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ジャンク堂

第6回 オペアンプ入門(6)

JH3NRV 松尾信一


いまさらですがお断りしておくことが2つあります。

1. ここで説明を行っているオペアンプとは電圧帰還型と呼ばれるもので、一般的にオペアンプというとこの電圧帰還型になります。しかし、オペアンプの中には電流帰還型と呼ばれるものもあります。電流帰還型は利得帯域幅積(GBW)が100MHz以上もあるような高周波増幅に向いた製品が主になります。しかし電流帰還型は動作セオリーが電圧帰還型とは異なるため、この連載で説明している内容は当てはまりませんのでご注意ください。電流帰還型オペアンプについてはデータシートに載っている回路例に沿って使用することをお勧めします。

2. 本文中でゲインの表現をxx(倍)としている場合と、xxdBとしている場合が混在しています。文の流れから混在している理由を読み取っていただければと思いますが、電圧ゲインのdBを理解していることが前提です。
  電圧ゲイン(dB) = 20log(A倍)
  1倍 : 0dB
  2倍 : 6dB
  10倍 : 20dB

さて、本題に戻ります。前回からボード線図ばかり並べているので飽きられてしまいそうですが、今回も発振にかかわる話からです。

前回はオペアンプを中心とする閉ループ回路内に複数の積分回路があると、位相が180°以上遅れてNFBのつもりがPFBになり、発振に至るとの話をしました。また一般的なオペアンプは単体ではゲインが1以上の範囲であれば位相遅れは90°までのためにNFBを掛けてもPFBの領域に入らず発振しないようになっていることも説明しました。

今回は発振を回避/軽減する方法を幾つか紹介します。

オペアンプの発振回避

①出力に抵抗を入れる。
これは、直感的にも分かりやすい方法だと思います。今回はNJM4565でのシミュレーションしてみました。(NJM4560は廃品種で入手しにくくなっているようなので、今回からNJM4565に変えました。)

図の回路図のように、負荷の容量を1000pFとしています。出力端子に直列に抵抗R3を接続し、そのR3を1mΩ(緑) /50Ω(青) /200Ω(赤)と変化させた場合の様子です。グラフは回路の出力(Out)ではなく、Rf(R2)が接続されるオペアンプの出力端子(回路図のPhase_chkの位置)の様子です。ここの位相でマイナス入力端子に信号がフィードバックされます。

まずはゲインが20dBのときです。


R3が1mΩでも位相余裕がわずかにありますが、50Ω以上にすると位相余裕度が大きく改善されています。

次にゲインが0dBのボルテージフォロアです。ゲイン20dBのときより位相余裕度が厳しくなっています。


R3が1mΩでは大きなピークが出ており、位相も完全に発振する領域に入っています。ここでもR3を50Ω以上にするとピークが無くなり、位相余裕も十分にあります。

上記の特性は、あくまで一例でしかもシミュレーション上の話しです。どのようなオペアンプでもこの値になるわけではありません。一連のシミュレーション結果でみていただきたいのは色々な定数を変えたときの振幅特性と位相特性(位相余裕度)の変化の傾向です。

私の経験では一般的なオペアンプであれば概ね100Ω程度以上を直列に入れてやれば自励発振を起こすことはないようです。

注)自励発振とは入力信号が無い状態でも出力に信号が現れる状態のことです。

②ゲインを上げて使う。
前のシミュレーション結果からもゲインを下げた方が発振しやすくなっていることが分かります。オペアンプはゲインを上げる(NFB量を減らす)と発振しにくくなることは今までの説明でご理解いただけると思います。一般的にゲインを10倍(20dB)未満で使用する場合には発振に注意する必要があります。ゲインを10倍以上で使用することも発振対策のひとつになります。

③位相補償をする。
オペアンプの発振のほとんどがループ内の位相遅れによるものですから、どこかに位相を進める要素を入れると発振を回避/軽減できます。位相を進める代表的な回路が下の回路になります。


R1とCによる積分回路にCと直列にR2を入れた回路です。この回路は閉ループ回路ではよく出て来ます。PLLでもラグリードフィルタと呼ばれてループフィルタによく使われます。この回路の位相特性は興味深い変化をしています。


周波数が高くなるにつれ最初は積分回路と同じように電圧レベルと位相が変化を始めますが、途中から電圧レベルの減衰が止まり、位相も元に戻り出します。この回路のミソはR2で、この抵抗が無ければ普通の積分回路になります。

このラグリード型フィルタのカットオフ周波数は下記の式で計算できます。


続いて次の回路の特性をみてください。


先ほどのラグリードフィルタにC2が追加されています。ここではC1の容量がC2の10倍の値なのでC1のカットオフ周波数はC2のカットオフ周波数の約1/10になっています。ここでも注目は位相特性です。最初は遅れだしていた位相が一旦元に戻りますが、C2によりまた遅れだします。位相の変化が波打つようになっています。

この特性と普通の積分回路の特性を比較します。


16kΩと1000pFの積分回路の出力OUT1は1MHz付近で位相がほぼ90°ですが、ラグリードフィルタを入れたOUT2の方は波打った位相特性ですが1MHzで72°に止まっています。

このラグリードを出力端に入れた回路をNJM4565でシミュレーションをしました。もっとも発振が生じやすいボルテージフォロアで試してみます。


1000pFのC2が出力端子に接続されたコンデンサとして、R1とC1(0.01uF)の直列回路を出力に追加します。ここでR1の値を10MΩ(赤) /100Ω(青) /20Ω(緑)と変化させてみました。R1=10MΩはこの回路(R1、C1)が入っていない状態に等しくなります。

R1とC1が無い(R1=10MΩ)ときには大きなピークがあり、位相が180°遅れのときのゲインは0dB以上のため、発振を起こします。R1が100Ωから20Ωではそれが改善されており、特に20Ωでは顕著なピークもなくなっています。この回路を付加することで位相余裕度が生まれることがわかります。

ところが、実際にオペアンプでこの回路を使われることはあまりありません。理由はR1の値が非常に小さいためにC1のインピーダンスが下がる高域ではこの回路はオペアンプの負荷としては低すぎる(重たい)からです。

オペアンプではあまり使われないのにこの回路を紹介したのはCRで位相特性を操る上で重要な回路/特性のためです。また、この回路はオペアンプには不向きでもPLLやオーディオパワーアンプでは必ず使われています。オーディオパワーアンプは低インピーダンスの負荷を駆動することが前提のためにこの回路が使用出来ます。パワーアンプに接続されるのはスピーカーやスピーカーケーブルなど、負荷の容量成分や誘導成分が大きくNFBを掛けると発振しやすい状況にあります。また、パワーを出すために出力と負荷の間に直列抵抗を入れることも出来ませんので、このような位相補償は不可欠になります。パワーアンプICを使う場合はこのコンデンサと抵抗はICの参考回路の指定のとおりに入れ、省略したり定数を大きく変えたりすることはやめましょう。

④位相補償その2
今度はオペアンプでも一般的な手法です。ゲイン設定はボルテージフォロアに次いで発振しやすい6dBにしました。下図の回路のようにオペアンプの出力端子とマイナス入力端子間に小容量のコンデンサC2を入れ、フィードバック抵抗R2は抵抗R3を通してオペアンプの出力端子に接続します。


このR3が無い(0Ω)のときはR2とC2が並列接続になり、高域を落とす方法として紹介した回路になります。上のシミュレーションではR3=1mΩのとき(青線)がそれに相当します。このときの特性をみると位相が180°遅れのときのゲインが0dB以上ですから発振します。R2(Rf)と並列にコンデンサを入れただけでは本質的な発振対策にはならないようです。

しかし、R3として100Ωを入れると位相余裕が生まれます(赤線)。なお、このグラフは回路の出力(Out)の特性をみています。発振の視点ではマイナス入力端子に入力される信号の位相が重要ですが、マイナス入力端子の位相は上のグラフよりも余裕があります。ただし、Outで見た周波数特性としてはグラフのように高域が大きく落ちることになります。

③の位相補償もそうですが、ある程度正確な部品モデルでシミュレーションができるか、回路を組んで測定をしないと適切な定数を決めにくいので、あまり入門向けとは言えなくなります。ここではこのような方法もあるという程度にしておきます。

⑤ノイズゲインを上げる
下のグラフの回路図を良くみてください。変な回路に思われるかも知れません。R1は通常であれば片側がアースに接続されるはずがプラス入力端子に接続されています。またゲインは0dBでボルテージフォロアと同じです。


よくみると周波数特性も通常のボルテージフォロアと異なり、高域の特性が良くありませんが位相余裕は十分にあります。ここで示した回路定数ではゲインは0dBですが、周波数特性や位相余裕度は12dB(4倍)のときと同じになります。

回路の動作を簡単に説明すると、この回路ではプラス入力端子とマイナス入力端子に同時に同じ信号を入れることになります。


マイナス入力端子から入った信号は反転増福されて、R2/R1倍されます。プラス入力端子から入った信号は非反転増幅されて、1+R2/R1倍されます。両方の増幅は位相が反対なので打ち消しあいますが、非反転増幅のゲインの方が“1”大きいためにトータルで1倍(0dB)のアンプとなります。しかし、基本となる非反転アンプとしては1+R1/R2倍の増幅率であるために周波数特性や位相余裕度は1+R1/R2倍のアンプと同等になります。

この方法はオペアンプの特徴を利用した方法ですが入門的な解説にはあまり出てこないようです。また、この動作に関連する内容は発振対策よりも幅広くなることから、取り敢えずこのような回路/方法があるということで今回はお茶を濁しておきます。興味があれば、オペアンプ/ノイズゲインでネット検索してみてください。

さて、入門と言いながらだんだんと理屈っぽくなってきました。発振についてはこれくらいにしておきたいと思いますが、最後にシールド線について話しをしたいと思います。

シールド線について

オーディオアンプなどではハムやノイズが混入しないようにシールド線が使われることが多いと思います。特に機器間でオーディオ信号を伝送する場合は必ずシールドケーブルが使用されます。なぜここでシールド線の話を出すかというと、シールド線は信号を伝送するとともにコンデンサとしての側面もあるからです。つまりオペアンプの出力にシールド線を直接接続するとコンデンサをぶら下げたことと同じになります。

試しに私の手持ちのシールド線の1mあたりの静電容量を簡易的に測定してみました。いずれも細いもので、もっと太いシールドケーブルは手元に無かったので測定できませんでした。写真の一番上が1.5D-2V、中央がシールド線1、一番下がシールド線2としています。


シールド線1  芯線-シールド間容量: 360pF/m
  単芯シールド線 関西電線通信製(ケーブルにMVVSと書かれている)
シールド線2 芯線-シールド間容量: 290pF/m 芯線間(赤白線間)容量: 176pF/m
  2芯シールド線 型番/メーカーなどは不明

なお、50Ω系同軸ケーブルは太さにかかわらず、通常100pF/m程度になっています。

手持ちの2種類のシールド線を確認しただけですが思った以上に静電容量が大きく、50Ω同軸ケーブルの3倍程度ありました。これでは回路図にはコンデンサが入ってなくても組み上がったアンプに接続したシールド線がコンデンサになってしまうこともありえます。オペアンプの出力に長いシールド線を繋ぐ場合は注意が必要です。できれば発振回避①のようにオペアンプの出力に抵抗を入れてからシールド線を繋ぐようにすると思わぬトラブルを回避できます。また、オーディオの世界では標準のインピーダンスが600Ωですから560Ωを入れると600Ωに近いインピーダンスになり、ある意味都合が良くなると思います。

高周波ではインピーダンスマッチングをとるために、機器と伝送線路(同軸ケーブル)のインピーダンスを合わせることは常識です。また、それによってケーブルの持つ静電容量やインダクタンスの存在が見えなくなります。しかし、オーディオの世界は少し異なります。機器間のラインインピーダンスは600Ωが標準と言われますが、伝送線路となるケーブル(シールド線)のインピーダンスの規定/スペックを(私は)見たことがありません。また、600Ωというインピーダンスはレベルを規定するために必要とされているようですが、元はアナログ電話回線から来ているそうで、ケーブルインピーダンスとは関係が無いようです。したがってケーブルインピーダンスや線間容量はマチマチだと思われます。

また音響設備(PA)などのように長いケーブルを引き回さない、普通のオーディオ機器では出力側のインピーダンスはなるべく低く、受け側のインピーダンスはなるべく高く(ロー出し/ハイ受け)設計されることが一般的です。オペアンプは入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低いため、そのような機器を作るのに適していると言えます。



ジャンク堂 番外編 “今日のジャンク”


さて話は変わって番外編2回目です。今日のジャンクはモービル用アンテナ基台に使うM型コネクタです。ありふれたものなのでここで紹介するほどではありませんが久しぶりにジャンク箱から引っ張り出したとき、これにまつわる話しを思い出したので登場させました。

これはかなり昔に使っていたもので、以前に住んでいた集合住宅が外壁塗装をするときに取り外したものです。当時からすでに外側は黒ずんで汚れていましたが内側はまだ綺麗だったことから捨てずに取っておきました。写真ではわかりませんが、同軸ケーブルは取り外したときに10cmほど残してカットしたまま永らく放置していました。

ところでこのコネクタ、白い絶縁体の部分をドリルでいくつか丸い穴を掘っています。実はあることがあって試しにこのような改造(?)を施しました。

アマチュア機器では携帯機や小型機などではBNCコネクタやSMAコネクタが使われていますが基本的にはM型コネクタが標準で使われています。しかし測定器などにM型コネクタが使われることはありません。その理由は高周波用コネクタとしてM型だけがインピーダンスの規定がないためだと思います。精度は別にしてN型、BNC型、SMA型のコネクタはいずれも50Ωが公称インピーダンスとなっています。

ウン十年前の開局当時、OMから“M型コネクタはインピーダンスの規定がないから400MHzでは使えないよ”と聞いていたのですが、とくに気に留めずに使っていました。しかしある日、規定はないにしてもMコネ(M型コネクタのことです)のインピーダンスはどれくらいなのか? と疑問に思いました。そこで手元のMコネのメス型のものを定規で測ってみてインピーダンスを計算したのが始まりです。当時のメモが残っていないので今回改めて手元のM型の中継コネクタのサイズを測ってみたところ、芯線側の直径が約4.5mm 外側の内径は約11mmほどでした。

なお、同軸線路のインピーダンスは以下の式で求められます。


この式中のεrは真空の誘電率(空気もほぼ同じ)を1とする比誘電率です(ついでですがlnはlogeのことです)。Mコネの絶縁体はテフロンらしきものやベークライト、あるいは緑色や透明のプラスチックのようなものまで様々ですが、この式から分かるように絶縁体の種類でもインピーダンスが変化します。もしテフロンであれば比誘電率は2程度でベーク材ならば4.5~5.5程度だと思います。Mコネはインピーダンスが規定されていないためか、絶縁体は“なんでもあり”のようです。本編のオペアンプのところで触れたシールド線も同様で絶縁体についてはビニルなどの一言で片付けられることが普通のようです。

さて、この式に先ほどのMコネの寸法を入れてみますとびっくり、絶縁体が空気(比誘電率=1)のときの計算結果が53.6Ωとおおむね50Ωではないですか! しかし実物は芯線側の導体を支えるための絶縁体が入っているのでインピーダンスは50Ωより下がります。先の寸法が正しければ絶縁体の比誘電率が2(テフロン)では約38Ω、比誘電率が5(ベーク)では約24Ωとなります。もし絶縁体が本物のテフロンであれば誘電損失が少ないだけでなく、インピーダンスのズレもまだマシといえるでしょう。

この結果からMコネはなるべく絶縁体が無い方が50Ωに近づくと考え、最初の写真にあるコネクタの改造に至ったわけです。つまりドリルで絶縁体を削って少しでも空気の部分を増やそうとしたのです。

ところで改造の結果ですが、効果のほどは分からなかったというのがオチです。その頃はアンテナアナライザなど、高価で一般的でなかったので430MHzの安価なSWR計で確認したのですが同軸ケーブルの影響の方が大きかったのでしょうか? それとも元々影響が少なかったのでしょうか?

その後、ダイヤモンド(第一電波)製のモービル用アンテナケーブルを購入したのですが、コネクタをみると絶縁体の部分が隙間ばかりになっているではありませんか(下の写真)。それまでこのようなモノを買ったことがなかったので知らなかったのですが、さすがアンテナメーカー! 分かってる。コネクタだけでも販売してくれないかなぁ、、と思った次第であります。


ところでインピーダンスのズレたコネクタを使うとどれくらい影響があるのでしょうか? コネクタも同軸ケーブルとともに伝送線路を構成しますから波長(周波数)とコネクタ(線路)の長さ、それとコネクタのインピーダンスで影響度合いが変わります。先ほど、改造の効果がわからなかったと書きましたが絶縁体がテフロンと信じて、コネクタの長さを測りスミスチャート(Mr.Smith)上で改めて確認してみました。敢えてその内容は書きませんが冒頭のコネクタの寸法の場合は400MHzでも私的には我慢できる程度でした。また、無線機側の場合はコネクタのインピーダンスを含めて回路マッチングをとれば絶縁体の誘電損失以外の影響は吸収できように思います。伝送線路については、このFBニュースの濱田さんの「Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話」の連載に詳しく書かれています。

ちなみにこの改造コネクタですが、先日ベランダに144MHz/430MHzのモービルホイップを取り付けるために再利用となりました。アンテナ基台もこのコネクタと一緒にジャンク箱行きとなっていた、少し錆が出ているL型のものを再利用です。結果、両方ともめでたくジャンク品から現用品へと返り咲きとなりました。(捨てなくて良かった!)

それでは73&88!

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