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無線をせんとや生まれけむ。

第六話 DRM放送を聴いてみる

無線(CQ)をせんとや生まれけむ。
短波(ラジオ)聞かんとや生まれけん。
呼ぶ、かの局の信号(こえ)聞けば
我が身さえこそゆるがるれ。

JF3SFU 永野正和

皆さま、こんにちは。この第六話をお読みの頃には、いよいよ梅雨入りかもしれませんね。いかがお過ごしでしょうか?

今年のゴールデンウィークは、ステイ・ホーム、ステイ・セーフということで、結局どこにも出かけず、家のかたづけや不要物の整理、それからその合間に、アマチュア無線と、BCLを楽しんでいました。(どちらがどちらの合間やら。。。)

大きな改善には至らなかったのですが、第四話のモノポールアンテナの調整(主にカウンターポイズの増設や引き回し変更)もしました。しかし、このアンテナは、なかなかの「不思議ちゃん」です。40mや30mバンドで、欧州やアフリカの深いところや、南米から応答があったと思えば、中近東はさっぱりダメとか、飛んだり飛ばなかったり、まだもう少し遊べそうな感じです。また、何とか80mバンドでも使えるようにしたいと研究中です。折をみて、また報告をさせていただきます。

それから、ご近所にTVIなどの電波障害や、電化製品に不穏な動き(笑)が無いかを、町内の人達に聞いてまわりましたが、特に問題は無いようで、まずは、ひと安心の今日この頃です。(笑) 先月は国内中波受信のお話でしたが、今月は再び短波帯に戻ってきまして、DRM(デジタル・ラジオ・モンディエール)放送を聴いてみたいと思います。

DRM放送とは

DRMは、Digital Radio Mondialeの略称で、デジタルラジオの方式の名称であり、また、その方式を制定する国際組織の名称でもあります。短波放送帯(海外では中波帯でも)を使ったデジタル放送で、受信状態が良ければFM放送並みの音質で放送を聴くことができます。実際の放送では、10kHzの帯域に音声データ(場合によっては、主音声のみならず、副音声も)、音楽データ、それから、文字やイメージ情報をデジタルデータとして送出します。放送の送信施設は、従来のAM送信機にデジタル・エンコードするシステムの追加だけで済み、大きな費用はかからないといわれています。

2003年に実施された試験放送の結果、素晴らしい音質で短波放送を楽しめるということが示され、北南米、欧州、アジア、オセアニアの名だたる放送局が放送を始めたのですが、リスナーの受信環境の問題(受信機の新規購入など)や、メディアとしての短波放送そのものの見直しなどで、順風満帆ではないようです。そのような状況にあって、中国などは様々な放送バンドで定時放送を実施していますが、短波帯を俯瞰(ふかん)して見渡しますと、限られた放送局だけが放送をしている感じがします。

放送局リスト(参考)

下表は、DRM PROJECT OFFICEのHP(https://www.drm.org)に記載されているプログラムリストです。日本で受信出来そうな局をピックアップし、放送時間を日本時間に書き換え掲載しました。

掲載にあたり、放送の確認を試みましたが、中国局を除き、受信できた局は多くはありませんでした。また、リストに掲載されている時間や周波数以外での放送も存在しました。リスト中で、放送を確認できなかった放送局は、下記の通りです。
・R. Kuwait
・R. New Zealand International
・All India Radio
・Radio Purga

現在の短波放送をとりまく環境や、新型コロナウイルスの問題などによる社会情勢を考えれば、この不確定さは仕方のないところかもしれません。更に粘り強く調査する必要がありそうです。


DRM放送リスト

IC-7851でDRM放送を聴く準備をする

放送を聴くために必要機材について記します。

①アンテナ
HFのアマチュア無線用のアンテナでどれくらい聴けるのだろうということで、先々月にベランダに建てた6.5m長(アンテナトップ地上高15m)のモノポールアンテナ(5mと10mのカウンターポイズ付き)を、ATUを使わずに使用しました。

②受信機: IC-7851
受信機は、短波放送が受信でき、アナログIF出力(12kHz)を外部に取り出せる端子を装備していることが必要条件です。アイコムのトランシーバでは、IC-7850/IC-7851のほか、IC-7300シリーズ、IC-7610シリーズ、IC-705にはこの出力端子があり、DRM受信機として使用できます。またIC-R8600にも出力ジャックが装備されています。詳しくは、各機種のマニュアルをご覧ください。

③接続ケーブル
受信機/トランシーバの端子から出力されるIF信号をパソコンのマイク入力につなぐケーブルを自作する必要があります。IC-7851では、背面のアクセサリ端子ACC-1、8ピン端子の5番Pinより出力を取り出すことができます。ケーブルは、ノイズがのらないよう、シールドケーブルを使用し、できるだけ短く加工します。コネクタ両端には、念のためフェライトコアを付けました。


3.5mmステレオピンはL/R共通結線、ACCコネクタはトランシーバの付属品です。

④DRMデコードソフト「DREAM」
これがなくては始まりません。ネットからダウンロードし、パソコンにインストールします。詳しくは、後述します。

DRMデコードソフト「DREAM」をインストールする

DRMそのものについての詳細な解説は、下記のアドレスのDRM PROJECT OFFICEのWebサイトをご覧ください。
https://www.drm.org

DREAMはDRMデコード(復調)ソフトウェアとして最もポピュラーなものだと思います。このソフトウェアはソースコードが公開されており誰でも無償で使用することができます。ダウンロードはこちらからおこないます。
https://sourceforge.net/projects/drm/files/dream/

ご注意:
・ダウンロードやパソコンへのインストールは、個人の責任で行ってください。
・上記のダウンロードページは時間によってダウンロードに時間がかかる場合や、ダウンロードそのものができない場合もあります。そのような場合は、しばらく経ってから再チャレンジしてください。
・DREAMはオープンソースのソフトウェアです。現在の最新版はVer.2.2ですが、最新版だからといってそれが一番良いとは限りません。

〇 DREAMのバージョンについて
DREAMには様々なバージョンがあります。オープンソースソフトウェアということで、様々な変更がなされています。これらの変更は、ユーザによっては、改良と思える場合もあれば、改悪となってしまう場合もあります。私は、現在のところVer1.13を使用しています。(Ver.1.14でも同様の機能があります。)最新版を使わず、Ver.1.13である理由は、下記の機能のどちらか、あるいはどちらもがVer.1.15以降では削除されているためです。

① スライドショー機能があること
KTWRの日本語DRM放送などは、放送中に美しいスライドを送ってくれるのですが、それらのスライドを見るためにはこの機能が必要です。


スライドショー(KTWR DRM日本語放送より)

②ログファイルに書き込まれる周波数がマニュアルで入力できること
DREAMには受信状態を自動で記録できるログ機能があります。下記のように、Evaluation Dialog WindowのLog Fileにチェックを入れることで、自動的にログファイルが生成されます。ログファイルの生成はチェックを外すまで続きます。

ログファイルには様々な受信状況を示すデータと共に受信周波数が書き込まれますが、その受信周波数は、チェックボックスの横のボックスにユーザがマニュアルでタイプする周波数です。新しいバージョンのDREAMではこの受信周波数を打ち込むボックスがなく、ログには空白、或いは実際の受信周波数とは全く無関係の周波数が記載されてしまい、後から編集する手間は大変面倒です。


13810kHz CNR(China) DRM放送を受信中


Ver.1.13 赤丸箇所にチェックを入れると受信ログが生成される


Ver.1.13 受信周波数13810(kHz)を入力する


Ver.2.11 受信周波数を入力するボックスがない

では、自動生成されたログをちょっと見てみましょう。このログファイルにはいろいろな受信状況のデータが記載されていますので、受信報告書とあわせて放送局に送るとよろこんでいただける情報です。

ログファイルは、DreamLog.txtという名前のショートログ(テキストデータフォーマットで記述される短いログ)、とDreamLogLong.csvという名前のロングログ(エクセルファイルフォーマットで記述される長いログ)があり、こちらには毎秒の受信データが記録されます。


DreamLog.txtとDreamLogLong.csvはここに格納されています。


Ver.1.13 ショートログ DreamLog.txtの内容


Ver.1.13 ロングログ 毎秒ごとの受信データがエクセルファイルとして生成されます。

また、その他にもPC上のウインドウサイズの設定がフレキシブルなことなど、Ver.2.1.1より良いなと思える部分がたくさんあり、現在はVer.1.13を使用しています。しかし、これは人それぞれです。スライドショーは見ない、ログファイルもいらないのであれば、Ver.1.13やVer1.14にこだわる必要はありませんね。

では、Ver.1.13を例に、ダウンロードからの手順についてお話しいたします。(バージョンが変わっても手順に大きな違いはありません。)

①ダウンロード
ダウンロードのページでは、様々なバージョンのDREAMのフォルダアイコンが並んで表示されています。ここでは、1.13を選択し、クリックします。すると、1.13フォルダの中が表示されますので、その中のdrm.-1-13.zipをクリックしダウンロードを開始します。


1.13をクリック


drm-1-13.zipをクリック

②解凍
ダウンロードが終了した後、ダウンロードフォルダのdrm-1-13.zipを探します。このフォルダを、解凍します。

まずはデスクトップなどにこのzipファイルを移動し、そこでダブルクリックしますと、新しく、drmというフォルダができます。複数のDREAMのバージョンを共存させたい場合は、フォルダネームをdrm1.13など、バージョンナンバーを付け足し、リネームされることをお勧めします。このフォルダの中にDREAMというアプリケーションのアイコンがあり、クリックすることでDREAMを実行することができます。

③DREAMの各種設定
受信機からのIF出力をDREAMへ入力する設定です。DREAMを起動し、SettingからPC入力を設定します。ちょっと文字化けしていますが(バグ?)気にせず、PCのサウンドボードへの入力に設定します。


DREAMへの入力設定

入力設定では、Rigからの出力とPCのマイク入力を調整し、レベルは、-10dBから-20dBあたりになるようにします。


入力レベル(緑のバー)は-20dBあたりを示しています。

次にDREAMでデコードされた音声信号を出力する設定を行います。入力と同じく、PCのサウンドボードを通じて音声が出力されるように設定します。


DREAMからの出力設定

次にViewからEvaluation Dialogをクリックしオープンします。


ViewからEvaluation Dialogをオープン

Evaluation Dialogのウインドウが開きましたら、Flip Input Spectrumにチェックを入れます。IC-7851のIF信号を使う場合、ここにチェックを入れないとデコードできません。

その他のオプションとして、私はReverberationにチェックをいれています。この機能は、信号が落ちた時に発生する短期間の音途切れを最小にするものです。また、チェックを入れているBandpass Filterは近接チャンネルからの妨害を低減する機能です。(どれくらいの排除能力があるのかはよくわかりません。)


Flip Input Spectrumにチェックを入れる

これで、DREAMの基本設定は終了です。

次に受信機(トランシーバ)、IC-7851の設定です。

〇トランシーバ(IC-7851)の設定
先ず、アナログIF出力の設定を確認します。IC-7300、IC-7610、あるいはIC-705でも、方法は違ってもおそらく同様の設定が必要です。

〇IFフィルタ幅の設定
IFフィルタの幅を10kHzに設定します。


IFフルタの幅を10kHzに設定

〇アクセサリ端子からIFを出力する設定
F7:SETボタン>ACCでACC-AのOutput SelectをIFにし、その後出力レベルの調整をします。出力レベルは、DREAMの入力レベルが-10dBから-20dBの間になるようにPCのマイク入力との双方で決定します。


アクセサリ端子からのIFとその出力の設定

これで、IC-7851の設定は完了です。

※DREAMでは復調しているはずなのに、音声が出ない場合があります。そのような場合は、SoDiRaというDRMの再生ソフトを下記よりダウンロードします。
http://www.dsp4swls.de/sodirasdr/main.html


sodiraSDRソフトウェアダウンロードページ

ダウンロードしたフォルダを解凍し、codecsというフォルダの中にあるlibfaad2.dllというdllファイルをDREAMの実行ファイルのあるフォルダに移動させると音が出るようになる場合があります。このファイルは、HE-ACCで圧縮された音声を再生するために必要なものです。


それでも音が出ない場合は、受信機や、ケーブル、ソフトウェアの設定の点検を再度行ってください。

DRM放送を聴く

ちょっと面倒にみえるダウンロードや、機器/ソフトの設定ですが、実際はそれほど難しいことはありません。

では、いよいよ受信です。最初にDRM放送を見つけましょう。放送周波数は前述の放送局リストや、直接放送バンドを探索して見つけてください。スペクトラムスコープをもつ受信機(トランシーバ)であれば10kHz幅の矩形のキャリアの発見は比較的容易だと思います。放送波さえ見つければ、「短波で、Hi-Fi。」、素晴らしい音質の放送を聴くことができます。下記は、5月の後半に受信することのできた、DRM放送です。

〇China National Radio/中国の声
大変強力で100%デコードできます。この周波数だけでなく、様々なバンドで放送をしています。大出力で安定しており、日中良く聞こえます。DRM放送をはじめて聴く放送局として最適です。



中国の声サウンド

〇BBC World Service
80%程度の復調率でした。BBCのワールドニュースは聴いていて安心です。



BBC World Serviceサウンド

〇Radio Romania International
リストにない放送周波数です。偶然見つけました。時々途切れる感じですが、まずまずの復調率でした。



〇KTWR
100%の復調率での日本語放送です。KTWRは音声放送に合わせて沢山の画像データを送信しています。30分の放送時間の間に20枚以上の美しい画像を見ることができます。この画像を見るためには、前述のMulti Media Dialog(スライドショー機能)のあるDREAMのバージョンを選択する必要があります。



KTWRサウンド

〇Voice of Nigeria
100%問題なく復調できているSNRでした(オールグリーン)が音声は聞こえませんでした。ねばって聴いていましたが、残念ながら、放送局のIDの文字データを送っているだけのようでした。



DRM放送を受信するその他の手段 (SDRを使う)

①ELAD FDM-S2
単体でDRM放送を受信することができますが文字や映像情報をデコードする機能がありません。音楽やお話しなどの受信だけでよいのであれば一番簡単です。DREAMのインストールは不要です。また、BCL用のSDRとしても優秀でお薦めです。


ELAD FDM-S2でCNRのDRMを受信中(2波見えます)

②PERSEUS他、IF出力機能をもつSDRを使う
下のスクリーンショットで使用しているSDRはPERSEUSです。私は2008年に購入、今なお、多くのBCLが使っていると思います。PERSEUSからのIF出力をDREAMに入力するため、VAC(バーチャルオーディオケーブル)というソフトウェアが必要です。(VACは有料ソフトですが、無償のものもあると思います。)


PERSEUSでDRM放送を受信中

ところで、今さらながらですが、SDRの筐体はこんなに小さいです。隣のSP-23と比べると小ささが良くわかりますね。


FDM-S2とPERSEUS

まとめ

DRMデジタル放送は、通常の中波放送や短波放送とは異なる可能性を示すものだと思います。占有周波数帯域は、一般の短波放送の倍程度必要ですが、受信状態さえよければ、音声のみならず文字や映像データなどを届けてくれます。弱点は、混信に強くないこと。それから、弱い信号では、信号をデコードできない場合があること、また、受信には、専用の装備が必要であることなどが挙げられると思います。手軽に手に入れられる簡便なDRMラジオが世の中に出回り、放送が増え、日本で沢山のDRM放送が受信できれば良いなと思います。

では、いつものように7851で一句。

「先進の、放送モードに、耳すます、わからぬ言語も、わかった気になり」

DRM放送は目からウロコ、いえ、耳からアカです。あまりの音質の良さに、知らない言語の放送もわかったような気にもなろうというものです。(笑)

ところで、IC-7851のIFフィルタの帯域を10kHz帯域のままで、通常の短波放送を聴きますと、かつてのBCLラジオを彷彿とさせる素敵な音で、放送を楽しめることに気がつきました。この感じは他のトランシーバでも同じだろうと思います。お試しになってみてください。


音の良いBCLラジオといえばこれ、クーガ115。私の独断です、はい。

この原稿を書いているさなか、日本では新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が解除となりました。しかし、油断は禁物です。引き続き、心身共に健康に気を付け、もうあと少しがんばりましょう。拙文をお読みいただいている皆さんとご家族、お仲間、お知り合い皆さまのご健康と安全を祈念致します。

それでは、Very Best 73&88。

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