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新・エレクトロニクス工作室

第3回 10.000MHzクリスタルフィルタ

JE1UCI 冨川寿夫

はじめに

週刊BEACONのNo.182では、GPSモジュールを使って10.000MHz出力の発振器を作製しました。この10.000MHzは、同じくNo.189で作ったGPSDOの基準用に作ったものです。これは上手く動いているのですが、GPSモジュールの出力そのものを使っていますので、非常に多くのスプリアスが含まれています。しかも使用している10MHzの周波数が良くないようで、スプリアスのレベルが高いのです。このスプリアスは1kHz間隔で並びますので、LC回路のフィルタでは全く取り除けません。スプリアスがあってもGPSDOの動作には問題はないのですが、LCDで位相を見た時にジッタのように見えていました。GPSDOの出力が安定している時に、この影響がどうなのか気になっていました。

たびたび週刊BEACONの記事が引用されますので、最初にまとめて掲示しておきます。
週刊BEACON No.182 10MHz GPS発振器
(https://www.icom.co.jp/personal/beacon/kousaku/4503/)
週刊BEACON No.189 GPSDO
(https://www.icom.co.jp/personal/beacon/kousaku/4964/)

このNo.182とNo.189を作った時には諦めていたのですが、写真1のようなクリスタルフィルタを作製しました。実験がやりやすく、そのまま使用できるようにBNCコネクタの間に作っています。GPSDOの性能として、どの程度の改善ができるのかは不明です。しかし、クリアな信号にして何の不都合もありません。


写真1 このように10.000MHzのクリスタルフィルタを作製

フィルタの実験

No.182はGPSモジュールの出力を10MHzに設定して出力するものでした。この出力をGPSDOに使う場合、普通はノイズの少ない100kHzとか40kHzを使ってPLLの基準に使います。しかし、OCXOの10MHzと直接比較をしたかったため、ノイズの多い10MHzを出力させる作り方にしました。その代わりに、10MHzで直接比較できるメリットがあります。つまり、100kHzに比べて周波数の誤差が100倍も大きく測れます。

この10MHz GPS発振器の出力は、測定結果1のように1kHz間隔にスプリアスが並びます。これは20kHzスパンで測っています。従って、受信機で言えばCW用程度の帯域幅のクリスタルフィルタが欲しい事になります。周波数は10MHzピッタリが理想ですが、100Hz程度が誤差の限界になりそうです。


測定結果1 10MHz GPS発振器の出力はスプリアスが多い

ラダー型のクリスタルフィルタは、直列共振の周波数で信号を通過させます。しかし発振させた場合の周波数は、直列共振と並列共振の周波数との間になります。従って、10.000MHzの表示のクリスタルを使ってCW用のラダー型のフィルタを作ると、周波数が低くなり過ぎて10.000MHzは通す事ができません。これでしばらく作業も検討も止まっていました。ふと、クリスタルとシリーズにコンデンサを入れる事で、フィルタの周波数が上げられる事に気が付きました。コンデンサによって周波数の微調整を行えば、10.000MHzピッタリのクリスタルフィルタも可能なはずです。

最初に10.000MHzちょうどのクリスタルフィルタの実験を、写真2のように実験を行いました。帯域幅は500Hz程度を目指しました。この実験を図1の回路で行い、シリーズに入れるコンデンサCを交換しながら試してみました。ここからは10.000000MHzではなく、10.000,000MHzとkHzの後の位置にカンマを入れます。もちろん、周波数の差を解りやすく表現するためです。


写真2 実験の様子


図1 実験した回路 Cを交換して測定

測定結果2はCを25pFにして特性を測ったものです。スペアナのセンターを10MHzちょうどに設定し、スパンを5kHzにしています。ピークの周波数が10.000,983MHzと983Hz高くなってしまいました。思ったとおりにピーク周波数は上がりましたが、Cが小さ過ぎるようです。


測定結果2 Cを25pFとした時の特性 983Hz高い

Cを33pFにしたのが測定結果3となります。ピークの周波数が10.000,041MHzと41Hz高くなりましたが、帯域内には充分に入りそうです。まずまずの結果で、これなら使えそうです。


測定結果3 Cを33pFとした時の特性 41Hz高い

Cを39pFにしたのが測定結果4で、ピークの周波数が9.999,533MHzと467Hz低くなってしまいました。これでは低くなり過ぎです。


測定結果4 Cを39pFとした時の特性 467Hz低い

回路

実験の結果、図2のようにシリーズのコンデンサは33pFとして、3素子のフィルタで作ってみました。図1と何ら変わりません。帯域幅としては、1kHz離れた信号をカットしたいのですから、一応500Hzとして計算しています。この程度の帯域幅があれば目的として充分そうです。


図2 実験の結果この回路とした

シリーズに入れる33pFのコンデンサによって上がる周波数が変化します。対アース間のコンデンサによって帯域幅が変化します。図2の場合、入出力のインピーダンスは40Ω程度になります。スペアナを直接接続しても測定できますし、No.182の出力もローインピーダンスですので問題なさそうです。

もちろん、クリスタルが異なれば当然最適値も変わってきます。ここはトリマーにしておく方法も良いかと思います。各々の水晶に誤差があっても、トリマーによって吸収し、ピークを合わせる事ができるはずです。

作製

回路の値が決まれば作製は容易です。秋月電子のアース付きのシールドメッシュ基板を使用し、改めて組み立ててみました。Cサイズ基板の切れ端が手持ちにあったためです。入出力共にBNC-Rを使用し、図3のような実装図を作製しました。このハンダ面が図4になります。


図3 作製した実装図(緑はシールド部分へ接続)


図4 実装図のハンダ面

実装図を基に、写真3のように組み立てました。写真4がハンダ面になります。基板のシールド部分は、BNCコネクタのフランジに直接ハンダ付けしています。もちろん、アース付きDサイズの基板でSMAのエッジマウントのタイプを使う方法でも良いかと思います。作り方としては、その方が簡単です。作った後の使い勝手を考えておく必要もあります。


写真3 このように組み立てを実施


写真4 ハンダ面の様子

写真3の状態で、思ったような動作をする事をチェックしました。しかし、このままではBNCコネクタの脱着時に基板にストレスが加わってしまいます。動作に問題が無いのを確認し、写真5のように生基板を両側面に補強としてハンダ付けしました。BNCコネクタのフランジ部分と基板にハンダ付けしています。これで普通に使った程度ではビクともしません。


写真5 生基板を両側面にハンダ付けして補強

測定結果

最終的に作製したものを測定すると、測定結果5のようになりました。ピークの周波数は9.999,983MHzと17Hz低くなり、実験段階の測定結果3より誤差が少なくなりました。この差は空中配線でワイヤーが少々長かった差と、コンデンサをセラミックから別の積層セラミックに変更したためかと思います。レベルに差がありますので、測定条件も少々異なるようです(覚えていません)。スパンを5kHzで測っていますので、1kHz離れると約30dBの減衰と解ります。このフィルタを入れてみると、測定結果6のように櫛状のノイズは概ね消えました。ただ、10MHzのレベルも下がってしまったため、GPSDO側での再調整が必要となりました。これは仕方ありません。


測定結果5 最終的には17Hz低くなった


測定結果6 10MHz GPS発振器の出力に入れるとスプリアスが減った

なお、33pF等のコンデンサを付けない場合の測定が抜けていました。最後に測ったのが測定結果7です。これは33pFをショートして測ったものです。スペアナのセンター周波数を10MHzちょうどにすると画面に全く入りません。ここだけセンター周波数をフィルタのピークに合わせています。ピークは9.996,783kHzと3kHz以上低くなりました。


測定結果7 改めて33pFを入れない場合を測定 ピークは9.996,783MHzとなった

計算

これで完成して終了なのですが、このような値は計算上どうなるのだろうかと少々疑問に思いました。私の面倒な性格によるのでしょう。そこで順序は逆になるのですが、後から等価回路の計算をしてみました。

クリスタルの等価回路は図5のように表されます。ラダー型フィルタで使うのはC1とL1での直列共振になります。そこで図6のように外部にコンデンサを付けるとC1とC2の合成容量とL1との直列共振になり、共振周波数が高くなります。この時、並列共振の周波数は変化しません。L1の値は普段我々が使っているような値に比べると、とてつもなく大きくなります。逆にC1の方はとてつもなく小さくなります。そのため図6のようにコンデンサを入れても、可変幅は僅か数kHz高くなるだけとなります。


図5 クリスタルの等価回路


図6 このようにCを入れる事で直列共振周波数が高くなる

使用したクリスタルは写真6の10MHzちょうどですが、一番知りたいL1とC1の値が解りません。クリスタルの直列共振と並列共振の周波数をクリスタル単体で測ると、測定結果8のようになりました。但し、同じロットのクリスタルでも直列共振の周波数が4kHzずれているものもありました。従ってこの先の計算は、こんな値もあるだろう程度に考えて下さい。


写真6 使用した10MHzのクリスタル


測定結果8 クリスタルの直列と並列の共振周波数を測定

直列共振の周波数は9.996,666MHzですが、これをフィルタの通過周波数にすると帯域幅だけ高い方に広がります。つまり5kHz程度の帯域幅にすれば10MHzちょうども通せるのですが。1kHz間隔のスプリアスも素通しになってしまいます。今回は500Hzと狭く設定しましたので、測定結果7で測った9.996,783MHzと比較しても117Hz低いだけです。

従って、クリスタルとシリーズに33pFのコンデンサを付けてみて、10MHzより117Hz低い9.999,883MHz程度になれば、10MHzちょうどのクリスタルフィルタになるはずです。帯域を広くすると最適値は117Hzより高くなるはずです。このフィルタにする場合の計算が、私には良く解っていません。クリスタルに33pFをシリーズに入れて同じように測ると、測定結果9のよう9.999,916MHzとなりました。10MHzより117Hzではなく、84Hz低いのですが、まずまずでしょう。


測定結果9 33pFをシリーズに入れて共振周波数を測定

図5と図6を眺めていると、直列と並列の共振周波数とCoが解ればC1とL1は計算できそうです。連立方程式になりますが、割と簡単な結果になりました。これをエクセルで作ってみました。入れるのは測定結果8で測った直列と並列の共振周波数と、並列容量Coです。このエクセルのシートを置きますので使ってみて下さい。図7のように黄色のセルに値を入れるとC1とL1を計算します。(エクセルワークシートのダウンロードはこちら)


図7 エクセルの黄色のセルに値を入れると計算します

ところが、これには問題がありました。実際に試したところ、等価回路としてだけであれば計算が合います。しかし、次に33pFを付けた時の直列共振周波数が、微妙に合わないのです。直列共振の周波数が10.000,525MHzとなってしまいました。測定結果8には合いますが、測定結果9の9.999,916MHzにも、10MHzより117Hz低い9.999,883MHzにも合いません。

並列容量Coは微小容量ですので難しいです。最初5.5pFはDE-5000を用いて測りましたが、計算で出す事にしました。このCoが少し異なるだけでL1とC1の値がかなり変わってしまいます。浮遊容量が大きく影響する測定で重要な値を決めるのでは、誤差が大きくなるのも当然なのでしょう。そこでエクセルの続きで、直列にコンデンサを入れた時の直列共振周波数も追加しました。この部分が図8になります。この値を測定結果9の9.999,916MHzになるように、Coの値を調整してみると4.631428pFとなりました。僅か1pF未満の相違ですが、大きな違いになってしまいます。他に応用が利かなくなるので、この部分の方程式は止めました。多少の力作業になりますが、エクセルなら簡単な作業で値を出せます。


図8 直列にCを入れた場合の直列共振周波数も同様に計算します

試しに10MHzより117Hz低い9.999,883MHzになるように、Coを辿ってみると4.584394pFとなりました。僅か0.047pFの相違しかありません。

エクセルで計算した結果をまとめると、このクリスタルは図9のように11.81101475mHと0.021460641pFで9.996,666MHzに直列共振すると推定されます。図10のようにすると33pFと0.021460641pFとのシリーズになって合成値は0.021446694pFとなります。11.81101475mHとの直列共振周波数は9.999,916MHzに動く事になります。これでようやく辻褄が合うようになりました。まあ、正しくは逆に辻褄を合わせただけです。10MHzのクリスタルとしてはこの位の値のようです。


図9 10MHzのクリスタルの等価回路


図10 33pFを入れた時の直列共振周波数

ついでですが、どうして並列共振周波数は常に10kHz以上高くなるのかが不思議でした。実はどうやって並列共振するのかも不思議でした。LTspiceでシミュレーションすれば図11のように一発で出てしまうのですが、これだけでは少々納得できません。そこでコンデンサとコイルを、並列共振周波数の10.0198MHzでXLとXCを表したのが図12です。このようにXLとXCは微妙に差ができて、直列共振からは外れます。図13のように引き算で僅かに残ったXLと4.631428pFのXCで並列共振する事が解ります。


図11 LTspiceを使えば直列も並列も共振周波数は解ります


図12 並列共振周波数の10.0198MHzでの値


図13 従って図12はこのように考えられる

このように実験と計算の順序が逆ですが、何とかまとまりました。記事にする段階になって抜けが見つかるのは良くある事です。本来はクリスタルの特性を先に測って計算して進めるのが良さそうに思えるのですが、実際には容易ではなさそうです。写真2のように実験したのは間違ってはいなかったのでしょう。

使用感

10.000MHzのクリスタルフィルタを入れてGPSDOを動かしてみると、LCD表示では明らかにジッタのような動きが減りました。つまり、今までは円周上を回転しながら常時ある程度の幅で振動していました。それが少なく綺麗になりました。ただ、全く無くなったという事ではありません。衛星からの電波が持っている位相のずれは、そのまま素通りです。これでOCXOと比較した結果が安定するはずです。しかし結果として、どれだけの効果があるのかは全く解りません。GPSDOの出力周波数は安定する方向になるはずですが、それが数値的には不明です。もちろん悪化する事は無いはずです。

No.182のGPS 10MHz発振器ですが、最初はアンテナと一体化したモジュールを使っていました。しかし外部アンテナを使えるようにした事から、モジュールを交換してアンテナ端子を外に出しました。そして、このフィルタを付ける事になっています。継ぎ足しをした結果なのですが、再度作製しようと考えています。

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