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新・エレクトロニクス工作室

第29回 電源用ダミー

JE1UCI 冨川寿夫

2024年9月17日掲載

今まで電源の自作を行い、その試験をする電源用ダミーも自作しました。いろいろと作ったのですが、その中で1~2A程度の電源用ダミーが弱点と感じていました。実験用電源の試験用としては、一番使いたいところだと思います。そこで、写真1のように改めて作製しました。


写真1 このように作った電源用のダミー

このような電源用のダミーは週刊BEACONのNo.28No.135、本稿の第5回第25回でも作製しました。抵抗で作ると、極めて安定なダミーになります。もちろん安定と言っても限度があり、温度変化によって抵抗値は微妙に変化します。その程度は誤差の範囲ですので、電圧だけ測れば済むという大きな長所があります。しかし一番の欠点は、電源の電圧変化による測定範囲が広く取れない事でしょう。その点、電子負荷は抵抗より測定範囲が広く作れます。もちろん測定できる範囲があるのは当然です。それは負荷の都合と、電流や電圧の測定系の都合による場合があります。従って、このようなものを作り始めるとキリがありません。まあ、トランシーバを作るのと似たようなものと思います。

回路

元々はCQ誌の1984年7月号の特集「海外の回路で作る実用アクセサリー」(JR1TRE岩間氏とJE1HPT久保田氏の共著)で紹介された回路です。その大元は73magazine(Sept,1982)のようです。BEACONのNo.28でも、この回路を参考に作ったのですが、もう少しスマートに作りたかったという事があります。初めは1~2A用と思ったのですが、いろいろと試しているうちに3A用となりました。元の回路は図1なのですが、トランジスタのシンボルが間違っているようです。


図1 このような電源用ダミーが紹介された(トランジスタのシンボルが・・・)

これを図2の回路で試しました。写真2のように仮のヒートシンクを使い、大型の1kΩで2.5Aまで流しました。しかしVRに常時電流が流れてしまい、1~2A程度の電源には向かないように思えました。


図2 2SD1133を使って実験


写真2 実験中の様子

そこで図3のようにして電流の制御を行うようにしてみました。最初2kΩの可変抵抗を入れたところ電流が流れ過ぎましたので、10kΩとしました。また、0Ωに近づくと一気に流れるので、100Ωをシリーズに入れて最大電流の制限をしました。このような値はトランジスタによって異なると思いますので、まずは試してみるのが良いでしょう。これで最小値として電圧が5Vの時に、電流は0.1Aよりコントロールできました。但し、フルスケールが数Aの電流計で0.1Aのような位置を使うのは、誤差の点から感心できません。場合によってはデジタルテスターを併用するのが良いと思います。やはり、小電流になると抵抗を使ったダミーに部がありそうです。


図3 これで上手く使えるようになった

最近、このような電源用ダミーにはトランジスタを使うのではなく、FETを使う事が多いようです。しかし、そのような用途のFETは手元にありません。工作の中心が無線機ですので当然でしょう。逆に使えそうなトランジスタを探すと、入手した記憶が不明なものが沢山見つかるのです。

このようにして、最終的に回路は図4のようになりました。倍率器の部分を含めて15Vの電圧計であり、分流器の部分を含めて3Aの電流計です。従って、15Vと3Aの電流計を使うとスッキリし過ぎた回路になります。


図4 最終的な回路

元の回路で使っていたのは2N3055で、CQ誌の記事では15Aを流していました。2N3055は今でも入手可能なポピュラーなトランジスタで、秋月電子でも100円で購入できます。しかし、私としては15Aも流す必要はありませんので、部品箱にあるトランジスタを適当に探し2SD1133を使う事にしました。2N3055が使えないという事ではありませんが、多少の変更は必要かもしれません。

倍率器と分流器

全体の回路は単純なのですが、メータの倍率器と分流器の方が面倒になってしまいました。使用したのは、ハムフェアで購入したジャンクのメータです。元々は電圧計で、どちらもメータ内部にあった倍率器の抵抗を外して使う事にしました。二つ共に同じものですが、内部抵抗rが微妙に違っています。それに合わせて計算をしましたので、102Ωと104Ωが出て来ますが誤差の範囲と考えて下さい。このメータを使って倍率器と分流器を作り、15Vの電圧計と3Aの電流計にしました。もちろん、15Vや3Aのメータが入手できれば、何の面倒もありません。

まず電圧計の倍率器ですが、図5のように計算しました。本来は電流計と考えるのが妥当ですが、実測した値から、フルスケールが88.026mVで内部抵抗が102Ωの電圧計として計算しました。その結果、17.279kΩの抵抗を倍率器として入れれば良い事になります。これは一般的に知られる公式ですので、何も珍しい計算ではありません。図4のように、10kΩの半固定VRと10kΩをシリーズにしました。半固定VRでフルスケールをピッタリ合わせようという作戦です。抵抗をシリーズにしたのは、間違ってメータを壊さないようにする意味もあります。この倍率器の部分はメータ内部に入れるのではなく、メータの端子直付けでハンダ付けしました。後々、どのように電圧計にしているのか明確にするためです。もちろん調整も容易です。この値は私の使ったメータだけのものですので、計算は参考にして下さい。


図5 倍率器の計算

問題は電流計の分流器です。同じメータなのですが、電流計としてのフルスケールは0.867mAで内部抵抗は104Ωでした。これを3Aにしようと計算すると、図6のように0.03Ωの分流器を使えば良い事となります。これも一般的な計算です。メーカが製品を作るのであれば抵抗を特注できますし、最初からメータを特注する場合もあるのでしょう。もちろん、個人ではどちらも無理です。半固定VRを入れるとしても、このような小さい値は簡単には見つかりません。もちろん電流が流れる位置ですので、W数の問題もあります。週刊BEACONのNo.28のように自分で作る方法もあるのですが、今回は別の方法としました。


図6 一般的な倍率器の計算でR=0.03Ωとなる

一般的な半固定VRの100Ωが手持ちにありましたので、これを最大の100Ωとしてメータの内部抵抗rに加えたと仮定します。ここには1mA以下しか流れませんので、W数的には問題はありません。すると図7のように分流器の値は0.059Ωとなります。すなわち、ここに100Ωの半固定VRを入れると、分流器の値が0.03~0.059Ωの間であれば調整できるという事になります。


図7 100Ωを電流計の内部抵抗rに加えるとR=0.059Ωとなる

手持ちの抵抗に写真3のような2Wの0.1Ωがありました。これに単独で3A流しても0.9Wですので、この電流のラインに入れる事ができます。0.1Ωを3パラすると0.0333Ωになります。上記0.03~0.059Ωの範囲内になりますので、100Ωの半固定VRで調整できる事となります。2パラの0.05Ωでも良いのですが、電流計ですのでなるべく小さい内部抵抗が良いのでしょう。4パラでは範囲から外れてしまいます。一般的には分流器の値で調整するのが教科書的な方法ですが、このように分流器の値を一定にして内部抵抗で調整しようという姑息な方法で対処しました。もちろん、0.1Ωのような低抵抗を組み合わせて0.03Ωピッタリにする方法もあると思います。しかし、最終的に誤差があった場合に補正ができません。この分流器もメータの端子に直付けとしました。


写真3 手持ちにあった0.1Ω2Wの抵抗

電流計の内部抵抗に100Ωの半固定VRを加えましたが、この値は1kΩや10kΩで良いというものではありません。なるべく小さい値を使用しないと、分流器の抵抗値が大きくなってしまいます。内部抵抗の大きい電流計では、測定に誤差を生じてしまいます。

図4の回路は、このようにして考えたものです。回路としては倍率器と分流器のような感じになりました。電圧計と電流計が自在に作れると、自作するのに便利です。デジタル化も考えたのですが、今回は電源不要なアナログにしました。もちろん、外部電源を使って動かすのが良くないという考えではありません。

作製

ケースはタカチ電機工業のMB-3を使いました。これは古い型番で、手持ちにあったため使いました。現行の型番はMB-9-6-13になるようです。トランジスタは熱を持ちますのでヒートシンクを用います。15Vで3Aとすると、最大で45Wを放熱する必要があります。ざっと計算すると必要となるヒートシンクの熱抵抗は1.7℃/Wですので、250mm四方で2mm厚のアルミ程度となります。手元にあった適当なサイズ(98×50×17mm)のヒートシンクを用いましたが、少々不足とは思います。ケースも含めても長時間は厳しそうですが、短時間であれば何とかなるでしょう。

ケースはメータとヒートシンクによって選んでいます。ヒートシンクは写真4のようにトランジスタの取り付け穴とケースへの取り付け穴を開けました。これは穴だけでなく、写真5のように3mmネジのタップを切っています。下穴として2.5mmの穴を開けて、3mmネジ用でタップを切ります。この位置はどこでも良いのではなく、放熱用フィンの無い場所を選びます。


写真4 ヒートシンクに開けた固定用の穴


写真5 このように3mmネジのタップを切る

ケースは写真6のように穴あけをしました。コの字のアルミを組み合わせる構造です。穴あけのやりやすいオープンな感じのケースですが、さすがにハンドニブラは内側から使えません。全て外側から開けました。


写真6 ケースに穴あけを実施

ヒートシンクは写真7のようにケースにネジ止めし、トランジスタは直接ヒートシンクにネジ止めしました。もちろん、放熱用のシリコングリスは必要です。一般的なドライバーでは回せないので、右横のような特殊なドライバーを使いました。長さの短いドライバーでも良さそうです。


写真7 トランジスタは直接ヒートシンクにネジ止め

このようにして内部は写真8のようになりました。普段は配線に標準としてAWG26を使っていますが、電流の流れるラインは少しだけ太めの3.5sqを用いました。許容電流は37Aあるようですので3Aには充分です。しかし、測定に使うのですから抵抗による影響が少ないように、もう少し太くても良さそうです。配線材料は、許容電流以内で流せれば良いというものではありません。しかしQRPばかり作っているためか、この程度の太さしか手持ちにありませんでした。


写真8 このように配線した

なお、メータの目盛りも専用ソフトを使って作りました。Tonne Software社の「Meter」という有料のソフトです。機能に制限がある「MeterBasic」というフリーのソフトもあります。便利なソフトですが、慣れるのには多少の時間が必要でしょう。15Vとか3Aという中途半端なメータは、普通は入手が困難だと思います。このような目盛りが自在に作れると便利です。

使用感

5Vを入力するとVRを絞っても98mA流れます。また、12Vでは287mA流れます。15Vでは387mA流れますので、この電流以下の測定ができません。やはりミニ電源用には、向かないようです。実験用電源の特性を測るにはちょうど良い感じになります。

15Vで2.5Aを流し続けたところ、数分間は充分に使えました。その後は熱くなり過ぎる感じでしたので止めました。このように、一般的な実験用電源の試験には充分でしょう。もちろん限度はありますが、抵抗と違って幅広い電圧と電流で特性が測れるという特長があります。カーブの途中で測定ポイントを追加する事も可能です。抵抗では、これができませんでした。

後から考えたのですが、電圧計には内部抵抗102Ωを使いました。電流計には104Ωを使いました。これは何も考えずに使ったのですが、逆にする方が良かったのかもしれません。

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