2015年1月号

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連載記事

熊野古道みちくさ記


熱田親憙

第1回 アンテナの見える丘

数年前、トルコツアーで串本には遭難救助に由来するトルコ記念館があり、日本とトルコの友好のシンボルに成っていることを知った。機会があればと思っていたトルコ記念館を訪れている。トルコとの相互交流のさ中、1889年、トルコ皇帝は日本に友好使節団を派遣。その帰国途中、700人近くを乗せたエルトゥ―ル号が、串本・樫野崎灯台近くで座礁。(1890年)大島の人々の献身的な救助活動にも関わらず69名の生存者しか得られなかった。村人の手厚い介護の後、明治政府は軍艦2艘で生存者を母国に送り届けたとある。記念館の上から座礁を見てその近さに驚き、もし、当時、今のような通信ネットが発達していたら、2、3倍の生存者になっていただろうと悔やまれる。やや興奮ぎみに、もう一つの灯台・潮岬灯台に向かった。途中、見晴のきく潮騒の森に立つと、麓に大きなアンテナのある家が目にとまり、防災に関わられている家ではないかと思い、お尋ねした。辿りついたアンテナ基地の表札は岡本さん宅。

現われた岡本さんにアンテナの取材趣旨を告げると、「丁度この地区のアマチュア無線の会合をしているので、長時間でなければ、メンバーに聞いてください」と、2階に案内された。潮岬ハムクラブ代表の矢野幸広さん、事務局の川崎紀久男さん、アマチュア無線の中継基地デジタルレピーターをもつ岡本修司さんが同席されていた。取材目的を申し上げて、次のような情報を得た。

1. アンテナ導入には、4年ほど前に和歌山県知事から一般社団法人)日本アマチュア無線連盟(JARL) にアマチュア無線を通して地域の「防災活動で何かできないか」の打診 があり、JARL関西地方本部が調整役となって、岡本さん宅にデジタルレピーター設置の決断をいただいた経過をもつ。

2. 岡本さん宅に設置のデジタルレピーターの役割は、無線の電波を広範囲に広げ、さらにインターネットを通して、ハム仲間同士の交信を地球規模で行うことと自覚している。ハム仲間はお互いに顔を知らなくても信頼が篤く、所が離れていてもすぐ友人に成れる。見方によっては、一番頼れるネットワークかもしれない。

3. 今日集まった潮岬ハムクラブは、無線交信の楽しみの他に、アマチュア無線家ができる防災に関する情報交換を救助活動にどう結びつけるか。近隣のハムクラブへどう呼びかけようか。トルコのデジタルレピーター基地 (設置済 み)との国際交信をどうするか、などを話し合っているという。

私はトルコの航海災害の救助の歴史をもつ串本町が、デジタルレピーター基地を中心にして、防災モデル地域になって行けば最高だと思う。灯台が航海の安全の燈火なら、このデジタルレピータ―が、台風、地震、津波などの一歩先を読む防災準備のこころの燈火となり、被害も最小限になるだろうと期待が膨らんだ。今日は岡本さんのアンテナに導かれて、ハム仲間の心意気に触れることができて、近くの潮岬灯台も一層輝いて見えた。


スケッチ 潮岬灯台(東牟婁郡串本町) を望む

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