2015年8月号
連載記事
楽しいエレクトロニクス工作
JA3FMP 櫻井紀佳
第27回 可変アッテネーター
受信機や送信機の試験などを行う際、可変のアッテネーターがあれば便利な時があります。そこで、できるだけ広帯域で使えるアッテネーターを検討してみました。さっそく手持ち部品を使って作ることにしましたが、高周波特性を上げるため、切り替え部分には高周波リレーを使用しました。このリレーは昔、他に使うつもりで多数買い込んでそのままになっていたものです。
Omronの高周波リレー
また、切り替え用のスイッチも随分昔から持っていたものですが、これは8回路のプッシュスイッチで、押したときだけONになりロックしません。このため回路的にロックする必要があります。ロックするスイッチを使えばこの回路は必要ないのですが、今回は手持ちの部品を優先して制作しました。
完成した外観は下の写真のようになりました。
1. 考察
今回作るアッテネーターは高周波目的であるためインピーダンスは50Ωとしています。1dBステップで最大80dBまで使えるようにするために、1dB、2dB、4dB、8dB、10dB、20dB、40dBとしました。できるだけ高い周波数まで使えるよう抵抗の素子にはチップ抵抗を使います。チップ抵抗も見かけは周波数特性が良さそうですが、実は抵抗値を補正するための切り込みがあって、それ程良い訳ではありません。高い周波数になるほど抵抗の周波数特性が気になります。
アッテネーターはT型やπ型で構成するのが一般的です。今回はT型を採用しました。巻末のコラムに計算方法と計算した結果の表をつけていますので参考にご覧ください。
それぞれのステップに必要な計算上の抵抗値は端数が出てそのままでは入手できませんので、それに近い抵抗値になるよう組み合わせで作ることにしました。市販のチップ抵抗で組み合わせましたが、次の表のR1合成値とR2合成値で再計算して「計算値(dB)」と「Z計算(Ω)」を出しています。チップ抵抗にも誤差がありますので何個か計って計算値に近づくような値のものを選べば誤差を小さくできます。
2. 回路
それぞれのポジションのスイッチを押した時、ホールドする回路は次のようにしました。
スイッチを押すとR100とR101で分圧された電圧がIC16Aのインバーターに入力され、反転された信号がIC12Bのフリップフロップに入力されます。この接続では信号の入力の立ち上がりでフリップフロップが反転することになります。
一度スイッチを押すとIC12Bが反転してホールドし、QがHレベルとなることからQ8のFETがONとなりRL9とRL10のリレーがONとなります。この時DS6のLEDにも電流が流れてホールドしていることを表示します。もう一度スイッチを押すと元に戻ります。
機械的なスイッチはチャタリングが発生するため、そのまま接続したのではバタついて安定に動作しません。このため、R100、R101およびC75でバタついたチャタリングを取り除きます。その遅延特性は次の通りです。
また、このR100とR101の回路は抵抗分圧しているためLレベルが十分低くならず、0.88V位電圧が残って少し心配ですが、一応このCOMSレベルでは規格上電源電圧が4.5Vの時0.9V以下がLレベルとなっているので保証値はクリアしています。
0dBの時にはホールドしているフリップフロップをすべてクリアすればよいので、CL端子をまとめてグランド側に落としてクリアします。電源はロジック回路用の5Vと、使用した高周波リレーが9Vのため2種類になりました。標準ロジックICの電源電圧はMax.7Vなので9Vに接続できませんでした。
高周波リレーの部分は、アッテネーターがOFFの時は素子部分がどこにも接続されずスルーする必要があり、両側で切り替えるため1段当たり2個の高周波リレーが必要です。実際の接続部分の配線は次のようになっています。
配線には漏れを防ぐ意味でセミリジッド同軸を使いましたが、1.5D2V程度の同軸でも問題ないと思います。
3. 組立
全体の組立は次のようになりました。高周波特性を上げるため両面のプリント基板を使い、裏側は全面グランドとして接続部はカッターナイフでパターンを切り取って作りました。
シャーシーとケースは手作りのためできるだけシンプルにしないと板金加工が大変です。後面と横はアルミの板をコの字型に曲げます。また、前面と上面、下面もコの字型に曲げますが、角の所はカッターナイフで少し切り目を入れて、机の角などで曲げると曲がります。前面のLEDの取り付けと補強のアルミ板もコの字型に曲げてネジ止めします。
元々切り替えスイッチに押しボタンのつまみがついていなかったので、これはアクリル板を切って作りましたが、形が不揃いになってしまい格好よくできませんでした。
高周波リレー側
ロジック回路側
後面
4. 測定
それぞれのアッテネーションの測定結果は次のようになりました。特性は上から1dB、2dB、4dB、8dB、10dB、20dB、40dBの順になっています。
結構カーブがふらついたり周波数の高い方で特性が悪くなっています。40dBの部分はさすがに一気にこの減衰量を取ったため高い周波数まで安定な特性になっていません。20dBを2段重ねて6個の抵抗を使えばもう少し特性がよくなるかも知れません。
30MHz~40MHzと90MHz付近のカーブの曲がりは抵抗素子の影響ではなく配線でなにか共振する要素があるのかも知れません。要検討と思っています。
このアッテネーターを使って、製作したフィルターやアンプ等の測定と試験に色々使っていますが、アマチュア無線の一般の運用にはあまり必要としません。近所の強力な無線局より受ける妨害のレベルの測定や妨害の軽減には利用できるかも知れません。もちろん自作派の人には可変アッテネーターが1台あれば便利だと思います。
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