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おきらくゴク楽自己くんれん

その9 サブバッテリーをリン酸鉄リチウムイオン電池にしてみる
モービル用サブ電源を移動運用メイン電池にレベルアップ!

JF3LCH 永井博雄


【本稿では最新(※)の軽自動車の充電の制御等が行われている鉛バッテリー回路に手を加えています。不慮の事態も考えられますので試される方は安全に十分注意をして自己責任でお願いします。】(※2021年12月現在)

2022年、新年あけましておめでとうございます。昨年は図らずも月刊FBニュースの連載を始めさせていただき、何とか年を越すことができました。本年も引き続きよろしくお願いいたします。前回は軽自動車にモービル機を取り付け、テスト運用後に発覚したアイドリングストップ再起動問題に理想ダイオードを使って7.2Ahの鉛蓄電池のサブバッテリー充放電回路を追加し問題を解決することができました。理想ダイオードとはダイオード整流の宿命であった順方向電圧低下が発生しない正に「理想的」なダイオード回路でサブバッテリーの充電回路を大幅に簡素化することができました。

サブバッテリーをつける前に心配していたのは愛車の2021年夏購入N-WGNを含め最近の車載バッテリーの充電は燃費向上のため発電にかかるエネルギーも無駄を省くようになっているらしいのです。ですからサブバッテリーを充電する能力があるかどうか心配していました。しかしID-5100Dの電圧モニター機能でバッテリー電圧を監視していると十分な充電が行われており、この7.2Ahの電池容量をもっと大きくすることはできるのではないか? と考えるようになってきました。

1. 移動運用に最適な電源は?

従来移動運用の電源としては発動発電機や鉛蓄電池などが利用されていましたが、発動発電機は燃料の管理や長時間の運用となるとガソリン補給が必要となり火事の危険性があります。また鉛蓄電池は大変重たく、また12Vの電圧は多くの無線機の定格より低めで電波の質が低下する、もしくは定格出力が出せない上に使用するにつれ電源電圧とともに下がっていくなどの問題がありました。

最近太陽光発電などが普及したおかげで性能のいいリチウムイオン電池がたくさん出てきました。それらを利用して写真のようなアマチュア無線専用のリチウムイオン電池が発売されています。この電池パックは14.4Vと高い電圧を出力でき容量も50W出力で3時間を超える運用も可能で大変便利なものです。


アマチュア無線専用リチウムイオン電池パック

しかしこれらは大変高価で容量によりますが5万から6万円を超えるもので普及するまでは至っていないのが現状です。また写真のモデルですが内蔵電池を大切にする観点からか普通充電しか行えず充電時間が約10時間となっています。移動前日の寝る前に充電を忘れなければ問題ないのですが、忘れてしまった時はその日の運用はあきらめなければなりません。たまに行う一日に数か所の移動地を早回りというような場合には車内での充電では追いつかないので使用できないのが欠点です。

いまの鉛蓄電池をもっと容量の大きな物に取り替えて移動運用で使う電源を賄えるように出来たらいいなと考えましたが、鉛蓄電池では大きくて重く小さな軽自動車では無理があります。そんなとき、コンパクトで軽く高容量のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーがネット通販で売られているのを知り試しに購入してみました。価格は送料込みで1万2千円程度でした。その後に行われたセールでは1万円を切って売られており少々悔しい思いをしました。


購入したリン酸鉄リチウムイオンバッテリー

この電池の定格を表に示します。

【主な特徴】
① 高い電圧 0.8V鉛電池より高い。小さいようですがこの差は大きい
② 寿命が長い サイクル寿命が3500回以上とものすごく長い
③ 軽い
7.2Ahの鉛電池と同じくらいの重さで容量は2.5倍
④ 充電が早い 10Aで充電すれば2時間かからないで完了します

【バッテリー保護】
この手のリチウムイオンバッテリーにはBMS(バッテリー・マネジメント・システム)と呼ばれる保護回路が内蔵されており過充電・過放電・過負荷・短絡・過熱・低温・バッテリーセル間のバランスなどを監視・保護をしてくれます。過信は禁物ですがバッテリーに厳しい状態を回避できるのである程度は安心して使用できます。

また充電を終止させる電圧は14.4Vとあります。現状ID-5100Dの電圧モニター機能ではリグにかかる電圧は最高で14.4V程度ですのでこれと一致します。つまり理想ダイオードを使えば車のバッテリー回路に並列にこの電池を接続すれば普通に充電をしてくれるのではないかと考えました。もし車の充電制御が働き走行中車載バッテリーとサブバッテリーの間に電圧差が生じ車載バッテリーの電圧が低くなっても理想ダイオードのおかげで逆流は起こらずオルタネーター(発電機)の電圧がサブバッテリーよりも高い時にだけサブバッテリーが充電されるのではと考えました。普通の整流用ダイオードではこうはいきません。順方向電圧降下で十分な充電ができないからです。また0℃以下の状態で充電するとバッテリーが痛むため低温保護機能により充電できなくなりますので注意しなければなりません。

2. 実際に充電して確かめる

考えた通りの充電が可能なのか? 確かめるために実際に充電してみます。


リチウムイオン電池の充電を予備実験

とりあえず簡単に理想ダイオードを使って安定化電源からの充電を行ってみます。鉛蓄電池と同じ電流制限抵抗(0.2Ω20W)を使って電圧操作し電流を監視しながら安定化電源で充電していきます。バッテリーの電圧よりも電源電圧が自己の電圧より上がると充電を開始しさらに上げると電流が増えていきます。試しに14.5V以上に電圧を上げて15A以上の電流を流すと回路が開いて充電が停止し電圧を下げると再び開始します。BMSも正常に働いているようです。

安定化電源でのテストで考えていた通りに充電できることが確認できたので実際に車のバッテリーと並列に接続して確かめてみます。車載バッテリーからの電源を理想ダイオードに接続しエンジンをかけてみます。するとバッテリー端子電圧が上昇し時間とともにゆっくり上がっていくことが確認できました。このまま走行しながらの充電は可能なようです。その後エンジンを停止してダイオードの働きも確認しておきます。


エンジン(発電)を止めて電池電圧を確認

エンジンを停止しオルタネーター発電を停止した状態でのリチウムイオンバッテリーの電圧は13.30Vですが


車載バッテリーの電圧は12.74Vでした。理想ダイオードが有効に機能していることがわかりました。

3. 移動運用テスト

この状態で数日車を使い走行しながら充電を実施。サブバッテリー電圧が14Vまで上がりましたのでIC-9700を使い430MHzFMモードで高台から移動運用を行い50Wの出力で約3時間の運用することができました。送信時の電圧が11V台になるくらいまで運用しましたがBMSの過放電防止機能は働きませんでした。この程度までなら問題なく使用できそうです。これで移動運用の電源として十分な容量を持っていることを確認できました。

考えていた通りに車のバッテリー回路とリチウムイオンバッテリーが働くことが確認できましたので充電回路装置を箱に入れてまとめることにしました

4. 充放電回路をケースにまとめる

充電回路装置を箱に入れるにあたり、高価な電池の状態を監視し守るために実際に充電しているかを確認できるよう、デジタル電圧電流計を装備することにしました。例によって100円均一で購入したケースに組み込むことにしました。


電池を収めるケースも100均文具コーナーで購入


キッチン用品コーナーでちょうど良いケース発見


ケース内部 実験中の状態のため現状と配線が異なる部分があります

上部が電流計測用シャント抵抗器、同時に電流制限抵抗器の働きも兼ねています。左がデジタル電圧電流計ユニット。その右が将来用? 何かの切り替え用スイッチ。その右が電源ラインの陸軍ターミナル+と-。右端が充電入り切りスイッチ。


ケースを上から見たところ


クッション材の切込み加工部分にダイオードユニット

理想ダイオードユニットを埋め込んだクッション材の上に黒のケースを乗せるだけにしています。


組み込み後、電圧電流計の動作を確認

実際に車の電源に接続します。予想ですがリチウムイオンバッテリーの残容量が50%を切っている状態から充電を開始したら8.3A程度の電流が流れました


車の電源ラインに接続直後

接続直後は約8.4A程度の電流が流れていました。写真の表示が少ないのは撮影しようとする間に少しずつ電圧が下がるからです。車のオルタネーターの状態が充電制御の影響で常に変化するのでこの値になるとは限らないので注意しながら監視します。


しばらくすると安定状態に

しばらくすると電池電圧が上がり6A前後で充電電流が安定しました。実際の走行ではアイドリングストップ中はもちろん車がバッテリーの状態を監視しながら発電量を決めるので常にこれほどの電流は流れませんが、普段私が走るルートは田舎の国道が多いので信号などで止まることは都会を走る場合より少ないので移動中はほぼこの程度の電流を供給しているようです。


ID-5100の電圧表示機能でも監視

ID-5100の電圧表示機能で車内でもバッテリー状態を把握することが出来ます。


充電経路の回路図

車の充電制御がどのように働くのかまだ完全に把握はできていませんが今のところ問題なく走行中に充電できており5~6時間も走ればほぼ満充電の状態になってくれます。

5. まとめ

BMSはバッテリー保護が目的の装置なので常にその動作でバッテリーを制御する用途に設計されていません。BMSで充電を停止させるのを基本とするのは問題があると思いますので充電終期の電圧14.4Vに近くになれば(14.0V)手動で充電を停止させています。

理想ダイオードを使うことでシンプルな構成が実現できました。サブ電源にリチウムイオンバッテリーを使いたいのであればソーラーコントローラーや車載インバーターと100V充電器をつないで使えば可能です。しかしこれではコントローラー・インバーター・充電器各々の動作でスイッチングが行われますからノイズの発生が心配になります。シンプルなこの方法であればノイズも少なくできます。各バンドにおいてのノイズの有無はまだすべてのバンドを確かめていませんが今後の運用で確認していきたいと思っています。

鉛蓄電池よりは導入コストが高くつきますが使い勝手の良い電源ができたと思っています。長寿命ですし鉛蓄電池だと充電時の水素ガス問題やシールドでなければ希硫酸漏れの心配などもなくその上軽い(約3kg)ですから燃費の悪化も極力減らすこともできます。電圧も高いので満充電状態の最初はほぼ定格出力が得られますし運用し続け電圧が下がっても鉛電池の場合よりもその低下は緩やかですから全般に高い出力を出して運用することができます。

ほぼ毎日車に乗る生活の私には週末移動運用で使用した電力を平日に車を使いながら補充してまた週末に移動運用で使うというサイクルを構築できました。これで移動運用に出かける前にいちいち電源を積み下ろしせずによくなりました。これからこの電源を使ってどんどん移動運用に出かけようと思っています。

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