FBのトレビア
Dr. FB
2022年11月15日号の月刊FBニュース「Short Break」のコーナーでホワイトノイズジェネレータの製作が紹介されました。ローカル局から「ノイズはない方がよいのにどうしてノイズを発生させる装置を作るのか」といった質問がありました。「なるほど」と思い、その質問に対し簡単な実験を用意しました。
聞きなれない言葉ですがホワイトノイズ(White Noise)と呼ばれるノイズがあります。これは、広い周波数範囲においてほぼ一定レベルの連続した電気信号を指します。電気信号ですが、そこには何の情報も重畳されていませんから、私たちはその信号をノイズと呼んでいます。ここで広い周波数範囲と記しましたが、狭い周波数範囲のノイズもあり、これは後述します。
一般的にノイズとは、私たちが扱う電気の分野も含め、目的とする信号以外のすべての信号を指すと考えています。例えばモールス信号で交信をしている人たちにとってあの「ツート、ツート」は目的の信号です。CWをこよなく愛する人たちには心地よい音として聞こえますが、それ以外の人はひょっとして、「ピー、ピーと、うるさいわね!」とモールス信号を目の敵のようにノイズ(雑音)扱いにするかも知れません。ノイズとは、その信号を扱っている分野によって変わるような気がします。
交信中に車が外を走ると受信機はエンジンノイズを受信し、バリバリといった音がスピーカから鳴ることがあります。「バリバリ」音は、明らかに目的としない信号ですから私たちにとってはノイズです。そのノイズを消すために無線機にはノイズブランカ(Noise Blanker)といった機能が備わっています。車が遠ざかると、そのバリバリ音は消え、スピーカからは、「ザー」あるいは「サー」といった音が鳴ります。この「ザー」あるいは「サー」の音は、受信機に接続されたアンテナを外しても鳴っていますから、アンテナで受信する外来ノイズに加え受信機内部で発生しているノイズもあることが分かります。
通勤時に聴くごく普通のAM/FMラジオもチューニングがズレると「ザー」あるいは「サー」の音がイヤホンを通して聞こえます。その音をスピーカジャックから取り出し、WaveSpectra※で観測したものが図1です。
※パソコンでオーディオスペクトラムアナライザを実現させるアプリケーションソフトウェア
図1に示したWaveSpectraのスクリーンのスパンは20kHzです。横軸は0~20kHzまでのリニア目盛で、縦軸は対数表示としています。ザーと聞こえるノイズもオーディオスペクトラムスコープで観測するとAMモードとFMモードの違いが分かります。ラジオはイヤホンで聴くことを想定しているためか、低域がよく出ていることがスクリーンの画像から分かります。
参考ですが、IC-705のアンテナ端子をショートして外部の信号やノイズが入らないようにした状態で、スピーカジャックの出力をWaveSpectraで観測したものが図2です。この場合、スピーカからは「ザー」とした音しか聞こえませんが、モードによって明らかにそのノイズのスペクトラムは異なり、先に説明した広い周波数範囲に渡って均一なレベルとは言い難い特性を持っています。これは、ホワイトノイズとは呼びません。
図2 IC-705で観測した各モードにおけるノイズ音のスペクトル
図2で示すいずれのノイズもスピーカから聞こえる音は「ザー」といった音ですが、実際にはモードにより周波数特性を持っていることが分かります。2022年11月15日号の月刊FBニュース「Short Break」のコーナーで紹介されたホワイトノイズジェネレータで発生させたノイズのスペクトルが図3です。図2に示したような受信機内部のフィルタでカットされた出力ではなくWaveSpectraで観測できる0~20kHz全周波数帯域に渡りほぼ同じレベルの信号(ノイズ)が出力されていることが分かります。これがホワイトノイズです。
図3 ホワイトノイズジェネレータで発生させたノイズのスペクトラム(Span: 20kHz)
WaveSpectraではオーディオ帯域のスペクトラムスコープであることから20kHz以上のスペクトルを確認することはできませんが、このノイズジェネレータの出力をIC-705のアンテナ端子に接続すると21MHzぐらいまではSメータが振るノイズが出力されています。周波数が高くなるにつれて、ホワイトノイズジェネレータの出力レベルは低下していますが、それでも広範囲に渡りノイズが出力されています。
オーディオアンプの周波数特性を観測するのに、ひと昔前までは図4のように入力にAG(Audio Generator: 低周波発振器)とミリボルトメータを接続し、入力信号レベルを一定に保った状態で、各々の入力周波数に対する出力レベルをミリボルトメータで読み取り、そのレベルをグラフ用紙にプロットして特性を見ていました。企業ではこの一連の作業は自動化された測定器が行っていますが、我々アマチュアはまだまだまだこの方式に頼っています。
図4 オーディオアンプの周波数特性の簡易測定方法
このとき、入力信号が周波数に対して一定のレベルを保ち、かつ入力信号の周波数がピンポイントではなく広範囲にわたって連続しているのであれば、図4の入力側の測定器の操作は不要になります。この広い周波数範囲に渡ってほぼ同じレベルの信号を必要とするときはホワイトノイズジェネレータが役立ちます(図5)。
図5 ホワイトノイズジェネレータでオーディオアンプの特性を観測
月刊FBニュース2021年1月15日号の「Short Break」のコーナーで紹介されたオーディオアンプの周波数特性をこのホワイトノイズジェネレータで観測します。このオーディオアンプにはLM386、低電圧オーディオ・パワー・アンプのICが使われています。音質は高価なHi-Fiアンプには足元にも及びませんが、それでもそれなりのスピーカを接続すると結構よい音がします。
オーディオアンプの入力にはホワイトノイズジェネレータ、出力はパソコンにそれぞれ接続し、出力信号をWaveSpectraで観測します。図6がそのオーディオアンプの周波数特性です。
図6 LM386を使ったオーディオアンプの周波数特性
参考ですが、ホワイトノイズをカットオフ周波数10kHzのCRで構成したHPFを通してオーディオアンプに入力し、その出力をWaveSpectraで見たものが図7です。明らかに1kHz付近から周波数がアップするにつれ出力レベルが増加し、高い周波数が出ていることに対し、低い周波数はカットされている様子を見ることができます。
図7 ホワイトノイズを、HPFを通してオーディアアンプに入力したときの周波数特性
このホワイトノイズジェネレータの出力は21MHz付近まで延びているようですので、次は受信機のIF段に使用する455kHzのメカニカルフィルタと10.75MHzのクリスタルフィルタの特性を観測してみます。
観測方法は、ホワイトノイズジェネレータの出力をフィルタの入力端子に接続し、フィルタの出力端子に現れる信号をRFの範囲まで観測することができるtinySAで見ます。図8の左が455kHzのメカニカルフィルタ、右が10.75MHzのクリスタルフィルタの特性図です。
図9 455kHzメカニカルフィルタの特性を目盛りから読み取る
図8左の特性図をクローズアップしたものが図9です。この図のスクリーンは、左端が435.000kHz、右端が475.000kHz、センターが455.000kHzです。横軸の一目盛りが5kHz。縦軸は、1目盛りが10dB。画面からフィルタの特性を読むとおよそ30dB低下したときの帯域幅は8kHzであると分かります。簡易的な方法ですから、ピークから3dB低下したときの帯域幅と60dB低下したときの帯域幅の比を表すシェイプファクタまでスクリーンで読み取ることはできませんが、フィルタの特性の感触は掴めると思います。
ホワイトノイズジェネレータのノイズ出力レンジがAFからRFまで延びていると、上記のようにオーディオアンプからIF段に使用するフィルタの特性まで見ることができます。また、受信機の帯域調整等にも使用でき、1台あれば重宝します。
WaveSpectra掲載のefuさんのホームページ(当該ホームページは現存しないため、アーカイブのURLを記載)
http://web.archive.org/web/20171105052121/http://efu.jp.net/
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