Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

ものづくりやろう!

第三十一回 可変減衰器の製作

JH3RGD 葭谷安正

2023年12月1日掲載

はじめに

今年の9月号の月刊FB Newsに「第二十八回 レストアのような事に挑戦(1)」と題して記事を書いてから3か月、未だに9R-59Dは満足のいく状態にはなっていません。

故障個所の発見には完全にばらした方が早いのは間違いありませんが、以前にも記載しましたように私の技能が追いつきません。まぁ、のんびりやっていこうと思って先日もまたマニュアルに目を通していました。中間周波増幅段の調整を、私の耳だけでやっていたので、もう少しちゃんとやっておこうともう一度「テストオシレーターによる調整法」を確認しました。テストオシレーターの代わりにNanoVNAを固定発振周波数で発振させて調整していましたが、「NanoVNAの出力はどれくらいだったのかな」、「NanoVNAの出力レベルは可変できないのかな」とNanoVNAの事が気になりだしました。

「出力レベルを調整できると、オシレーターとして用途が広がるな」と、また、「少し前に抵抗を山ほど買ったから、それがあれば簡単につくれる」と思い、9R-59Dを横に置いて(遠ざけて)、可変減衰器の製作へと逃避行に移りました。

可変減衰器

減衰器の事をアッテネーターといいますが、よくお世話になるのが電力計の計測範囲を拡大するために使用する減衰器かもしれません。信号を減衰させるときや、インピーダンスを整合させるときに使われます。電気回路的には図1のようなπ型回路(T型回路もあります)を構成して、電源の出力電圧を減少させる機能を持つ回路です。


図1 π型減衰器

Voには負荷抵抗を接続します。

抵抗RaとRbの値は、減衰率がVo/Viとなるように決定しますが、さらにVoにつないだ負荷抵抗の値をRoとするときに、Vi側から見た合成抵抗の値がRoと同じになるように決めます。

例えば、「減衰率が10分の1の減衰器を作るとき: 負荷抵抗としてダミーロードをつなぐと仮定するとその抵抗値は50Ωです。負荷に50Ωの抵抗をつなぎ、減衰率を10分の1にする。さらにVi側から見た合成抵抗値が50ΩになるようにRa,Rbを決めるとその値はRa=247.5Ω、Rb=61.11Ωになる」、ということです。


図2 Ra,Rbの値の計算方法

抵抗値がRa,Rbの抵抗値が中途半端な値ですが、これは上の条件から連立方程式を解くことで求めたものです。負荷抵抗が50Ωの場合、減衰量(dB表示)とRa,Rbの実例が山村英穂氏著の改定新版「定本トロイダル・コア活用百科」のP.411に記載されていますので、その値を表3に示します。


表3 π型減衰器の定数(50Ω系)
山村英穂著: 改定新版「定本トロイダル・コア活用百科」、P.411参照

表3には5dBから9dBまでの減衰回路のRa,Rbの抵抗値が記載していませんが、山村英穂氏著の改定新版「定本トロイダル・コア活用百科」には1から10までの値も記載されています。

これは今回の回路製作にあたっては5dBから9dBの減衰量は1dBから4dBの組み合わせで実現したので記載していません。例えば、5[dB]の減衰量を実現するためには1[dB]と4[dB]を縦続接続して1+4=5[dB]をつくります。また9[dB]の減衰量を得るためには2[dB],3[dB],4[dB]を縦続接続して合成することで2+3+4=9[dB]を実現しました。

減衰器の回路

可変減衰器の回路図を図4に示します。π型減衰器を縦続接続した回路です。数値は抵抗値を示しています(単位[Ω])。上に説明しましたように各減衰回路のスイッチを「On(Off)」して「直結(減衰器接続)」することで減衰器として働きます。複数のスイッチを選択すると、減衰量はデシベル数値の合計の減衰になります。この回路で注意することは、減衰量は出力として50Ωの負荷を接続したときに表示された数値の減衰量になるということです。600Ωの負荷抵抗をつないだ時には回路に書かれている数値と異なる減衰量になってしまいます。左上のコネクタを入力、右下のコネクタを出力としていますが、どちらを入力としても同じです。

使い方は、入力コネクタにNanoVNAなどの信号源をつなぎ、出力コネクタを無線機など信号を受け取る機器に接続します。入力信号レベルやパワーを可変できるので適切な信号を機器に送り込めるようになります。


図4 π型減衰器回路図

減衰器の抵抗値について

回路図の抵抗値は小数点2桁まで記載されていますが、現実にはこのような抵抗値の抵抗を入手することはできません。そこで2個の抵抗値を複数並列接続して図4に記載されている抵抗値に近い抵抗を作り出すことにしました。これを手で計算するのは大変です。

「並列接続したら合成抵抗が2.88Ωになるような抵抗はなんだ?」と聞かれてもたくさんの組合わせがあります。その時の誤差はどれくらいになるのか等、気の遠くなりそうな計算を手持ちの抵抗器でしなければいけません。そこでGoogle先生に頼ることにしました。ネットで検索してみると、このような合成抵抗を作る方法を記載しておられるホームページがありました(図5)。

ページトップに「京都 しなぷすのハード製作記」と記載され、抵抗値合成計算サービスというツールを使って希望の抵抗値に近い合成抵抗の組み合わせを複数個、それぞれの誤差も含めて提示してくれます。今回の製作ではたっぷり活用させていただきました。E12系列やE24系列の抵抗器をフルでお持ちならばHPで系列番号と求めたい合成抵抗の抵抗値を入力すると並列、直列両方の候補を教えてくれます。

今回は並列合成を見ました。私は以前中華製E24系列モドキの抵抗セットを買いましたが、E24系列ならば入っている抵抗が数種類ありませんでした。このHPでは複数の組み合わせを計算してくれるので入っていない抵抗の組み合わせが提示されましたが、複数の組み合わせを教えてくれるので別の組み合わせで対応できました。非常に助かりました。HPの作成者に感謝、感謝です。サイトのURLはつぎの場所です。
https://synapse.kyoto/tool/SeriPara/page001.html


図5 「抵抗値合成計算サービス」のHP

製作

いつもはブレッドボードで回路を組むことが多いのですが、今回はシャーシに組み込みました。

・シャーシ加工
写真6のような新品のシャーシを準備しました。これにスイッチ8個とコネクタ2個を載せます。シャーシとスイッチ、コネクタは日本橋に行って買ってきました。久しぶりの日本橋でした。シャーシに穴をあけて、スイッチの位置を確認しました。この段階でスイッチ間隔が短いのではと思いましたが穴をあけてしまいました(写真7)のでここにセットせざるを得なくなりました(写真8)。スイッチの配置を2段にするなり、もう少し考えてから穴をあけるべきでした。


写真6 加工前のシャーシ


写真7 シャーシ加工(穴あけ済)


写真8 スイッチ類を装着

スイッチ類を装着して後に抵抗をはんだ付けしました。抵抗はπ型減衰器の各抵抗値が小数点までありますので並列接続で合成したものを使用しました。この関係で狭いスイッチ間隔にぎりぎり入る位まで詰めて配置していきました。隣の抵抗との接触が無いよう注意深くはんだ付けです。減衰器を1段はんだ付けしてはスイッチを入れ、50Ωの負荷抵抗を接続して合成抵抗値を確認しながら少しずつ作業をすすめました。そのおかげで途中、抵抗の値を間違えて誤配線した箇所を2回見つけ、撤去、再はんだして間違いなくはんだ付けを終了しました。写真9のように隣の抵抗とぶつかりそうな箇所がいくつかあります。


写真9 抵抗類のはんだ付け

特性測定

はんだ付けを終え、回路に間違いがないか再度確認しました。そのあと、減衰量をチェックしました。

スイッチをOnにする(上にあげる)と指定の減衰量が設定されます。スイッチは写真10で説明すると、左から順番に、0.5dB,1dB,2dB,3dB,4dB,10dB,20dB,40dBの減衰を制御します。すでに記載しましたが、例えば減衰量を5dBにしたい場合は1dBと4dBのスイッチをOnにします。

減衰量のチェックにはNanoVNAを使用しました。減衰器の入力端子とNanoVNAのch0端子、減衰器の出力端子とNanoVNAのch1端子をケーブルで接続しました。出力端子には50Ωの負荷抵抗をつなぐ必要があるのですが、NanoVNAの入力インピーダンスは50Ωですから、出力端子には50Ωの負荷をつないだ状態と同じ状態になっています。

この回路にch0経由で50kHzから50MHzのスイープ信号を入力しました。最初はすべての減衰回路選択スイッチをOffにして減衰がない状態の計測をおこないました。結果は写真10のような結果になりました。写真11は写真10の下部に移っているNanoVNA画面を拡大したものです。

この写真を見ると特性が右下がりになっている、すなわち周波数が増加すると減衰率が大きくなっていることがわかります。写真11で、画面左端が50kHzのポイントで、右端が50MHzのポイントです。スケールは1[dB/div]に設定して測定しましたので、50MHzの信号レベルは50kHzの信号レベルより0.5dB程度減衰しています。


写真10 減衰器の周波数特性(全スイッチOffですので減衰量0dB)


写真11 写真10のNanoVNA画面拡大写真(周波数50MHzで50kHz時より0.5dB減衰)

また、4dB減衰させたときの周波数特性を写真12に示しました。写真12のNanoVNA画面のスケールは写真11と異なり2dB/divに設定してあります。このため基準位置から2スケール分下の位置からはじまっているので減衰量は4dBあります。


写真12 減衰器の周波数特性(減衰量4dB)

すべてのスイッチについて50kHz、27MHz、50MHzでの減衰量を表にまとめました(表13)。


表13 減衰器周波数特性

表13中の「減衰量(補正値)」は、減衰量0dB(すべてのスイッチOff)での値を差し引いたものです。いずれの減衰回路を選択しても50kHzでは誤差が小さいといえます。しかし、周波数が高くなるに従い減衰量が多くなりますが、特に50MHzの信号を入れた場合には、40dBの減衰器で減衰量が逆に50kHzの時よりも(10dB以上も)減少しています。寄生容量等が原因と考えられます。原因究明も大事ですが、この減衰器の使用限界をこの表から認識しておく必要があるとおもいます。私の作成した減衰器は、直流ならば1段あたり0.01dB程度の誤差を持つ。また、27MHzで使用するときは1段あたり0.1dB程度の誤差があり、段数が増えれば0.1dB×段数分の誤差が発生し、40dBの減衰回路をOnにするとそれ以上(6dB程度)の誤差が発生していると理解して使用する必要があります。

表13の最終行近辺に「1+2+3+4」や「10+20+40」と記載がある欄は、複数段の減衰器を作動させ縦続接続で減衰させた場合の減衰量を示しています。「10+20+40」は10dB,20dB,40dBの減衰器が縦続接続されて動作していますので、表13の10dB,20dB,40dBの50MHzでの減衰器の減衰量を足した値(9.95+18.93+29.97=58.85dB)が入出力間で減衰されるはずです。しかし、3つの減衰器を同時に使用したときのトータル減衰量を計測した結果は37.34dBとなっています。同軸ケーブルではない素材でつないでいるのでミスマッチングなどが発生してこのような結果が出ているのでしょうか。時間があれば原因究明してみたいものです。

最後に、スイッチの下に減衰量を示すラベルを貼っておきました。表面保護用の青色フィルムは、外さずにつけたままで使うことにします。


写真14 可変減衰器

可変減衰器ができあがりましたので9R-59Dの中間周波数増幅回路の調整もこの可変減衰器を使ってやってみます。うまくいくでしょうか? 9R-59Dの故障を発見して、レストアを完了させてしまいたいとおもう今日この頃です。

ものづくりやろう! バックナンバー

2023年12月号トップへ戻る

サイトのご利用について

©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.