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楽しいエレクトロニクス工作

第49回 スペクトラム拡散通信 その2

JA3FMP 櫻井紀佳

前回はスペクトラム拡散のDSについて基本的なことを検討しました。今回は実際に実験できるよう進めていきます。

前回の検討を元に全体の回路図を書いてみました。

それぞれの回路は部分的に組み立てて実験しますが、まずは全体の回路図の上から順に説明します。

一番上は、基準クロックの発生部分(Clock Generator)です。PN符号発生回路のクロックは1MHzを使いますので、クロック補正回路で2倍の2MHzが必要です。水晶発振回路の作りやすさと手持ちの水晶発振子の関係で10MHzの発振回路にしました。

この10MHzを1/5に分周して2MHzを取り出し、1/107に分周して1HzにしたものとGPSから取り出した1Hzとを位相比較したPLLで10MHzを補正します。位相、周波数検波のIC MC4044は「第30回 続CW復調改善 その1」に使ったものと同じものです。

10MHzの発振回路はPLL補正をするため、経時変化を含めた変動分よりも大きい可変範囲が必要です。この回路のバリキャップ1T32にかける電圧を変化させて±250Hz位変化できることを確認しました。

分周回路はすべてCMOSの74HC390を使います。このICは1/2と 1/5のものが2組入っているので使い分けていますが、1/10分周は先に1/5にした後で1/2にすることで出力のデューティサイクルを50%にしています。


上部Phase Controller,下部Clock Generator

回路図の中段は、前回検討した送受のPN符号を同期させるためのクロック補正(Phase Controller)部分です。送受信の同期をとるクロック補正回路の動作は前回検討したとおりです。クロック制御の端子に接続するロータリーエンコーダーは次のようなものを使いました。10kΩのプルアップ抵抗がついているのでこの電圧をパルス的に回転方向によって上下に振り分けます。


ロータリーエンコーダー

また、PN符号発生回路の受信部(RX P/N Generator)と送信部(TX P/N Generator)は回路図の下段のようになっており、その基板は下の写真のとおりです。なお、PN符号が広帯域になる理由を考える前に周期パルスのスペクトラムを考えると分かりやすいので、参考に巻末の資料をご参照ください。


PN発生基板 (送信部)

基準に使うGPSユニットは通販で購入しましたが、GPS衛星の電波が受信できる屋外に設置します。屋外で風雨にさらされても安定に受信できることと、耐久性を考えてプラスチック製密閉容器のケースに入れました。取り出す信号は1Hzなので高周波的な考慮はあまり必要ありませんが、外部からの雑音の影響などで波形が崩れないようシールド線を使って取り出しています。


GPSユニット

これでDSの回路としてはできたことになり、実際に実験してみます。拡散する元の1次変調された信号は144MHz帯のFM信号としました。1次変調の掛かった信号を作れば良いのですがわざわざこの実験のために作るのも大変なので、144MHz帯の無線機にアッテネーターを付けて信号を入力し拡散するミキサーに必要な0dBm近くまで減衰させます。


実験の構成


拡散ミキサーのDBM

実際には手元にあったハンディ機ID-92を使いました。この機種は最大5Wですが出力パワーを細かく設定できS-Lowでは100mWに設定できます。

この100mW出力の後に20dBのアッテネーターを通すと0dBmになり拡散ミキサーに入力することができます。この信号とPN信号もこのミキサーに入力されて拡散されます。この拡散ミキサーはDBM (Double Balanced Mixer) で、電源は不要です。

その出力は次の図のようになりました。

外側の不要信号を切るため手元にあった145MHzのフィルターを入れてみました。このフィルターは入出力が500ΩのためLとCで50Ωにマッチングさせます。スミスチャートMr. Smithを使って合わせてみました。ほんとうは帯域が10MHz以上欲しいのですが適当なフィルターが手元になかったので帯域外の不要信号を落とす確認だけの実験です。

また、今回使ったフィルターの特性は次の通りです。

フィルターを通すと不要信号は次の図のように減少しましたが、やはり拡散した帯域が十分取れず、もっと広帯域にしないと意味のないことになりました。

次の写真は実際の実験に使った全ユニットです。

元々DSの信号は拡散しているので広帯域になっており、このままでは電波法上免許が貰えそうにありません。ミキサーの後にパワーアンプを付ければDSの電波は出ますが、実際に運用しようとすると145MHz帯では無理で、1.2GHz帯等で広帯域の信号で免許が貰えるための検討が必要です。1.2GHz帯にするためには、1.2GHzの無線機の出力を絞りアッテネーターを使って拡散ミキサーの入力を0dBm位にすれば可能ですが、出力の小さい無線機は手元にありませんでした。

今回は実際に電波を出した実験はできませんでしたが、技術的検討のみにしておきたいと思います。

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次号は 12月 1日(木) に公開予定

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