ものづくりやろう!
私は、自称「週末電子工作人間」です。今月は仕事の関係で電子回路と思しきものを何も作ることができませんでした。それでは何をやったのかと思い返してみましたが、やったのは新しく購入した「温度制御付きはんだこて」と「はんだ吸取器」をさわっているだけでした。そんな状況でしたので今月は、「ものづくり」ではなく、「はんだこてやはんだ付けの道具について」書いてみることにしました。
電気に携わる人ではんだ付けのお世話にならない人はいないでしょう。「基礎の基礎」の技ですのでこのニュースを読んでおられる方にとっては釈迦に説法ということは重々承知しています。が、ひょっとして無線の免許を取ったばかりで電子工作もほとんど経験がない、そんな初心者の方もおられるかもしれませんので、その方々にはんだ付け道具を紹介してみたいとおもいます(「道具の紹介だけなんかよ」と声が聞こえてきそうです)。あくまでも私のスタンスは「私の持っているこんな道具はこんな使い方をします。」というアマチュア的な道具の紹介記事だとご認識ください。はんだ付けのノウハウについてはもっとご存じの方がたくさんホームページに説明されておられますので、そちらをご確認ください。
もう40年ほど昔、わたしは配属先で無線機等の修理を担当することになり、はんだ付けの技能アップを求められました。このためにはんだ付けの講習に参加するように指示を受けました。どこかの新聞社が主催する4日間ほどのはんだ付け実習付きの講習会でしたが、講師の名前はしっかり憶えていて田中和吉とおっしゃる方が主講師でした。この方はNECで人工衛星のはんだ付けを担当しておられる方でした。講習会で与えられた課題は、端子や基板にはんだ付けする事でしたが、はんだ付け後に見せられる顕微鏡を見て、自分のはんだ付けの下手さに驚きました。講師の田中和吉先生のはんだ付けと私のはんだ付け結果はあまりに違いすぎました。顕微鏡でのぞかなければ大した違いはわからないのですが、顕微鏡で見ると、はんだの量、金属面の輝き、いずれも私のはんだ付けはボロボロでした。はんだこてをあてる位置、持続時間の判断、はんだを送る量等、いろいろなコツを教えていただきましたが、講習の間に大して上達はありませんでした。講習最後の日に、講師の田中和吉先生と2人用ズームステレオ顕微鏡をのぞきながら、「わたしのはんだ付けは人工衛星で使えますでしょうか」と聞くと、「人工衛星どころか家電製品の品管すら通らないかもしれませんね。もっと技量をみがいてください。」と言われました。もう一つ、はんだ付け上達の秘訣を質問しましたところ、「回数をこなしてください。それも結果を振り返って考えながら。もっと少ない量で、もっときれいにはんだ付けするためにはどうすれば良いか。そうすればうまくなれますよ」と笑っておっしゃいました。でもいまだに上達してません。
コロナ前の時期、私のIC-7300の時計が電源OFFの度にリセットされてしまうという症状が出てきました。ネットを検索すると時計用の電池がヘタっているとこの症状が出るとのこと。IC-7300の蓋を開けて電池の位置を確認し、これならば交換できるだろうと思い、アマゾンから電池を取り寄せはんだ付けをして交換することにしました。しかしはんだがなかなか溶けないので力を入れて電池を抜きました。電池はぬけましたが、基板上の細いパターンも一緒にとれてしまい、新しい電池を接続することができなくなってしまいました。
無線機器を修理したり、組み立てるときにはたいがいはんだ付けが必要になってきます。我々アマチュア無線家にとっては必須の技能といっても間違いありません。私も週に一度ははんだこてを握っているように思いますが、いまだにはんだ付けがうまいとは言えません。しかし、はんだ付けという作業では、はんだとはんだこてという道具のほかに少しの付加的なものがあれば劇的にはんだ付けの品質がアップすることがあります。例えば、はんだ前の清掃をしっかり行うこと。また、はんだ付けする部位にフラックスを塗ってからはんだ付けをすること。このような作業を惜しまなければ結構きれいにできるようになってきます。高級なはんだこてやはんだ吸取機等の道具はあればうれしいですが、それだけではきれいにはんだ付けができるわけでもありません(でもないか?)。
わたしは、高価な道具は持っていませんが、こまごまとしたはんだ付けの道具やはんだ付けに使えるだろうと思う小物道具を揃えてはんだ付けが上手くできるようになりたいと思っています(単に道具集めに終始しているような現状ですが。そうです、はんだ付けのやり方も磨かなければいけないのですが・・・)。
そこで、はんだ付けの前処理、はんだ付け本番、後処理などに使用する道具を見ていきたいとおもいます(かっこいいこと書いてますが、技術がないので道具を紹介するしかないんです)。
私のはんだ付け作業時にならべている道具の写真を撮ってみました(写真1)。普段はこれらの道具を箱に入れて積んでいます。作業の時に必要なものをこの写真のように並べてはんだ付けしています。
写真1 はんだ付け道具類
はんだ付けの道具として基本かなと思う道具類はつぎのようなものです。
(1) はんだこて(あれば温度調節機能付きのもの)
(2) こて台
(3) ソルダーウィック(はんだ吸取線)
(4) フラックス
(5) ピンセット、ラジオペンチ、ニッパー
また、「あれば便利な道具・きれいに仕上げるための道具・目の保護具」としてはつぎのようなものがあります。
(6) はんだ吸取器
(7) はんだ作業スタンド
(8) 洗浄道具: ポット(ハンドラップ)、刷毛、キムワイプ、綿棒など
(9) ワイヤー切断・被覆除去の道具: ワイヤーストリッパー、ワイヤー格納箱
(10) 目の保護具: 安全眼鏡
これらを順番に見ていきます。
(1) はんだこて
(a) 現用はんだこて(温度調整機能なし。上から23W,40W,55W)
(b) 温度調整機能付きはんだこて(85W)
写真2 はんだこて
はんだ付けには、はんだこてを使用します。私が普段使用している温度制御機能の無いはんだこて(写真2 上段(a))と温度制御機能付きのはんだこて(写真2 下段(b))を示します。
はんだこては、はんだ付け対象により、ワット数の異なるものと、はんだチップの形状の異なるものを、複数準備したほうが上手にはんだ付けできます。私の場合、はんだ付けの対象に合わせて、23W、40W、55Wの3種類を使い分けています。温度は、はんだ付け対象にも依りますが、350℃くらいがいいといわれています。こて先形状の選択はありません。
安価なはんだこてには温度制御機構が入っていませんのではんだ付けする前に水で湿らせたスポンジの上をこて先を這わせて、こて先のごみ除去と温度調整を行います。写真2 (a)のはんだこてには温度制御機構が入っていません。私は温度計をもっていませんので感覚でこれぐらいに温度がさがったかなと思いながらはんだ先をスポンジにつけています。
写真2 (b)の新規購入したはんだこては温度制御機構がついています。このはんだこては、こて先温度が350°固定のものです。温度制御付きのはんだこてには、何段階かで温度設定ができるものや、連続的に温度設定できるものが販売されています。(温度設定機能がついているものは高額になります。私の購入したはんだこては3000円台後半でした。温度を連続可変できるものは1万円を超えるようです。)
・温度制御
温度制御付きのはんだこての温度を実際に測ってみたいと思いましたが、マルチメータ付属の熱電対温度計ではうまく測れませんでした。はんだ小手についているヒータースイッチON/OFFランプを見ていると、はんだこての電源投入から40秒程度で、ヒータースイッチがOFFになり、それから約10秒後にON、その約2秒後にOFFというように、ヒーターON/OFFをおよそ2秒/10秒で繰り返して温度制御をおこなっているようです。細かく温度制御を実施していると想像できます。
・はんだこての消費電力
温度調節機能がないはんだこての場合、消費電力が大きいほどこて先温度が高くなる傾向があります。このため、プリント基板のパターンのように、熱に弱く、温度が高くなるとはがれてしまうような対象物には、消費電力の低いはんだこてで作業をする必要があります。逆に、コネクタのように熱が拡散してしまってはんだこての温度が一気に下がってしまうような対象物には、消費電力の大きなはんだこてで作業する必要があります。このようにはんだこては、はんだ付け対象物の大きさにあわせて消費電力を選ぶ必要があります。温度調整機能のあるはんだこての場合、大きな消費電力のものでもこて先温度が自動的に設定温度付近に落ち着いているため、温度のことを気にする必要がありません。対象物がプリント基板のパターンであっても、コネクタであっても設定温度に調整しようとします。消費電力が高い場合は、急激な温度変化があっても指定温度まで回復するまでの時間が消費電力が高ければ短い時間で回復できるわけです。
・はんだこてのこて先形状
こて先形状は多種類あります。用途により形状を選んでください(写真2 (a)参照してください。)
わたしの持っている温度調節機能付きはんだこての消費電力は85Wでした。消費電力が高いので温度追従能力が高い部類になります。こて先は基板の細いパターンも扱える細さですがアンテナコネクタでもはんだ付けできるほどのパワーをもっています(私が扱うはんだ付けでいつも苦労するのがアンテナコネクタのはんだ付けです)。実際にこの細いこて先のはんだこてではんだ付けをしてみた結果が写真3のコネクタです。
写真3 コネクタのはんだ付け
(2) こて台
はんだこてを置く台です。こて台が倒れたりするとやけどや思わぬ事故の原因になります。わたしのこて台の下には、重みのある不良になったハードディスクをおいてあり、台を固定して安定を確保しています(写真4左)。写真4(右)のこて台ははんだ吸取器に付属していたものです。こて台ははんだこてと別売りのことがほとんどです。
スポンジははんだこてのこて先をクリーニングするためのクリーナーです。水を含ませて使用します。
写真4 はんだこてのこて台
(3) ソルダーウィック
はんだ吸取り線として発売されています。はんだの除去作業に便利です。吸取り線をはんだを取り除きたい部分に当て、その上にはんだこてを当てて吸取り線にはんだが吸い込まれるのを確認し、吸取り線とはんだこてをほど同時に離します。はんだ吸取り線のはんだを吸った部分を切断します。幅が1.5mmや2.5mmなどのサイズがありますので、吸取る部分のパターン幅や形状に合わせてサイズを選んでください。
写真5 ソルダーウィック(幅1.5mmと2.5mmのもの)
(4) フラックス
フラックスの役割は、はんだ付けの促進です。金属表面に異物や酸化膜があるときにフラックスを塗ってからはんだ付けします。写真6のように液体状のものが販売されています。写真6のものは刷毛付きですので、その刷毛を使用してはんだ付けする基板や抵抗リードなどの部品に塗布します。普通ははんだにフラックスが入っているので、その場合はそれで充分ですが、パターンや部品面にはんだがうまく乗らない場合はフラックスを塗ることではんだ付けが容易にできるようになります。
写真6 フラックス
(5) ピンセット、ラジオペンチ、ニッパー
配線を持ったり(ピンセット)、抵抗やコンデンサなどの部品端子を折り曲げたり(ラジオペンチ)、ケーブルの被覆を剥いたり切断する(ニッパー)等、定番の道具です。複数形状のピンセットを準備しておくと作業効率アップが見込めます。また、手を離すと先端が閉じる逆動作ピンセットが1本でもあると重宝します(写真7)。
写真7 ピンセット例(上から4番目から下が逆動作ピンセット)
(6)はんだ吸取器
はんだこてを使ってはんだを溶かした状態で、素早くこのポンプを作動させると、溶けたはんだを吸取ることができます。配線や部品の取り外しに使用します。写真8(b)のようにはんだ機能と電動のポンプを両方備えた電動式のものもあります(高価です)。
(a) はんだ吸取器(手動式)
(b) はんだ吸取器(はんだこて機能を有するタイプ)
写真8 はんだ吸取器
(7) はんだ作業スタンド
正式名称がわかりません。写真9のような、こて先クリーナー、ルーペ、フレキシブルアーム付きの基板ホルダーを備えた作業台です。基板などを固定することで安定した状態ではんだ付け作業ができます。
写真9 はんだ作業スタンド
(8) 洗浄道具: ポット(ハンドラップ)、刷毛(数種類)、キムワイプ、綿棒など
はんだ付け前後の洗浄、付着物除去のためにあれば便利な道具や小物類です。
・ポット(ハンドラップ)
ポット(ハンドラップ)は頭部の皿部分を軽く押すと内部の液体が一定量この皿部分に出てきます。基板洗浄には、洗浄液として無水エタノールをポット(ハンドラップ)に入れ、刷毛で頭部皿を押すことで刷毛に無水エタノールが浸透し、その刷毛で基板を洗浄します。はんだ付け作業だけでなく、さまざまな洗浄に便利な道具です。
写真10 ポット(ハンドラップ)・洗浄液(無水エタノール)・刷毛・綿棒
・刷毛
ハンドラップを使って無水エタノール洗浄をするときには固めの刷毛を使用します。私の場合は写真10のような3種類の刷毛を利用してフラックス除去や洗浄を行っています。基板にこびりついて刷毛で取れないゴミ類は綿棒を使用し、さらにこれでも取れない場合はキムワイプを使ってゴシゴシとこすって落としています。
・キムワイプ
キムワイプは商品名です。ティッシュペーパーと比較すると割高にはなりますが、ティッシュペーパーよりも丈夫で工業系ではいろいろな用途に使われています。
(9) ワイヤー切断・被覆除去の道具: ワイヤーストリッパー、ワイヤー格納箱
・ワイヤーストリッパー
被覆除去の強い助っ人がワイヤーストリッパーです。百均でも売っていますが、百均製のものはすぐに除去できなくなってしまいます(私見です)。工具ショップにはかなり高額なものもありますが、私は写真11のような比較的安価なワイヤーストリッパーを使っています。
・ワイヤー格納箱
配線に使用する導線にはさまざまな色が使用されています。私の場合、3色位の導線しか持っていません。しかし3色でも机の上がごちゃごちゃになってきます。このため整理のために導線を棒に通して、それを箱に入れています。作業効率アップになるのではなく、机上整理のために使っています。
写真11 ワイヤーストリッパー・ワイヤー格納箱
(10) 目の保護具: 安全眼鏡
私がはんだ付けで行っている安全対策としては安全眼鏡の着用です(写真12)。皆さんも怪我をしないよう安全に気をつけて作業しましょう。せめて安全眼鏡をかけましょう。これははんだ付け作業時だけでなく他の機械を使う時や金属加工の時は常識ですので。
写真12 安全眼鏡
昔はんだ付けをしていて右手の甲に溶けたはんだの塊が落ちてきました。熱いという思い出とともに、その傷は10年近く消えずに残ってました。皆さん安全な作業を心がけてください。正しい道具を正しく使って、楽しい無線ライフをおくりましょう。
以上、「はんだ付け~私の道具箱」でした。
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