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Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話

【第24話】 そのインピーダンス、本当に存在しますか? (その1)

濱田 倫一

第16話から前回まで、トランジスタの入出力整合回路の設計手法と課題について色々とお話しさせていただきましたが、話が多岐に渡ったので「結局、どう設計すりゃいいねん?」とお叱りを受けそうな状況になってしまったように感じます。残念ながらトランジスタ入出力のインピーダンスマッチングには唯一無二の設計方法があるわけではなく、様々な条件の組み合わせから選択する必要があります。第24話ではそのあたりのお話と、トランジスタ増幅回路の前後段に他の回路を接続するときの問題点について解説させて頂きます。

1. 高周波増幅回路設計の総括

高周波増幅回路のインピーダンスマッチング設計を行う際、どのような設計手法を採用するか、入力回路、出力回路それぞれについて、設計のトポロジーを図1、図2にまとめました。


図1 トランジスタ増幅器出力回路設計のトポロジー


図2 トランジスタ増幅器入力設計のトポロジー

Startから出発して最初の分岐で、設計する増幅回路に要求される回路特性を、前段と後段のアイソレーションを確保する目的で使用する小信号緩衝増幅回路(A.)、ゲインブロックとして用いる利得優先の小信号増幅回路(B.)、所望の電力を取り出す為の高出力増幅回路(C.)、そして低雑音特性を優先する低雑音増幅回路(D.)の4種類に分類しています。このうち低雑音増幅回路の入力整合は他の増幅回路と考え方が異なるので後日解説することにします。そして最右列の円(ゴール)が負荷インピーダンス(図1)、信号源インピーダンス(図2)の選択方針です。

A.~D.と①~⑥は図1と図2で共通の条件です。(入出力で同じ番号同士の選択となる)これらトポロジーに従って設計した、低雑音増幅を除くA.~C.の3種類の増幅回路の動作イメージ(意味合い)と整合回路の考え方を図3に示します。同図においてもA.~C.と①~⑥の各記号は図1、図2と対応しています。以下、それぞれの設計について図3に沿って解説します。


図3 3種類の増幅回路の動作イメージと入出力整合回路

(1) A.緩衝増幅回路(Buffer Amp.)
緩衝増幅回路は前段と後段をアイソレート(緩衝)するために挿入される増幅器なので、第18話で解説した中和増幅やカスケード増幅等の回路方式を採用して単方向化する事が大前提となります。入力から見ても出力から見ても相手ポートの影響はなく、自身が接続される前後の回路の動作に影響しないよう、入出力端子の反射係数も小さく押さえる必要があることから、S11, S22の共役整合を行って反射係数(VSWR)を小さく保ちます。→回路構成②

ちなみに単方向化はS12を無視できる大きさまで小さくする事でしたが、実際にどのくらい小さくする必要があるのでしょうか。S12が無視できない場合のトランジスタ増幅器の利得GTは (式1-1)で与えられます。この式は第23話の(式1-1)の再掲です。


第23話で説明した通り、この式の分母にある ΓS ΓL S12 S21 の項が限りなく0に近づけば単方向利得GTUと見なせます。この式を見るとS21とS12以外の変数は全て絶対値が1以下の値をとります。従って ΓS ΓL S12 S21≪1 となれば良いと考える事ができます。これには S12 S21≪1 となることが必須条件・・・つまりS12をS21の10倍分の1というオーダにできれば良い(仮に|S21|が20dBなら|S12|は-30dB以下)と云うことになります。

(2) B.利得優先小信号増幅回路(High Gain Amp. またはGain block)
小信号増幅回路のうち緩衝増幅以外のものを示します。信号を増幅することだけが目的の場合は入出力の設計自由度が高く、単方向化できる場合/できない場合で複数の設計パターンを採ることが可能です。

【回路構成①】使用するデバイスが安定指数K>1の条件を満たしている場合(第19話)は、第17話の(式3-3)(式3-4)を用いてΓSM、ΓLMを算出し、信号源インピーダンスをΓSMに、負荷インピーダンスをΓLMに変換することで、入出力同時整合し、単方向化しない状態で最大利得(=MAG:最大有能電力利得→第19話、第20話参照)を得る事ができます。

【回路構成②】(1)と同じです。従って緩衝増幅回路としても使用できます。単方向化後のS11、S22に共役整合することにより、入出力同時整合し、最大利得を得る事ができます。

【回路構成③】信号源インピーダンスZSをZ0(一般的に50Ω)に変換し出力端子をS22と共役整合します。出力端子の反射係数は小さくなりますが、入力端子は不整合状態です。利得はG1=0dBとなります。増幅器出力の反射が後段回路の動作に影響する場合に適用する設計方法です。出力端子は整合がとれているので低VSWRですが、入力端子はS11’ (第17話の(式2-3)を用いて算出)にZ0(50Ω)を突き合わせた状態なので、高VSWRとなります。

【回路構成④】負荷インピーダンスZLをZ0(一般的に50Ω)に変換し入力端子をS11と共役整合します。入力端子の反射係数は小さくなりますが、出力端子は不整合状態です。利得はG2=0dBとなります。増幅器入力の反射が前段回路の動作に影響する場合に適用する設計方法です。入力端子は整合がとれているので低VSWRですが、出力端子はS22’ (第17話の(式2-4)を用いて算出)にZ0(50Ω)を突き合わせた状態なので、高VSWRとなります。

【回路構成⑤】回路構成③からスタートして入力側も調整して利得がより高くなる箇所を探す、または回路構成④からスタートして出力側も調整して利得がより高くなる箇所を探す方法です。最初からこの設計を採用するケースは少ないと思いますが、結果的にこの状態になっている事例は多いと思います。一般傾向として増幅回路の利得は信号源インピーダンスZS、負荷インピーダンスZL第20話第21話で解説したスタビリティサークルの不安定領域にあるほうが、入出力結合の影響で高利得になる可能性が高いですが、信号源インピーダンスZS、負荷インピーダンスZLはスタビリティサークルの安定側にいないと発振する可能性があります。また調整後の利得がMSGを超えていないことも確認が必要です。(MSGについても第20話参照)

(3) C.大信号増幅回路(High Power Amp)
一般的には高出力増幅回路、HPAと呼ばれる増幅器の事です。トランジスタのSパラメータ(入出力インピーダンス)は第16話第22話で解説したとおり、動作点(コレクタ電流の大きさ)で変化します。

小信号増幅回路とは、トランジスタを負荷線(第22話の図6参照)の全幅の10~数10%の出力振幅で使用する増幅回路を示します。つまりトランジスタの出力インピーダンスが交流信号の振幅で大きく変化しないような使い方をする増幅回路です。

これに対して大信号増幅回路は、トランジスタを負荷線の全幅、場合によっては負荷線の幅を超えた出力振幅で使用(B級動作、C級動作)する増幅回路です。出力信号の大きさでトランジスタの出力インピーダンスは刻々と変化するので、出力の整合回路は「トランジスタの出力インピーダンスに共役整合させる」のではなく、第22話で解説したように「コレクタに所望の電圧振幅(交流負荷線)を与えるインピーダンスを装荷する」という考え方でインピーダンス変換を実施します。装荷する出力インピーダンスが決まると、入力インピーダンス(S11')も決まるので、入力はS11'に共役整合する、もしくは回路構成⑤の解説と同様、利得や直線性の最適化のためS11'*からさらに振る事を行います。→回路構成⑥

回路構成⑤と⑥は図にすると同じですが、上記の通り小信号と大信号でインピーダンスの与え方が異なります。図3に示した通り、出力端子には規定の負荷インピーダンスを接続する必要がありますが、インピーダンス整合はとれないので出力のVSWRは悪いのが通常です。

入力インピーダンスについては、共役整合をとった場合は比較的低VSWRとなりますが、大振幅動作の影響は入力でも発生するので、緩衝増幅回路ほどの整合は期待できません。

2. 存在しないインピーダンス

ここからは今回のタイトル「そのインピーダンス、本当に存在しますか?」のお話です。

改めて、図3の回路構成③の入力、④の出力、⑤⑥の入出力を見て見ましょう。これらの箇所には「整合回路」ではなく「変換回路」(回路図で見たらどちらも同じですが・・・)が挿入されています。これらの端子には「所定のインピーダンスを接続する」ことが求められていますが、共役整合していないので、その端子が「所定のインピーダンスになっている」ことは担保されていません。このような回路に図4に示すように、フィルター等のように実態のあるインピーダンスを持たない(影像インピーダンスの)回路を接続するとどうなるでしょうか。

フィルターは信号源インピーダンスが自己の影像インピーダンスであることが前提ですが、両者は一致していません(不整合)。フィルターの負荷にはZLが接続されていますが、この状態ではZLS←ZL変換回路のZL側がきちんとZLに見えない可能性があり、その場合はトランジスタの負荷線が所望の傾きにならなかったり、場合によっては発振するという問題が発生し、増幅器も後段のフィルターも設計通りの性能を発揮できないリスクが発生します。


図4 増幅回路の出力インピーダンスは本当に存在するか?

つまり、図3の回路構成③④⑤⑥の「変換回路」と記載した部分は、相手側ポートには、必ず実態のあるインピーダンスを接続する必要があります。このようにトランジスタ増幅回路には「増幅回路自身が仕様通りの入出力インピーダンスを有している場合」と、「仕様通りのインピーダンスを入出力端子に接続することを要求している場合」が混在しているので注意が必要です。

図4のように、増幅回路の出力と増幅器に接続される回路の入力の両方が所定のインピーダンスの接続を求めている場合、両者の間に何らか実態のあるインピーダンスを持つ回路や素子を挿入しないと動作が不安定になります。VHF以上の周波数においては図5に示すようにアイソレータを挿入してこの問題を解消します。


図5 アイソレータによる解決

アイソレータとは図6に示すようにサーキュレータの第三端子に終端抵抗を接続したものです。サーキュレータとは電磁波に直流磁場を加えると磁界と直角方向に回転する事を応用したデバイスで、伝送線路上に着磁したフェライト(つまり永久磁石)を挿入して、3つの端子を設けたものです。3つある端子は直流磁場による電磁波の回転の影響で、矢印で示された側の端子とは結合しますが、反対側の端子とは結合しません。従って端子1に無反射終端を接続すると、端子2からの反射波は無反射終端Z0に吸収されて端子1には戻ってこない・・・つまり結合側端子の負荷インピーダンスにかかわらず、入力インピーダンスはZoに見えます。


図6 サーキュレータとアイソレータの機能

図7に市販のアイソレータ(サーキュレータ)のカタログを示します。


図7 アイソレータの例 (3R wave社(韓国)カタログより抜粋)

図5のアイソレータの部分にインピーダンス整合回路を挿入して問題を解消しようとする設計も多く見受けます。理屈上は成立する場合もありますが、インピーダンス変換回路の入出力インピーダンスも影像インピーダンスなので、影像インピーダンスの縦続接続となり、かつ信号源側のトランジスタのインピーダンスが変動し易い為、再現性が非常に悪く、あまりお勧めできません。アイソレータを含め、このような場合に回路のインピーダンスを定める目的で挿入される回路素子を表1に纏めます。

デバイス

動作

補足

アイソレータ

磁性体を用いて入出力単方向化されたデバイス(図6、7)

電力を消費しないのでHPAの後段にも適用可能。VHF以下では製作困難

緩衝増幅器

単方向化された増幅回路

小信号増幅回路なので、HPAの後段に適用することは困難

アッテネータ

反射波の大きさを入射波の2倍減衰させる事でアイソレートする

整合回路に直列抵抗を挿入して代用する場合もある。損失を許容できない回路では適用不可

表1 回路間のアイソレーション確保に使用できるデバイス

3. 第24話のまとめ

第24話では、これまで多岐にわたって解説した増幅器入出力のインピーダンスマッチング回路の設計方法について、一連の設計手順として纏めて解説しました。増幅回路の入出力インピーダンスに関する設計パターンは二通りあって、
パターン①:設計インピーダンスに整合している(そのインピーダンスに見える)場合と、
パターン②:設計インピーダンスの接続を求めている(回路のインピーダンスは違う値)場合
があり、増幅器を多段接続する場合や前後にフィルターなど影像インピーダンスが規定されたデバイスを接続する場合に、パターン②が連続すると設計通りに動作しなくなる可能性があります。

これを回避する方法として、段間にアイソレータを挿入する方法をご紹介しました。但しアイソレータは高価であり形状も大きい為、多用することはできません。次回はアッテネータによる回路インピーダンスの維持についてご説明したいと思います。

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次号は 11月2日(月) に公開予定

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