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Mr. Smithとインピーダンスマッチングの話

【第10話】Sパラメータの基礎

濱田 倫一

第9話では実際の回路デバイスの自己共振について、メーカが公表しているデータを用いて考察しました。我々が回路設計するときに想定する理想の回路素子と実際の回路素子の違いについてご理解いただけたのではないかと思います。当初の予定では、第10話はこの自己共振特性を積極的に利用する高周波回路設計手法である「分布定数回路」をテーマにしようと考えていましたが、第9話でS2Pファイルを取り扱いましたので、「Sパラメータとは何か」と「S2Pフォーマット」のデータファイルについて、先にご紹介することにします。

1.Sパラメータとは何か

SパラメータのSはScattering(散乱)の頭文字で4端子回路網の特性パラメータの一種です。電圧/電流の関係で特性を記述する一般的な特性パラメータと直接の互換性がない※ため、かつてはマイクロ波帯以上の周波数でしか扱われませんでしたが、昨今ではベクトルネットワークアナライザの普及により、他の特性パラメータよりも容易に測定でき、またSパラメータで表現されたデバイスモデルを用いる回路シミュレータが普及したことで、広く使われる特性パラメータの一つとなりました。

※厳密にはZ0が定義できれば反射係数とインピーダンスの関係(第4話の式4-1)を使って相互に換算可能です。

(1)4端子回路網・特性パラメータとは何か
本題に入る前に、Fパラメータ(Image parameters、ABCD parametersとも云う)を例にとって少しだけ復習です。Fパラメータは電気回路の教科書の4端子回路網の項で一番初めに登場する特性パラメータです。図1に示すように、4端子回路網(2-port network)とは正負1対の入出力端子を1ポート(Port、図ではP1,P2と表記)と数え、外部インタフェースとして2つのポートを有する回路網の事を示します。特性パラメータとは、この2つのインタフェースポートに観測される電圧と電流の相互関係から、その回路網の特性を表現する為のパラメータの事であり、2×2の行列式で表記されます。


図1 Fパラメータの定義

Fパラメータは、Port1(一般には入力端子)の電圧電流をPort2(一般には出力端子)の電圧電流で表現する為のA,B,C,Dの4つのパラメータです。図1に示した行列式を計算すると、

V 1 = A V 2 + B I 2    (式1-1)
I 1 = C V 2 + D I 2    (式1-2)

の関係になり、パラメータA,B,C,Dが判れば4端子回路の中身はブラックボックスであっても、任意の負荷を接続して任意の入力電圧を加えた時の入力電流、出力電圧、出力電流を求める事ができます。4端子回路網はブラックボックスなので中身は回路でも電子デバイスでも構わないことから、特性パラメータは回路モジュールのみならず、電子デバイスの特性パラメータとしても利用されているのです。なお「4端子回路網の特性パラメータ」と書くのは長くて煩雑なので、以下本稿では「4端子パラメータ」と表記します。

(2)4端子パラメータを測定する
教科書では4端子回路網の中身を定義して、特性パラメータを計算する演習が多く掲載されていますが、上記の通り4端子パラメータをデバイスの特性パラメータとして使用する場合は、これを測定して求める事になります。Fパラメータの場合、パラメータA,B,C,Dの値は出力ポート(Port2)短絡時の出力電流I2と開放時の出力電圧V2の値、ならびに各状態における入力電圧V1,入力電流I2を測定し、これらの値から、式1-3~1-6のように導出されます。

V 1 = A V 2 A = V 1 V 2 | I 2 = 0 (Port2開放時の入出力電圧比)    (式1-3)

V 1 = B I 2 B = V 1 I 2 | V 2 = 0 (Port2短絡時の順方向相互インピーダンス)    (式1-4)

I 1 = C V 2 C = I 1 V 2 | I 2 = 0 (Port2開放時の逆方向相互アドミタンス)    (式1-5)

I 1 = D I 2 D = I 1 I 2 | V 2 = 0 (Port2短絡時の入出力電流比)    (式1-6)

Fパラメータは4端子回路網を縦続接続した時の合成パラメータが各回路網の4端子パラメータの積(行列積)で導出できるので、音声伝送回路などでカスケード接続されるケースが多い回路素子やモジュールの特性パラメータとしてよく用いられます。(図2)


図2 4端子回路網の縦続接続

(3)回路の入出力電圧/電流で定義される4端子パラメータのバリエーション
4端子パラメータとは回路網の特性の表現手法なので、入出力の電圧/電流とパラメータの関連付けで様々なバリエーションが定義可能となります。よく使われるパラメータは表1に示すもので、それぞれ2-portからn-portへの拡張性や、実際にパラメータを測定するときの都合などによって使い分けられています。

表1 回路の入出力電圧/電流で定義される代表的な4端子パラメータ

(4)Sパラメータ(Scattering parameters)
ここからが本題です。Sパラメータも4端子回路網の特性パラメータの一種ですが、回路網の特性を表現する手段が電圧/電流ではなく、入射波(進行波)/反射波です。「散乱」という名称もこのことに由来します。図3に示すように特性インピーダンスZ0の伝送線路を介して電源、または負荷に接続された2つのインタフェースポートに観測される進行波a1,a2と反射波b1,b2の相互関係から2×2の行列式でその回路網の特性を示します。ZパラメータやYパラメータと同様、この概念は拡張性があって、インタフェースポートの数がnの時、n×n行列のn-portパラメータとして定義されます。従って電力分配器やサーキュレータのような3ポート以上のデバイスにも適用することが可能です。


図3 Sパラメータの定義

2-port Sパラメータの場合、パラメータの数はS11,S12,S21,S22の4つです。図3に示した行列式を計算すると、

b 1 = S 11 a 1 + S 12 a 2     (式1-7)
b 2 = S 21 a 1 + S 22 a 2     (式1-8)

の関係になります。仮にPort1を入力ポート、Port2を出力ポートと定義すると、パラメータS11,S12,S21,S22の値はPort1,またはPort2をそれぞれZ0で終端した時の各ポートの反射波の大きさから、式1-9~1-13の通り定義されます。→図4

b 1 = S 11 a 1 S 11 = b 1 a 1 | a 2 = 0 = Γ P 1 @ Z L = Z 0 (Port2終端時の入力インピーダンス)    (式1-9)

b 1 = S 12 a 2 S 12 = b 1 a 2 | a 1 = 0 = G P 2 P 1 @ Z S = Z 0 (Port1終端時の逆方向伝達関数)    (式1-10)

b 2 = S 21 a 1 S 21 = b 2 a 1 | a 2 = 0 = G P 1 P 2 @ Z L = Z 0 (Port2終端時の順方向伝達関数)    (式1-11)

b 2 = S 22 a 2 S 22 = b 2 a 2 | a 1 = 0 = Γ P 2 @ Z S = Z 0 (Port2終端時の出力インピーダンス)    (式1-12)


図4 Sパラメータの導出方法

従って、入出力インピーダンスが共にZo(一般には50Ωまたは75Ω)で使用される回路では、
S11:入力反射係数ΓP1=入力インピーダンス
S22:出力反射係数ΓP2=出力インピーダンス
S21:順方向利得(または単に利得)
S12:逆方向利得(入出力非対称の回路の場合はアイソレーション)
を直接示すことになって、ある意味非常に判りやすいパラメータです。

(5)なぜ高周波回路はSパラメータなのか
第8話までで解説してきたように、電源(観測点)と負荷(観測箇所)の間隔が波長に対して無視できなくなると定在波が発生するため、インタフェースポートでの電圧/電流を正確に測定することは困難になります。一方で進行波と反射波の振幅差と位相差は、線路の特性インピーダンスと損失、ならびに観測点からポートまでの電気長さえ管理すれば正確に測定することが可能です。このため高周波回路ではSパラメータによる特性表記が主流となりました。この線路の特性インピーダンスと損失、ならびに観測点からポートまでの電気長を管理して進行波と反射波の比を測定する装置がベクトルネットワークアナライザ(VNA)と呼ばれる測定器です。(図5)

VNAで測定を行う際に必ず実施するキャリブレーションという操作は、進行波/反射波を実際に測定する検波器(観測点)から測定対象のポートまでの損失、ならびに電気長を補正する行為です。(実際にはポート間のアイソレーションなども補正しています)


図5 ベクトルネットワークアナライザ(VNA)の例(Keysite ENA5061B)※
https://www.keysight.com/ja/pdx-x201771-pn-E5061B/ena-vector-network-analyzer?cc=JP&lc=jpn 参照

2.S11と入力インピーダンス(ΓP1)の関係

(1)常にS11P1、S22P2ではない
前章ではS11P1(=入力インピーダンス)/S22P2(=出力インピーダンス)と解説しましたが、これには忘れてはいけない条件があります。それは他方のPortがZ0で終端されている場合に限られると言うことです。フィルタ等のようにZS=ZL=50Ωで設計されているデバイスでは問題ありませんが、トランジスタなどのように入出力に整合回路を挿入して使用する場合は、例えば入力整合回路を設計する際には、トランジスタから見るとZL≠50Ωであり、出力整合後はΓP1≠S11となり、デバイスのS11に対して入力整合回路を設計しても、所望の結果が得られない事になります。

(2)1ポートパラメータ
この言葉は学術的なものではなく、VNAや回路シミュレータを使用する現場で”n-port parameters”の概念の延長として便宜的に使われている言葉だと思います。つまりVNAでアンテナの給電インピーダンスを測定するとき等は、図6に示すような2端子回路の反射特性を測定することになりますが、これを1port-parameter と呼び、n-port parametaersと同列で取り扱う場合があると言うことです。1portなので特性パラメータは反射係数ΓP1しかありません。これを便宜的にS11と呼ぶ事があり、この場合は常にS11P1となります。


図6 1ポートネットワーク測定

3.S2Pファイル(Touchstone format)とは

第9話でデバイスメーカが提供するデバイスのSパラメータデータファイル(S2Pファイル)から、S11パラメータを抽出し、デバイス単体のインピーダンス数列に換算する事例をご紹介しました。このS2PファイルというのはTouchstone formatとも呼ばれていて、VNAで測定したSパラメータデータを回路シミュレータに取り込む際に使用されるデータ様式です。4端子パラメータの記録様式の中では恐らく最も広く普及しているファイル様式ではないかと思います。

ここから先はTouchstone formatとこれをMr.Smithで取り扱う為の手法(少々面倒ですが)をご紹介します。

(1)S2Pファイルの歴史
回路シミュレータにはSpiceに代表される電圧・電流モデルを軸としたタイプとADSに代表されるSパラメータモデルを軸としたタイプがありますが、後者は1980年頃から普及が始まり、当時はEEsof社のTouchstone & Libra※1とHP(現Keysight)社のADSが二大巨頭でTouchstoneの方が普及していました※2が、1990年代中盤に当時のHP社がEEsof社を買収してHP-EEsof社(現・Keysight-EEsof社)となり、Touchstone & LibraはADSに統合・消滅しました。しかし当時の名残でSパラメータファイルの共通フォーマットにTouchstoneの名前が残っています。

※1:Touchstoneは線形回路シミュレータ、Libraは非線形回路シミュレータでした。
※2:あくまで筆者の私見です。

(2)S2Pの意味
S2Pファイルは正しくはSnPフォーマットと称し、nにはポート数を表す数字(整数)が入ります。つまりS2Pファイルは2ポートSパラメータデータ、S1Pは1ポートSパラメータ(反射係数データ)、S3Pなら3ポートSパラメータデータ…ということになります。ファイルの拡張子は「.SnP(nは整数)」、中身はテキストファイルなので、拡張子を「.txt」などに変更すればWindowsのメモ帳やExcelで中身を読んだり編集したりすることが可能です。

(2)S2Pファイルの中身

試しに第9話で登場したセラミックキャパシタのSパラメータデータファイルの中身を見てみましょう。図7はGRM18xシリーズの1000pFとして取り上げたキャパシタのカタログURLですが、このページの赤く囲んで矢印をつけた部分をクリックすると、このキャパシタのSパラメータデータファイル「GRM1882C1H102JA01.s2p」がダウンロードできる筈です。


図7 GRM18xシリーズ1000pFのデータシート(URLは下記)
https://psearch.jp.murata.com/capacitor/product/GRM1882C1H102JA01%23.html

ダウンロードしたファイルをメモ帳で開いてみたのが図8です。”.S2P”という拡張子はメモ帳では認識されないので、ファイル名を「GRM1882C1H102JA01s2p.txt」に変更して読み込んでいます。


図8 ダウンロードしたS2Pファイルをメモ帳で読んでみる

図中に赤の吹き出しでコメントしていますが、!で始まる行はコメント行です。データを提供するデバイスメーカにより色々な情報が書き込まれていますが、ここで注目しておく必要があるのが3行目~5行目に書かれている測定回路図です。L、C、R等の2端子(1port)素子の4端子(2port)パラメータなので、4端子回路網にどのように接続しているかが重要になります。図8の記述から判るように、2端子素子のSパラメータは入出力ポート間に直列に挿入して測定されたものです。このことは後ほどデバイス単体のインピーダンスを知る上で重要になりますので改めて図9に整理しておきます。続いて8行目の#で始まる行(デリミタ行)がデータの書式を示す情報になります。図8に赤の吹き出しで解説しているとおり、周波数の単位、特性パラメータの種別、複素データのフォーマット、そして測定系の特性インピーダンスZ0の順で記されています。(必ずこの書き順です)今回ダウンロードしたデータでは、周波数の単位は「Hz」、パラメータ種別はSパラメータ、複素データフォーマットはRe+Im表記(反射係数の複素数表記)、Z0=50Ωです。図8の例では9行目に、データ項目をコメントで記入してくれています。10行目以降はデータ(Sパラメータ)列になります。S2Pファイルの場合、Sパラメータは2×2行列ですので、最左列から周波数,S11実部,S11虚部,S21実部,S22虚部,S12実部,S12虚部,S22実部,S22虚部の順でデータが並び、合計9列のデータ列となります。(S1Pなら3列、S3Pなら19列)

なお、各データはスペースで区切られています。


図9 S2Pファイルにおける2端子素子のSパラメータ測定回路

4.S2PファイルをMr.Smithで扱う

S2PファイルのS11、S22データは加工すればMr.Smith※1に新規マーカ※2として読み込んで計算に使用することが可能です。ここでは例題として3章で取り扱ったセラミックキャパシタのS11をMr.Smithに表示させることにしましょう。

※1:Mr.Smithのダウンロードはこちらから… 
※2:読み込みに伴い周波数設定とポイント数がファイルの値に変更されるため、マーカをインポートするとMr.Smith ver3.3ではそれまでの計算結果が破棄されます。(マーカの取り込みは各計算の最初に1回だけ可能)

(1)表計算ソフトに読み込む
S2PファイルをMr.Smithで読み込めるようにする為の加工は表計算ソフトで行います。本稿ではMicrosoft Excelを利用して加工しています。まずMicrosoft Excelの「開く」メニューで表示されるダイアログでファイルの種別を「テキストファイル」に変更して図8のファイルを読み込みます。この操作を行うと図10に示すような「テキストファイルウィザード」が表示されるので、赤矢印で示すように「カンマやタブなどの区切り文字によってフィールドごとに区切られたデータ」を選択して「次へ」ボタンをクリック。次に表示されるページで図11に示す通り区切り文字に「スペース」を選択して「完了」ボタンをクリックすると図12に示す通りS2Pファイルの読み込みが完了します。


図10 S2PファイルをMicrosoft Excelに読み込む(その1)


図11 S2PファイルをMicrosoft Excelに読み込む(その2)


図12 S2PファイルをMicrosoft Excelに読み込む(その3)

(2)Mr.Smithで読めるように加工する
読み込んだデータのA列は周波数、B列から順にS11実部、S11虚部、S21実部…と続きますが、図12に示すように、必要な部分はS11を表示する場合はA~C列、S22を表示する場合はA列とH、I列となります。図13に示すように不要な列を削除し、”!”で始まるコメント行と”#”で始まるデリミタ行を全て削除して、2行目まで行を詰めた後、空いている1行目に周波数ポイントの数、Z0実部(50)、Z0虚部(0)を書き込めばMr.Smith用のマーカデータファイルの完成です。なおA列の単位がHz以外の場合はHzに換算しておく必要があります。

データの点数は(末尾データの行番号-先頭データの行番号)+1の計算で求めるか、または1列分のセルを全て選択してウィンドウの右下に表示される選択セルの数を読み取って求めます。作成したワークシートはCSV形式でファイルに保管してください。


図13 Excel上でS2Pデータから、Mr.Smithで読み取り可能な書式に変更

(3)Mr.Smithに読み込む
(2)で作成したCSVファイルをMr.Smithに読み込むには、図14に示す通り「ファイル」→「インポート」→「マーカリスト」と選択し、CSVファイルのパラメータ記述フォーマットを選択します。今回作成したファイルはRe+Im(反射係数)フォーマットでした(デリミタ行のデータフォーマットが”RI”→図8参照)ので、Re+Imを選択します。


図14 作成したファイルをMr.Smthに読み込む

読み込んだ結果を図15に示します。図9に示した通り、セラミックキャパシタのS11データはキャパシタと負荷抵抗ZL(50Ω)の直列接続回路のインピーダンスになるので、50Ωの定抵抗円上を回転するローカスになっています。ファイルフォーマットがRe+Imだったので、Marker TypeはReflection coefficient(反射係数)となっていますが、Impedanceボタンを選択すれば、R+jXの値を知ることができます。


図15 GRM1882C1H102JA01のS11をプロット

■5.S11→デバイス単体のインピーダンスに変換する

図15に示した回路から判るように、この4端子パラメータS11の値から2端子素子であるセラミックキャパシタのインピーダンス特性ZCを知るには、S11の値から50Ωを引く必要があります。しかし今回ダウンロードしたS2PファイルはRe+Imフォーマットつまり反射係数の複素表示になっているため、R+jXの値に換算しないと50Ωの引き算ができません。Mr.Smith ver3.3は画面上ではMarker Typeボタンを選択することでZ、Y、Γの相互変換、CSVファイルに保存する機能を用いれば、Z(R+jX)とΓ(Re+Im)の相互変換が可能です。(CSVファイルへの保存機能については少々不出来ですが…)

(1)G→Zへの変換
CSVファイルから読み込んだ反射係数データをインピーダンスに変換して保存するには、「ファイル」メニューの「名前をつけて保存」を選択します。図16に示すダイアログボックスが表示されるので、「ファイルの種類(T)」プルダウンリストから「カンマ区切りテキストファイルR+jX(.CSV)」を選択して保存します。


図16 読み込んだS11データをR+jX形式に変換して保存

(2)50Ωを引く
ZLを除去する操作は先と同様表計算ソフトで行います。Mr.Smith制作当初はこのようなオペレーションを想定していなかったので、回転メニューで負のインピーダンスを入力できないようにしましたが、今から思えば負性インピーダンスの入力ができた方が便利だったかもしれません。図17に(1)で作成したCSVファイルをMicrosoft Excelで開いた例と50Ωを除去する処理を示します。なおMr.Smithが出力したCSVファイルの3行目のタイトルが、データの位置と合っていないのはプログラムのバグですので目を瞑ってください。
S11=R11+jX11とすると、ここからZLを引く計算は

S11-ZL=(R11+jX11)-(50+j0)=(R11-50)+j(X11-0)=R11-50+jX11    (式5-1)

となり、実数列(図のB列)から50を引き算した数列ファイルを作成する作業となります。例題のファイルはデータ数が401あるので、新しいブックを作成してそこに元のファイルから参照コピーする式を書き、その際にB列のみ計算式に-50を追加して401行分コピーするのが最も簡単な手法ではないかと思います。


図17 Microsoft Excelで50Ωを引き去る

作成したCSVファイルを先程と同じ要領で再度Mr.Smithに読み込みますが、今度は図18に示すように「R+jX」フォーマットを選択します。


図18 再度Mr.Smithに読み込み

読み込んだ結果を図19に示します。第8話、第9話で説明したような、周波数の上昇と共にスミスチャートの外周を時計方向に回転するローカスが表示されました。

S11をプロットしたときにはよくわかりませんでしたが、自己共振の直後に小さな寄生共振の軌跡が確認できます。これは第9話の図3に赤の破線で囲んだ部分に該当し、サンプリング点数の関係で判読できませんが、恐らく小さな円を描いていると思います。また自己共振周波数より高い周波数領域ではローカスがチャートの内側に入っており、損失が大きくなっていることも窺えます。


図19 GRM1882C1H102JA01の周波数対jX特性のプロット

■6.第10話のまとめ
第10話では、Sパラメータの説明とSパラメータファイルの代表的なフォーマットであるTouchstoneフォーマット(SnPファイル)と、これをMr.Smithで取り扱うときのテクニックをご紹介しました。要点をまとめると以下の通りです。

① 4端子(2port)回路の定義とその特性パラメータについて解説しました
② 4端子パラメータはデバイスの特性パラメータとしても利用されています。
③ 一般的な4端子パラメータは入出力の電圧と電流の関係を示す特性パラメータですが、Sパラメータは、入出力の入射波と反射波の関係を示す特性パラメータです。
④ Sパラメータ、Zパラメータ、Yパラメータはn-port回路の特性パラメータに拡張可能で、n×nマトリックスで表記される。

SnPファイルはVNAの測定データファイルとしても標準的に採用されているフォーマットなので、実験データをMr.Smithに読み込んで回路設計を行う等の応用が可能です。興味のある方は是非ご活用ください。次回はλ/4線路の振る舞いについて解説します。

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次号は 11月1日(金) に公開予定

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