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楽しいエレクトロニクス工作

第58回 位相方式SSB (その1)

JA3FMP 櫻井紀佳

現在販売されている無線機はDSP(Digital Signal Processing)方式のものが多くなりました。その性能は理論通りかつ計算通りで素晴らしいものですが、原点に返ってアナログ方式も見直してみたくなりました。

アナログ方式のSSB発生方法は既に知られている通り、大きく分けてフィルター方式、位相方式、第3の方式等があります。この連載の「第6回 送信機」で色々な方式を紹介していますが、今回は位相方式をもう少し突っ込んで検討してみたいと思います。

位相方式のSSBは、基本的には搬送波に振幅変調をかけるとLSBとUSBの両側の側帯波ができますが、2組の側帯波を作ってLSBまたはUSBの位相を180°反転させてどちらかを打ち消して作ります。従ってこの側帯波を180°反転させる方法がそれぞれの方式になります。その詳しい説明は「第6回 送信機」をご覧ください。

キャリヤと音声信号の位相をそれぞれ90°変える位相方式のSSBでは、反対側の不要な側帯波の抑圧はほとんど音声信号の相互の90°位相差と振幅差にかかっています。振幅差と位相差に対する不要側帯波抑圧は次のようになっています。

不要側帯波抑圧比を最低-40dB以上取ろうとすると位相差は1°以内で振幅差は0.1dB
(1.02%)以内にしなればなりません。実際には相当厳しい値です。

真空管の時代から音声帯域の位相器PSN(Phase Shift Network)は色々な形のものが提案されていました。


それぞれのPSNは実用になっていましたが、帯域内の音声周波数毎の位相誤差はどの程度だったかはよく分かりません。当時はスペクトラムアナライザー等が使える状況になく、オシロスコープのXとYの端子にPSNの90°差の信号を入力して、いかに円形に近いかの所謂リサージュ特性で判断していました。

その後多段のPPSN (Polyphase Phase Shift Network)が発表され段数は多いのですが使用するCRの絶対値の誤差の許容が緩やかなように感じられました。その1例は次のようなものです。


6段のCRによるPSNは筒状に接続された構成になっています。ぞれぞれのCRの誤差は絶対値よりその系列の4個相互の相対誤差の方が大切なようです。出力側の4つの端子相互の位相は90°ずつズレていて測定値は次のようになりました。出力側端子aとcの反転、bとdの反転を接続すると相互に90°位相となって位相型SSBのPSNとして使えます。


(左)A-b間90°(中)a-c間180°(右)a-d間270°

このPPSNの4つの出力端子を順番に搬送波でスイッチして切り替えるとSSBができることをJA2KAI野沢さんが発見され、1993年のHam Journal誌に発表されました。Merry Go Round のようにくるくる位相が回るのでメリゴ方式と名付けられたようで、回る方向を変えるとLSB-USBが切り替わります。SSB発生の第4の方式として大発明と思われますが、その後メジャーにならなかったのはDSP方式が出てきて取って代わったためではないかと思われます。

既に野沢さんは詳細な設計までされていてその後多くの方が作られているので、ここで取り上げても新鮮さはありませんがSSB発生の1方式として実験してみたいと思います。
実はずっと以前に高精度のPPSNを作ろうと誤差が小さいCRを集めて作ったユニットを持っていました。回路とユニットの写真は次のようなものです。


これを使ったSSB発生回路は次のようになりました。このPPSNの音声信号レベルは1V程度を予定していますので、音声信号を2段のOPアンプで増幅します。IC1のOPアンプ2段で増幅し、帰還抵抗を100k/10kにすると20dBのゲインが取れますので、2段で40dBのゲインが取れます。

増幅された音声信号は非反転アンプのIC2Bに入力されゲイン1のためそのままのレベルでPPSNに出力されます。一方R31を通して同じゲイン1の反転アンプIC2Aにも入力された信号は反転してPPSNに出力されます。


このPPSNをSPICEでシミュレーションしてみますと低い周波数でレベルが上がっていましたのでC3を10nFにしてその補償をしてみました。その結果が次のようになりました。

PPSNの4つの出力端子からの信号はIC3とIC4のバッファを通してIC5の74HC4052のマルチプレクサーに入力され順番にスイッチされてX端子より出力されます。

PPSNの入力1VをIC3とIC4のNJM4560のアンプで2倍程度に増幅します。このアンプは出力インピーダンスをあまり低く取れないので、マルチプレクサー74HC4052を通したインピーダンス変換が必要です。この変換で一番簡単に思いつくのはEF(エミッターフォロワー)なので試してみることにしました。周波数は一応7MHzを想定したので2SC1815でも使えるのではないかと思います。
SPICEでシミュレーションしてみると20MHz位までレベルの変化はわずかしかありませんでした。

マルチプレクサーの切替は4端子の信号を切り替えるためA、B 2ビットのロジック回路で行います。IC3A、BのDFFでキャリヤ信号をロジック信号に変えますが、キャリヤを分周して結果的にA、B、2bitの信号として74HC4052に入力します。

配線図左下のXtalの端子に水晶発振子を挿入し、CP1とCP2に33pF程度のCを挿入すると発振回路として働きます。また、水晶発振子やCを挿入せずJ3に外部よりキャリヤ信号を入れるとIC4Bはバッファとして働きます。

この回路でSSB発生器として基板にまとめてみることにしました。


信号発生部 (右側12PソケットにPPSNユニットを挿入)


クロック発生部と電源部

これでSSBの信号は発生できますが、切替えクロックが矩形波のためスプリアスが多くBPFを通すことにしました。このBPFはLPFとHPFを組み合わせたものですがシミュレーションの結果は次のようになりました。


このフィルターのコイルはLPF側もHPF側も1.2μHですが、通販でも適当なものがみつからず、手元にあったコアにホルマール線を巻いて作りました。コアのμも分からないのでトラッキングジェネーターを頼りにカットアンドトライで作ったものです。

今まで作ったSSB発生器はアナログ素子を使ったものばかりでしたが、今回はマルチプレクサーや分周器などデジタルICを使ったため波形も矩形波でレベルも高く、ノイズの回り込みも多いように感じられました。そのためグランド回りの配線やシールドをうまくと取らないと回り込みのノイズが多く、あまりお勧めできないように感じました。

出来上がったユニットを実際の通信に使うためには送信出力を1W以上まで上げたいところです。このユニットの出力は0dBm(1mW)程度なので、1Wにするには30dB、50Wでは47dBのゲインのリニアアンプが必要です。

今回制作したもので無線局免許を受ける予定はないのですが、一応パワーアンプを考えてみました。使用した素子は手元にあった古いトランジスターばかりで、出力は目標10Wです。実際にはまだ作っていませんが、ドライブ不足で数Wしか出ないかも知れません。


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