2015年11月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第30回 続CW復調改善 その1

以前掲載した記事「CW復調改善」では復調時のチューニングの問題で実用になりませんでした。今回なんとかその改善をしたいと思い取り組んでみました。まずBA567による同期検波を色々検討しましたが、どうも安定度に不安があり、あっさりと信号に振幅制限をかけてシャープなBPFに通すだけにしてみました。

1.構成

今回考えた構成は次の図のようになります。

入力信号をアンプで必要なレベルに増幅します。またこのアンプに振幅制限をかけて信号の振幅変化を抑えることにしました。その信号をBPFに通しますが、今回は3段のBPFとして狭帯域にしました。

ただ、狭帯域にするだけならIFフィルターで狭帯域にしても一緒のはずですが、実際に聞いてみて違ったのはCW信号のスペース時のノイズが少ないことでした。IFフィルターは普通IF段の一番前についているため、その後のアンプで増幅されたノイズとAGCの影響でスペース時にノイズが上がってきます。今回のAF段のBPFはAGCが働かないため、スペース時にもこの対域内のノイズだけになり、相対的にノイズが減少して聞こえます。

しかし狭帯域になったことでチューニングが難しくなり、そのためチューニングインジケーターを付けることにしました。フィルターの中心周波数と同じ600Hzのレファレンスを作って位相、周波数検波器に入れ、その上下を表示するLEDを付けました。

2.回路

全体の回路図は次のようになりました。


(クリックで拡大します)

入力側のアンプはOPアンプ4558を使った普通の増幅回路ですが、D3とD4およびR74で振幅制限をかけています。

増幅された信号は以前に「CW復調改善」で紹介したBPFと同じ構成のものに通します。このフィルターはTwin Tノッチ回路を帰還回路に使ってBPFにしたものを3段使っていますが、位相キャンセル型のため素子間のバラツキが特性に表れます。それぞれの素子の絶対値の誤差はセンター周波数が少しずれるだけですが、素子間のバラツキは特性に表れます。このため、抵抗値もコンデンサーも測定して出来るだけ相対値の近いものを選別します。抵抗はデジタルテスターで選別可能ですがコンデンサーは測定器がないと選別困難ですので、もし可能なら誤差2.5%のものか1%のものが手に入ればベターです。私は手持ちのDELICA製のミニブリッジで測定しました。

このフィルターは途中のアンプのゲイン分だけ中心が持ち上がる特性のため、入力に対して出力は40dB近く上がります。これを補正するため、100Ω/8.2kΩで分圧して入力側でレベルを下げています。今回のBPFは3段なので急峻になっていて、以前の2段のBPFと今回の3段のBPFの特性は次のようになっています。

同調を表示する位相検波器MC4044は周波数/位相検波器となっており、これは発売された時から有名で、後から出たPLL用の位相検波器はほとんどこれと同じ構成になっています。このICはまだインターネット等で探せば手に入ると思います。現在販売されているON Semiconductors社のMCH12140でも使用可能と思われます。詳細は巻末資料をご覧ください。

入力周波数をレファレンス周波数の600Hzと比較し、高いか低いかでU1とD1の出力が変わりますのでそれを利用してLEDを点灯させます。


チューニングインジケーター

レファレンスは安定な信号を作るため、高い周波数の水晶発振を分周して作りますが、目的周波数が600Hzのため、できるだけ低い周波数の水晶振動子の方が分周比を少なくできます。この600Hzの周波数誤差はほとんど問題にならないため、水晶発振子の誤差や安定度など規格を気にせず使えます。

今回は手元にあった時計用の水晶と同様な音叉型の36kHzのものを使いましたが、実はこの発振に苦労しました。今まで高い周波数の水晶発振回路には慣れていたため同様な回路にしましたが発振しませんでした。色々調べてみると発振に使うインバーターに負帰還をかけるのですが、負帰還の抵抗が水晶に対して過負荷になっていました。また水晶振動子への電力を抑えるため直列に高抵抗を入れる必要があったようです。

このためこのインバーターのバイアスは、他のOPアンプ用に作ったVcc/2へ高抵抗で入力側に繋ぐことでやっと発振しました。このような時計用タイプの水晶での発振不良の課題はたぶん私一人ではないように感じます。参考にして頂くと幸いです。


(クリックで拡大します)

分周器はIC15のTC4040で分周し、36.0kHz/600Hzで60分周となりました。60を2進に変換すると111100となるため、これをIC16AのTC74HC21でデコードして2進カウンターTC40470をリセットします。リセットのパルス幅を安定にするためR71とC43で少し遅延させました。これによって1/60の分周器として働きます。

水晶発振バッファーの74HCU04の出力をそのままTC4040に入れると波形がなまっているためか誤動作することがあり、これを避けるため74HC14で波形を急峻にして入力しています。

時計用の32.768kHzの水晶をよくみかけますが、これを1/54にすると約607Hzになり、この7Hz程度の誤差であれば使用可能です。

3.組立

今回の試作も蛇の目基板に組み立てました。今回使ったICは古いものが多く、すべてDIPタイプの足間隔が2.54mmのものになりました。それぞれ機能をブロック分けします。測定と確認がやりやすいように端子をつけておき、確認後は端子間をジャンパーしておきます。

4.試験結果

入力から低周波発振器で信号を入れて中心に合わせると、きれいな600Hzの信号がでてきます。無線機から実際のCWの信号を入れ、出力にクリスタルイヤホンを付けて聞くと正弦波のきれいな信号が聞こえますが、急峻なためヒュンヒュンした感じです。

信号系の経路は単なる狭帯域BPFだけですが、入出力の信号波形は次のようになりました。上側がこのユニットを通した波形で、下側が受信機からの入力波形です。ノイズが減少していることが分かりますが、フィルターの特性で少し尾を引いているのが気になります。狭帯域を通過するため波形がなまりますが、耳で聞いた感じはそれほど影響を感じません。

5.問題点

チューニングをやりやすくするため、中心周波数の上下を示す表示を付けます。入力信号が連続したシングルトーンならうまく働きますが、CWの信号ではスペース時に信号はなくなりますので思ったような表示になりません。このため、信号出力の最大が分かるよう出力側にもLEDをつけました。それでも分かりやすくチューニングできるとはいえない状況です。

それから、もっと不都合なことが見つかりました。他局同士の交信を受信しているとき、両局の信号が少しずれていることは珍しくありません。この場合、どちらかの局にチューニングしていても、もう一方の局の送信が始まると、チューニングをやり直す必要があります。そのため、送信局が入れ替わるたびに、チューニングのやり直しを生じて、その間は信号がデコードできないことです。

次回は、この問題に取り組みたいと思います。

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