From Steve's Workbench
これまでの月刊FB NEWSに掲載された私のWorkbenchの記事を振り返ってみると、無線機というよりアンテナに関するものばかりですね。部品の極端な小型化により、自作リグの製作はほとんど不可能になったようです。昔は、ハンダ付けとドライバーの使い方を知っている人なら、誰でも受信機や送信機をキットで、あるいはゼロから作ることができたものです。今では、コンパクトで洗練されたトランシーバーは、ほとんどがロボットなど自動化された設備によって作られ、ハムにとってデジタル技術は、はんだ付けやRF回路を作ることよりも重要となっています。
幸いなことに、ものづくりが好きな私たちにとって、アンテナは(まだ)小型化されていません。波長は波長だし、材料は昔と変わりません。加えて、以前にはなかった設計ツールや色々な情報に簡単にアクセスできるようになりました。8年前に再び免許を受けてから、本を読んだり、作ったり、実運用で試したりして、アンテナの最新情報を入手しました。特に面白かったのは、アマチュア衛星用の高性能アンテナの製作です。今月は無指向性アンテナ、来月は指向性高利得アンテナと2回に分けて紹介しますが、いずれも非常に安価に製作することができます。
(参考文献は記載しませんでしたが、ここで取り上げたすべてのアンテナについて、より多くの情報をインターネットで得ることができます。)
前回まではHFアンテナについてでしたが、おそらくほとんどのハムがVHFとUHF(V/U)も使っています。これらのバンドでは、小電力で信頼性が高く、ノイズのない見通し圏内のコンタクトが大きな魅力であり、リピーターは地方や移動中の局との交信に役立ちます。優れたFMトランシーバーは非常に安価になり、アンテナも適度に小さくなっています。ここでは、V/Uでのローカルコンタクトに人気の高い無指向性アンテナ「オムニ」を詳しく見ていきましょう。
まず、真の意味での無指向性とは、等方性の放射パターンだけです。これは物理学やアンテナの利得に関係する理論的な概念で、球の中心から全方向に等しく強い放射があることを意味します。地上波のV/U運用では、放射されるパワーは上方向ではなく、特に下方向でもなく、水平方向に向かって欲しいと思っています。このため、地上のある点から見て、北、東、南、西の全方向をカバーするアンテナを用意することが必要です。この放射パターンを実現するのが、単純な垂直ダイポールアンテナやグランドプレーンアンテナです。図1は、等方性の放射パターンと、私たちが通常考えている垂直ダイポールによる無指向性パターンの違いを示しています。
図1. 3Dによる各アンテナの放射パターン
垂直アンテナはその軸に垂直に、水平より上と下の低い角度で放射されます(図1b)。アンテナの真上には深いヌルが存在します。
図2. 垂直モノポールの放射パターン
アンテナの上部が地面や導電性の接地面に近い場合、図2のようにすべての放射はその面より上になります。垂直の「モノポール」は、ほとんどの電力が電離層に反射できる浅い角度で出ていくので、DX通信用のHF帯で有効です。
図3. 水平全方向のゲインが可能
V/Uの運用では、単純なダイポールやモノポールを超える利得を持つ全方位垂直アンテナは非常に人気があります。このアンテナは全方向に放射されますが、放射されたパワーはより狭い水平ビームに集束されます(図3)。これは、垂直エレメントの長さや数を変更することで実現できます。
ほとんどのアマチュア衛星には、地球からのアップリンク信号をVHFまたはUHFで受信し、他のバンドでダウンリンクを再送信するトランスポンダが搭載されています。搭載されている受信機は非常に高感度ですが、トランスポンダの出力が1Wを超えることはほとんどありません(ISSは例外)。これらの低軌道衛星は数百~数千kmと離れているため、地球に届く信号は通常弱くなります。
HF帯では、信号の偏波は大気、地球、その他の物体によって変化し、偏波マッチングは重要ではありません。VHF以上の周波数では、信号の伝達を最大にするために、送信側と受信側のアンテナは同じ偏波(垂直、水平、右旋または左旋円形)である必要があります。フェージングの原因は、多くの場合、衛星が回転してアンテナの偏波を変化させることです。地上局のアンテナの中には、偏波を変えて一致させることができるものもありますが、円偏波のアンテナは、正しい偏波のアンテナと比較して、わずかな信号の損失で水平・垂直偏波の両方を受信することができます。
低軌道衛星(および航空機)は、あらゆる方位角、仰角で上空を移動しています。アマチュアの低軌道衛星は、衛星の位置や偏波に向きを変えられる携帯用アンテナでも、条件が良ければほぼ全てのアンテナで受信することが可能です。指向性アンテナと衛星の方位角(水平位置)と仰角を追跡するPCソフトは、本格的な衛星マニアが使用しますが、市販の高利得アンテナや専用のローテーターは高価です。しかし、よりシンプルで安価な無指向性アンテナでも衛星通信を行うことができます。
図4. 私の「ハイブリッド」固定仰角指向性アンテナと無指向性アンテナ
私は「ハイブリッド」アンテナ設備(図4)を使っています。指向性アンテナで衛星の方位を固定仰角で追尾しています。これにより、仰角0度から45度付近までの水平方位360度の「ドーナツ」をカバーします。衛星が高度を上げると、無指向性アンテナに切り替えて、ドーナツの穴を埋めるようにします。
今回のプロジェクトで、私は金銭的には少ししか節約できませんでしたが、アンテナ製作の楽しさと知識の両方を得ることができました。
そのため、人工衛星に使用される全方位アンテナは、上向き方向に対してほぼ等しい利得が必要となり、真の等方性アンテナの半分のパターンとなります。このパターンに最適化したアンテナは、携帯端末、方位の定まらない宇宙船、航空通信、アマチュア衛星用として開発されています。
図5. 無指向性衛星地上局の理想的な放射パターン
図2のように、ローカル通信用の垂直オムニでは、真上で深いヌルが発生します。衛星は天頂に向かうにつれて地球に最も近づくので、頭上の低利得は許容されますが、深いヌルは許容されません。低軌道衛星や空対地通信に理想的なパターンを図5に示します。それを実現する設計を紹介します。
・ターンスタイルアンテナ
最も単純な(ほぼ)等方性無指向性アンテナはターンスタイルで、基本的には図6に示すように2つの水平ダイポールを直角に取り付け、給電しています。放射パターン(図7)は、電力の半分が下向きになるので理想的ではありませんが、ターンスタイルは放射パターンを改善した多くのアンテナ設計の基本となっています。
図6. ターンスタイルとして2つのアンテナに給電・整合するための基本的な構造
図7. シンプルなターンスタイルアンテナの放射パターン
放射パターンの上半分だけが必要なので、ターンスタイルの下に金属板などの平らな反射面や、もう1組の交差したダイポールを追加します(図8)。反射された電波が上方への放射を増強します。これは私が最初に作ったアンテナですが、2m用では金網の反射板が風を受けて構造が不安定になりました。
図8. 反射板を追加した基本的なターンスタイルアンテナ
・リンデンブラッドアンテナ
リンデンブラッドアンテナは、商業通信や航空通信に広く使用されています。バンドごとに4つの折り返しダイポールを異なる角度で配置し(図9)、複数の位相ラインを通して給電するため、複雑な構造に見えますが、寄生エレメントと少ない同軸接続を用いたよりシンプルなバージョンも存在します。
図9. 折り返しダイポールを使用したVHF用リンデンブラッドアンテナ
・QFHアンテナ
新しい無指向性デザインで、性能と同様に美しさでも興味を持ったのが、ほぼ完全な半球パターンを持つ円偏波のQFH(Quadrifilar Helix)アンテナ(図10)です。宇宙研究者や気象衛星の受信用として人気があり、ネット上でも多くの詳細図面が公開されています。来月解説する指向性のある軸モードのヘリカルアンテナと関係があります。ヘリカルの支え方が違うので、作るのはちょっと難しいかもしれないと思っていましたが、最近アマチュア衛星用にリーズナブルな価格の市販品を見かけるようになりました。
図10. QFHアンテナの詳細な構造図
・エッグビーターアンテナ
現在、アマチュア衛星用の市販の“オムニ”で最も人気があるのは、“エッグビーター”(図11)です。これはターンスタイルアンテナを改良したもので、図12に見られるようなパターンを実現しています。数社で製造されていますが、やや高価です。多くのハムが(コストをかけて)受信用プリアンプを使っており、衛星で良好な結果が得られたと報告しています。このアンテナは、2つの全波長ループを互いに直角にし、90度位相をずらして水平な反射板の上に取り付けたものです。この構成では、アンテナは無指向性で円偏波です。一方のループから他方のループへの給電を変更すると、右旋偏波(RHCP)と左旋偏波(LHCP)の偏波が切り換えられます。
(左)図11. V/U衛星用「エッグビーター」
(右)図12. エッグビーターターンスタイルループの放射パターン
・モクソンターンスタイルアンテナ
モクソンアンテナは、1960年代に開発されたシンプルな2エレメントのシングルバンドアンテナで、HFとV/U八木設計のエレメントとして広く使用されています。フルサイズの2エレメント八木アンテナとほぼ同じ利得と前後比を持ちながら、はるかに小さなスペースで実現できます。オンラインでの計算式により、基本的なアンテナの設計は簡素化されています(図13)。
図13. モクソン長方形型の構造
図14. モクソンターンスタイル衛星アンテナ
アンテナ専門家の故L.B. Cebik氏は2001年にモクソンターンスタイルを発表しました。これは、上方に向けられ、互いに直角に向けられた2つのモクソン長方形で構成されています。フィードラインは一方の長方形の放射エレメントに接続し、フェーズラインはもう一方の長方形に接続されています。それぞれの長方形は共振時に50Ωに近いインピーダンスを持つため、並列インピーダンスは25Ωとなり、50Ωのフィードラインにマッチするように変換されます。
放射パターン(図15)は、私の指向性アンテナを補完するのに良さそうなので、古いテレビアンテナの部品で2m用のものを作りました(図16)。エレメントを切り詰めると、146MHzを中心とした広帯域の低VSWRが得られました。
図15. モクソンターンスタイルの放射パターン
残念ながら、435MHzのモクソンターンスタイルの製作には成功しませんでした。435MHzのサイズはかなり小さいので、図13に示した寸法や、位相調整部、整合部のわずかな変化が共振周波数やVSWRに影響するのです。調整するのはほとんど不可能と判断し、結局あきらめました。他のハムも、435MHzの製作に苦労しているようでした。Cebik氏も難航しているようで、モクソン長方形型を1つだけ使うことを勧めています。
図16. 私のアンテナ (左): 435MHzダブルクロスダイポール、(右): 145MHzモクソンターンスタイル
・ダブルクロスダイポール
これは、クロス型ターンスタイルとリンデンブラッドの発展型です。図17(左側)のように4つのダイポールを取り付け、長方形の放射パターンを作り出します(図18)。X軸に沿ったヌルは、2組目のクロスしたダイポールを追加することで埋められます。2組目のダイポールを1組目のダイポールから90°ずらすと、4つのダイポールアレイは扁平な半球状の放射パターンになります(図19)。
図17. (左): ダブルクロスダイポール、(右): シングルクロスダイポール
図18. シングルクロスダイポールからの放射パターン
このアンテナは、420MHzから460MHzまで広範囲で低VSWRに調整するのが簡単で、作るのが楽しいアンテナでした。私の製作したものは図16の左側のものです。しかし、ダブルクロスの放射パターン(図19)は、低仰角で最大の利得を必要としない私のアンテナシステムには、あまり理想的ではありません。ダブルクロスは十分に機能しますが、UHFの天頂の利得がもう少しあればありがたいのです。
図19. 気象衛星用ダブルクロスアンテナの受信パターン
いずれにせよ、高利得指向性衛星アンテナの製作は、さらに楽しいものとなりました。ぜひ来月もご期待ください!
追記: ダブルクロスダイポールを2年間使用した後、最近もう一度435MHzのモクソンターンスタイルに挑戦してみました。Cebik氏の発表について、このアンテナの情報が更新されていました。彼の寸法に忠実に1つの長方形を作りました。何度も調整した結果、もはやきれいな長方形ではなくなりましたが、長方形に似ていない分、スミスチャートとVSWRは良く見えました。将来、もう一つ雑なモクソンを追加して完成させるかもしれませんが、今はこの記事で完成させた、435MHzのダブルクロスを使い続けたいと思います。
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