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ものづくりやろう!

第三十三回 SDRをつくってみました(2)

JH3RGD 葭谷安正

2024年2月1日掲載

はじめに

令和6年1月号の月刊FB Newsでは「SDRをつくってみました」と、掛け声だけは一人前でSDRをブレッドボード上に組んでみたのですが、結果はうまく動いていませんでした。記事の最後に「今回は(今回も)うまく動いておりません。次回にはちゃんと聞こえるSDRに仕上げて、回路図等詳細情報をお報せできればと思います。」と記載しましたが、何とか動くようになりました。まだ調子が悪いところもありますが、不具合原因がわかりましたので一安心というところです。

SDR(Software Defined Radioの略)は、ソフトウェアで定義された無線機と訳されています。ソフトウェアだけで無線機は構成できませんから必ずハードウェアが存在します。このハードウェア部分をSDRフロントエンドと呼んだりします。ですから、この記事のタイトルも「SDRフロントエンドをつくってみました」という方がよいようです。

昔の無線機と異なり、このソフトウェアの処理比率が高いのがSDRの特徴といえるのではないでしょうか。またソフトウェアで処理するので同じハードウェアでもソフトウェアを変えるだけで機能をアップしたり、改変できるというのがSDRの売りですね。

作成したSDRはハードウェアの部分(SDRフロントエンド)です。FPGAなどの難しいハードウェアで組んでいません。数個のデジタルICとトランジスタ、それと抵抗、コンデンサ、コイルなどの部品で作成したものです。あまりよい比較ではないかもしれませんが、アナログラジオで例えると、ダイレクトコンバージョン方式のような局部発振器と周波数変換器といった基本的な構造をもった回路で、その一部をデジタルICで実装したものです。

変換の過程は、高周波のラジオ信号をアンテナからSDRフロントエンドに導き、局部発振回路の信号とミキサーで周波数変換し、それを音声周波数レベルまで落とします。アナログ回路ではこの後で検波回路などを使って音声を取り出すのですが、検波する前の信号をパソコンの音声入力端子に送り、あとはHDSDRなどのSDRソフトでAM,FM,CWなどの復調や音声増幅などをデジタル信号処理でさせてしまうという流れです。

製作したSDRの構成と回路

・製作したSDRの構成
前号で下図のような構成図(図1)を示しました。この一か月の間で高周波増幅部がなくなりました。高周波増幅部がなくなった理由は、今回SDRが何とか動き出してからも回路をいろいろ触っているうちに高周波増幅器を壊してしまいました。新しい高周波増幅器を再度購入しようかと思案したのですが、高周波増幅器を撤去してパソコン内のSDRソフト「HDSDR」の音声ゲインを調整するだけで結構近隣のAM放送や7MHzのCW信号も(ハイパワー局だからだと思いますが)聞こえる状況でした。ですので、故障した高周波増幅回路を撤去した状態のままで動かすことにしました。多分、私の使用環境ではHF帯のアンテナをSDRにしっかり接続したので高周波増幅部が無くても聞こえたのだと思います(もちろん、感度アップのためには高周波増幅部を入れた方がよいでしょう)。


(a) 改変前


(b) 改変後
図1 SDRの構成

・回路
製作したSDRの回路図を図2に示します。文献(1)の回路を参考にさせていただきました。もう5年以上前ですが、「Soft66 lite」というSDRキットを購入したことがあります。それも図2のような回路構成だったように思います(残念ながらこの購入したキットははんだ付けの際にどこかをショートさせてしまっていたようで、動かすことが出来ずに処分してしまいました。ネットで「Soft66 lite」を検索にかけると回路図等の情報を見つけることができます)。


図2 製作したSDRフロントエンドの回路図

・回路の動作概要
発振モジュールは、ラジオの局部発振器の役割をしています。ただ、SDRではπ/2(二分のパイ)位相のずれた発振信号を作り出すために、局部発振器の発振周波数の4倍の発振周波数の信号が必要になります。この発振器の出力をデジタル回路に供給できるようロジックレベルを変換するためQ1の回路を入れてみました。

使用した発振器の出力波形がAM帯では矩形波が出ているのですが、HF帯(7MHzを受信するためにはその4倍の28MHzを発振させる必要があります)では矩形波が歪んでしまいデジタル回路に供給しても正確なクロック信号として働いていなかったようです(写真2)。このため、Q1でドライブしてみたのですが、U2A,U2Bの出力が見えない時があります。苦肉の策でバイアス電圧をR5で変えて、U2A,U2Bの出力が見えるようにしています(ひどい回路ですね。改良しようと思っています)。


写真3 発振モジュールの出力波形(周波数が低い(左)場合と高い(右)場合)

Q1の出力につながっているU2AとU2Bを使って位相差のある信号を作成しています。

4066と書かれたICはアナログスイッチです。ここには「RF入力」からの高周波信号と位相差のある局部発振周波数信号が入って来て、4066が混合器(ミキサー)として動作し、周波数変換しています。U1AとU1Bの出力がそれぞれU3A、U3Bで構成された低域フィルタを通じてステレオジャックに送られます。

ステレオジャックの接続先はパソコンのサウンドボードにつながっています。サウンドボードから先はHDSDRなどの信号処理ソフトによって検波や様々な処理を実施します。

概略、以上のような働きをしています。

図2をブレッドボード上に組んだものが写真4の回路です(前回とほとんどかわっていません)。発振回路は周波数設定のためにArduinoとつないでいます(写真下部)。今は周波数を変えるのにいちいちコンパイルしなおしていますが、ロータリーエンコーダを使用した可変タイプに変更する計画です。


写真4 SDRフロントエンド

操作概要

配線は「RF入力」にアンテナを接続し、「ステレオジャック」をパソコンに接続します。HDSDRを立ち上げ[Options]-[Select Input]-[Sound Card]と選ぶことで、ステレオジャックの音声帯域信号がパソコン上のHDSDRに取り込まれます。

なお、サウンドボードの性能によって取り込まれる信号の帯域幅が20kHzや40kHz程度と異なってきますのでご注意ください。

・受信操作
例えば、大阪のNHKラジオ第1放送(周波数666kHz)を受信する場合を考えてみます。局部発振器で例えば660kHzを発振させます。ミキサーで混合し、局発と受信信号の和と差の周波数の信号が出てきますが、このうちの差の周波数信号がステレオジャックからパソコンに送られます(666-660kHzに変換されたI信号、Q信号)。HDSDR上には6kHz(=666-660)の位置にNHKラジオ第1放送のスペクトルが現れるので、ここにカーソルを合わせると放送が聞こえるという訳です(写真5)。


写真5 NHK第1放送(666kHz)をHDSDRで受信

受信音声

このSDRフロントエンドで受信した放送波やアマチュア無線の信号をHDSDRで処理した音声例を載せておきます。
・7MHz CW和文モールス通信音
・7MHz SSB通信音
・7MHz FT8通信音
・828kHz NHKラジオ第2放送音

個人的な感想ですが、想定していた以上に音質が良いと思いました。パソコンで信号処理されている関係なんでしょうか?

参考文献

(1) 中本伸一: 「特集 らくらく! SDR無線機入門」, RFワールドNo.22, p43~53, CQ出版株式会社

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