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【連載40回記念】電子工作について語る

JP3DOI 正木潤一

2024年9月17日掲載


おかげさまでこのコーナーも今号でちょうど40回を迎えて8年目に突入しました。

このコーナーは、「平日に部品を注文して週末に取り組めるような製作記事」をオファーされたことから始まりました。それを受けて「できるだけ気軽に取り組める回路製作」をご紹介すべく執筆を承った次第です。趣味として電子工作を続けている私としては、ネットから情報を得ていた側から発信する側になることにやりがいと責任を感じております。ただ、連載開始からしばらくすると、「手軽に」そして「(なるべく)アマチュア無線関連」とは言えない内容が多くなってきましたが。

今回は私が電子工作を始めたいきさつから今日までを、過去の記事を振り返りながら綴ってみたいと思います。もしよろしければお付き合いください。

「趣味は何ですか?」

雑談の中で趣味の話になることはよくあります。趣味を聞かれて「アマチュア無線です」と答えると、相手は「あ~、たまに大きいアンテナを立てていらっしゃるお宅がありますよね」と言われます。「アマチュア無線」で画像検索をした結果の“平均”がまさに一般の方のアマチュア無線のイメージだと思います。

私も無線家ですが胸を張れるほどアクティブではないので、長年続けている趣味として「電子工作」と答えます。しかし、電子工作にもいろいろあり、画像検索をすると「ハンダごてを基板に当てている写真」や「カラフルなブレッドボード配線の写真」などが出てきます。そういった平均情報から「なにか電気で動くモノを作るのに夢中になっている姿」のイメージを持たれる方が多いように思います。私としては、「便利なモノが簡単に手に入る時代に敢えて手作りする過程を楽しむこと」という高い解像度のイメージを持ってほしいのですが。

電子工作は“アウトドア”

「電子工作って何をするの?」と聞かれたら、私は「アウトドアみたいなもんですよ」と答えます。「わざわざ山の中に入って、手間をかけて火を起こして料理したり、テントを張って寝たりしますよね。同じように、製作過程を楽しむ趣味です。」

アウトドアには「ブッシュクラフト」から「グランピング」という難易度に応じたスタイルがあり、自分で選んで楽しめます。また、キャンプグッズを集めるだけでも楽しいですし、それを使うのを想像するだけでワクワクするでしょう。

電子工作も、キットの組み立てからディスクリート部品での製作、ソフトウェア要素や機械加工要素など、難易度(要素技術)に応じて取り組み方を選べます。パーツ屋で部品やジャンクを買って集めるのも楽しいですし、作るものを想像するだけでも楽しいです。このように、どちらも自分で目標を設定して取り組む「チャレンジ」で、失敗も体験として成功の糧となる点で同じだと思います。


電子工作は“アウトドア趣味”のようなもの

電子工作は敷居が高い?

昔と比べて情報やモノの入手性が格段に良くなりました。私が電子工作を始めたころは、雑誌の巻末の広告を見て部品やキットを注文したり、図書館にある80年代に刊行された古い電子工作の本から回路を引用したり、学校のインターネットを使って個人のHPに載っている回路を参考にさせてもらったりしたものです。

せっかく手に入る部品の種類や情報が増えたのですが、時代とともに電子工作のスタイル(主流)も変わりました。以前のように電子部品を個別に集めて回路を組むのではなく、モジュールを組み合わせてプログラムするという工作が主流になりました。昔は「手に入らないものは作る」という、気概というかモチベーションが高かったように思います。でも今は、想像すらできなかった高性能の電子機器を普通に使えるので、電子回路に求められる面白味や質、それに伴う技術レベルも上がってしまったためかもしれません。趣味を継続させるにはモチベーションが牽引役になりますが、それを高めて維持できるほどモノづくりでは達成感を得られにくくなったのだと思います。


電子工作で使う要素技術の例。モノを作るには複数の知識が必要になる。ネットで情報が得られる半面、モノのあふれる時代でモノづくりへのモチベーションの維持は難しくなったか

電子工作を始めたキッカケ

私は中学のときに技術の教科書に掲載されていた、『断線センサー』を初めて組みました。トランジスタのベース端子とGNDを接続する線が切れるとベース端子にバイアスがかかりトランジスタがONしてコレクタに繋いだブザーが鳴る回路です。そのときは「ああ、なるほど。でもこれが何の役に立つのかな?」で終わりました。


今でも残る当時作った断線センサー。バイアス抵抗に可変半固定抵抗器を使っている

本格的に電子工作をはじめたのは高校の時で、金曜ロードショー(かつて日本テレビ系列で放送されていた映画番組)で観た映画に触発されたからでした。それは、ロバート・レッドフォード主演、1992年のアメリカ映画『スニーカーズ(Sneakers)』です。



銀行や貸金庫の防犯セキュリティー能力を評価するため、依頼を受けたうえでクライアントの銀行に忍び込んだりハッキングするという、セキュリティーコンサルタント集団の話です。彼らは依頼を受けた銀行のシステムに実際に侵入し、取引情報を改ざんするなどしてお金を引き出すことで脆弱性をクライアントに報告します。警報機を無効にさせたり警備会社とのホットラインに割り込んだりと、機器系統をハッキングしますが、人間の心理の隙を突くテクニックも使います。そんな彼らが「どんな暗号も解読できる機械」を盗み出すという依頼を政府機関から受け、これまでで最も困難な仕事に挑むというストーリーです。サスペンスものですが、コメディー要素や社会風刺もあり、ラストの爽快感が最高の映画です。



映画の中で指向性マイクや超小型のインカム、声紋認識センサー、熱探知機などが出てくるのですが、この手の映画にありがちな、現実にはあり得ない「トンデモ道具」は登場せず、その時代に実際にあった物が使われているのでリアリティーがあります。特に印象に残っているのは「監視カメラの映像ラインに割り込ませるビデオトランスミッター」です。監視カメラの映像を、逆に自分たちが建物に侵入するための見張りに使ってしまうのです。トランスミッターからの映像は離れた所に停めた車の中にいる仲間の元に送られ、そこから指示が出されるというものでした。この映画には大いに心動かされ、電子機器や無線通信に興味を持ちました。

初めて電波を出した「ワイヤレスマイク・キット」

「なにか面白い回路を作りたい」と思って図書館の電気・電子コーナーを物色しました。そこにある本はどれも、その当時からさらに10年以上前の物ばかりで、「電子工作人気はとうに過ぎたんだな」と感じました。市内にある2つの図書館はどちらも同じ有様でした。ただ、図書館以外で参考になったのが『月刊ラジオライフ』でした。毎号1つ回路製作記事があり、どれもすこし“尖った”モノで興味を引きました。記事を見て『指向性マイク』を実際に作りました(指向性は実感できませんでしたが)。


今も残る、昔作った回路

ある時、図書館で見つけた本に載っていた1石ワイヤレスマイクを、リード部品とベークのラグ板を買い集めて組んでみました。巻き線コイルとコンデンサによる共振周波数をFMラジオで拾うというものです。確かに電波が出ている感触はしましたが、回路に手を近づけただけで消えてしまう(=ドリフトしてしまう)ので、自分の組み方が悪いのだと思いました。でも、本にある実体配線図もそんなものでしたが。

その後、「イーケイジャパン」というメーカーから出ているエレキットの『FMワイヤレスマイク・キット』を買って組み立てました。出来合いのボビンコイル付きで、基板のシルクにしたがって部品をハンダ付けするだけで出来上がりました。基板も小さく、部品同士の配線も最短のためか、手を近づけてもFズレしません。ボビンのコアを回して周波数を調整しますが、眼鏡用のマイナスドライバーを使っていたところコアが割れてしまい、何度かキットごと買い替えました。


イーケイジャパンの『FMワイヤレスマイク』。当時¥800だったはず

電波をもっと遠くに飛ばしたい

キットのワイヤレスマイクはもちろん微弱電波なので、説明書にある通り15mくらいしか飛びませんでした。「もっと遠くまで飛ばすにはどうすればいいか・・・?」これがきっかけで電波の世界へと足を踏み入れました。図書館で本を漁り、「波長」「インピーダンス」「高周波増幅回路」「トランジスタのft(トランジション周波数)」などについて知りました。古本屋で見つけた少し古い『月刊ラジオライフ』や『アクションバンド』には、無線や受信についての記事が多く、FMトランスミッターなどの記事もありました。ここで詳しくは書きませんが、本当にいろいろ試しました。この頃になると自分で部品を買い集め、蛇の目基板上に実装して作るようになりました。学校の帰り、かなり遠回りしてハムショップに寄っては駄菓子を買う感覚でそれこそ10円単位で部品を買ったものです。


キットを真似て自分で部品を集めて作った、ワイヤレスマイク(マイクアンプ付き)

結局、もっと遠くに飛ばすには「RF信号を大きくするために電源電圧を上げたり高周波増幅段数を増やしたりするが、異常発振してしまう。」ということを経験として学びました。さらに、自分の技術的にも法律的にも遠くへは飛ばせないことを知り、関心が他に移りました。


バッファ+1段の増幅回路を付けたワイヤレスマイク(あくまで微弱電波の範囲内でなくてはならない)

ちなみに、当時アマチュア無線の存在は知っていましたが、「電子工作で遊ぶ電波とは別物」という認識で、興味はありませんでした。

余談: 趣味の停滞

こうして書いていると、あたかも私は常に電子工作を熱心に続けていたように見えますが、2度ほど年単位で休止していた期間があります。その原因はズバリ、恋愛と仕事です。これはいろんな趣味にも当てはまると思います。電子工作よりも恋愛の方が楽しいですし、仕事で疲れていたり悩んでたりしてはハンダごてを握る気にもなりません。Hi

若い頃はその時にやりたいことに目いっぱいハマれば良いと思いますし、気が乗らなければ無理してする必要もありません。ただ、私の場合は電子部品を物色して買い集めることはずっと続けていました。そのときにやりたいことをすれば良いと思います。

電波で映像を飛ばす『ビデオトランスミッター』

このころ、アイコムからIC-R3という、映像も受信できる広帯域受信機が発売され、『月刊ラジオライフ』でもビデオトランスミッター特集があったのを覚えています。1.2GHzや2.4GHzの映像信号の飛びを検証する内容でした。当時から利用していた秋月電子通商からは、電話の音声をFMラジオに飛ばすキットやFMステレオ送信機キットなどとともに、カメラなどの映像をVHFやUHFの空きチャンネルで送信するビデオトランスミッターもあり、通販で取り寄せて組み立てました。しかし、やたらと嵩張る大きさや高い電源電圧が気に入らず、自分で作ってみることにしました。そのエピソードは、第18回【Nゲージ】ラジオICを使ったビデオ送信回路【懐かしの電子工作】(2019年3月号)に繋がります。


<当時作り込んだVHFビデオトランスミッター(左)と説明図(右)>
※当時作った資料のため高解像度の画像はありません

チップ部品を使い始める

ビデオトランスミッターを製作していた時から、高周波回路の安定性について知識を得ました。部品同士は「太く短く」接続してGNDは面で構成(ベタアース)します。このころに表面実装(チップ)部品を使う必要性を知ります。先のビデオトランスミッターでは、高周波アンプの段間にチップコンデンサを使ったのが最初だったと思います。当初は3216サイズのチップ部品を事務用糊で予め蛇の目基板に固定してからハンダ付けしていました。やがて1608サイズなら蛇の目基板のランド間にうまく収まることを知り、チップ部品の使用に完全切り替えました。裏面に銅箔を貼ってGNDにした蛇の目基板を使って回路を組む今のスタイルはこうして定着しました。このあたりについては、第2回【ミリ単位を楽しむ】チップ部品の活用で見えてくる工作の新しい世界(2016年11月号)に書きました。チップ部品のハンダ付けに慣れると、ひたすらトライ&エラーを繰り返して回路を作りました。


小さく切り取った蛇の目基板に実装したVCO(電圧制御発振機)回路。基板の4隅から端子が出ていて、我ながら良い部品レイアウト。発振コイルは基板に開けた穴に収めている
※当時作った資料のため高解像度の画像はありません

この頃になると、フリーの回路シミュレーターを使って高周波増幅回路を設計していました。それまではNECのµPC1677Cや1651Gなど、動作電圧が5Vの素子を使うしかありませんでしたが、3Vで動作する広帯域増幅回路を自分で設計し、モジュール化してみました。この回路はその後、第4回【テレビ映りを改善】地デジ用ラインブースターの製作【広帯域高周波アンプ】(2017年1月号)で掲載した回路になりました。


負帰還により広帯域にわたってインピーダンスをマッチングさせたRFアンプ
※当時作った資料のため高解像度の画像はありません

憧れのラジオコントロール

子供のころから憧れていたのがラジコンの自作です。電波でモーターを遠隔操作させる仕組みが不思議でした。実はラジコンというおもちゃは、「モータードライバー(メカトロニクス)」「高周波発振回路」「受信回路」「トーン分別回路」、そして厄介な「モーターノイズ対策」と、要素技術をたくさん含んでいます。そんなラジコンを自分で作りたいと思い、チャレンジしたことがあります。オペアンプを使ったアクティブフィルター(多重帰還型アクティブBPF)は、かなり急峻な特性を持つので、異なるトーン信号の分別に使えると思いました。結果的にこの取り組みは失敗したのですが。


多重帰還BPFを通過したトーン周波数の信号レベルを計って疑似波形で表したところ

しかし、何年か後にマイコンを使って実現させることができました。ラジコン回路についても、そのうちこのコーナーで取り上げたいのですが、以前作った動画がありますので紹介いたします。

PICマイコンとの出会い

2007年ごろ、「ネットブック」と呼ばれる超小型のノートパソコンが流行しました。コンパクトなWindowsノートパソコンで、4万円程度で売られていました。私も1台買って外に持ち出して使っていました。当時はWi-Fiが使える公共の場所は「ホットスポット」と呼ばれていて、まだ今ほど拡充していませんでしたが、それでも気軽に持ち出せるサブ機として便利でした。

そんなネットブックでPICマイコンを開発している様子の動画を、これまた当時出来たばかりのYouTubeで観ました。新幹線の座席でネットブックとライターでPICにプログラムを書き込むだけの動画なのですが、私にはこれがすごく印象に残り、早速PICマイコンの本を買いました。あれほどPICマイコン開発の手軽さを体現した動画はほかにないと思います。

もちろん、PICマイコンの存在は知っていましたし、いろいろ読み漁ってきた電子工作の本にも度々出てきてました。しかし、「難しい」というイメージに加えて「どうせ電源が5Vなのだろう」と、勝手に思い込んでいたのです。ところが、調べてみれば2Vから動作するというじゃないですか。これは多少難しくてもやってみようと思いました。プログラミングをしたことの無い自分にとって、CPUの中のレジスタやビットについてのイメージがなかなか掴めませんでしたが、市販のハウツー本を最初からゆっくり読みながら実際にブレッドボードで動かしてみると、段々分かってきました。マイコンとは要は「たくさんある足からVCCか0Vを出すだけ」なのです。

マイコン × 微弱電波= 最高の電子工作

マイコンが使えるようになると、以前頓挫したラジコン回路を実現できると思いました。アナログのトーン信号でなく、シリアルデータで制御する方式に取り組みました。


マイコン開発環境とPCオシロを入れたネットブック(左)を使ってラジコンの制御プログラムを開発していた当時の様子


低電圧で動作させるため、モータードライバーもディスクリートで自作。部品配置を工夫するのも楽しい

マイコンを使ったラジコンは、モーター制御データをシリアル信号で送るというものです。High/Lowの2通りのビットで搬送波に直接変調を掛ける、On Off Keying(OOK)です。CWのようにキャリアの有無だけの信号なのでノイズに弱いのですが、ノイズ対策コンデンサをモーター内部に付けることでノイズの放射を最小限に抑えたことでクリアしました。受信回路はおもちゃのラジコンと同様、超再生検波回路です。この検波方式は、第6回【不思議な回路】超再生検波方式FMラジオの製作(2017年3月号)で触れています。


被変調信号(上)と復調信号(下)の波形。当時使用していたPCオシロで観測

次に取り掛かったのが「アクティブRFID」でした。ラジコンはモーターを制御するデータ信号を送受信するものですが、微弱電波で測定データなどを送信する『テレメトリ』用の小型の無線タグを作りました。これは、第17回【手作り無線データ通信】ワイヤレス温度モニターシステムの構築【IoT】(2018年12月号)で記事にしました。


温度データを載せた無線タグからの微弱電波がどこまで受信できるかを検証している様子。記事にする前にかなりの検証を重ねた

マイコンと電波を組み合わせると作れる物の範囲がグッと広がります。今思えば、これに入り浸っていた時が一番楽しかったかもしれません。


マイコンを使うことで電子工作の幅がかなり広がる。ポートの割り当てを決めたり、限られたメモリを節約しながらコードを考えたりするのが楽しい

マイコン × アマチュア無線= CI-V

私がアマチュア無線を始めたのは社会人になってだいぶ経ってからでした。無線を始めた当初はD-STARでQSOを楽しんでいましたが、やはりそのうちモノづくりと組み合わせて遊ぶようになりました。まずアンテナを製作するようになり、高価なアンテナアナライザを導入するほどハマりました。このあたりは、第5回【パキパキ畳んでコンパクト】ハンディー機用ノンラジアルアンテナの製作』(2017年2月号)や、第9回【丈夫でスタイリッシュ】ハンディー機用アンテナの製作(2017年6月号)で記事にしました。

私が今一番面白いと思うのが、マイコンによるCI-V制御です。電気を喰わないPICマイコンは、無線機の外部機器の制御に最適です。私が気に入ってるのが、第13回【ワイヤレス】腕時計型ハンディー機リモコン』(2017年12月号)第30回【片手で楽々QSY】多機能スピーカーマイクの製作(2022年6月号)です。どちらもマイコンの良さが十分に出ています。

最後に

というわけで、私の電子工作への取り組みを遡ってみました。お付き合いいただきありがとうございました。私は製作中の写真を撮っておくほうなので、今回のように振り返ることができました。何かを作るときは、その工程を写真に収めるなど記録しておくと、あとで振り返って再び楽しめますね。

これからもMy Projectをよろしくお願いいたします。
My ProjectのCM です。

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