テクニカルコーナー
スマートフォンなどでBluetooth®イヤホンを使っている方をよく見かけるようになりました。やはりコードが有るのと無いのでは、利便性の面で大きく違うと思います。受信機やアマチュア無線機でも、屋外でハンディー機を使う際はイヤホンを使うことが多いと思います。アイコムの最新受信機『IC-R30』は、Bluetoothイヤホンに対応しています。今回は、私の持っている廉価なIC-R6をワイヤレスにしてみようと思います。
IC-R6に発信回路を組み込み、受信した音声を電波に乗せてイヤホン型の受信機で聞こえるようにします。見た目には普通のIC-R6にしか見えません。
イヤホンコードの長さだけ電波が届けばよいので、到達距離は1m程度を見込みます。IC-R6を手に持ったり、ベルトに取り付けたりした状態で、クリアに受信音が聞けます。受信回路には、My Projectではおなじみの超再生検波方式を使います。この回路について詳しくは、My Project 2017年3月号を参照してください。
ワイヤレスイヤホンの使用イメージ
発信回路を組み込むため、手持ちのIC-R6を分解しました。壊してしまうかもしれないので躊躇しましたが、勇気を出して分解に踏み切りました。インターネットをサーチすると、海外のサイトでIC-R6に関する技術資料がいくつか見つかりましたので参考にしました。
ダイヤルとSMAコネクターはナットで固定されています。ラジオペンチを使って回しましたが、苦戦しました。手に入るのであれば専用のドライバーを使ったほうがよいです。電池収納スペースにある2本のネジをはずすと、筐体後面のカバーが外れます。まず姿を現すのがシールド板で覆われた基板です。この基板にはアンテナコネクターが繋がっているので、高周波回路が実装されているものと思われます。この基板の下にも別の基板があるので、回路の働きで基板を分けているようです。
さて、1枚目の基板を外すには、アンテナコネクター(芯線+アース側)やシールドケースなどのハンダを外します。基板を固定しているネジを全てはずします。とにかく基板が外れるまでネジとハンダを外します。1枚目の基板を外すと、やはりシールドされた2枚目の基板が姿を現します。同じように、目に付くネジや半田を外し、パターンを露わにします。
<IC-R6を完全分解した状態>
分解は自己の責任においておこなってください。使われているチップ部品は極めて小さいので、誤ってコテ先が当たると外れたり、壊れたりしてしまう可能性があります。
IC-R6で受信した音声を電波として飛ばす必要があることから、受信音声の信号を取り出す回路をかなりの時間を掛けてパターンを追いかけました。また、インターネットで見つけた情報とあわせるとどうやら2枚目の基板(上記写真中央)にある、下図のICがAFアンプのようです。このICの入力端子部分から受信音声信号を取り出すことにしました。
受信音声の取り出しポイント(AFアンプの入力端子)
<参考:回路から信号を取り出す際の注意>
受信音声回路から音声を取り出して発振信号に変調を掛けますが、基板の音声信号パターンから信号を取り出す際にはインピーダンスに注意が必要です。そのまま回路を接続すると、ラインのインピーダンスが下がって本来供給されるべき回路(今回の場合はAFアンプ)への信号レベルが下がってしまい、内蔵スピーカーからの出力が小さくなってしまいます。また、接続のしかたによってはアンプを異常発振させてしまう恐れがあると思います。オペアンプは入力インピーダンスが極めて高いので、こういった用途に向いています。
SAW発振子を使った315MHzの発信回路です。SAW発振子については、My Project 2017年12月号を参照してください。アンテナはIC-R6の筐体内に収めるので、手で触れるなどして発振周波数がフラつく恐れがないため、バッファアンプは設けません。音声信号は、高い入力インピーダンスを持つオペアンプを使った増幅回路により取り出し、約820倍に増幅して発信回路へ入力します。
AM変調回路付き315MHz発信回路
当初、バリキャップダイオードを使ってFM変調を掛けてみました。ところが、実際に受信してみると変調が非常に浅く、ほぼ無変調に近い状態でした。SAW発振子は、水晶発振子ほどではないにしろ、Qが非常に高い素子です。水晶発振子を使う場合も基本波に変調を掛けますが、てい倍するうちに変調が深くなります。
しかし、SAW発振子は初めから目的周波数を発振するため、基本波に変調を加えた時点で変調度が決まります。変調信号のレベルを上げるためにオペアンプの増幅度をさらに上げようにも、すでにゲインを820倍に設定しており、これ以上高めると発振してしまう恐れがあります。
そこで、AM変調を掛けることにしました。本来、AM変調は発振信号を増幅するアンプに被変調信号を注入して、被変調信号の振幅に合わせてアンプのゲインを変化させます。しかし、今回はバッファアンプすら無いので、発振信号に直接変調を掛けることにしました。よって、発振回路のバイアスが変調信号の振幅に合わせて変化することになります。
本来は発振回路へのバイアスを一定にすべきなので、これはかなり乱暴な手段ですが、今回は微弱電波を使った簡易的な用途ということでOKとします。発振トランジスタのエミッタ端子に、発振トランジスタをドライブするトランジスタを付け、ベースへ入力した被変調信号の振幅に合わせて発振トランジスタのコレクタ電流が変化するようにします。
出力は、0.5pFのカップリングコンデンサを介して10cm程度のリード線を接続します。0.5pFという小さい値を選んだのは、アンテナと発振回路の結合を疎にするためで、容量を大きくすると発振が不安定になります。
315MHz発信回路の部品配置図
電源もIC-R6の基板から取ります。基板上にはいろんな電源ラインがありますが、各ICの電源端子には、回路ごとの電源ラインが繋がっているはずです。マーキングからICの型番を割り出し、インターネットでデータシートを探して電源端子を調べます。
今回は、受信回路に供給される電源ラインから取りました。電圧を測ると2.8Vでした。この電源ラインはパワーセーブモード中に間欠供給状態になりますが、セットモード内でパワーセーブをOFFにしました。
<参考:回路から電源を取り出す際の注意>
IC-R6の電源ラインは、いくつか種類があるようです。例えば、パワーセーブモード中は間欠動作するラインや電源がOFFの間でも電圧が掛かっているライン(おそらく電池と同電位)などがあります。スケルチが閉じている間は供給が止まる電源ラインもあります。また、テスターを当てて電圧を確認しても、電流容量の無いロジックラインである可能性もあります。そういったラインから電源を取ろうとすると、電圧降下が起きて受信機自体が正常に動作しなくなることも考えられます。
電源を取れるラインの条件:
・ロジックラインでないこと
特定の条件で電源が絶たれる or 受信機自体が正常に動作しなくなるのを防ぐため。
・スケルチが閉じても電源が供給されること
今回の受信回路にはスケルチが無いので、無信号時もキャリアを出しておくため。
・電源OFF中は電源供給が止まること
電池のムダにならないように、使っていない間は発振回路を停止させるため。
・パワーセーブモード中に間欠供給されないこと
受信機本体側で設定をOFFにすることでも回避可能。
バーアンテナの下の僅かなスペースに、両面テープで発信回路基板を貼り付けます。第2IFフィルターと思われる、左端の黒い四角と同じ高さまでなら収まりそうです。厚みを抑えるため、オペアンプは基板に載せず、端子だけを回路と接続させました。また、部品配置上、オペアンプのGND端子はシールド板に接続しました。
基板をシールド板に貼り付けたところ
IC-R6が発した315MHzの信号は、超再生検波回路で復調し、AFアンプで増幅してマグネチックイヤホンを鳴らします。2石の増幅回路ではゲインが小さいので、IC-R6側で音量を大きめに設定して変調が深く掛かるようにします。ただし、大きくしすぎると音が歪みます。AFアンプのPNPトランジスタによってイヤホンを直接ドライブさせるので、サイズの大きな大容量のDCカットコンデンサは不要です。
My Project 2017年3月号で紹介した『超再生検波方式FMラジオ』と基本的には同じ回路ですが、今回はAFアンプを改良して全体の消費電流を約14mA*にまで減らしました。
*使用するイヤホンのインピーダンスや直流抵抗値によって異なります。
315MHz受信回路
回路を小さく仕上げるため、基板のホールの中にも部品を実装します。詳しくは、My Project 2017年12月号を参照してください。
315MHz受信回路の部品配置図
イヤホン付き受信回路。タカチ製ケースに組み込み。
上の写真のように、小さなケースに回路を組み込みます。イヤホンを分解して、スピーカー部分を取り出します。なるべくインピーダンスが高いイヤホンを使います(ただしクリスタルイヤホンは使えません)。これをプラスチックケースに接着し、受信回路に接続します。
使用するイヤホンによってケースへの取り付け方を選んでください。
カナル式イヤホンの取り付け例
カナル式イヤホンは密閉性が高いので音が聞き取り易いですが、バッテリーの重みが掛かると耳から脱落し易くなります。一方で耳掛け式イヤホンは耳にしっかりと固定できます。
耳掛け式イヤホンの取り付け例
簡単にバッテリー交換が出来るように、バッテリー部はイヤホン部(受信回路内蔵)と別のケースに収めました。バッテリーは小型で大容量のLi-ion電池(3.7V/140mA/h)を使います。計算上、連続で約10時間*使えることになります。イヤホン部とバッテリー部は、2.5mmステレオプラグで接合します。使わない時は引き抜いて電源を切っておきます。
*使用するイヤホンのインピーダンスや直流抵抗値によって異なります。
バッテリー部。タカチ製ケースにLi-ion電池と2.5mmステレオジャックを内蔵。
315MHzの1/4λは約24cmですが、そのような長さのアンテナを耳元に付けるわけにはいきません。そもそも、バッファもなしに1/4λのアンテナを超再生検波回路に付けると、クエンチング発振が止まってしまいます。とはいえ、ある程度の長さ(電気長)が無いと信号が受信できません。そこで、12cm程度のビニール線の末端をGNDに接続してループアンテナにしました。あまり目立たず、電気長も取れます。
バッテリー部(左)と超小型受信機を内蔵したイヤホン部(右)
イヤホンの音量を調整するには、IC-R6本体の音量を調整します。内部スピーカーから音が出ないように、IC-R30の外部スピーカー端子には3.5mmステレオプラグを挿しておきます。イヤホンがIC-R6本体から切り離されると、コードの煩わしさから開放されます。また、本体をベルトクリップに取り付けたり、バッグに入れたりした状態でのワッチも可能です。当然、315MHzとその高調波にあたる周波数は受信できませんが、微弱電波なのでそれ以外の周波数の受信には影響ないようです。むしろ、発信電波自体が非常に弱いため、IC-R6を離すにつれノイズが混じります。受信回路にRFアンプを追加すれば、消費電流が増えて運用時間が短くなりますが、距離が伸ばせるはずです。
イヤホン部とバッテリー部を分離するだけで電源が切れる
今回のプロジェクトは、受信機の分解から始まりました。FB LABOで無線機を分解したときにも思いましたが、中身を見ることで製品に注がれた工夫や技術を垣間見ることができます。IC-R6の内部に回路を仕込めるようなスペースは、ほぼありません。無駄のない部品配置でコンパクトに仕上がっています。そんなIC-R6の筐体内に、なんとか発信回路を収めるべく工夫しました。そう考えると、回路を小さく作ることは、すなわちその回路の可能性を高めることだと思います。限られたスペースに部品を収めるために回路構成や部品配置を考えるのも、楽しいチャレンジです。
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6月4日(土)、JH1CBX/3が14MHz SSBに初オンエアします。
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