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From Steve's Workbench

リモートアンテナチューナー その2
リモートアンテナマッチングユニットの設計、製作及びテスト

JS6TMW Steve Fabricant (翻訳 JI1GYO 王新華)

その1では、外付けのアンテナチューニングユニット(ATU)がシャックのアクセサリーとして非常に人気があると書きましたが、実際にはアンテナをチューニングするものではありません。ATUは、給電線の端のインピーダンスを送信機の出力インピーダンスに変換して、送信機が最大限のパワーを発揮できるようにするだけなので、本当はマッチングユニットと呼ぶべきでしょう。私は、リモートマッチング(アンテナ側)が、シャック内でのマッチングよりも有利であることを示しましたが、それはフィードラインの全長にわたってVSWRを減少させるからです。

文末では、なぜリモートマッチングユニットを作ったのか、簡単なソフトウェアを使ってどのように設計したのか、そして、実際に完成までに何度も失敗したことを説明します。

背景について

私は7MHz帯に思い入れがあります。1957年にノービス級でKN2RDPとして初めてQSOしたのが、水晶発振による7156kHzでした。1969年に活動休止しましたが、45年後、妻の父JA9BB(SK)が所有していたFT-101ZDを使って、沖縄でアマチュア無線を再開しました。黒点が消えても、7MHzはDX通信や近距離交信でも使えることが分かりました。アンテナを何本か作り、最終的に1/4波長の垂直グランドプレーン(VGP)とエレベーテッドラジアル、そして1波長の垂直デルタループとしました。これらは地上15mほどの高さで、強いDX信号のレポートを得ることができます。指向性利得を得るためにフェイズドアレイとして使用することができ、そして何年もかけてHFとVHF/UHFアンテナを屋根の上に追加してきました。

アマチュア無線家の多くは、様々なコンディションに対応するために、複数のHF帯で運用することを好みます。私は7MHzのアンテナを3.5MHzと10MHzでも使いたいのですが、アンテナを増やすスペースがありません。しかし、あるバンド用に作られたアンテナを、他のバンドで使用する方法がいくつかあります。これらの方法は、長年アマチュアや市販のマルチバンドアンテナで使われていますが、インピーダンスの不整合を解消するためにATUが必要になることが多いようです。ATUは、ベッドスプリングや芝生の椅子、あるいは濡れた麺にさえもマッチします。ほとんどのハムは、リグで低いVSWRを得ることに満足し、給電線の損失について考えることなく交信しています。



図1a(左)、図1b(右) 市販のリモートマッチングユニット

リモートATU(図1a、1b)を使用するアマチュア無線家は少なくなっていますが、実は給電線の損失を減らすことができるのです。これらは大抵自動タイプで耐候性が必要なため、特に高出力に対応する場合は卓上型よりもコストが高くなります。私は、既に持っている部品を使って、屋外用防水ボックスで保護された簡単な高出力マッチングユニットを作ることができると思いました。

まずは、ソフトウェアでデザイン

RF用の伝送線路やマッチングネットワークは、比較的簡単な数式で記述されます。コンピュータが普及する以前は、技術者が設計するのが普通でしたが、今ではオンライン上で数式が埋め込まれており、ほとんど知識がなくても使えるようになっています。垂直アンテナの基部にあるマッチングユニットによりマルチバンド運用が可能で、リレーで切り替えられる別々の回路を使用するものもあります。その方法は良いのですが、どのアンテナが適しているのか判断する必要がありました。アンテナの設計や比較には、何千回もの繰り返し計算を行うモデリングプログラムが使われます。コンピュータが普及する前は実用的ではありませんでしたが、今ではEZNEC、4NEC2、MMANA-GALといった高機能なソフトウェアがパソコンで利用できます。MMANA-GALは、他のバンドで使用するために、2つの7MHzアンテナを比較するのに使いました。このソフトのライブラリには、すでに2つのアンテナの設計が含まれています。


図2a 7MHz用垂直デルタループを3.5MHzで使用した際のMMANA-GALによる結果


図2b 7MHz用垂直デルタループを10MHzで使用した際のMMANA-GALによる結果

このモデルでは、7MHzのデルタループは3.5MHzで非常に高いインピーダンス(Z=1357-j11480Ω)で、879:1のVSWRになることが示されました。低角度の垂直面放射パターン(図2aの赤線)はDXに適していますが、水平面放射(青線)の大部分は上向きになります。10MHzではインピーダンスが非常に高く(Z=7861-j634Ω)、71:1のVSWRとなります。ほとんどの放射は両放射面ともアンテナに対して広角になりますが、6dBiの負の利得があります。(図2b)


図3a 7MHz用VGPを3.5MHzで使用した際のMMANA-GALによる結果


図3b 7MHz用VGPを10MHzで使用した際のMMANA-GALによる結果

7MHzのVGPは、低抵抗で、短縮型アンテナに典型的な3.5MHzの高い容量性リアクタンスを持ち、777:1のVSWRを持つことになります。放射は垂直偏波で、非常に低い打ち上げ角です(図3a)。10MHzでは、VGPは42:1のVSWRで、中程度の高インピーダンスとなります。放射はほとんど垂直偏波で、高い角度で若干の利得があります。(図3b)

VGPはデルタループより放射パターンが良さそうなので、3.5MHzと10MHzで使ってみました。手動ATUを慎重に調整することで低VSWRを得ることができましたが、強いシグナルレポートは得られませんでした。

マッチングネットワークを設計するためには、その帯域におけるアンテナの複素インピーダンスを知る必要がありました。これは重要なステップであり、優れた測定器が必要です。私は、nanoVNAをアンテナで使用する際に問題が発生しましたが、最終的に図4に示すようなインピーダンスを測定することができました。モデルが実際のアンテナの近似に過ぎないことを考慮すると、インピーダンスの測定値とモデル化された値はそれなりに近い値となりました。この測定値を使って、TLDetailsというソフトウェアで給電線の損失を推定してみました。

図4の9.1dBと5.8dBという計算上の損失は、シグナルレポートが悪いことを説明するものですが、この数字が一体何を表しているのか疑問に思うようになりました。伝送路の損失は長さ、VSWR、周波数によって増加することは多くのアマチュア無線家が知っていますが、HFでは私のアンテナはすべてVSWRが低いので損失を気にしたことはありませんでした。VHF/UHFも運用しており、これらの周波数では導電率と誘電体損失が高いことは知っていましたが、今回TLDetailsは、かなり短いフィードラインで、低周波数でも非常に高い損失を計算しました。全損失の90%以上が反射損失と呼ばれるもので、残りは小さな導電損失と誘電損失で構成されていました。


図4 7MHzVGPの3.5、10MHzにおけるインピーダンス、VSWR、および給電線損失

反射電力の話題はまだまだ続きます

本当にミスマッチでこれだけの損失があるのかと、よく眠れませんでした。もしこれが現実でなかったら、リモートアンテナマッチングユニットを作るために費やした時間が無駄になるからです。

反射電力と給電線の損失について読んでいると、印象的な文章を見つけました。

「RF領域で行われる測定は、俗説に裏打ちされたものである。多くの俗説がそうであるように、RFの概念は口伝えで、また文書により伝承されてきました。また、多くの俗説と同様に、その概念は、よりよく知る必要のある多くの人々にとって不完全に理解されています。特に、順方向電力と反射電力のコンセプトは、しばしば誤解されています。」- ある最高技術責任者

混乱しているのは自分だけではないということが分かって、安心しました。大きく分けて2つの考え方があるようで、どちらも誤解と混乱の群れに囲まれているようでした。TLDetailsやその他の情報源では、VSWRから反射損失またはミスマッチ損失(ML)を計算するために、反射電力が進行電力の一部を相殺することに基づく簡単な公式が使用されています。このML式は、あまりに簡単なためか、広く受け入れられていますが、論理が弱いようで、失われた電力はどうなるのか、なぜ進行波と反射波の位相差に関係なくキャンセルが起こるのか、良い説明を見つけられませんでした。

1970年代、アンテナの第一人者であるウォルター・マクスウェル氏(W2DU)が、これとは逆の考えを提唱しました。彼はQST誌に、送信側で線路が整列すればミスマッチによる損失は完全に補われ、反射電力は最終的にすべてアンテナに出て放射されるので、VSWRは信じられているほど重要ではない、と書いています。マクスウェル氏側は信用を失いつつありますが、時折ML式に一矢報いることで、ポイントを稼いでいます。

2017年にIZ2UUFのブログ「反射電力の神話」から始まったネット上の議論は、現在も続いています。彼は、ML式が一般に適用できないことを、広範なラボのベンチテストによって示しました。TLDetailsの開発者であるDan McGuire, AC6LAはこれを明らかにしようとしましたが、数式を変更することはしませんでした。このブログと多くのコメントを読めば、もっと理解できるかもしれませんし、私のように、もっと理解できないかもしれません。

一般的な意見では、VSWRが3:1以下であれば損失が少ないので無線機でマッチングしても問題ないが、私が現在予想している10:1以上など、VSWRがかなり高くなると先輩方は口を閉ざしてしまいます。また、反射電力は送信機の端子で吸収されるから、リグにATUを設置しないとダメージを受けるとか、同軸の長さを変えるとVSWRが変わるとか、VSWRが高いと同軸に「ストレス」がかかると考える人もいれば、HFで高価な同軸ケーブルを使っていない人を見下したがる人もいるようです。これは、アマチュア界に出回っている誤った情報のほんの一部です。

情報を読めば読むほど混乱してくる。数学、精巧な画像、疑似科学、実験室でのデモンストレーションは、象に出会った3人の盲人がそれぞれ間違った方法で象を説明する話を思い出させました。私は、給電線の損失が本当なのかどうか、まだ確信が持てず、夜中に何度も寝返りを打ちましたが、自分自身で確かめるために、このプロジェクトを続けることにしました。


図5.混乱はまだ続いています

L-ネットワークを使いこなす

かつての手動式ATUでは、3つ以上のリアクタンス成分を持つ「T」、「π」インピーダンスマッチングネットワークが使われていました。よりシンプルで安価なL型ネットワークは、マッチング能力に限界がありますが、現在では多くの手動ATUとほとんどの自動ATUで使用されています。

一つの周波数に対するL-ネットワークは、多くのオンライン計算の中から、簡単に設計することができます。ソースと負荷のインピーダンスと周波数を入力すると、可能なネットワークトポロジーのインダクタンスとキャパシタンスの値が表示されます。(図6aおよび6b)


図6a(左)、図6b(右) L-networkのオンライン計算。
“NaN”は、トポロジー(Le Lievre.com)に対して答えが計算できなかったことを意味します。

過去の話

私は、アナログな電子機器を作るのが好きです。古いトランシーバーとそれに合うATUと一緒に、昔ながらの部品が入った箱をいくつか沖縄に持ち帰り、それらを使って複数のシャック・アクセサリーを作りました。これらの部品が簡単に、しかも安価に手に入った10代の頃を思い出します。バリコンやエアーコイル、さらには1/2ワットのカーボン抵抗など、今では入手困難なものも少なくありません。義父であるJA9BBがバラで購入していたらしい部品やシャーシの一部は、マルチバンド送信機用でした。このキットに関する情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、FB NEWSを通じてご連絡ください。


図7a(左)、7b(右) JA9BBのシャックにあった昔ながらの部品

学んだこと(学ばなかったこと)

図6a、図6bのシャントC/シリーズL トポロジーは、3.5MHzで非常に大きなLとCの値を必要としましたが、他の構成では手持ちの小さな部品が使用できました。10MHzでは、トポロジーによる違いはほとんどありませんでした。

このあたりから、ことごとく問題にぶつかるようになりました。時には諦めそうになることもありましたが、最終的にはほとんどの問題を解決することができました。

  • 始めに10MHzのLネットワークをブレッドボードで作り、アンテナ側でアナライザーを使い低VSWRになるように調整しましたが、無線機側で確認するとマッチングが微妙に違っていました。シャックには同軸のジャンパーや切替器がたくさんあるために、他のアンテナでもこのようなことが起こります。シャックにいるヘルパーがアナライザーの動画を送ってくれたので、それを見ながら、リアルタイムで屋根の上のネットワークを調整することができました。この人力遠隔調整法をさらに何度か使うことになりました。

  • Qファクターは、ネットワークの方程式において、LとCと並ぶ第3の変数であるため、可変コンデンサーのみを調整しても、正確なマッチングが得られないことがあります。QはXLとXCの比に依存するので、インダクタンスも調整する必要があるのです。自動ATUや手動ATUのローラーコイルはこの微調整の問題を解決してくれますが、私のコイルでは、ネジ付きロッドにフェライト「スラグ」を取り付けるという古い手法を使うまで、微調整は困難でした。(図11)

  • 私は、不器用な実験を短縮するために、ある近道を試してみました。アンテナに設置した自動チューナーが正しいチューニングパラメーターを見つけてくれれば、あとは固定部品で代用できます。手持ちのAT-100では、3.5MHzの超高インピーダンスに対応するインダクタンスが不足していたので、レンジの広いMFJ-993を借りてきて、LとCを代用するブレッドボード回路を作りました(図8)。原因はまだ分かりませんが、自動チューナーの結果を再現できなかったので、元の計画に戻ることになりました。


  • 図8 L/C代替ネットワーク(失敗でした)

  • Lネットワークを防水ボックスに組み込み、各バンドのLとCを変更する小型リレーモジュールをシャックから制御しました(図9a)。浮遊容量とインダクタンスが実際のネットワーク・パラメータとほぼ同じであるため、確実なチューニングが困難であることが分かりました。そこで、Lネットワーク単位で切り替えられるように配線を変更し(図9b)、リレーはモジュールより静電容量の小さいオープンフレームDPDTリレーを使用し、リレー数を減らしました。


  • 図9a オリジナル計画


    図9b 最終ネットワーク計画

  • レイアウトや配線に配慮が足りなかったのは明らかで、すぐに別の教訓を覚えることになりました。アンテナへの同軸線は本体上部から出ていますが、雨の後、SO-239(M)コネクタが防水でないことを知りました。箱の中は湿度が高いので、普通の電線を使ってハイパワーを試みたところ、数ヶ所で見事に失敗しました(図10)。計算すると、RFのピーク電圧は1200Vにもなります。そこで、絶縁を良くして配線を直進させ、出力用同軸ケーブルを箱の底に移しました(図11)。3.5MHzの可変コンデンサーがアーク放電していたので修理し、電圧を下げるためにマイカコンデンサーを直列に追加しました。


  • 図10 雨の湿気によって部品を焦がしてしまいました


    図11 最終的に完成した高電圧配線とフェライトスラッグチューニング(矢印)

  • Lネットワークの調整は、本体をアンテナに接続した状態で行わなければならず、炎天下の中、梯子の上でバランスを取りながら行うのは大変でした。そこで、VGPの等価回路を作り、作業机の上で調整できるようにしました。等価インピーダンスのおかげで、マッチングユニットのVSWRスイープは実際のアンテナと同じになり、調整したユニットをアンテナに再接続すると、ほぼ完璧にチューニングされました。


  • 図12 10MHz(左)と3.5MHz(右)のアンテナ等価回路

    そして、ついに・・・

    私は、10MHzと3.5MHzのCW帯において、シャック内で低いVSWR(<1.2:1)を実現しました(図13a、b)。VGPは、オペレートデスクのスイッチで瞬時にどちらかのバンドか7MHzに同調させることができました。また、リモートユニットからデスクトップATUに素早く切り替えることができ、VSWRと進行電力は同じままでした。これにより、給電線損失だけが異なるため、簡単に「A/B」比較ができるようになりました。(図14)



    図13a(左)、13b(右) 3.5MHzと10MHzでのVSWR


    図14 デスクトップとリモートのマッチング

    数週間のテストで、日本本土および近隣諸国からの3.5MHzの信号の比較では、リモートマッチングユニットで平均S2~4、リバースビーコンネットワーク(RBN)で平均7~10dB改善されました。10MHzでは、RBNの平均改善度は2~3dBでした。これらの実運用での差は、リモートマッチングユニットによって除去された計算上の損失に非常に近いものでした。


    図15 VGP給電部に設置したリモートマッチングユニット(防水)

    このような一般的な設計・製作方法により、シンプルなリモートマッチングユニットを安価に、好きなだけ多くのバンドに対応させることができるのです。このプロジェクトに費やした数ヶ月を振り返ってみると、予想以上に大変な作業でしたが、失敗から学ぶことも多く、充実した時間を過ごすことができました。また、反射減衰量に関する終わりのない議論に巻き込まれたとき、自信を持って実測結果を語ることができるのも収穫となりました。

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