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第三十三回 コイルのインダクタンスについて


Dr. FB

抵抗、コイル、コンデンサは電子回路には必需部品です。抵抗もコンデンサも部品の表面にはその部品の値が記載されていますが、コイルには記載のないものが多く、再現性に乏しく電子工作ファンには厄介者です。今回、中波のラジオを製作する際に高周波増幅部に設けるLCの共振回路でインダクタンスの簡単な実験を行ったのでここで紹介します。

4種類のコイル

製作したコイルは図2に示した(a)~(d)の4種類のコイルです。コイルはLC並列共振回路に使用します。バリアブルコンデンサ(以下バリコン)と接続し、バリコンの容量を変化させることで希望の放送局の選局に機能します。

いずれのコイルに使用したエナメル線も直径はφ0.321mmで、長さは8.3mです。直流抵抗は、実測で2.1Ωでした。(a)と(b)のコイルに使用した台紙は厚紙をノリで貼り合わせて制作しました。台紙の厚さは約1mmです。このコイルは見た目の蜘蛛の巣に合わせてスパイダーコイルと呼ぶことが多いようです。


図1 コイルに使用したエナメル線の直径を計測(写真協力: JH3OTD)

(c)は、直径10mm、長さ120mmのフェライトバーです。物理的な長さ以外の透磁率等のデータは分かりません。(d)も同様、詳細データは分かりません。


図2 実験に使用した4種類のコイル

調査 その1(スパイダーコイルの巻き方)

図2(a)、(b)、(c)のコイルは、ゲルマニウムラジオ(以下ゲルマラジオ)でバリコンと並列に接続して、LC並列共振回路を構成するときに使われます。ゲルマラジオのキットを購入すると、コイルの巻き方が取扱説明書に記載されています。(a)と(b)のコイルは、主に2種類の巻き方があるようです。この巻き方がゲルマラジオの受信にどのように影響するのか気になっていたので今回、調べることにしました。


図3 コイルの巻き方 左: 1段飛び 右: 2段飛び

製作した台紙には羽根が15枚あります。コイルを巻き始めて分かりましたが、奇数枚の羽根がミソです。左の台紙にはエネメル線を一つの羽根ごとに表→裏→表→裏といった具合に交互に巻いていきます。これをここでは1段飛びと呼びます。右は2枚の羽根飛ばしに巻いていきます。これを2段飛びと呼ぶことにします。完成したものが図2(a)と図2(b)のコイルです。(a)が1段飛びで、(b)が2段飛びのスパイダーコイルです。

(1) インダクタンスの測定
気になるインダクタンスをインピーダンスブリッジで測定したところ、1段飛び、2段飛びの巻き方に関係なくインダクタンスは約350µHでした。


図4 インダクタンスの測定

(2) ゲルマラジオに接続して受信状態を確認
製作した1段飛びと2段飛びのコイルをそれぞれゲルマラジオのコイルの部分に接続し、受信状態を確認しました。結果は、両者のコイルに何ら違いはありませんでした。


図5 スパイダーコイルの性能をゲルマラジオで確認する

(3) 2種類の巻き方の違い
巻いたときのコイルの直径に違いがあることが図2の(a)と(b)のコイル部の直径で分かります。1段飛びの方がコイル部の面積が広いのに対し、2段飛びのコイルの部分はコンパクトです。仮に何十回もスパイダーコイルに巻くと、羽根の長さも必要となることから、物理的なサイズが大きくなります。2段飛びの方がコンパクトに仕上がります。見た目は分かりませんが電気的には、エナメル線間に容量が発生するため1段飛びと2段飛びのコイルの性能は微妙に異なると思いますが、この実験では分かりませんでした。

調査 その2(フェライトコアに巻くとインダクタンスはどうなる?)

手元に0.3mH(=300µH)と印字されたコイルがあります。インピーダンスブリッジでインダクタンスを測ると320µHでした。図6(左)のスパイダーコイルと比較すると大きさの違いは歴然としています。

スパイダーコイルのインダクタンスは370µHで、それに使用したエナメル線は8.3mでした。方やフェライトコアに巻かれたチョークコイルのエナメル線を解くとその長さは2.7mでした。エナメル線の長さだけを考えると1/3です。コアに巻くだけでこれほどまでインダクタンスが増加します。


図6 スパイダーコイルとコアに巻かれたコイルの比較

さらにスパイダーコイルに巻いたエナメル線と同じ長さのエナメル線を120mmのフェライトバーに密巻きするとそのインダクタンスは2mHとなりました。コアの威力はたいへん大きいことが分かります。


図7 フェライトバーに巻いたコイルのインダクタンスの測定

調査 その3(トロイダルコアに巻くとインダクタンスはどうなる?)

想像で分かることですが空芯コイルよりフェライトコアを使ったコイルの方がだんぜんそのインダクタンスは増加することが分かりました。それでは、同じ長さのエナメル線をトロイダルコアに巻けばどうなるか、これも実験で確かめます。

8.3m、φ0.321mmのエナメル線をトロイダルコアに巻くと実に194ターン巻けます。これをインピーダンスブリッジでそのインダクタンスを測定すると42mHでした。フェライトバーに巻いたときの20倍です。コアの威力は絶大です。


図8 円形トロイダルコアに巻いたコイルのインダクタンスの測定

環状ソレノイド、つまりトロイダルコアに巻いたコイルの自己インダクタンスは、下の公式で求めることができます。透磁率の正確なデータがないため確かな算出はできませんが、仮にµ=10x10-4とすると約45mHとなります。仮のデータでしかありませんが、実測値とほぼ等しいインダクタンスとなりました。


FBDX

<引用>
・スパイダーコイルの製作は「アーティスト小林健二の道具や技法
 http://ipsylon.jp/2016/05/16/crystal-set-parts8/を参考にしました。

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