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第三十六回 電圧可変抵抗器の考察


Dr. FB

電圧の可変で抵抗値が変わる素子

オペアンプを用いた増幅回路では図1に示すようにR1とR2の比が電圧増幅度Avを決定します。このR1、R2に可変抵抗器を用い、それらの抵抗値を可変することで増幅度を連続に可変することができます。ところがこの可変は手動です。例えばArduino等で電気的に自動で増幅度の可変を行いたいとき、電圧の変化で抵抗値の変わる素子があればたいへん便利です。


図1 オペアンプを使った増幅器の増幅度の計算

電圧の変化で抵抗値が変わる素子としてFETがあります。ゲート・ソース間の電圧の変化でドレイン・ソース間の抵抗値が変わることからR1、R2にFETのそれぞれドレインとソースのリード線を接続することも考えられますがFETは3端子であるため回路内での使用には少々工夫が必要です。そこで入出力が独立した4端子の電圧可変抵抗器を考えます。これなら図1に示したような増幅回路に図2のように組み込むことができます。


図2 電圧の可変で増幅器の利得を調整する回路

電圧可変抵抗器の構造

FET以外で電圧の変化で抵抗値が変わる素子を考えます。図3に示すように発光ダイオード(LED)とCdSセル(CdS)の組み合わせで実現できそうです。CdSは光導電体素子で、部品の表面に当たる光の量で抵抗値が変化します。光がセルの表面に当たると抵抗値は数kΩまで低下し、光が遮断されると数MΩ以上の非常に高い抵抗値を示します。この光をLEDで発生させ、CdSで受光します。表題では電圧可変抵抗器と呼びましたが、この素子は一般にはアナログリニアフォトカプラ、あるいはアナログフォトカプラ(以後フォトカプラ)と呼ばれています。


図3 フォトカプラ(電圧可変抵抗器)の構造

この素子は、入力に電圧を加えLEDに適当な電流を流すとLEDが発光し、その光を受けてCdSの抵抗値が低下するというものです。この関係をもった素子は様々な電子回路に応用することができます。また、入力と出力とは光が媒体となっているため、電気的に両者の接続はありません。そのためアイソレーションを大きく持たせたい回路には効果があります。使用する個所にもよりますが日常我々を悩ますRFフィードバックによる干渉の減少につながるかもしれません。気になる点は、入出力が線形であるかどうかですが実験を通してその特性を調べてみます。

電圧可変抵抗器の製作

上記図3の構造を考えながら製作します。準備するものは図4左側の写真に示した3点で、それぞれLED、CdS、それに5D-2Vの編線と芯線を取り除いた外被です。LEDの発光色はどのようなものでも構いません。


図4 フォトカプラの製作

5D-2Vの外被、約1.5cmの両サイドからLEDとCdSを挿入し、それらを接着剤で固めます。このとき、フォトカプラの中に外の光が入り込まないように接着剤は黒色を使うことがポイントです。完成したフォトカプラとその断面を切り取り、内部が見えるようにしたものを図4に示します。

フォトカプラの特性

LEDの発光色や形状はフォトカプラとしてどのような組み合わせがよいのか、また何をもって良しとするのか難しいところです。

まずは緑色のLEDとCdSを組み合わせて製作します。LEDの型番は分かりませんが、CdSは秋月電子通商で購入したもので、部品名はGL5537-1です。実験は図5のような接続で、LEDに流す電流値とその対面に取り付けたCdSの抵抗値の関係を調べます。


図5 LEDに流す電流とCdSの抵抗値の関係を調べる実験回路

LEDに電流を流すとフォトカプラの内部では発光はしているのですが気になるところです。断面を少し切り落とし内部の発光状態を確認したものが図6です。

入出力の関係は、およそ検討はつきますが反比例の関係を持っています。LEDに流す電流が0から1mAまでは抵抗値は大きく変化していることが分かります。ある程度、電流が流れるとそこから大きな抵抗値の変化は見られません。

このフォトカプラを図1で示した増幅回路のR1あるいはR2に使用するとフォトカプラの特性そのものが増幅度に反映されることは容易に分かります。


図6 LEDに流す電流とCdSの抵抗値の関係

3種類のLEDでフォトカプラを製作

先の実験では緑色のLEDを使いましたが、さらに青(B)と白(W)を加えた3種類のLEDでも実験を行いました。その結果を図7に示します。LEDに流す電流の大きさで抵抗値が大きく変化したのは図7のオレンジ色のラインで示す白色光のLEDでした。また電流値が10mAに近づくと抵抗値が著しく低下したのは、青色と緑色発光のLEDでした。発光色の違いによる抵抗値の違いは、CdSの光に対する周波数特性か、あるいはLED単体の仕様によるものか、そこまでは実験では確かめていません。


図7 3種類のLEDによるフォトカプラの特性


図8 入力電圧の変化に対する抵抗値の変化

フォトカプラを実回路に挿入した実験

フォトカプラ(W)を図9に示す非反転増幅回路に挿入して、電圧(Vctrl)の変化による増幅度(Av)の変化から出力レベルの変化を調べます。回路に挿入したフォトカプラ(W)は、電流の変化で一番抵抗値の変化量の大きかった白色光のLEDです。


図9 フォトカプラを非反転増幅回路に挿入して電圧の変化に対する増幅度の変化を調べる

非反転増幅回路の電圧増幅度は、冒頭の図1でも示したように次式で求めることができます。


ここでR1はフォトカプラの抵抗、R2は固定抵抗で実験では47kΩとしました。LEDに直接電圧を加えると仕様以上の電流が流れ、LEDが壊れるおそれがあるため、1kΩの抵抗を直列に挿入しています。これでLEDには最大で10mA程度の電流としています。

フォトカプラに印加する電圧を変化させたときの出力信号のレベルをプロットしたものが図10に示したオレンジ色の曲線です。


図10 電圧の変化に対する出力レベルの変化

実測値の検証

図8と図9から利得制御電圧Vctrl=3Vのときの非反転増幅回路の増幅度と出力レベルを検証します。図9に示す回路の入力Vinには1kHzの正弦波115mVを加えます。Vctrl=3Vのとき、フォトカプラの抵抗値R1は図8から読み取れるように11.9kΩでした。これらR1=11.9kΩ、R2=47kΩ、それに入力信号レベルVin=115mVからVoutを公式から求めると569.2mVと算出することができます。実測値は図11に示したように568mVであり、計算値と実測値がほぼ合致していることが分かります。



図11 実測値と計算値の差

同様にVctrl=5Vのときを検証します。このときのフォトカプラの抵抗値は図8より3.9kΩです。出力レベルは、計算値が1490mVに対して実測値は1100mVでした。大きくずれています。この増幅度を決定する抵抗値の変化がy=1/axのように反比例となっているため仕方がありません。それでも非反転増幅回路ではフォトカプラに印加する電圧Vctrlと増幅回路の出力レベルは図11のようにバッチリ線形とはいいがたいですが、y=ax+bに近い線形特性となっていることが分かります。

フォトカプラの応答特性

今回のLEDとCdSの組み合わせのフォトカプラによく似た素子でLEDとフォトトランジスタを組み合わせたフォトカプラもあります。発光素子はLEDで同じですが、受光はフォトトランジスタですので応答速度は速いです。今回実験したフォトカプラの組み合わせの応答速度を測定してみました。

フォトカプラの入出力の応答速度を図12に示します。入力のLEDに100Hzの矩形波を入力します。出力のCdS側に流れる電流の大きさをオシロスコープで観測すると、立ち上がりで460µsの遅れを生じていることが分かりました。フォトトランジスタとの組み合わせによるフォトカプラでは、10µs前後ですから応答速度を要求される回路には考慮が必要です。


図12 フォトカプラの応答特性

最後に

電圧の変化で抵抗値の変化をもたらすフォトカプラの製作とその特性を、実験を通して調べました。機会があれば、このフォトカプラを使った電子回路で電子工作を楽しんでみたいと思います。

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