2015年1月号

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連載記事

楽しいエレクトロニクス工作

JA3FMP 櫻井紀佳

第20回 1人でタワーを建てる

アンテナのタワーが欲しいと思っているアマチュア無線家は多くいると思います。私もその1人でタワーを建ててみました。1人だけでタワーを建てる人はあまりいないと思いますが、不可能ではないと挑戦してみました。

タワーの選択

タワーはあまり高いと風や雷で心配ですし、15m以上は建築基準法の申請の必要があるようなので13mの鉄塔にしました。クリエイトデザイン(株)のものがスマートで気に入ったのでKT13Cを注文しました。

しばらくすると販売店から写真のような梱包形態で届きました。材料の一番長いものは2,438mmで比較的コンパクトに感じましたが重さは215kgあり結構重いです。取説に丁寧に説明されているので1人で建てても大丈夫のようです。

穴掘りとコンクリート打ち

まず穴掘りですが、取説によると80cm角で深さ1.6mの穴を掘らなければなりません。掘る穴の位置をしっかりマークして、最初は普通のツルハシとシャベルで掘っていましたが、ツルハシの柄の長さが邪魔になり、そのままでは掘れないことが分かりました。このため写真のような柄の短いツルハシを買ってきて掘り進めました。

掘り方はまずツルハシで掘り、写真の「てみ」に土を入れながら、それを穴の外に放り出します。ホールティガーというシャベルを2つ組み合わせたような道具も用意しましたが、使い勝手が悪く結局使いませんでした。

最初は穴掘りの経験がないため何日かかるのか分からぬままに掘っていましたが、意外に早く1日少しで掘ることができました。1人で掘っていると外に放り出した土が邪魔になり、時々穴から出てその土を遠くへ運ばなくてはなりません。最後の方は背丈位まで土をあげなければならず結構な重労働となりました。

掘った穴が深くなってくると穴からの出入りも大変になりました。ハシゴをかけるとよさそうですが実は邪魔になって1人作業ではハシゴは使い難いことも分かりました。考えた結果、穴の深さの半分程度の長さの丸太を穴の角に立てかけ、それに足をかけて上り下りすると楽なことが分かりました。

穴掘りも終盤近くの1.5m位掘ったあたりで岩盤が出てきました。この付近は岩盤が意外と浅かったのです。仕方なくタガネと大きなハンマーで岩盤を割りにかかったのですが、強烈に堅くてほとんど割れません。岩盤が斜めに沈み込んでいるため掘れるところは掘って、これで我慢することにしました。その代わり岩盤が丈夫なのでタワーが沈み込む恐れはありません。作業が1日で終わらない場合、次の作業は次週となるため穴の上にブルーシートをしっかりと張って、雨対策としました。うっかり雨が溜まると水抜きが大変です。

一週間後、コンクリートを打つ前に一番下の鉄骨のセクションを組み立てます。取説通りに組み立てるのであまり難しくはありませんが、このセクションを穴の真ん中に入れ少し埋め戻します。取説では土を20cm埋め戻すことになっていましたが、一番下の鉄骨までコンクリートを流し込みたいため土ではなく大きな石(栗石)をいれて動かないようにしました。

この一番下のセクションはできるだけ垂直にしなければタワーが傾きます。そのため、このセクションの上の真ん中から糸をつるし、一番下の真ん中の印まで合わせます。専用の「下げ振り」がなかったので穴開け用のテーパーリーマーを使って合わせました。このセクションの垂直を合わせるため、X、Y方向に鉄棒を打ち込み、それになまし線をつけて少しずつよじって位置を合わせて固定しました。

次にコンクリートを流し込みます。穴の大きさが0.8×0.8×1.5mとして0.98m³で約1立米のコンクリートが必要です。専門家ではないため、コンクリートの配合を調べたところ、セメント、砂、バラスの比を1:3:6にすればよいことが分かりました。セメントは25kg入り、砂とバラスは20kg入りがホームセンターで売られていますので、1立米の必要量はセメント7袋、砂24袋、バラス48袋、になりました。

水はセメントの半分位必要ですが、練り上がったコンクリートの量はバラスと同じになりました。砂とセメントはバラスの間に入って量は増えないのだそうです。

シャックの近くに小型のコンクリートミキサーを持った知人がいたため、それを借りることにしました。さすがにこの量をシャベルで混ぜてコンクリートを作る気にはなれませんでした。このミキサーがあれば簡単で、セメントをバケツで計り、砂2袋、バラス4袋と水を必要量入れてスイッチを入れると数分で練り上がります。それを穴の中に流し込むだけなのであまり重労働ではありませんでした。この動作を12回繰り返しました。

地表までコンクリートを打てばそのまま1週間養生させます。一番上部は見た目をよくするため四角く仕上げるのが普通ですが、将来もし撤去するとなった時、鉄の部分だけ切り取ればいいようにと、あまり盛り上げませんでした。但し鉄の部分が土と直接触れると腐食するのでコンクリートで巻いておく必要があります。1週間後コンクリートの基礎部分が固まってから最後の仕上げをすることにしました。

設置

最初は鉄塔の取説のように地面に木の角材を並べて1セクションずつ組み立てていましたが、この姿勢での作業はもの凄く腰が痛くなります。そこで軽トラの荷台を利用して組み立てると、高さが丁度よく腰痛から解放されました。

1セクション組み上がると、順に吊り上げて取り付けます。1セクションの長さは2.4m程度なので4mの単管パイプを組み上げた鉄塔の一番上に取り付け、単管の先に滑車をつけてロープで引き上げます。そのロープは組み上げた鉄塔の一番下にも滑車をつけてロープを通し、ロープの先を軽トラで引っ張って上げます。ロープの長さはタワーの高さ+αの折り返しが必要でこのタワーでは30mのロープを使いました。黄色と黒のいわゆるトラロープは元々重量の補償はされていないもののようで、重い加重では使わない方がいいようです。特に人命は補償されないそうで注意が必要です。

吊り上げ用の単管は下端から1m位上に鉄塔に固定する単管の取付金具をつけてボルトで固定します。各セクションの上の位置にちょうど取付金具を付ける穴があいています。単管の下端に近い端にはタワーに穴がないため、なまし線かロープで固定します。

軽トラの前部のフックにロープをかけてバックしながら目標近くに引き上げますが、意外にロープのゆとりがあって上下でき、きっちり合わさなくても簡単に位置合わせができます。1セクション組み立てる時に、そのセクションの一番上の、次段と繋ぐジョイナー金具をゆるく留めておくと次段を吊り上げて下ろす時、取り付けやすくなります。一段ずつネジ留めをきっちり行って同じ工程を上まで行います。

タワーの組立が終わればローテーターを取り付けます。ローテーターも同様に単管の滑車で引き上げて取り付けます。ローテーターをタワーの中に入れにくいときは、タワー補強アングル(斜めの棒)の1本を一時的に外して、その間から入れてもよいと思います。

マストはアンテナマスト専用のパイプを売っているようですが、あまり大きなアンテナをつける予定がないので4mの単管を利用しました。ただしマストの単管を設置するには、鉄塔の一番上からローテーターまで通さなければならず、鉄塔の一番上では両足を乗せただけの広さしかなく、また何も持つ所がないため、その状態で単管を一番上まで持ち上げた時には肝を冷やしました。これは誰にもお勧めできませんので違う方法の検討が必要です。単管のトップには雨が入らないように専用の金属キャップを被せておきます。プラスチックのキャップは耐候性が悪く1~2年で割れてしまいますので金属キャップをお勧めします。

タワー頂上のマストを留めるベアリングは、構造の割に価格が高いように思われ、あまり頻繁に回して交信する予定はないので、単管保持用の金具にグリスをしっかり塗って使うことにしました。上部に余分にグリスを塗っておき雨で流れないようにステンレスの板で傘を作り、単管にしっかり留めています。

アンテナ取付

アンテナにはナガラ電子工業の14MHz、21MHz、28MHz用のトライバンダーTA-341を載せました。その上には50MHz 4エレの八木アンテナを載せています。

取付方法は、実はタワー建設前まですぐ横の松の木にマストをつけて上げていたものをスライドしてタワーに上げることにしました。このため、アンテナにロープを縛り付け、そのロープを取り付けマストの一番上に取り付けた滑車に通して、ロープの一端を軽トラで引っ張りながらスライドして上まであげました。

トライバンダーの取付場所はタワーの頂上より30cm程度上げているだけで単管パイプのマストにはあまり横方向の力がかからないようにしました。50MHzの4エレはマストの一番上に取り付けました。この4エレアンテナはHB9CVタイプで、30年前に使っていたものを復活させました。当時はあまり気にしていなかったのですが共振周波数は意外に狭帯域で、1MHz帯域でSWR1.5以下を保つのは困難でした。

ローテーターのコントロールケーブルは7芯ですが、近くの販売店で見つからずLANケーブルを利用することにしました。単芯のケーブルで電流容量が多少心配でしたが、使ってみると特に異常はなく現在も問題なく動作しています。

タワーを建てるために活躍した30mのロープは、作業後さすがにくたびれて次の安全な作業に使うには少し不安が残るため、以前から考えていたハンモックにすることにしました。考えていたスマートな編み方のハンモックと異なり、ワイルドな仕上がりになりましたが、とりあえず使用に耐えるものとなり、時々のんびり寝そべっています。

HFと50MHzのアンテナを取り付けた後、1.2GHzのD-STAR用のアンテナも取り付けたくなり、タワーの頂上部より少し下がったあたりのタワー本体に取り付けました。スタックの間にタワーが入ることになり少し心配したのですが、実はその前に単独のポールに取り付けていた時と結果的にほとんど性能が変わったようには感じられないためそのままにしています。

この場所は台風や季節風が結構きつく、1週間に1度しか行かないので台風が来ると次に行くまで心配ですが、もう何回も台風に耐え大丈夫なことが分かってきました。私は元々ものを作るのが好きなアマチュア無線家で電波を出すのは比較的少ないのですが、タワーとアンテナがあれば安心してアマチュア無線を楽しめます。

1人でタワーを建てるという話はあまり聞かず、またその必要性もないかも知れませんが、もし1人で建てることを検討されいる方がおられるようでしたら私の建て方、ならびに費用の面でも参考になれば幸いです。

■ 単管
建築工事で用いられる機材の一種で「単管パイプ」の略です。JISで直径48.6mmと規定されていて長さは色々ありますが、1m位から1mおきの長さのものがホームセンターで売られています。
長いものは自家用車に載せ難いのですが、多くのホームセンターではトラックを貸して貰えると思います。

単管部品

■コンクリート
・コンクリートの材料比 セメント1、砂3、バラス6
・骨材の比重は一般的に1.6kgで計算
・1立米 = 1,000L(1,000kg) 1,000×1.6 = 1,600kg
・材料比で割るとセメント160kg、砂480kg、バラス960kg
・市販の量、セメント25kg/袋、砂およびバラス20kg/袋で割ると
・セメント160/25=6.4(7袋)、砂480/20=24袋、バラス960/20=48袋

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