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From Steve's Workbench

汎用性の高い垂直デルタループアンテナ

JS6TMW Steve Fabricant (翻訳 JR9TUG 松平宗亮)

2023年11月15日掲載

今年7月の台風6号(カーヌン)は目の覚める思いでした。風の強さを甘く見ていた私は、屋根の上のアンテナのうち一部しか降ろしませんでした。50MHzの八木だけは5日間の台風の中、無事壊れずに済みましたが、破損したトライバンド八木は修理して売り、18/24MHzのロータリーダイポールと7MHzの垂直グランドプレーン(VGP)も修理しました。その間、傾斜ダイポールを仮設したところ、そのアンテナでもDX局と交信できることが解りました。今後はロープと滑車で簡単に下げたり上げたりできるオールバンドのアンテナが1本あれば、もうタワーに登らなくて済むことが分かりました。他のアンテナは、予備として持っておくつもりです。

共振するアンテナだけが効率的な放射体になり得ると思われがちですが、少なくとも3/8波長以上の導体であれば、ほとんどどのようなものでも放射します。インピーダンスのマッチングは別問題で、最近のトランシーバーは50Ωのアンテナを使うように設計されています。またミスマッチのフィードラインでは損失が大きくなる可能性があるため重要です。同軸ケーブルで給電する単純な半波長ダイポールアンテナや逆V型アンテナではうまく機能しますが、他のバンドではインピーダンスが高いVSWRとなるため、1つまたは2つのバンドでしか機能しません。この問題は、共振トラップ、平行エレメント、オフセンター給電、マッチングラインなどのよく知られた方法で克服することができ、同様の方法は短い垂直アンテナにも使用されています。給電線の損失を減らすために、リモートアンテナマッチングユニット(チューナー)を使用する方法もあります。もうひとつ、時に見落とされがちな方法は、非常に低損失なオープンワイヤーの平行フィーダー線を使用することです。TLDetails(www.ac6la.com)のようなオンライン計算機を使えば、たとえ最高の同軸ケーブルと比較しても、平行フィーダー線の優位性を簡単に示すことができます。アンテナチューナーは通常、トランシーバーにマッチするように高いラインインピーダンスを変換するために使用されています。

最も古くからあるマルチバンドアンテナのひとつに、平行フィーダー線で給電するシンプルなダイポール(ダブレット、ツエップ)があります(図1)。水平線は共振する長さである必要はないので、VSWRは高くてもかまいませんが、損失が少ないので問題にはなりません。アマチュアが使用する平行フィーダー線には、VHF用300Ω、図1に示した幅広の450Ωウィンドウライン、最も損失の少ない幅10cm前後のオープンワイヤーの600Ωラダーラインなどがあります。ウィンドウラインは最もよく使われていますが、同軸ケーブルに比べると設置が難しく、干渉やその他の問題を引き起こすという評判もあるため、同軸ケーブルよりも人気がありません。


図1.マルチバンドダブレットアンテナ
(https://ftp.unpad.ac.id/orari/library/library-sw-hw/amateur-radio/ant/docs)

我が家は屋根が狭いので、すべてのアンテナを7MHz以上のダブレット1本に置き換える案を採用することはできませんでした。しかし、すでに図2のような7MHz用の全波長デルタループ(VDL)があり、43m長のワイヤーをタワーマストから空中にぶら下げています。長い同軸ケーブルによるフィードラインロスが大きい状態で、このアンテナを他バンドでも使用していましたが、平行フィーダー線を使えば、ダブレットのように全帯域で使えるのではないかと考え、インピーダンスと放射パターンのモデル化にはMMANA-GAL(www.gal-ana.de)、伝送線路の計算にはTLDetailsという2つのPCアプリケーションを使って確認をしました。その結果、今回、同軸ケーブルを16mの400Ωウィンドウラインに置き換えてみたところ、思ったより簡単シャックに引き込むことができました。


図2. 7MHz用垂直デルタ・ループ(VDL)の基本設計
(http://www.on7yk.eu/h-deltaloop.html)

VDLは、全波長ループのバリエーションの一つで、その性能の良さと利便性で知られています。VDLは背の高い支柱が1本あればよく、水平ダイポールが支柱2本を必要とするところ、VDLは1本の支柱の長さを変えるだけで簡単に調整作業ができます。また、ダイポールが奇数倍だけしか共振しないのに対して、VDLはすべての倍数の周波数で共振します。

ダイポールを共振状態に調整するのは面倒な作業です。非同調型のアンテナの場合は、調整する必要がないのは明らかですが、その代わりに給電線の長さが重要になります。新しいアンテナを試してみたもののVSWRが低くならなかった場合、おそらく説明書には給電線の長さを変えるようにと書かれているはずです。私は平行線を扱ううちにこれが科学に基づくものであり、単なるアンテナ設計の不備の言い訳ではないことを理解し始めました。

伝送線路のどの部分もその長さと物理的特性によって、高インピーダンスから低インピーダンスへ、もしくは容量性リアクタンスから誘導性リアクタンスへ、またはその逆への様に、複素インピーダンスを反転させる位相シフト・トランスとして機能します。ある長さの場合、位相シフトは周波数によって変化するため、HF帯全域で最適な給電線の長さを見つけるのは試行錯誤のプロセスとなります。

全波長ループの給電点インピーダンスは、基本周波数とその高調波付近では100~200Ω程度ですが、WARCバンドなど7MHzの高調波とは関連のない周波数帯では、インピーダンスがはるかに高く、大きな無効成分を持っています。その結果、アンテナチューナーにとってマッチングすることが難しくなります。ほとんどのアンテナ・マッチング・ユニット(チューナー)は、可変コンデンサとインダクタをT、L、またはπネットワークで使用しています。低い周波数、低インピーダンス、または出力キャパシタンスが低い場合、かなりの電力がインダクタで失われる可能性があります。TLDetailsに異なる給電線の長さを入力すると、長さ13mから18mの間の400Ωのウィンドウラインは、シャック内で、VDL給電点インピーダンスを全バンドで100Ωから1500Ωの間に変換することがわかりました。16mのウィンドウラインでも低いVSWRを得ることができましたが、バンドによってはチューニングが非常に重要だったり、出力コンデンサを最小にしなければならなかったりしました。給電線を短くすると、10MHzでのVSWRが高くなりインピーダンスが非常にリアクティブになったからです。そこでフィードラインを延長したところ、17.5mの給電線ですべてのバンドで元の近い範囲に戻り、チューナーの設定を中心に近づけても簡単に低いVSWRを得ることができるようになりました。

私のFC-901のような多くの古い外部チューナーには、同軸ケーブル用のアンバランス出力しかないため、平行フィーダー線を使用する場合は、バランまたはコモンモードチョークが必要です。高インピーダンスをチューナーがマッチングしやすい低域にシフトさせるために、4:1のバランを使うこともあります。今回、いくつかのバランを試しましたが、他のアンテナで使っていた自作の1:1バランチョークを使うのがベストでした。(http:/www.ifwtech.co.uk/g3sek/in-prac/inpr1005_ext_v2.pdf)


図3. 私のVDLは、現在空きになっているタワーマストで支え、アンテナの角から約1.5m上で給電しています。(背後の送電線は見た目ほど近くありません!)

アンテナの専門家によると、VDLの相対利得は同じ高さのダブレットよりも小さいというので、基本周波数でモデル化された放射パターンを比較しても驚きませんでした(図4)。水平面では、ダイポールのおなじみのパターンは、前後方向ではVDLより強いですが、横の方向(ヌル点)では弱くなります。ダイポールの仰角ローブは、明らかに近距離用のアンテナとして優れています。第2高調波(図5)では、ダイポールのヌル点がより深くなり、VDLの仰角ローブが強くなり、全体としてVDLが優位となりました。


図4. 7MHzのVDL(赤)と7MHzのダイポール(黒)の、7MHzにおける合成指向特性(水平面+垂直面)


図5. 7MHzのVDL(赤)と7MHzのダイポール(黒)の、14MHzにおける合成指向特性(水平面+垂直面)

VDLのもう一つの特徴は、ダイポールとは異なり、VDLの給電点の位置はインピーダンスにほとんど影響しませんが、放射パターンを変化させることです。21MHzでは給電点が低いほうが最も良いパターンを示しますが(図6)、7、10、14MHzでは給電点が高い方が良く、18、24、28MHzではほとんど差がありませんでした。ただし、この差は小さいので私は下端から1.5mくらいの妥協的な給電点を選びました。


図6. 21MHzのVDLの給電点を変えた場合の放射パターン
黒は一辺のほぼ半分、グレーは角に近い最下点、青と赤は中間点

アンテナの偏波はVHF以上では非常に重要ですが、HFでも特に偏波があまり変化しない中距離ではパフォーマンスに影響する可能性があります。長距離伝搬では送信偏波はランダムに変化しますが、受信アンテナの偏波は受信信号強度に影響します。21MHzでは、VDLとVGPはほとんどが垂直偏波で(図7と8)、ダイポールの放射パターンはほとんどが水平偏波です(図9)。VDLは垂直偏波と水平偏波を兼ね備えているため、ダブレットよりも有利かもしれません。


図7. 21MHzにおける7MHz VDLの放射パターン
垂直偏波は赤、水平偏波は青


図8. 21MHzにおける7MHz VGPの放射パターン
垂直偏波は赤、水平偏波は青


図9. 21MHzにおける7MHzダイポールの放射パターン
垂直偏波が赤、水平偏波が青

数週間運用してみた結果、私はその結果に満足しています。14MHzと28MHzを除いては、VDLから同じバンドで動作する別のアンテナに切り替えることで、すぐに比較することができます。一方のアンテナが、ある局には良くても別の局には悪い、ということがしばしばありました。また、時には差がなかったり、QSO中に伝播状況が変わって逆転することもありました。

このような違いは21MHzで最も顕著に現れ、VDL、VGP、7MHzダイポールの放射パターンを見ると、21MHzのDXではVGPとVDLはほぼ同等ですが、VDLは北東と南西に高仰角のローブがあり、沖縄から日本本土のような短い経路でより強い信号になることが説明できます(図10)。


図10. 21MHzにおける7MHzのVDL、VGP、ダイポールの放射パターンの比較
黒がVDLループ、赤がVGP、緑がダイポール

18MHzと24MHzでも、VDLとダイポールでは放射パターンが異なります。ダイポールの方がゲインが高く、高仰角ローブのおかげで両帯域とも中距離では良好なパターンを示しますが、低仰角ではその差は小さくなります(図11、12)。


図11. 18MHzにおけるダイポールとVDLの放射パターン比較
黒線がVDL、赤い線がダイポール


図12. 24MHzにおけるダイポールとVDLの放射パターン比較
黒線がVDL、赤線がダイポール

私は運用中頻繁にバンドを変更するので、手動チューナーFC-901をオートチューナーに置き換えるつもりでした。しかし何度もバンド変更をするうちにチューナーの設定を覚え、素早いバンドチェンジが簡単にできるようになりました。最終的な給電線の長さを決めた後、nanoVNAを使って各バンドに最適なアンテナチューナーの設定値を探しました。その後、VSWRが最も低くなるように微調整し設定値を記録しました。今ではバンドを変える際、まずは手動チューナーのツマミを記録した位置にプリセットし、その後電波を出して微調整しています。ほんの数秒で、おそらく自動チューナー並みに速く、より正確に同調できていると思います。

VDLは“スーパーアンテナ”でしょうか? いえ違います、でもすべてのバンドでとてもよく機能します。トライバンド八木の6、7dBのゲインが恋しいですか? VDLや他のアンテナを使えば100Wで聞こえるほとんどの相手と交信できるので、私はそれほどではありません。様々な方向と、様々な距離で通信するためには、固定アンテナの選択は、回転可能なマルチバンドのビームアンテナとほぼ同等の効果があるように思えます。

アンテナのメンテナンスに多くの時間を費やさずに済むのは楽しいことでしょうか? 答えは想像がつくでしょう! もしあなたが私のような状況になったら、このマルチバンド垂直デルタループの記事を見て、それを試してみるきっかけになれば幸いです。

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