、バックパックに取り付けたりして使用できます。下の写真のように、アンテナをバックパックに取り付けられるアダプターを作ってみました。


取り付けアダプター(左)  バックパックに取り付けたところ(右)

最後に:

メーカー品のような性能を自作で実現させることは難しいかもしれませんが、自分の好きなようにアンテナを作るのは楽しいものです。構造的に実現させる方法さえ見つければ、アンテナアナライザとフリーソフトを使って簡単に作れます。今回の例では、SMA端子とエレメントを固定する方法に悩みました。いろいろ検討した結果、ガラスコンポジット基板を、スペーサーを介して取り付けるという方法にたどり着きました。エレメント長とマッチング回路の定数を変えれば、他の周波数でも今回と同じ構造のアンテナが作れます。

注意:

このアンテナは、エレメントの畳みかたによってはSWRが非常に高くなるので、送信時には注意が必要です。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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