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楽しいエレクトロニクス工作

第48回 スペクトラム拡散通信 その1

JA3FMP 櫻井紀佳

少し以前にはスペクトラム拡散(スペクトル拡散)通信(以下Spread Spectrumの略でSSと表示)の話題が賑やかな時代がありました。しかし、最近ではアマチュア無線で取り上げる機会が少なくなったように感じます。

携帯電話関係ではCDMA等が実用になっていますので、アマチュア無線的に再検討してみても良いのではないかと少し検討してみることにしました。

SS通信は、FMやAMまたはデジタル変調のように普通に変調された信号を広帯域に拡散して通信するものですが、大きく分けて、直接スペクトラム拡散(Direct Spread Spectrumで以下DSと表示)と、周波数ホッピング(Frequency Hoppingで以下FHと表示)があります。

DSでは次の図のように変調された信号をPN(Pseudo Noise)と呼ばれるランダムな信号で拡散させて送信します。受信では送信に同期したPN信号で逆拡散すると元の変調信号に戻り、復調して通信できます。

FHでは拡散する信号の周波数をランダムに切り替えることで拡散して送信します。受信では送信に同期した信号を使って局発を切り替えると元の変調に戻り、復調して通信します。

どちらの通信方式も、拡散する前の信号はFMやAM等のアナログ信号でも、またデジタル変調された信号でもOKです。

スペクトラム拡散通信の特徴は、あるレベルまで同じ周波数で通信できる、妨害波に強い、フェージングのようなレベル変動に強い、雑音レベル程度の信号でも通信できる、秘話性がある等の特性を持っています。一方、最大の難点は遠近問題と言われています。広帯域に拡散するので拡散利得はありますが、単純に考えて仮に1,000倍拡散してもその帯域に1,000倍以上強い信号があると潰されて通信できなくなります。

携帯電話で使われているCDMA等では、この遠近問題がでないように工夫されています。つまり、レピーターに入力される端末からの信号強度が一定になるように、レピーターから指示を出して端末の電力を細かくコントロールしているのです。しかし、アマチュア無線ではこのようなことは不可能なため、システムとして採用できず、遠近問題はそのまま受け入れるしかありません。

今回はDSを検討してみることにしました。これまでの構成図でも分かるようにPN信号がDSの一番重要なポイントになります。PN信号は測定するとノイズのように見えるランダムな信号です。DS通信はPN信号が異なれば同じ周波数帯に拡散して通信できますが、共存するためにはPNの符号が異なるか、同じ符号でも時間的にズレていなければなりません。

PN符号は拡散変調としてクロックに同期して1と0をミキサーに送り出しますが、1と0がランダムで、繰り返しの周期もランダムでなければなりません。ここでは疑似乱数としても知られているM系列(maximal length sequence)を使ってPN符号を作ってみます。

M系列の数学的意味や理論は多くの資料が一般的に公開されていますのでそちらをご覧ください。その作り方は次のようになっています。

X1~X4はシフトレジスターでクロックに同期して左から右にデータが移動します。M系列では多くの段数のシフトレジスターで構成できることが知られているので適当に選ぶことができます。巻末の資料を参考にご覧ください。

今回はその中から構成できる数が比較的多い9段で検討してみます。上の図ではシフトレジスターが4段でEX-ORの入力が2つだけですが、9段では巻末資料のように10個の構成可能な組み合わせがありEX-ORに帰還する端子をスイッチで切り替えます。9段では511個のクロックで一回りすることになります。

実際の9段のPN符号発生回路は次のようになっています。

この9段のPN符号発生回路は9個のDFF(Delayed Flip Flop)と8個のEX-ORで構成されそれぞれのEX-ORの入力の変更ができるようスイッチを付けています。スタート時に初段のDFFだけプリセットできるようリセット信号を入力します。全てのDFFがリセット状態では正常なPN符号にできません。EX-ORの入力にPN符号にできるようスイッチを設定してクロックを入力すると順次PN符号が出力されます。

SS通信で通信するためには当然送受でPN符号が一致していることが前提ですが、一番難しいのは送受信間のPN符号の同期です。送受信間で少しでも同期がズレていると受信側で逆拡散できず全く受信できないことになります。実際にはクロックの半分以下のズレ以内にする必要があります。

次の図は符号が半分ずれたものですが、一般的には受信機側で符号をスライドさせて符号が一致した所で止める操作をする方法があります

冒頭のDSのブロックダイアグラムの受信部のPN信号は実際には次のような構成が必要です。

実用的なDS通信では、受信信号に追従する本格的な符号同期回路で処理していますが、相当複雑になるため、今回は受信されたPN符号に合わせるためクロック補正で調整します。そこで手動でスライドする方法を考えてみました。その回路は次のようなものです。今回拡散するクロックは1MHzを使用しますが、クロック制御のエンコーダーの入力で1パルス追加したり間引きしたりしてPN符号を手動でスライドします。

そのタイミングは次のようになっています。

クロック制御の端子にロータリーエンコーダーを接続して、+1側にパルスが入力されるとクロックが1つ余分に入力されてPN符号が前にズレることになり、-1側にパルスが入力されると逆にPN符号が後にズレることになります。PN符号が一致するまで、つまり受信信号が出てくるまでロータリーエンコーダーを回します。最悪でも1周より1少ない510パルス以内に合う筈です。この場合は逆に回した方が早いのですが、どちらに回せばいいのかはその時点では分かりません。

一度符号を同期させても通信中同期が継続しなければなりません。仮にPN符号のクロックを1MHzとすると半分の周期は(1/1MHz)/2で0.5μsになり、通信期間中この精度が必要となります。仮に1回の通信が10分間とすると600秒で0.5μs以内のズレが要求され、555 x 10-12以下の精度となるため普通の水晶発振回路ではこの精度は取れません。一般的に入手可能な水晶発振子は良いものでも10 x 10-6程度なので、これではあっという間もなく同期が外れ通信不能になってしまいます。

送受信のクロックの精度は実は絶対精度が必要なわけではなく、送受信が同期さえすれば良いのです。そのためには送受同じ同期信号が使えると良いことになります。この要求に合うものとしてGPSと40kHz標準電波が考えられます。

30年位前に検討した頃にはまだアナログテレビの信号があり、カラー同期の3.5795・・MHzが使えたのですが、アナログTV放送も終わり今ではそれも利用できません。

まずは電波時計に使われている40kHz標準電波の受信機を作ってみたのですが、今住んでいる所が奈良県のためか、あまり強く電波が受信できません。夜間などこの周波数のコンディションの良い時には実用になりそうですが常時安定に受信できずあきらめました。60kHzの方もあまり変わりませんでした。


(左)40kHz受信機(右)GPSユニット(秋月電子広告より)

もう一つの方法としてGPSを使った方法を考えてみます。通販で上の写真のような1Hz出力のあるユニットを見つけました。今回使用するクロックは発振が10MHzで必要な周波数が2.0MHzなので、それを1Hzまで分周してGPSの出力1Hzと比較してPLLを構成します。

GPSユニットを使った場合に不都合なことは、確実にGPS衛星の電波が受信できる場所にこのユニットを置いて1Hzの信号を引っ張って来なければならないことです。

ここまでで基本的な部分は検討したので、次号では実際に実験してみたいと思います。

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