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特集1

5.6GHz帯の現状と楽しみ方

月刊FB NEWS編集部 JR9TUG 松平宗亮

先日、アイコムのホームページで、「ICOM SHF Project ~SHF帯への挑戦~」と題し、2.4GHz帯及び5.6GHz帯に対応するアマチュア無線機の開発プロジェクトのアナウンスが行われた。月刊FB NEWS編集部では、これから脚光を浴びるであろうSHF帯でアクティブに運用されているJA1OGZ 金子氏に、今回は5.6GHz帯の現状と楽しみ方についての、お話をうかがった。なお、本稿では、交信が目的とされないドローン等からの画像伝送については省略させていただくので、ご了承いただきたい。


JA1OGZ 金子氏の移動運用

5.6GHz帯はSHF帯(マイクロ波)の入門バンド

以前は、2.4GHz帯が入門バンドであったが、無線LANやWi-Fiが広く普及し、それらの機器からの干渉の影響のため、現在は5.6GHz帯が入門バンドとして普及してきている。このバンドでは完成品としての無線機は市販されておらず、多くの局がトランスバータを用いて運用している。またこのバンドから、さらに上のバンド(10.1/10.4GHz、24GHz、47GHz・・・)とステップアップする方も多くいる。

ちなみに金子氏は77GHz帯までの免許をお持ちで、2021年12月現在、47GHz帯、77GHz帯の日本最遠距離通信記録(JARLの交信記録認定 225km)をお持ちである。

5.6GHz帯のアクティビティ

普段はスケジュールを組んでの、FMやデジタルアマチュアテレビ(D-ATV)で交信が主流となっている。またグループで集まってお互いの設備などの情報交換や、移動運用での実験交信が行われている。

移動運用実験の前には、シミュレーションソフトを用いて移動先の見通し範囲や相手の方角などを確認し、トランスバータの出力周波数や電力を確認してから現地へ出掛けるとのことであった。最近では、IC-705を親機として使用することで、相手局との周波数ズレの起こりやすいこのバンドでも、視覚的に相手局を発見することができるようになったとの事である。


シミュレーションソフトによる見通し範囲の判定47GHz、77GHz帯での通信実験での実際のデータ


カスリーン公園(埼玉県加須市)より神津牧場(群馬県下仁田町)JA0RUZ 関崎氏との交信を狙う


堂平山(埼玉県比企郡)から他の移動局を狙う
左: JA1QHQ 江原氏 右: JA7JJN 柳澤氏


左: JA7JJN 柳澤氏 右: JA1QHQ 江原氏



荒川土手(埼玉県さいたま市桜区)から富士山登山口須走五合目の移動局を狙う
JA7JJN 柳澤氏

モービル運用については、金子氏を含め4局が運用しており、常置場所からの追いかけで交信することもあるそうで、他の局より信号の強弱があると、もっと改良したいことが出てくるという。またモービル局を追いかけることにより、いろいろな伝搬を体験することがあるという。(詳細は、後述の伝搬にて)

コンテスト開催中は、関東では山の上などでは40局程度が聞こえ、平地でも10数局が聞こえているそうで、普段より3倍ほど聞こえる局数が増えるとのこと。参考ではあるが、2020年7月開催の6m AND DOWNコンテストでは、関東ではトップクラスで40数局、東海では30局の交信局数が記録されている。

5.6GHz帯のバンド幅は200MHzと広いため、音声交信による混信は皆無であり、広帯域(6MHz)を使用するD-ATVの運用も盛んである。方式はFM-TV → DVB-S → ISDB-T(一部DVB-S2)と変化していき、現在は一般の地上デジタル放送と同じISDB-T方式が一般的となっている。

JA1OGZ 金子氏提供による実際のD-ATVによる受信画像をいくつか紹介する。交信相手は、JA0RUZ 関崎氏、JH1AOY 玉川氏で、関崎氏はISDB-Tの先駆者であり精力的に高所に移動され運用を行っておられるとの事であった。実際の受信画像を拝見させていただいたが、一般の地デジ放送のような画質と音質で、最初に見たときは、送信側の画像データではないかと確認するほどであった。


野沢温泉スキー場(長野県下高井郡野沢温泉村)移動のJA0RUZから新潟市内野町向け送信中のD-ATV画像


志賀高原横手山スキー場渋峠(群馬県吾妻郡中之条町)移動のJA0RUZをJA1OGZが埼玉県加須市カスリーン公園で受信したD-ATV画像


富士山須走五合目(静岡県駿東郡小山町)移動のJA0RUZをJH1AOYが千葉県袖ケ浦市で受信したD-ATV画像


袖ヶ浦海浜公園(千葉県袖ケ浦市)移動のJH1AOYをJA1OGZが富士山須走五合目(静岡県駿東郡小山町)で
受信したD-ATV画像

また、5.6GHz帯を使用するアマチュア衛星として、今後1~2年以内に打上げが予定されているものでは、九州工業大学の超小型衛星「KITSUNE」では5840MHzでCWビーコンやパケットデータが送られる。また、日本大学の次期超小型衛星「Ten-Koh 2」では5839MHzでCWビーコンの送出が予定されている。これらの衛星からの信号は50cm程度のパラボラアンテナを使い衛星からの電波を捉えることが可能とのことで運用が期待される。

さらに先の話ではあるが、月ゲートウェイ計画では5.6GHz Up/10.4GHz Downも予定されているので、今後の楽しみとなっている。現在マイクロウェーブを使った衛星では、アフリカ大陸上空の静止軌道にあるQO-100(QATARのTV中継用静止衛星 Es'Hailsatにアマチュア無線用中継器が搭載されている)は、2.4GHz Up/10.4GHz Downのトランスポンダーも備えている。残念ながら日本はQO-100のエリア外であり、タイやマレーシア以西がエリア内である。


JA1OGZ 金子氏製作の2.4GHz/10GHz QO-100用海外移動運用パラボラアンテナ

このバンドではアマチュア無線は2次業務であり、ISMバンド(産業科学医療用)や無線LAN、FPV(遠隔操縦用のシステム)、およびDSRC(ETC、VICS ETC2.0)も運用されており、今後は屋内の無線電力伝送にも使用される予定だが、場所や時間を選べば2.4GHz帯よりは影響は小さく済みそうである。

5.6GHz帯の設備

アンテナは、常置場所や移動運用では一般的にパラボラアンテナがよく使用される。モービル運用では、モービル側はホイップアンテナで運用し、常置場所からはパラボラアンテナで追いかけている。

常置場所では、水平方向のローテーターはもちろん、レインスキャッターなどに対応するために仰角ローテーターも併せて設置する。それを使って強風などの悪天時には風圧から守るためパラボラアンテナを真上に向けることもあるそうだ。水平方向は特に注意が必要で、すべてのアンテナが同じ向きとなるように設置調整され、方位とアンテナの向きはずれることなく設置されている。

これにより、交信した際のアンテナの向きをお互い知ることにより、直接波ではなく、どこの山での反射波による交信だと判断することができるとこのと。


JA1OGZ 金子氏宅のアンテナ群


JA1OGZ 金子氏宅のシャック

5.6GHz帯の伝搬

基本的に直接波は見通し範囲であればどこまでも届く。また5.6GHz帯からは反射効率が下のバンドよりさらに上がるため、見通し外への通信も可能となってくる。下記に5.6GHz帯に限らずSHF帯に関する主な伝搬を4つ紹介する。

・直接波
5.6/10.1/24GHz帯は直接波で見通し範囲であればどこでも届く。(伝搬損失<アンテナ、出力)

伝搬の見通し距離なので、例えば・・・

標高(h)=1000m → d=133km
    =2000m → d=187km となる。


・回折波/反射波
回折や散乱反射により思わぬところまで届くことがある。山や高層ビル群に向けることにより散乱反射で伝搬する。関東平野内では丹沢山系や高層ビル群での反射、また関東から長野県へは群馬県と長野県境の嬬恋村の四阿山(アズマヤサン)あるいは志賀高原の散乱反射により常時交信ができる。特に山での反射では季節により積雪や山表面の湿度などにより反射が異なるときがあり、条件によって変化する楽しみもある。


・降雨散乱波(レインスキャッター)
5.6GHz帯では降雨散乱により交信ができる。関東からは福島、長野、新潟の各方面へブツブツ音混じりの音声で聞こえる。なお10GHz帯では降雨による減衰が大きくなり、散乱波の強度と降雨減衰のバランスがある。効果的に利用するには、仰角ローテーターも用いてより強い信号を受信することができる。


・ラジオダクト(伝搬路が導波管になったダクト構造)
V/UHF帯同様にラジオダクトでの交信も可能であり、上空できた大気の気温、気圧、湿度などの条件により発生する。海面付近の湿度が高いときに発生しやすく、5.6GHz帯や10GHz帯では、日本海ダクトにより秋田県男鹿半島~鳥取県魚見台間 710km 5.6GHz FMによる交信記録がある。


5.6GHz帯の実運用

金子氏宅を訪問した際に、実際に交信の様子を見学させていただいた。お相手は、TVでおなじみのJA7JJN柳澤氏である。穏やかな声での交信中の会話に筆者は驚いた。アンテナの方角をお互い話しておられたが、210度と227度で直接向き合っていないのに、59+の信号強度である。交信後に金子氏に尋ねると、「この角度でしたら丹沢山辺りの反射での交信でしたね」とのこと。シミュレーションソフトによると、お互いの距離は約35㎞ではあるが地形の関係で直接見えないので、さらに遠くの神奈川県南足柄郡にある丹沢山で反射させての交信になり、経路距離は約100㎞になるとの事でさらに驚いた。

金子氏によると、先日のアイコムからの開発プロジェクトのアナウンスにより、現在、市販品無線機は皆無、さらにトランスバータの種類も少ないバンドであることから、仲間内では期待感が高まっているとのことであった。おそらく全国のSHF帯で運用されている方や、マルチバンドで運用するコンテスト愛好家も同様であろうと推測する。

最後に今回の記事作成にあたり、ご多忙の中取材や画像提供をいただいたJA1OGZ 金子様、取材当日に交信のお相手をいただいた JA7JJN 柳澤様、画像提供をいただいた JA0RUZ 関崎様、JH1AOY 玉川様に深く感謝いたします。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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