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PHONEで楽しむQRP通信

第2回 QRP(出力5W以下)でのマリタイムモービル

JE1ECF 斎藤毅

2023年8月15日掲載


1 はじめに

筆者は2006年から毎年、JD1小笠原(主に小笠原村父島)にてアマチュア無線を楽しんでいます。

今年もこの時期がやってきました。小笠原村はアマチュア無線家にとって特別な場所として扱われており、この地域から発信される電波に対して交信したいと考えるアマチュア無線家は日本のみならず、世界中に多く存在します。故にこの地域でアマチュア無線を運用することは一種のステータスになっています。

アマチュア無線と小笠原については他のアマチュア無線家が自身のホームページ等で解説しているのでそちらを参照していただきたい。

2 おがさわら丸

この小笠原村父島への交通手段は不定期のクルーズ船による立ち寄りを除き、飛行機ではなく、定期船おがさわら丸(貨客船)のみであり、現在は3代目おがさわら丸(11,000t、旅客定員894名)が2016年7月に就航して東京竹芝桟橋と父島二見港を24時間で結んでいます。通常は1航海6日間の行程となります。

このことから、おがさわら丸は小笠原在住の方々の生命線という役割を担っています。今回の乗船旅客数は往路では549名、復路では500名でした。おがさわら丸をフェリーと称している方がいますがこれは間違いであると筆者は考えます。


父島二見港に停泊中


二見港対岸から臨む

おがさわら丸



島民からの寄せ書き

おがさわら丸の船室は等級で分けられています。筆者の利用する船室は2等または特2等です。船室の紹介や料金についての記載は、おがさわら丸を運行する「小笠原海運株式会社」のホームページを参照されたい。
小笠原海運 (ogasawarakaiun.co.jp)

3 小笠原協会

小笠原へ行くには時間と費用を要するイメージがあります。筆者は十数年前に小笠原で知り合った方からの紹介で「公益財団法人 小笠原協会」の賛助会員となり、賛助会員の特典【おがさわら丸の運賃割引制度(船室:2等和室、2等寝台及び特2等 いずれも2割引き)】を利用しています。小笠原に興味がある方は「公益財団法人 小笠原協会」のホームページをご覧ください。
賛助会員申し込み | 公益財団法人小笠原協会 | 東京都港区 (ogasawarak.org)

余談になりますが、日本アマチュア無線連盟(JARL)東京都支部では設立50周年記念行事として小笠原ペディションを2023年11月に計画されています。旅費は個人負担となるとお聞きしましたので支部長には同協会を紹介しました。

ここで、ホームぺージへのリンクの掲載を許可いただきました小笠原海運様、小笠原協会様にはお礼申し上げます。

4 アマチュア無線マリタイムモービル(MM)運用

さて、24時間の船内での過ごし方はというとアマチュア無線家なら、やはり船上での無線運用(海上移動運用、マリタイムモービル)でしょう。無線局免許状に記載されている移動範囲の「陸上、海上及び上空」のうち「海上」を活用できるときであります。

マリタイムモービル(MM)の定義は諸説ありますが、ここではあえてマリタイムモービル(MM)と称します。MMと表記することからミッキーマウスということもありますが、マリンモービルという言い方は間違いになります。

筆者はデッキに出られる時間内(22:00まで)は無線交信、それ以外の時間は交信記録の整理(ログ整理)を行っています。今回の運用は2023年6月4-5日(往路)、2023年6月8-9日(復路)でした。

筆者は上記より2006年からおがさわら丸でのQRPによるMM運用を行っています。2008年からは思うところ(他者の所有する場所であることを理由に)があり、以下の事項を提示して小笠原海運に許可を取って運用するように努めています。小笠原海運様につきましては、毎回、お手数をお掛けしております。ありがとうございます。

提示内容
 乗船日: 往路(東京竹芝→父島二見港)2023年6月4日~5日
     復路(父島二見港→東京竹芝)2023年6月8日~6日
 申請・運用者: 斎藤 毅(呼出符号JE1ECF)
 運用場所: おがさわら丸(6デッキ、7デッキ、8デッキ)後方
 運用周波数: 7MHz帯、18MHz帯、21MHz帯、24MHz帯、
       28MHz帯、50MHz帯、144MHz帯、430MHz帯
 運用電波形式: SSB・FM
 運用出力: 空中線電力5W以下
 使用アンテナ: ホイップアンテナ
 使用電源: 小型充電池
 運用時間: 日の出から21時頃までの常時
 運用上の諸注意:
 ・他のお客様のご迷惑にならないよう配慮して運用いたします。
 ・運用出力が小さいため、船の設備(無線設備、放送機器等)への影響は無いと思われますが
   影響が出た場合は直ちに運用を中止いたします。
  【電波法に則る】
 ・天候により船内係員から運用中止の指示が出た場合、指示に従うものと致します。
 ・新型コロナウイルス感染防止に伴い、船内係員の指示に従い、密にならないように致します。
 申請者住所・氏名・連絡先: ※実際には記載、WEBにつき省略。

★★★運用許可のウラ話★★★

運用場所は船体後方が指定されます。
使用アンテナはHF帯や50MHzではダイポールアンテナは使用不可でした。
但し、144MHz帯3エレ八木、430MHz帯5エレ八木の小型アンテナは使用可でした。
運用時に使用する電源は、船内AC100V電源は使用不可。電池・小型バッテリーのみ使用可でした。

船上での運用場所は船体前方は業務系アンテナ群があるため運用できません。船体後方の6デッキ、7デッキ、8デッキのいずれかを他の乗客の状況や天候をみながら、都度選定しています

8デッキは最上階のため、電波の飛びは最高と思われがちですが風の影響が大きい場所です。おがさわら丸は洋上では速力24ノット(時速44キロ)程度で航行していることからそれなりの風を受けます。6デッキは屋根があるため、小雨時運用の際に使用していますが周りに遮蔽物が多く電波の飛びはイマイチです。

ということで運用場所は開放感があり、風の影響を受けにくい7デッキに落ち着きます。なお、悪天候時はデッキが閉鎖されるので無線運用はできなくなります。


おがさわら丸前方の業務用アンテナ群


デッキ甲板


これまでMM運用で使用した無線機(リグ)はFT-817、HT-750、KX-3でしたが近年はIC-705 5W運用となっています。過去にはFT-817で1Wにて運用することもありました。

3代目おがさわら丸で使用するアンテナはホイップ系のアンテナが主流です。ビデオ三脚やマグネット基台を船体に取り付けて運用しますが、近年は前者のビデオ三脚を使用することが多くなっています。

今回使用したアンテナは2.6mのロッドアンテナがベースでコイルとアンテナチューナーを併用したマルチバンドのホイップ系アンテナです。下は7MHz帯から28MHz帯まではコイル併用、50MHz帯はベース部にワイヤーを追加した1/2λ電圧給電アンテナとして動作します。バンド切換はロータリースイッチとワニ口クリップで行います。HF帯運用時は合わせて疑似アースワイヤーを取り付けます。144MHzと430MHzはダイヤモンド社のRH-770を使用しました。






セッティング


アンテナ


筆者

電源については2代目おがさわら丸では、デッキ入口付近にコンセントがあったので船内のAC100Vも使用できました。しかし、3代目おがさわら丸ではデッキ入口近くにコンセントがないためAC100Vは使用できなくなりました。そのため、外部バッテリーを用意して運用しています。過去にはDC12V 7Ah程度のシールドバッテリーを用意し、SSBであれば約8時間は運用できました。近年では高容量かつ軽量なポータブル電源を持参しています。

今回はIC-705の純正バッテリー(BP-272)を使用しました。筆者の場合、使用環境によりことなりますが、1つのBP-272で概ねFM運用で1時間強、SSB運用で2時間程度使用できています。なお、使用後のBP-272は夜間に充電しました。


持参したBP-272


MM時のオープニング画面


無線運用では運用地を明確にします。陸上であれば「運用地はJCC#10✕□ 〇□市」といった表現が可能ですが、海上ではそういうわけにいきません。ですから筆者はMM運用の際はGPSを携帯し、交信時の緯度経度を記録し、QSLカード(交信証)に記載しています。

IC-705にはGPSが搭載され、受信時緯度経度を表示できますが、送信時には表示が消えてしまうことから、筆者にとっては使い勝手がよろしくありません。よって、今回も今まで通り個別にGPSを携帯して運用しました。


QSLカード(交信証)の例 表・裏

※添付のQSLカードは交信相手が記念局(QSLカードは相手局からのみの発行)であったため、実際には未発行です。

船上で運用をしているとよく周囲の方々から「何をやっているんですか?」、「昔、アマチュア無線をやっていたよ。何メガでやっているの?」、「どこまで電波が飛びますか?」など声をかけられます。(移動運用あるある)

また、島へ到着してからは「おが丸で無線やっていた人ですよね。調子はどう?」などとコミュニケーションの輪が広がります。
 ※「おが丸」はおがさわら丸の略称です。

過去に硫黄島墓参団と同じ船になることが度々ありました。祖父母が旧島民でアマチュア無線をやっているという青年と出会ったとき、復路(帰りの便)で「今回初めて、祖父母が住んでいた家の近くまで行くことができたんですよ」とうれし気に語ってくれたことは今でも記憶に残っています。現在、硫黄島墓参団は残念ながら諸事情により中止されているそうです。

今回の運用での交信局数は往路(竹芝→父島)78局、復路(父島→竹芝)72局、合計150局(国内のみ)とQSO(交信)できました。周波数別の内訳は以下のとおりです。


※18MHz SSBでは2WAY MM QSO(三重県志摩市沖)もできました。

また、余談になりますが父島ではQRO(50W)運用で延べ交信局数は723局でした。

過去の運用で運用情報がJクラスターにアップされましたが、おがさわら丸が漢字で表記されているものがあります。異なった船を指すことになりますので投稿者においては正確な情報を掲載するようお願いしたいものです。

最後になりますが、交信頂いた方ありがとうございました。QSLカード(交信証)は6/11にJARL東京都支部で開催されたセミナーにおいて発送(投函)済みです。

★★★IC-705ユーザーQSOパーティ(ICP)★★★

皆さん、ICPはいかがでしたでしょうか。ICPは他のコンテストの交信数をポイント(Pt)に加算できますが、筆者は6m AND DOWNコンテストにて普段QSOのできない社団局(クラブ局)や移動する局(ポータブル局)と積極的にQSOを行い、ポイント(Pt)を獲得し、その後、7/5にQRVしてICPを楽しみました。

このようにして参加賞獲得条件をクリアされQRP通信を楽しまれた方は多いと思います。お疲れさまでした。

★★★QRPプチ情報その1★★★

筆者はQRPでの各種QSOパーティやQRPミーティングを立案、実行しています。過去に都電を貸し切ってのQRP懇親会を開催しました。

コロナ禍が5類に移行したこともあり少人数にはなりますが、この都電QRP懇親会を2023年9月16日(土)にリバイバル開催いたします。都電モービルも可能です。参加者を募集します。参加条件は高校生以上でQRPに興味のある方。問合せはJE1ECFまで・・・。
  Email: t.saitoje1ecf(あっと)gmail.com
  ※(あっと)は半角@マークに変換。

件名を【都電QRP問合せ コールサイン】として送信してください。詳細を返信いたします。

★★★QRPプチ情報その2★★★

第1回でミズホピコトランシーバーについて触れましたが、このピコトランシーバーのVXOで使用しているポリバリコンの入手は現在、皆無となっていました。しかし、このところ中華製のものが入手可能です。筆者も購入しました。果たしてちゃんと使用できるでしょうか。今後、実験したいと思います。

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