新・エレクトロニクス工作室
2025年6月16日掲載
週刊BEACONのNo.40で、写真1のような50MHzのアンテナカップラを作りました。実はこれをアンテナカップラではなく、別の使い方をしていました。それはQRPのリニアアンプを作った時ですが、入出力のマッチング状態のチェックです。
写真1 週刊BEACONのNo.40で作った50MHz用アンテナカップラ
マルチバンドではなく、シングルバンドの場合になります。例えば図1のようにトランジスタからマッチング回路を通さずに直接カップラに入れてパワー計で測ります。このまま調整すると、バイファイラやトリファイラのコイルを使うよりも出力が出る事があります。それは段階的なマッチングではなく、インピーダンスを細かく合わせるからです。もちろんですが、インピーダンスにはR+jXの値があります。このjXの部分の調整にも有効です。
図1 これで調整すると、インピーダンスが正確に合わせられる
このように合わせた後でカップラの設定に触れずに図2のように測ると、どのようなインピーダンス変換をすれば良いのかが解ります。パワー計は50Ωですので、50ΩをR+jXの値に変換すれば良い事になります。
図2 これでマッチング回路を考える
このように本来の目的と全く異なった使い方をしていました。ところが、図1で上手く合わせられないケースがありました。ポリバリコンが端になってしまうのです。そこで図3のようにセットして、合わせられる範囲を測ってみました。カップラのTX側を50Ωの送信機として、ANT側がどのような範囲のインピーダンスにできるかです。これでFA-VA5を使ってスイープを遅くし、バリコンを端から端まで回してみるとマッチングできる範囲が可視化できます。
図3 カップラで合わせられる範囲の測定
すると図4のように、左下付近に合わせられない穴がある事に気が付きました。正確ではありませんが、SWR1.5以下でも合わせられないようです。当然ですが、このインピーダンスでは使えない事になります。これはアンテナでも同じです。
試しに興味本位でアンテナカップラを逆に接続したところ、図5のようになりました。これでは更に合わせる範囲が狭くなりますし、穴のカバーにもなりません。但し、穴の一部はカバーできています。
この場合、図4と図5ではリターンロスの表示は意味がありません。あまり気にせず入れてしまいましたが、無い方が後に出てくる図のようにスッキリします。
図1と図2ではアンテナ側とTX側を一般的な接続と逆にしています。この場合、電気的には合わせられる方向で良いのですが、図4と図5を比べて解るようにTX側をパワー計や基準抵抗とする方が広い範囲で合わせられる事になります。
図4の合わせられない部分をカバーするため、別のカップラが必要と考えました。そこで新たにマッチングチェッカとして、写真2のように作りました。目的はマッチングチェッカですが、もちろんQRPのアンテナカップラとして使う事ができます。なるべく広い範囲のマッチングができれば良いのですが、それに加えて穴の無い事も大事です。しかし、ある程度のクセはどうしても残るようです。これは難しいです。
写真2 新たに50MHz用のマッチングチェッカとして作った
今回は図6のような回路としました。一応、左右対称ですので、どちらをANT側にすべきという事はありません。やはりクセはありますが、とりあえずは図4のカバーが目的です。
図6 このようなマッチングチェッカの回路とした
これはパソコン上でスミスチャートを回しまくった結果です。これはLPF型ではなくHPF型の回路になります。中波の放送局等に悩まされている方のアンテナカップラには向くのですが、送信機の高調波にはほぼ無力です。そこで、どうして図7のようなπ型のLPF型にしなかったのかになります。私も昔はLPF型の方が良いのではと考えていました。しかし、その調整に癖が強すぎる問題があります。詳しくは省きますが、C1を回してピークを取ってC2を回してピークを取ると、C1がピークから外れてしまうのです。とても最良点が追い難いのです。この使い難さがカップラとして、あまり使われない理由なのだと思います。もちろん、合わせられないという意味ではありません。
図7 LPF型でもできる・・・ しかし問題がある
図6の回路で作るとして、使えるポリバリコンを探すと60pFでした。5~60pFを使ったときにちょうど上手い具合に広いインピーダンス変化に対応できるLの値を探しました。これもスミスチャートを回しまくりました。この値は0.25μHくらいになったのですが、この値を計算して巻いても誤差があります。僅かな差で簡単にずれてしまいます。もちろん浮遊容量の影響もあります。ある程度は仕方ありません。結局T-50#12に12回巻きました。この値がベストなのかは良く解りません。
とりあえず、アルミをコの字型に曲げて、写真3のように入出力のBNCコネクタとポリバリコン用の穴を開けました。実は週刊BEACONのNo.44で7MHzのアンテナカップラを作った時に、同時に曲げていたものです。残りと言えば残りで、今回は穴あけからの工作になりました。
写真3 2mm厚のアルミを加工した
ワードで写真4のような表示を作りました。アルミ地に見えますが、実際はプラスチックのようです。これを貼り付けてから、BNCコネクタとポリバリコンのネジ止めをしました。
写真4 ワードでパネル代わりの表示を作った
内部というより、下側は写真5のようになります。入出力間に銅のテープを貼り、その銅テープにアース部分をハンダ付けしています。もちろん、BNCコネクタのアース側にもハンダ付けしています。このような使い方では、ポリバリコンに付いているトリマーの部分は不要です。なるべく小さい値になるように設定しました。写真5でも解ると思います。
写真5 下側の様子
再度図3のように設定して、カバーできる範囲を確認しました。AとBのポリバリコンをそれぞれ最小から最大に回すと、図8のようになりました。右下の部分が欠けていますが、Bを回す事で一回転しているところがあります。これはクセがある証拠なのでしょう。
更にジグザグに回転させた様子が図9になります。右下の付近は同調できるポイントが一か所ではない事が解りますが、一応はカバーできる事になります。つまりクセはあります。
図9 右下の部分の穴は実は小さい(但し、このように使い難い)
アンテナカップラと並べると写真6のようになります。モノが増えれば良いというものではありませんが、実験に使えるツールが増える事になります。これは引き出しが増えるという事にもなります。
写真6 50MHzのカップラとチェッカ。冶具が増える・・・
図8の特性なので、少々使い難いインピーダンスがあるのは確かです。しかし、図4と併用して使えば補完する事ができるはずです。
まだ詳細には使っていません。しかし、実験に使うにはちょうど良さそうに思います。パワーを出すにはこのような方法でマッチングを正しく取るのが良いのですが、ゲインを大きくするためには、むしろ入力のインピーダンスを合わせる方が良さそうです。もちろん、入力側のマッチングにも使用する事ができます。
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