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今更聞けない無線と回路設計の話

【テーマ2】デシベルと無線工学
第2話 dB(デシベル)を知る(その1)

濱田 倫一

2024年11月1日掲載

第1話では、これから【テーマ2】でお伝えしようと考えているレベルダイヤグラムの「床」と「天井」について、AさんとBさんの会話を例にとって解説しました。レベルダイヤグラムを詳しく知るためには、信号のレベルを表現する方法を理解することが必要不可欠です。この信号のレベルを表現するとき、我々は「dB(デシベル)」を頻繁に使用します。単に「dB」とだけ書く場合もあれば、「dBm」「dBµV」「dBi」など様々な単位と組み合わせて使用する場合もあります。

第2話では「dB(デシベル)とは何か」と、「何故レベルダイヤグラムではdB(デシベル)を使うのか」について解説します。

1. dB(デシベル)とは何か

dB(デシベル)とは電力利得(Power gain: GP)を表す「B」(ベル)という単位に、1/10を示す補助単位「d」(デシ)を組み合わせたものです。昨今では「デシベル」という名前のように誤解されているケースを散見しますが、デシベルの「d」は体積を表す「d𝓁」(デシリットル)の「d」と同じ補助単位です。従ってdは小文字で書かれています。

一般に「利得:G」とは電子回路の入力と出力の比の常用対数です。単に入力と出力の比を真数で表す場合は「増幅度」「増幅率」(何れも記号はA、1以下の場合は「減衰率」)等と表現して区別しています。入力電力をPin、出力電力をPoutとすると電力増幅度APと利得GPはそれぞれ


(式1-1)


(式1-2)

となります。dBとBは


(式1-3)

の関係なので、


(式1-4)

となります。利得は比の対数なので増幅度1倍がゼロ、増幅器のように入力よりも出力の方が大きい(増幅度が1以上の)デバイスでは正の値、アッテネータや分配器、伝送線路など、入力よりも出力の方が小さい(増幅度が1以下の)デバイスでは負の値になります。

2. 何故対数にするのか

結論からいうと「レベルダイヤグラムを検討するときに、その方が考えやすいから」と言うことになります。第1話で音波も電波もその振幅(エネルギー)は伝搬して減衰しても、伝搬距離rの2乗に反比例して小さくなるだけでゼロにはならない事、そして受信側で聞き取れるかどうかは信号と雑音のレベルで決まる事を解説しました。このことが何を意味するかと言うと、伝送路にせよ、増幅器(送受信機)にせよ、信号レベルの配分は全てかけ算と割り算で表現されるということです。かけ算と割り算で表現されるレベル配分は、数値の振れ幅が非常に大きい一方で、SNRの評価(信号レベルが雑音レベルの何倍あるか)は非常に大きいレベルにおいても、非常に小さいレベルにおいても同じように行わねばなりません。これを縦軸が真数のグラフで表現すると非常に見づらいものになりますし、頭の中でぱっと暗算することも困難だ・・・ というのがその理由です。

(1) 真数で作成したレベルダイヤグラムの問題点
言葉で書いてもピンとこないかもしれないので、図1に示すようなシチュエーションで、実際にレベルダイヤグラムを書いて見ることにします。


図1 レベルダイヤグラムを作成するためのモデルシチュエーション

図1ではビル内の固定無線局から5km離れた携帯無線局に無線で送話しています。基地局の送信周波数は430MHz、送信出力は10Wで、アンテナ高は地上30m、アンテナ利得は2.14dB(モノポールアンテナ)とします。携帯無線局のアンテナもモノポールアンテナ、アンテナ高は1.5m、携帯無線機の受信回路構成は図1のようになっている想定です。一般にこのようなシチュエーションでは、アナログ通信ならFMが使われますが、ここでは話を簡単にするためにSSBで通信している事にしました※1。固定局から移動局までの増幅率(減衰率)は、奥村・秦モデルの大都市条件※2で計算した値を用いる事にします。まず各ブロックでの利得(損失)とそこから計算される電力を表1に示します。個々のブロックの増幅率の値は、それなりに条件を仮定して設定した値ですが、ここではレベルダイヤグラムの縦軸を対数にする理由を解説することが目的なので、詳細説明は省略します。後日、個別に解説するつもりですので、ここでは「だいたいそんな感じなんだ・・・」と理解しておいて下さい。


表1 図1のシチュエーションにおける各ブロックの増幅率と出力電力

送信信号のSNRは20dB(100倍: 雑音電力が信号電力の1/100)で設定しました。音楽再生向けの高音質とはいえませんが、通話品質としては受け側で雑音が気にならないレベルに相当します。表1において信号電力は一つ上の段の値に自段の増幅率を乗算した値になっています。一方で雑音電力は一つ上の段の値に自段のブロックで発生する雑音電力(表外で計算。後日解説します)が足し合わされた値に増幅率が乗算された値になるので、下の段にいくほど、信号電力との比が小さくなっていきます※3。一般に雑音を発生するブロックはアクティブデバイスで構成された回路ブロックなので、最初20dBだった送信信号のSNRは、LNA(Low Noise Amp.)、IFA(Intermediate Frequency Amp.)・・・ と増幅器を通過するにつれて、少しずつ小さくなっていきます。

この様子をレベルダイヤグラムで確認してみましょう。図2は信号電力と雑音電力の変化を真数の縦軸で示したものです。



図2 縦軸を真数で表現したレベルダイヤグラム

グラフの赤の折れ線が信号電力を示し、グレーの折れ線が雑音電力を示します。横軸は回路ブロック名が書かれており、縦軸の値は各回路ブロックの出力電力を示しています。(従って、このグラフはいわゆる「折れ線グラフ」であって、散布図ではありません。)

その縦軸は、図2では4つのレンジに分けてグラフ化しています。どういう事かというと、最大レベル(ここでは送信アンテナ出力(EIRP)の16W)に合わせて目盛りの最大値を決めると、受信機内部の信号電力は0W付近に貼り付いて増減が全く解らず、信号レベル全体の増減を把握するためには、①~④の4つのグラフで記載せねばなりませんでした。これでは信号が左から右に伝わる様子がよくわからないですね。ということで少し書き方を工夫したのが図3です。


図3 書き方を工夫してみた結果

これでスペースも小さくなったし、少しは見やすくなったかなと自画自賛するのですが、雑音電力のグラフは下に貼り付いた状態で、SNRの変化を読み取ることは至難の業です。レベルダイヤグラムを真数で語ることが如何に困難かおわかりいただけましたでしょうか。

  • ※1 SSBの復調は周波数変換と同じなので、無損失回路で復調した場合の変換利得は-6dB(振幅が1/2)となります。FMの場合は周波数変化から振幅を取り出すので復調回路の変換利得を一意に定義することができません。
  • ※2 奥村・秦モデルを用いた伝搬損失の計算は日本電業工作(株)から下記URLで提供されている計算ツールを用いて行いました。
  •   伝搬損失 | 電波関連計算ツール | DENGYO 日本電業工作株式会社
  •   (計算条件) 市街地(大都市)モデル
  •        周波数:430MHz
  •        基地局アンテナ高:30m
  •        移動局アンテナ高:1.5m
  • ※3 信号電力と雑音電力の比が徐々に小さくなっていく理由を詳しく知りたい方は、Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話の第27話をご参照下さい。

(2) 対数で作成したレベルダイヤグラム
レベルダイヤグラムには、①1×1010倍を超えるレンジを表現できる、②100倍以上の比の変化を細かく読み取る・・・ という機能が要求されるのです。そこで対数目盛の登場です。まず表1の信号電力と雑音電力を対数に変換したものを表2に示します。


表2 図1のシチュエーションにおける各ブロックの利得と出力電力(対数値)

電力の単位はdBm(デービーエム)と読み、1mWを0dBとして電力を表す単位です。表1では信号電力は一つ上の段の値に自段の増幅率を乗算した値になっていましたが、表2では一つ上の段の値に自段の利得を加算した値になっています。表1で述べたとおり、雑音電力は一つ上の段の値に自段のブロックで発生する雑音電力が足し合わされた値※4に利得が加算された値になり、下の段にいくほど、信号電力との差(表1では比)が(ほんの少しですが)小さくなっていきます。

これをグラフにしたものを図4に示します。


図4 対数レベルで作成したレベルダイヤグラム

図2、図3と比べて如何ですか?

まず、図2,図3で1枚で全てを表現できずに四苦八苦したグラフがあっさりと1枚になりました。視覚的に非常に扱いやすくなったといえます。そして、それよりも重要な事は各グラフの比が直読できる事です。通信に用いるアナログ回路のレベル配分で最も重要な管理項目はSNR(信号対雑音比)です。レベルダイヤグラムの縦軸をデシベルで表現すると、かけ算と割り算は全て足し算と引き算に置き換えられます。SNRは信号のプロットと雑音のプロットの比だったものが、差に置き換えられるので、グラフ上では信号レベルに関係なく一定幅です。つまり信号と雑音の比をグラフから直接読み取ることが可能になるのです。日常、我々がワット[W]やボルト[V]よりもデービーエム[dBm]やデービーマイクロボルト[dBµV]という値を好んで使用する理由はここにあります。

  • ※4 ここでいう「足し合わされた値」とは対数の和ではなく真数の和を示します。例えば自段のブロックで発生する雑音電力をNB[dBm]、一つ前の段の雑音電力をNA[dBm]とすると、両者の和NTOTALは(式2-1)の通りとなります。


    (式2-1)

3. 余談(音波の場合)

今回は電波(無線通信のリンクバジェット)を例にとって解説しましたが、第1話では音波を例にしましたので、音波(オーディオ回路)の領域でも同様に広い振幅を取り扱う必要があることを表3に示しておきます。本表は騒音の単位[dB(A)](昔は[ホン]と称した※5)と人間の感覚の関係を示したもので、日本マーツ(株)のHPに掲載されていたものに0dB(A)の定義を追記して引用させていただきました。本表によれば人の可聴限界の音量から飛行機のエンジンの騒音まで、音圧レベルで1×1012の振幅幅があると言うことがおわかりいただけるのではないかと思います。


表3 騒音値の基準と目安
引用元: 騒音計とは? 規格・種類・騒音値の基準と騒音の目安を解説 (j-marts.com)

  • ※5 似たような単位に[phon]というものがあります。これはラウドネスレベルと呼ばれる量で、やはり「音の大きさ」を示します。純音1kHzにおいては音圧レベル[dB]と等しい値をとり、その他の周波数では聴感上、同じ大きさに聞こえる値を等しい値としています。この周波数特性の補正曲線は「等ラウドネス曲線」と呼ばれ、フレッチャーマンソンの曲線が有名です。

4. 第2話のまとめ

第2話では“デシベル”の基本定義と、何故“デシベル”を使うのかについて簡単なレベルダイヤグラムを用いて解説しました。我々が取り扱う電波や音波の振幅の範囲が如何に広いか、そしてdBを利用すると如何に便利になるかがご理解いただければ幸いです。以下、第2話の要点です。

  • (1) dB(デシベル)とは、利得(電力利得)の単位[B](ベル)に×0.1を示す補助単位[d](デシ)がついたものであって、「デシベル」という名前の単位ではない。
  • (2) 「利得」とは入出力の比の常用対数値で、単位は[B]。従って[dB]で表記するときは常用対数の10倍の値である。
  • (3) 入出力の比を真数で表記する場合は「増幅率」「減衰率」という呼称を用い、単位は「倍」だが、一般に単位なしで扱われる場合が多い。
  • (4) 通信経路上や送受信機回路内の信号の大きさの変化幅は1×1010~1×1015に達するため、1枚のチャート(レベルダイヤグラム)に表現するためには対数表記(デシベル)を用いるのが合理的である。
  • (5) 対数表記にすることで、レベルダイヤグラム上でSNR(信号対雑音比)の変化を直接的に把握・管理することができる。(真数グラフでは比は直接読み取れない)

今回、当原稿のために初めて縦軸を真数にしたレベルダイヤグラムを作成してみましたが、やはりどうやっても実用的なグラフにはできませんでした。信号の大きさをデシベルで取り扱うことの意義を改めて再認識した次第です。次回からは様々な“デシベル”について、その定義をご紹介していきたいと考えます。

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