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ものづくりやろう!

第三十回 再生受信機の製作

JH3RGD 葭谷安正

2023年11月1日掲載

はじめに

10月初旬に家のレストア(リフォームのことです)が終わり、後片付けを続けていました。リフォーム前に大量のごみ状の物品を移動させましたので、何がどこにあるのかさっぱりわからない状態で元に戻すことになりましたが、作業がなかなか進みません。遅々として進まずではなく、遅々として進んでいる状態でしょうか。1週間ほどかかってもまだひっくりかえったままですが、とりあえず無線機や電子部品、工具などはどこにあるのかわかる状態までに復旧しました。

復旧後、真っ先に9R-59Dを机の上に乗せ、電源を入れ、アンテナを接続し、レストアにかかりました。しかし、中間周波数増幅段の調整やコイルパックの調整を3日ほど繰り返してもBバンド以上は感度が今以上に上がりません。まだ不具合部品があるのでしょう。

真空管はオークションで9R-59Dに使われている型式のものを何点か入手しましたので、入手した真空管をすでについていたものと置き換えてみましたが、増幅度等が変わっている様子はありません。コンデンサなどは全くタッチしていないので、バイアス電圧だけで確認するのは限界のようです。つぎは部品をひとつずつ取り外してチェックしていこうかと思います。完全修理までまだまだ時間がかかりそうですのでのんびりやっていかざるを得ません(もうあきらめて中波AM放送専用受信機にするかという気持ちも沸き始めています)。

本来なら今月の月刊FB Newsでは「第三十回 レストアのような事に挑戦(3)」のタイトルで9R-59Dのレストアが終わっている予定でしたが、そうはいかなくなりました。

そうこうしているときに、毎月購入しているCQ出版社のトランジスタ技術11月号が発売されました。なんとタイトルが「新・ラジオの製作」、私の心を虜にする響きです。中をぺらぺらとめくると、わざわざ「昔の月刊誌ラジオの製作とは関係ありません」と記載されています。先を見ていくと「情熱! わたしのラジオ製作」とか書かれたタイトルがまた私を痺れさせます。

さらに読み進めると「シンプル構成な短波ラジオの製作」なる記事が見えます。もうだめです、9R-59Dのレストアをちょっと横にのけておいて、私にとっての「シンプル構成な短波ラジオ」=再生検波受信機を作ることにしました。なぜ再生式受信機かというと、9R-59Dをレストアする段階でYouTubeを見ていましたら、「高周波増幅段のない0-V-1再生式受信機も音は悪いけれど感度は結構いいんだよ」との動画を見つけ、9R-59Dの修理が終わったときに比較対象とするのに簡単なものを作ってみるかと思っていました。その3日後にトラ技「新・ラジオの製作」の発売という絶妙のタイミングだったんです。

再生式ラジオの思い出についてはすでに何度も記載していますが、中学生のときに部品を集めて、「ラジオの製作」という雑誌の実体配線図を見ながら中波帯の再生検波ラジオをつくりました。出来上がったラジオを聴いていると母親から「そのピーピー鳴るの何とかならないか」と言われましたが、それ以後もピーピー、ガーガーならしていたら母親もあきらめて何も言わなくなりました。

そのラジオはT社製ラジオと比較して結構よかった記憶があります。ただ選択度、音質はT社製ラジオがかなり上でした。短波帯の再生検波ラジオは初めて作ります。簡単な回路でSSB,CWも受けれるのですが、どんな音色になるのやらと楽しみながら作りました。

再生検波受信機

レストアが終わればオークションで入手した真空管が何本かあまるので、それを使って真空管式の0-V-1(高周波増幅部なし、真空管で検波、低周波増幅部1段という意味です。トランジスタで検波する場合は0-T-1と表現します。)を作るつもりでした。

しかしレストアはまだ終わっていませんので、真空管を温存する必要があるのでトランジスタかFETで作ることにしました。部品箱にある部品で作ろう。どんな回路にするのか? だいぶ前から物色していた回路があります。それは、JF1RNR今井栄OMがその著書「作りながら理解するラジオと電子回路」(1)の中で紹介しておられる「7~16MHz再生式(オートダイン)受信機の製作」の回路です(著作権の関係で回路図は記載しないほうがよいのではと思い記載しておりません)。

ちなみに私にとっては、老境にはいってから今井OMの著書(1)、(2)と鈴木OMの著書(3)は楽しみながら読ませていただいた本です。この著中の主に受信機ですが、いくつかの回路を実際に作って楽しませていただいたりした思い出の本です。

製作に先立ち、例によって部品箱をあさりました。今井OMの著書では再生検波に使用するFETとして2SK241を使用されていますが、私の部品箱にはありません。2SK192がありましたのでそれを使用しました。多少バイアス抵抗値を変える必要があるかもしれませんがトライ&エラーで対応することにしました(実際抵抗値を変えた部品が2つほどありました)。

・再生検波受信機の基本構成
再生式受信機って、どんな原理で動くの? 性能は?

性能はスーパーヘテロダインには劣りますが、簡単な回路で結構受信できる。一度作ったら2度作ることはないのかもしれません(個人的見解です)。また、発振状態になった場合、高周波増幅段をもっていない0-V-1ではアンテナから信号が輻射されることがありますので周りに迷惑をかけることもあります。ご注意ください。

普通に使用されている簡単なトランジスタ検波回路を図1に示します。この回路の後段に低周波増幅器が続いていきます。


図1 普通の検波回路

図1の回路に対してコレクタからベースに正帰還を施した回路が図2です。正帰還をかけることで利得を稼ごうとするものです。これが再生検波ラジオの回路です。


図2 再生をコレクタからかける回路例

また、図3のようにエミッタからベースに正帰還する方法もあります。


図3 再生をエミッタからかける回路例

以前紹介しました、レフレックス式との違いはというと、レフレックスラジオは「1つのトランジスタで高周波と検波出力(低周波)の信号を増幅する」方式です。一方、再生検波受信機は、受信信号の一部をフィードバックして、回路が発振状態に近い状態になるようにして感度をあげる方式です。

製作編

製作にあたっては、手持ちの部品を使いました。ターゲット周波数を7MHzあたりとしました。再生検波方式は簡単な回路でSSB,CWを受信することができます。不思議ですね。

・部品箱を覗いてみる
抵抗は9R-59Dのレストアのためにどっさりと買い込みましたので十分あります。買い込んだ抵抗は真空管用ですのでワット数が大きく、少しサイズは大きいですが気にしなければ問題ありません。コンデンサはぼちぼちありますが、電解コンデンサが一部ないかもしれないと心配しましたが何とかそろいました。もしなければ容量の小さなものを並列接続でのりきろうと思っていました。

検波回路に使用するトランジスタですが、今井OMの本の回路では、検波回路に2SK241という電界効果トランジスタ(FET)を使用されています。以前このFETを使い切ってしまいましたので部品箱にはありませんでした。ただ、ほぼ互換の2SK192がありましたのでこれを使用しました。このため元の回路のバイアス抵抗の値を変えました。

同調回路にはFCZ10S14という14MHz帯のFCZコイルを使っているようです。このコイルと230pFの可変コンデンサによる並列共振回路で7MHzから16MHzの受信ができるようです。このコイルもありませんでしたが、FCZ7T9というサイズが7mm角、中心周波数が9MHzのコイルがありましたのでこれを使用しました。

低周波増幅部には、今井OM本のままオーディオアンプICのLM386を使用しました。他に、基板、20pF可変コンデンサ、10kΩ可変抵抗器等すべて準備できました。

・製作
銅箔基板の上に小さな銅箔片(ランド)を両面テープで接着し、その上に部品をはんだ付けしていきました。部品を探したり、ランドを作ったり、両面テープを100円均一ショップに買いに行ったりとはんだ付け以外の作業も結構ありました。最初のレイアウトは写真4のようなものを想定していました。


写真4 組み立て前の銅箔基板とバリコン、可変抵抗器等

銅箔の上にのせてあるのがFCZコイルです。簡単な回路ですので、実態配線図も作ることなく、ランドを銅箔の上に並べてレイアウトを確認しながらはんだ付けをしていきました。簡単な回路とは言いながら、組み上がるのに朝の9時から夜の10時位までほぼ一日かかってしまいました。

できあがったのが、写真5です。基板部のみを拡大したものが写真6です。


写真5 配線済の全体


写真6 配線済(基板部)

簡単な性能チェックと受信試験

出来上がった受信機の性能をチェックすることにしました。周波数カウンタはありませんが、tinySAというスペアナの助けを借りておおよその受信周波数範囲や受信周波数を知ることができます。立派な計測器をもっていませんがこれだけでも結構なことがわかります。

・性能
(1) メインダイヤル受信範囲(メインダイヤルで受信できる範囲): 6MHz~16MHz
再生検波受信機は正帰還を施すため発振状態近辺まで増幅度があがります。このため、外部に電波が放射されます。この放射電波をスペアナで拾うことで受信周波数がわかるというわけです(くれぐれも周りにご迷惑を及ぼさないようご注意ください)。メインダイヤルを、右いっぱいと左いっぱいに回したときのスペアナで見られる放射信号の周波数を写真7に示します。


(a)最低受信周波数


(b)最大受信周波数

写真7 受信周波数範囲を計測

(2) サブダイヤル受信範囲(サブダイヤルで受信できる範囲): 約50kHz
この計測方法もメインダイヤル受信範囲と同じです。具体的には7MHzを基準にとりましたが、メインダイヤルの受信周波数を7MHzにあわせ、サブダイヤル用の可変コンデンサの容量を最大位置と最小位置に合わせ、それぞれの受信周波数を求めました。その差が約50kHzでした。メイン周波数が変わるとこの範囲もことなりますので受信周波数7MHzの場合を記載しました。

(3) 感度: S/N比でとっていませんので感覚的ですが、7MHzでは「今レストア中の9R-59Dより良好」でした。

(4) 受信試験: メインダイヤルを7MHz帯中心に回し、発振音が聞こえたら帰還量、ボリュームなど調節して受信おこないました。音質はよくありませんが、実際の受信音を録音したものをここにおきます(受信音01)。「モールスがうまく入るかな」という確認をしたかったのでモールス信号が入ってこないかと選局してみました。残念ながらなかなかつかめませんでしたが、1分20秒当たりで少しモールス通信が入ってきているのが確認できます。

改修(ドレインから再生をかける)

元の回路ではFETのソースから正帰還しているのですが(トランジスタではエミッタ経由の正帰還。図3参照)、ドレインから正帰還する(トランジスタではコレクタ経由の正帰還。図2参照)と受信状況がどのように変わるのか気になりました。そこで回路をコレクタ経由の再生回路に変えてみました。

改修してすぐに動作試験をしてみました。録音した受信信号はこちらです(受信音02)。複数局の信号が重複して受信されています。選択度は良くありませんが改修前より安定して動作しているようです。回路的にはソース経由で再生をかける(改修前)ほうが安定して動作するとのことですが、私の耳計測はあてにならないようです。

おしまいに

いずれにしても、再生式受信機はもうあまり作られることも紹介されることも少ないようです。私の個人的な趣味と温故知新のつもりでこの記事を書きました。回路図も記載しませんでしたが、興味のあるかたはインターネットで検索をかけるとたくさんの回路が提示されています。

参考文献
(1) 今井栄 著、「作りながら理解するラジオと電子回路」、CQ出版社、2010、P98~P102
(2) 今井栄 著、「手作りトランシーバ入門」、CQ出版社、2007
(3) 鈴木憲次 著、「無線機の設計と製作入門」、CQ出版社、2006

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