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From Steve's Workbench

自作SOTA用アンテナの紹介とアンテナ効率についての考察

JS6TMW Steve Fabricant (翻訳 月刊FB NEWS編集部)

2024年8月1日掲載

私がこれまで作った移動用のHFアンテナには欠点があった。最初に作ったのは、14、18、21MHz用の軽量パラレル・ダイポールで、効率はとても良かったが、設置には長尺マストが必要で、さらにはエレメントが簡単にねじれてしまった。次に作った「チェア・アンテナ」は、フルサイズのマルチバンド垂直グランドプレーン(VGP)で、とてもよく機能するが、チューニングが難しく、運搬時にかさばる。また、以前に月刊FB NEWSで紹介した軽量なマグループアンテナ*1は、効率は良いが運用地での組み立てに複数の部材が必要で、また風の抵抗を受けるため、しっかりとしたサポートを必要とする。また、16m長のエンドフェッド「ランダム」ワイヤーを使うこともあるが、これも長尺マストとアンテナチューナーが必要だ。

さて、ここで説明するアンテナは、オリジナルのデザインではなく、HF帯の移動運用では一般的で人気がある、短縮バーチカルアンテナだ。今回の私の記事では、非常に軽く、かつ組み立てと調整が簡単で、さらにビッグマック数個分の費用で自作することができる短縮バーチカルアンテナを紹介する。このアンテナは先般フィジーに持っていき、ホテルの部屋の外に設置して、ヨーロッパ(15000km以上)、アジア、オセアニアとのQRPでの交信に使用したものだ。良好なコンディションと珍しいコールサインという恩恵はあったが、後のテストでこのアンテナが本当によく機能することが分かった。また、作りながら多くのことを私は学ぶことができた。


写真1 フィジーで使った新しい自作バーチカルアンテナ(2024年5月撮影)

チャレンジ

移動用アンテナの設計手法は、短縮アンテナ*2を作るための計算式とともに、ネット上で何十種類も見つけることができる*3。実用的なものからかなり奇抜なものまで様々あるが、そのほとんどが効率が良いと主張している。ダイポールのようなワイヤーアンテナは軽量で効率的なため、SOTAやPOTAのオペレーターに人気があるが、ダイポールを設置するには相応のスペースと、木やマストなどの支柱を必要とする。一方バーチカルは専有スペースが小さくて済み、セットアップも簡単で、打ち上げ角も低いのでDXに適している。

移動運用局はバンドを頻繁に変えるので、トラップや切り離し構造、またはチューナー付きのアンテナが一般的に使われているが、シンプルでポピュラーなバーチカルは、釣り竿などに支えられたワイヤーを、短いカウンターポイズと内蔵チューナーやアイコムのAH-705のような外付けチューナーと一緒に使うだけだ。一方バーチカルの中には、重量もあって(機械的に故障する可能性のある)調整可能なコイルを使用しているものや、簡単に調整ができない多バンド対応の硬い部材を使用しているもの、あるいは、付属の部品があるため家で紛失したり、持ち出し忘れたりする可能性があるアンテナもある。

また、市販のアンテナの中には、小型で高インダクタンスのコイルを使った非常に短いホイップアンテナもあるが、これらは携帯性と引き換えに効率を犠牲にしてしまっている。私の理想とするSOTA用アンテナは、これらの設計の良いところだけを備え、軽量(私は屈強なハイカーではない)と効率(私はローパワーでしか運用しない)を重視したものだ。うまく製作できたとは思うが、まずはアンテナ理論から紹介しよう。


図2 垂直グランドプレーンアンテナの基本パーツ


写真3 フルサイズの携帯用SOTAアンテナ

なぜコイルを入れるのか?

アンテナは、伝送路を介して高周波電源(送信機)に接続された閉回路であり、空間に電力を輻射する。給電された高周波電力がすべて輻射されれば最も効率的である。電流と電圧の位相関係から、放射抵抗と損失抵抗により、直列のキャパシタンスとインダクタンスのように作用する(図4)。共振時には誘導リアクタンスと容量リアクタンスが相殺され、アンテナの「Q」を決定する抵抗だけが残る。長いアンテナは短いアンテナより放射抵抗が高く、よりよく高周波電力が輻射される。アンテナが共振長より長い場合、正味の誘導リアクタンスがあり、直列にキャパシタンスを追加することで共振させることができるが、ほとんどの移動用アンテナは共振長より短くなっている。短いアンテナの容量性リアクタンスは、直列インダクタンスやローディングコイルでキャンセルできるが、短いアンテナは放射抵抗も低いため、損失抵抗により多くの高周波電力が散逸してしまう。これが、短縮したアンテナの効率が悪くなる主な理由である。

バーチカルのローディングコイルは、VSWRを下げるために調整することができ、他の同調装置に比べてシンプルであるという利点がある。なおVSWRが低いからといってアンテナが効率的であるとは限らないことは、ダミーロードを例として正しく説明される。また、全く輻射しないL/C回路が鋭い共振点を持つこともある。共振回路(バーチカル以外のすべてのアンテナを含む)では、これは高い「Q」と比較的低い損失抵抗を示すことができる。


図4 ダイポールアンテナの等価回路

抵抗損失と効率

ベストなHFアンテナにおいても、その効率は50%か60%に過ぎない。なぜなら、それらは実在する素材でできているからだ。しかし、マイクロ波以外では輻射電力を直接測定する方法がないため、これは推定値に過ぎない。アースや導電型グラウンドラジアルはバーチカルアンテナの半分を形成し、アンテナの効率はワイヤーの抵抗や大地に結合されるエネルギーによって低下する。

アマチュア無線家は、無線局で最も重要な部分がアンテナであると理解しているが、何が効果的なグラウンドを作るかについては激しく意見が分かれる。共振ラジアルや何百メートルもの埋設ワイヤーを使った大規模なグラウンドシステムを使う人の多くは、それがアンテナの放射力を高めるものだと信じている。

低い周波数で行われた昔の実験では、これがほとんど真実であると示されたが、その恩恵はわずかであった。「高効率」や「低ロス」といった言葉は、定められた測定方法が実施されなければ意味がないが、大地に奪われる電力は測定できない。そのため、「私は100Wでパイルアップを破ることができる」、「1週間でDXCCを達成した」、「聞こえた局とは全て交信できる」といった証明不可能な主張が生まれることになる。しかし、私はフィジーから実際に行ったQRP DXをもって、後で紹介するアンテナが本当に良いという証拠とすることにしよう。

ラジアルまたはカウンターポイズ

私自身の経験や、他のバーチカルアンテナの製作者や市販メーカー*4の経験に基づくと、広大なグラウンドラジアルフィールドや、波長に正確に同調したラジアルは信じられているほど重要ではなく、いずれにせよ、移動運用での使用には実用的ではない。公開されているビデオを見ると、移動運用中の多くのオペレーターがバーチカルのために長いラジアルを展開しているが、権威のある文献*5でさえ、0.1波長程度の短いラジアルでも機能すると言っている。

私は、短いラジアルで28MHzのVGPをモデル化した尊敬すべき実験者によるオンラインレポート*6を見つけた。彼は、0.5~3.5mのラジアル長で、垂直エレメントを調整して共振させた場合、アンテナインピーダンスが50Ωに近くなることを発見した。ラジアル長は利得と帯域幅にほとんど影響せず、ラジアル本数を2本、3本、4本と変えても、またラジアルを展開する仰角を変えても同様だった。私は、28MHz用のラジアルを、2倍の波長(14MHz)、4倍の波長(7MHz)において、彼の結果をより低いHF帯域にあてはめた。その結果、長さ2mから2.5m長のラジアルは、すべてのバンドで40オームから80オームの給電インピーダンスになり、調整なしで良好なインピーダンス整合が得られることがわかった。さらにアンテナの実際のVSWR測定と、後のオンエアでの比較でこの結果を確認した。


図5 7MHz用ローディングコイル入りバーチカルアンテナのVSWR。狭い共振点は高い「Q」を示す。


図6 ローディングコイルをバイパスした短縮バーチカルの28MHzでのVSWR

実用的なアンテナを作る

7MHzは日本のSOTA運用で最もポピュラーなHFバンド*7だが、沖縄から本土への日中の伝搬は通常良くないため、効率的なアンテナが必要だ。フルサイズの1/4波長バーチカルは10m長となり、カジュアルな移動運用には実用的ではない。極端に短いアンテナは効率が悪いが、1/8波長といった中程度の長さであれば、フルサイズのVGP*8に近い輻射パターンと利得が得られる。

良質で軽量かつ安価なステンレス製で、長さが2.5mや5.7mのロッドアンテナは広く出回っており、長い方ならば7MHzで1/8波長を超える。なおバーチカルアンテナの基部はローディングコイルを挿入するのに最も効率的な位置ではないが、その部分ならば調整が容易であり、上部に伸縮自在のロッドアンテナを装着して使うことができる。

試しに古いトラップコアにアルミ線を巻いてテスト用のコイルを作ったところ、13μH(マイクロヘンリー)のインダクタンスで長い方のロッド(5.7m)を使って7MHzが同調することがわかった。コイルのいくつかのターンをジャンパー線でバイパスすると10MHzでも同調でき、さらにコイル全体をバイパスした状態でロッド部分を縮めていくと14MHzから30MHzまでチューニングできた。なお、短い方のロッド(2.5m)を完全に伸ばした状態では、7MHzに同調させるために12μHの追加が必要なことが解った。


写真7 ローディングコイルとボビン。初期プロトタイプの一部。


写真8 塩ビパイブにプラスチック製のおもちゃの部品を接着して作ったコイルボビン。

コイルの最適化にはネット上にあるオンライン計算機*9を使用した。φ0.8mmの銅線を使用した場合の「Q」は、φ1.2mmのアルミニウム線を使用した場合よりも高く、ステンレス鋼線を使用した場合よりもはるかに高かった。私は3Dプリンターを持っていないので、φ26mmの塩ビパイプに4つのプラスチック製おもちゃの車の部品(写真8)を接着して、ネジ付きコイルボビンを作った。このプラスチック製の部品には1mmごとに切り欠きがあり、一辺約33mm、長さ約125mmの正方形のコイルができる。固定12µH部分は1mm間隔で19ターン巻き、可変13µH部分は29ターン、バイパス用のジャンパークリップが1本のワイヤーにしか触れないように切り欠きを1つずつ飛ばして巻いた(写真9)。計算上のコイルの「Q」は360で、インダクタンスはジャンパークリップをどちらの端に取り付けるかによって、0~13µHまたは12~25µHに調整できる。長短どちらの長さのロッドアンテナでも使用でき、軽くて強く、調整が簡単だ。


写真9 完成したロッドアンテナ用の2段ローディングコイル。
塩ビパイプに通したワイヤーで、BNCメスコネクタのセンターピンとコイル端を接続している。

真鍮製の配管用部品(写真10)をドリルで再加工し、M10用のタップを切り、ネジ付きロッドアンテナを塩ビパイプの内側(内径22mm)に取り付けられる様にした。中国から届いた1/2” x 1/8” NPTか3/8” x 1/8”NPTのレジューサー、もしくはアルミ削り出しの部品を使った。またコイルを接続するために、塩ビパイプにM3ネジ用のタップを切った(写真11)。


写真10 ロッドアンテナの接続に使用した配管用部品。


写真11 塩ビパイプへのロッドアンテナ接続の様々な方法

T94-52フェライトコアに、細い同軸を11ターン巻いた小型チョーク(写真12)は、オペレーターとトランシーバー間のキャパシタンスを絶縁し、チューニングの再現性を高める。アンテナはコイル、ロッド、ジャンパーケーブル、ラジアル、チョークのみで構成されている。無線機との接続は、塩ビパイプに取り付けたBNCメスコネクタで任意長の50Ω同軸で接続できる。ラジアルとの接続はBNCジャックのアース側にはんだ付けされたバナナジャックだ。絶縁された細いラジアルは1本のバナナプラグに接続されている。塩ビパイプの内径は22mmあり、様々な対応が可能である。


写真12 チョークコイル

重要であるコイルのインダクタンスは、クリップ付きのジャンパー線で調整が可能だ。コイルを自作する場合は私と同じ部品と寸法を使うか、巻き数を増やしながらコイルのインダクタンスを測定するか、ロッドアンテナとラジアルを取り付けた状態で共振周波数をチェックすればよい。長い方(5.7m)のホイップ*10だけを使う場合は、13μH側のコイルは省略することができる。同軸用とラジアル用のコネクターは好みのタイプを選べばよい。ラジアル長はいろいろ試すことができるが、まずは2~3mの長さから始めることをお勧めする。

テスト、テスト

Qが高く共振点が鋭いので、コイル上の適切な場所にジャンパー線を接続して使用する巻数を調整したり、ハイバンドで同調させるためにロッドの長さを調整するのは簡単だ。私はまず受信ノイズが最大になるように耳を傾け、それからアンテナアナライザーや内蔵のVSWRメーターを見ながら正確にチューニングする。たとえ異なる種類のグラウンドで使っても、セッティングはかなり再現性がある。ラジアル長は2mから3mまでほとんど変わらないし、ラジアルを地面に置いただけで再現性のある低いVSWRが得られる。モービルアンテナのマグネット基台と同様、ラジアルは地面と容量結合している。共振点は垂直方向の長さとローディングコイルのインダクタンスにほとんど依存するので、ラジアルの長さや対地キャパシタンスを一定以上増やしても共振点や性能には影響しない。


写真13 自宅の庭で最初のテストを行ったバーチカルアンテナ

最初のオンエアテストは自宅の庭で行った。建屋に囲まれた場所だったが、何度かQRPでの交信ができた。またフィジーへのミニDXペディションから帰宅後に、このバーチカルアンテナ(2.5mロッド、5.7mロッド)と、他のポータブルアンテナ3本との比較テストを行った。5本全てのアンテナを、送信局*11から1kmほど離れた公園に設置し、SDR受信機とマルチバンド・ダイポールを使って信号強度を測定した。毎回5ワットで定常的なキャリア送信を行った結果、受信信号強度はノイズレベルを40~50dB上回る、およそS6~S9であった*12

測定結果を下表に示す。各バンドで最も強かった信号を0dBとした。そして各バンドにおいて、そのバンドで最も強い信号(0dB)で受信できたアンテナと他のアンテナとを比較した。下記の数値は各アンテナを3回ずつ測定した平均値である。(空欄のセルは、当該アンテナが測定バンドに未対応)。


Antenna 1: 2.5m長ロッドアンテナとローディングコイルを使用したバーチカル。
Antenna 2: 5.7m長ロッドアンテナとローディングコイルを使用したバーチカル。
Antenna 3: マグループ。最大受信感度を得るために回転させて使用。
Antenna 4: 1/4波長のVGP「チェア・アンテナ」。14、18、21MHzではエレベーテッドラジアル、
      7MHzでは水平ワイヤーをラジアルに使用。
Antenna 5: 16m長の「ランダム」エンドフェッド逆Vアンテナ。9:1のバランとオートアンテナ
      チューナーを使用。


写真14 マグループとチェア・アンテナは効果的だが、設営に時間がかかるのが難点

今回のテストでは一般的な移動運用シーンを再現したが、指向性、地上高、偏波面までは考慮することができなかった。完全な1/4波長のチェア・アンテナとマグループがテスト波を最も強力に受信できたが、7MHzにおける2.5m長のロッド(Antenna 1)を除くと、バーチカル(Antenna 1と2)は、ベストだったアンテナと比べてSメーターで1目盛り以内の差であった。特に14MHzと28MHzでは、5.7m長のロッド(Antenna 2)より2.5m長のロッド(Antenna 1)の方が強く受信できた。

ネット上にあるオンライン計算機*13を使うと、ダイポールに対する理想的なマグループの効率を、その寸法に基づいて表示させることができる。計算されたマグループの効率(私のマグループは理想的でないため、それぞれから3dBを引いた値)と、他のアンテナからの信号強度を用いて、ダイポールに対する今回実験した新しいバーチカルの効率を見積もることができる。バーチカルはフルサイズダイポールよりSメーターで1~2目盛り劣るが、相対的な大きさを考えれば大した問題ではない。


結論

今回制作したこの移動用バーチカルは、私の目的をすべて満たしている。性能上の欠点は移動運用での実用性が上回ってカバーし、必要であれば「ステルス」アンテナにもなり得る。7~28MHzの帯域で有効で、専有する地上面積はごく僅か、コイル、ロッド、ラジアル、チョークを含めた重量は370gか265gしかなく、短いバッグにも収まる。設営時間はわずか1、2分でオンエアすることができる。7MHzと10MHzでは、実交信において長い方のロッドに4~5dBのアドバンテージがあるかもしれないが、性能に大差はないので、特に風の強い日には私は短い方を選ぶことだろう。


写真15 新バーチカルの全部品

制作は、基本的な工具を使って非常に低コストで作ることができる。コイルボビン(塩ビ)、六角ブッシングレデューサーパイプ継手、コイル用の線材、ラジアル(ビニール線)、コネクター類、チョークを含んだ材料費は、アンテナ1本で3000円(US $20)程度、またロッドアンテナはUS $15またはUS $20だ。グループやクラブで一括してパーツを購入すれば、経済的だろう。

パーツリストと入手先

2.5m長または5.7m長のロッドアンテナ(AliExpressなど)
φ0.8mm錫メッキまたは裸銅線5m(Amazon)
プラスチック製おもちゃの車のステアリング部品
https://ja.aliexpress.com/item/1005006151643605.html?spm=a2g0o.order_list.order_list_main.68.50c3585aZeNexc&gatewayAdapt=glo2jpn
外径26mmの塩ビパイプ(ホームセンター)
真鍮の六角ブッシングレデューサーパイプ継手。オス1/2”または3/8”NPTからメス1/8"NPT(ホームセンターまたはAliExpress)
T94-52フェライトコア(AliExpress)と、RG174またはRG178同軸ケーブル50cm
バナナジャックとプラグ
小型ワニ口クリップ2個
BNCメスなどの同軸コネクター
M3 x 8mmネジ
ラジアル用、およびジャンパー用のビニール線8~10m

工具

電動ドリルと、9.5mmと2.5mmのドリル刃
M10とM3のタップ
万力
はんだごて

参考文献

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