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SHFの世界

和歌山-大阪間のSHF山岳回折通信実験

JP3NSJ 景山寛

2024年7月1日掲載

和歌山県と大阪府の間には1000m級の山岳がそびえているめため直接波での交信は困難となっている。しかし、高ゲインのアンテナを使用し山岳回折伝播を利用すれば通信できるのではないかと考え、今回、和歌山県内各所と、大阪府内及び奈良市とのSHF帯による通信実験を2回にわたって行いましたのでレポートします。

なお各拠点間の地図及び断面画像は、地図データ(国土地理院)(https://www.gsi.go.jp/)をもとに作成しました。

2024年6月4日(1回目)

●通信拠点および設備
 1. 大阪市平野区 (固定)
   無線機 IC-905XG(1200MHz: 10W、5600MHz: 2W、10GHz: 0.5W)
   アンテナ 1200MHz: GP(ダイヤモンド/X5000/11.7dBi)
       5600MHz: メッシュパラボラ(SignalPlus/QFS524/24dBi)
       10GHz: ソリッドパラボラ(アイコム/AH-109PB/31dBi)

 2. 奈良市 (固定)
   無線機 IC-905XG(1200MHz: 10W、5600MHz: 2W、10GHz: 0.5W)
   アンテナ 1200MHz: GP(ダイヤモンド/X5000/11.7dBi)
       5600MHz: コーリニア(アイコム/AH-56/5dBi)
       10GHz: ソリッドパラボラ(アイコム/AH-109PB/31dBi)

 3. 大阪狭山市 (移動)
   無線機 IC-905XG(1200MHz: 1W、5600MHz: 2W、10GHz: 0.5W)
   アンテナ 1200MHz: 16エレ八木(コメット/CYA-1216E/16.6dBi)
       5600MHz: メッシュパラボラ(SignalPlus/SP-5158-30D/30dBi)
       10GHz: パラボラ(アイコム/AH-109PB/31dBi)

 4. 和歌山県内 (橋本市、伊都郡かつらぎ町、紀の川市(1)移動)
   無線機 IC-905XG(1200MHz: 1W、5600MHz: 2W、10GHz: 0.5W)
   アンテナ 1200MHz: 17エレループ(コスモウェーブ/LY1216N/18dBi)
       5600MHz: メッシュパラボラ(SignalPlus/SP-5158-30D/30dBi)
       10GHz: パラボラ(アイコム/AH-109PB/31dBi)

●実験結果
 1. 橋本市 ~ 各拠点
  1-1 橋本市 ~ 大阪狭山市
  3バンド全てにおいてFMモードで安定した通信が成り立った。



拠点間の地図及び断面画像


橋本市から大阪狭山市を狙う


大阪狭山市から橋本市を狙う

  1-2 橋本市 ~ 大阪市平野区

平野区側の1200MHz用アンテナは無指向性のため通信不可であった。一方5600MHz、10GHzはアンテナのビーム方向を合わせ込んだことにより、信号強度は弱かったものの、通信は成り立った。



拠点間の地図及び断面画像

  1-3 橋本市 ~ 奈良市

奈良市側の1200MHzの出力は10Wであり、アンテナはタワー上(地上高50m)であったため周辺の環境の影響を受けず、1200MHzでの通信はFMではかろうじて成立したが、5600MHzはどのモードでも通信不可であった。また10GHzはCWでのみ通信が成り立った。



拠点間の地図及び断面画像

 2. 伊都郡かつらぎ町 ~ 各拠点
  2-1 かつらぎ町 ~ 大阪狭山市
  3バンド全てにおいてFMモードで安定した通信が成り立った。



拠点間の地図及び断面画像


かつらぎ町より大阪狭山市を狙う

  2-2 かつらぎ町 ~ 大阪市平野区

平野区側の1200MHz用アンテナは無指向性のため通信は成り立たなかった。一方5600MHz、10GHzはアンテナのビーム方向をクリティカルに合わせ込んだことにより、通信は成り立った。



拠点間の地図及び断面画像

 3. 紀の川市(1) ~ 各拠点
  3-1 紀の川市(1) ~ 大阪狭山市

3バンド全てにおいてFMモードで安定した通信が成り立った。ただし5600MHzと10GHzのアンテナの向きはクリティカルであった。



拠点間の地図及び断面画像


紀の川市(1)より大阪狭山市を狙う

  3-2 紀の川市(1) ~ 大阪市平野区

平野区側の1200MHz用アンテナは  無指向性のため通信は成り立たなかった。一方5600MHzは、信号は弱いものの通信は成り立った、また10GHzはアンテナのビーム方向をクリティカルに合わせ込んだことにより、かろうじて通信は成り立った。



拠点間の地図及び断面画像

2024年6月11日(2回目)

●通信拠点および設備
 1. 大阪市平野区 (固定)
   無線機 IC-905XG(1200MHz: 10W、5600MHz: 2W、10GHz: 0.5W)
   アンテナ 1200MHz: GP(ダイヤモンド/X5000/11.7dBi)
       5600MHz: メッシュパラボラ(SignalPlus/QFS524/24dBi)
       10GHz: ソリッドパラボラ(アイコム/AH-109PB/31dBi)

 2. 有田郡有田川町 (移動)
   無線機 IC-905XG(1200MHz: 1W、5600MHz: 2W、10GHz: 0.5W)
   アンテナ 1200MHz: 16エレ八木(コメット/CYA-1216E/16.6dBi)
       5600MHz: メッシュパラボラ(SignalPlus/SP-5158-30D/30dBi)
       10GHz: ソリッドパラボラ(アイコム/AH-109PB/31dBi)

 3. 紀の川市(2) (移動)
   無線機 IC-905XG(1200MHz: 1W、5600MHz: 2W、10GHz: 0.5W)
   アンテナ 1200MHz: 16エレ八木(コメット/CYA-1216E/16.6dBi)
       5600MHz: メッシュパラボラ(SignalPlus/SP-5158-30D/30dBi)
       10GHz: ソリッドパラボラ(アイコム/AH-109PB/31dBi)

●実験結果
 1. 有田郡有田川町 ~ 各拠点
  1-1 有田郡有田川町 ~ 紀の川市(2)

1200MHzのアンテナビーム合わせは容易で通信が成り立った。5600MHzはクリティカルなビーム調整により通信が成り立った。一方10GHzはFMでは通信が成り立たなかったが、SSBではRS31程度、CWではRST519で100%通信が成り立った。なお紀の川市(2)は6月4日(1回目)の運用地とは別の場所で行った。



拠点間の地図及び断面画像


紀の川市(2)より有田川町を狙う


有田川町より紀の川市(2)を狙う

  1-2 有田郡有田川町 ~ 大阪市平野区

各バンドRTTYモードで送信状態とし、キャリア信号を発見できるか双方向で確認したが発見することができなかった。拠点間は断面図を見たところ、最低2回の山岳回折が必要なうえ、有田川町側から2 ~ 6kmのところで一気に600mの標高が高くなるところがあり、仰角を高くする必要があったあるため通信が難しかったと考えられる。また山岳斜面の角度と回線角度が近くなるため、表層の木々の植生の影響の可能性も考えられる。



拠点間の地図及び断面画像

 2. 紀の川市(2) ~ 大阪市平野区

前述の有田川町 ~ 大阪市平野区の実験と同様、各バンドRTTYモードで送信状態とし、キャリア信号を発見できるか双方向で確認したが発見することができなかった。拠点間は断面図を見たところ、紀の川市(2)側から約8kmにかけて急峻に標高が上がっているため、仰角を高くする必要があったあるため通信が難しかったと考えられる。また山岳斜面の角度と回線角度が近くなるため、表層の木々の植生の影響の可能性も考えられる。



拠点間の地図及び断面画像

実験の考察

1回目に行った通信実験では、紀の川市(1) ~ 大阪市平野区で5600MHzの通信が成立したため、2回目は和歌山県側で別の場所(紀の川市(2))に移動して実験を行ったが、残念ながら通信は成立しなかった。

2回目の実験で通信が成立しなかった原因として、以下の事が考えられる。

  •  ・ 山岳回折させるための山が1回目より非常に近くなったため、アンテナの仰角が高くなり回折
     角度がうまくいかなかった。
  •  ・ 仰角が高くなった場合は、ビーム方向と斜面が近くなり、木の植生の影響を受けやすい。
  •  ・ 有田川町 ~ 大阪市平野区は、2つの山岳回折が必要となり通信経路が複雑化する。

共通事項として、相手局にビームを合わせるために連続キャリアを発射することで、信号が最も強くなる方向へのアンテナの角度調整が容易でした。

これの前提としてお互いの送受信周波数が一致している必要があります。特に10GHzでは、1ppb(1ppmの1/1000)のずれが10Hzのずれとなり、一般的な水晶発振器の安定度だけでは相互の周波数を合わせるだけでも一苦労となります。

しかし、IC-905(XG)はGPSを基準とした周波数管理を行っているため、CWやRTTYの連続キャリアでも表示周波数を合わせれば微調整無しに同調可能でした。さらにスペクトラムスコープにより、相手局の信号を視覚的にも捉えることが可能でした。

今後、回折や反射ルートを調査しアンテナを整備することにより、今回通信不可であった拠点間の通信が成立する可能性は残っていると考えられるため、機を見て追試を行いたいと考えております。

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