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ジャンク堂

第2回 オペアンプ入門(2)

JH3NRV 松尾信一

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さて今回もジャンク堂、開店です。

前回は主にオペアンプの電源電圧範囲と両電源/単電源について話しをしました。今回はオペアンプの種類からスタートしたいと思います。

③オペアンプの種類
オペアンプは構成する半導体によって以下のように分類されます。


ICを構成する素子が全て通常のトランジスタ(NPNやPNP)のものをバイポーラタイプと呼びます。この中でも入力段がFETで構成されているものをFET入力型と呼びますが入力段以外は通常のトランジスタで構成されており、バイポーラタイプのオペアンプに分類されます。バイポーラタイプより後に出てきたものにCMOSタイプがあります。全てMOS FETで構成されており、低電圧動作/単電源動作、Rail to Railといったような特徴があります。CMOSタイプは使いやすいようですが、ノイズや周波数特性などでは未だバイポーラタイプに及ばないものが多いようです。

オペアンプの種類による特徴は一般的に以下のように言われています。


この表の内容はマクニカ社のHPから引用しました。

この表では利得帯域幅積(後述)について触れられていませんが、周波数特性という面でもバイポーラ型(FET入力を含めて)の方が一般的には良いようです。CMOS型の場合、乾電池1~2本で動作するものもあり魅力的なのですが、総合的な性能や入手性という面では未だバイポーラ型の方が有利です。尚、入力バイアス電流とオフセット電圧は主に直流アンプを組む時に影響がある特性で、次回くらいに触れたいと思います。

近年はMOS型半導体の発展が著しいので、今後はCMOSタイプでも全ての面でバイポーラを凌ぐものが安価に入手できるようになるかも知れません。

④利得帯域幅積(Gain Bandwidth: GB又はGBW)
オペアンプはDC(直流)から増幅できますが、それでは周波数が高くなるとどうでしょう? オペアンプの周波数特性を考えるには、利得帯域幅積とスルーレート(Slew Rate)という二つの特性をチェックする必要があります。

オペアンプは直流付近では100dB前後もの大きなゲインを持ちます。しかし、数十Hz位からゲインが下がり始め、1MHz前後から数MHzでゲインが1(=0dB)になります。多くのオペアンプはゲインが低下するときの傾斜は-6dB/oct(周波数が倍になると電圧ゲインが6dB低下する)となっています。このゲインが1(0dB)の時の周波数が利得帯域幅積(GB又はGBW)*で、これが高いほどアンプとして動作させた時に高域まで使用する事ができます。
*注)利得帯域幅積(GB)の正しい定義は周波数とその時のゲインを掛けたものになります。ゲインが1倍(0dB)の時の周波数が1MHzだと、利得帯域幅積は1x1MHz=1MHzとなります。一般的なオペアンプのように-6dB/octの一定の傾斜でゲインが低下する場合はゲインが10倍(20dB)の時の周波数はゲイン1の時の1/10となります。例えばGB=1MHzの場合、ゲイン1の時の周波数は1MHzですが、ゲインが10倍の時の周波数は100kHzになります。どちらもゲインとカットオフ周波数を掛けると1MHzになります。この事から、ゲインが1となる時の周波数をもって利得帯域幅積と表現しました。尚、利得帯域幅積の単位はHzになります。

下のグラフは左がLM358、右はNJM4558の特性で負帰還を掛けていない時(オープンループ)の周波数対ゲイン(と位相)を表しています。グラフの横軸が周波数で縦軸がゲイン(黒線)と位相(赤線)です。

LM358のグラフは100Hz以上から、NJM4558は1Hzから描かれています。LM358も100Hz以下はNJM4558と同様の傾向となります。ゲインは数十Hz前後で最大となり、それ以下はフラットとなります。この時のゲインがオペアンプの電圧利得(ゲイン或いはオープンループゲイン)となります。


LM358はデータシートを見ると利得帯域幅積(GB)が1.2MHzとなっています。このグラフでも約1.2MHzでゲインが0dB(1倍)になっています。尚、利得帯域幅積の値はグラフから読み取らなくても特性表に必ず記載されています。

NJM4558は利得帯域幅積が3MHzでグラフを見ても3MHz付近でゲインが1になっています。最近、JRCはデータシートでは利得帯域幅積の値は表に数値として記載されていますが、このようなグラフは載せていない事が多いです。これは最大ゲイン(オープンループゲイン)と利得帯域幅積が分かれば容易にグラフが描けるためと思います。

さて、オペアンプではNFB(Negative Feed Back: 負帰還)を掛けて使う事になります。以前に述べたようにRsとRfの比でゲインが決まりますが、設定したゲインによって高い方のカットオフ周波数が変化します。


このグラフもLM358のデータシートから引用しています。ゲイン設定が1倍(0dB)、10倍(20dB)、100倍(40dB)、1000倍(60dB)と変化すると高域が低下するカットオフ周波数も変化しています。このグラフから分かるようにゲインを低く設定する(=負帰還の量を増やす)とカットオフ周波数が高くなります。また各ゲインとカットオフ周波数を掛けた値は何れも同じになります。

ここで、G= -1と書かれている線があります。(分かり難いですが緑色の線)これは反転増幅回路でゲインが1の時の特性です。他の線は全て非反転増幅の時を示しています。この線を見るとゲインが1の時でも非反転増幅の場合と反転増幅の場合ではカットオフ周波数が異なり、反転増幅の方が低い事が分かります。これは、同じゲイン=1の時であっても反転増幅と非反転増幅では負帰還量が異なるためです。ゲインの計算を行う時に非反転増幅は反転増幅の場合に比べて1大きいと前回に説明しました。反転増幅でG=1となる場合Rs=Rfですが、この抵抗値で非反転増幅にするとG=2となります。つまり、同じ負帰還量であってもゲインが異なる事になります。この事から高域のカットオフ周波数は、本当はゲイン設定ではなく負帰還量で決まる事が分かります。つまり、反転増幅でG=1の場合のカットオフ周波数は非反転増幅のG=2の時と同じになります。もっともこの差はG=1の場合に最も大きくてゲイン設定を高くするほど差がなくなって行くので余り気にする必要はないと思います。

このように高域の周波数特性はオペアンプの周波数帯域幅積(GB)とゲイン設定(負帰還量)によって決まります。

⑤最大出力電圧振幅周波数特性とスルーレート(Slew Rate)
この特性もオペアンプの周波数特性を考える上で注意すべき特性となります。(特に最大出力電圧を大きくして使いたい場合)

例としてLM358の周波数対最大出力電圧の特性をデータシートで見てみましょう。


電源電圧を15V(単電源)で使用した時の出力電圧(p-p値)です。p-p(Peak to Peak)とは交流波形の最大値と最小値の差の電圧を言います。10kHz以下では13Vp-pの最大出力電圧(振幅電圧)が得られますが、10kHzを超えたところから下がり始めて20kHzから急激に最大出力電圧が下がります。先に見た利得帯域幅積のグラフではLM358をゲイン20dB(10倍)に設定すると、100kHz程度までフラットな周波数特性が得られていますが上のグラフでは100kHzでは1.5Vp-p程度しか出力する事ができません。この場合、出力レベルが1.5Vp-p程度より小さければ100kHzまでフラットとなりますが、それ以上の出力電圧を出そうとすると周波数特性はフラットではなくなります。この周波数対最大出力特性はゲイン設定(NFB量)を変えても変化しません。

NJM4565の場合も見てみましょう


元々利得帯域幅積が10MHzと広帯域であるためにゲインを20dB程度に設定すると1MHz程度までフラットな周波数特性が得られます。しかし最大出力の特性はLM358よりも良いですが、やはり70kHz程度から上は落ちて行きます。このような事が生じる要因はスルーレートにあります。スルーレートとは、どれだけ高速に電圧が立ち上がる事ができるかという特性になります。


図をご覧下さい。入力の信号が非常に高速で立ち上がる矩形波であったとします。しかし、出力1も出力2も入力波形ほど高速に立ち上がる事ができずに、傾斜を持って立ち上がります。オペアンプの場合もこのような入出力特性を持ちます。出力1の場合、1μSで1Vまで電圧が上がっています。出力2の場合は1Vまで立ち上がるのに2μSの時間が掛かっており、1μSでは0.5Vまでしか立ち上がりません。

スルーレートは通常**V/μSという単位で示され、出力1の場合は1V/μSで出力2の場合は0.5V/μSとなります。この値が大きいほど、スルーレートが高く、高速で電圧が立ち上がります。

さて、矩形波でのスルーレートはご理解頂けたと思いますが、正弦波ではどうでしょうか?


点線は、各々赤(A)と黒(B)の正弦波の立ち上がり部分の漸近線です。同じ周波数の正弦波であっても、電圧が大きくなると立ち上がりの傾斜も大きくなる事が分かると思います。この事が周波数特性に影響を与える事になります。スルーレートが出力電圧に対して十分でないとスルーレート以上の傾斜で電圧が立ち上がる事ができないために入力に対して出力が追いつかなくなります。正弦波を入力しても出力は三角波のような波形で立ち上がり、十分に電圧が上昇しないうちに電圧が下降してしまいます。スルーレートをデータシートの表で見ると、LM358は0.5MHz/μSでNJM4565では4V/μSと8倍もの開きがあります。この事が最大出力電圧の特性の差になっています。

以上から、利得帯域幅積とゲインの設定、それからスルーレートがオペアンプでアンプを作った時の高域の周波数特性に影響を与える事がご理解頂けたのではないかと思います。

⑥出力電流
通常のオペアンプは出力端子に接続する負荷のインピーダンスが1kΩ程度以上であることが前提となっています。前に出てきたNJM4565の周波数と最大出力電圧のグラフでも負荷の抵抗が2kΩに対して400Ωでは最大出力電圧が低下している事が分かります。オペアンプにスピーカーやイヤホンなどの数Ωから数十Ωの負荷を接続すると、電流制限回路が働いて出力が十分出なかったり歪みが大きくなったりします。(大抵のオペアンプはこの電流制限によって出力が保護されているので低インピーダンスの負荷を接続しても短時間であれば壊れるような事はありません)オペアンプによっては数百Ωの負荷で使用できるように設計されているものもありますが、スピーカーのように8Ωや16Ωといった低インピーダンスのものは直接接続できません。スピーカーのような低インピーダンスのものを接続する場合は専用のパワーアンプアンプICを使用する必要があります。

ここで注目して頂きたい事があります。それはNFBを掛ける抵抗Rfの事です。Rfはオペアンプの出力から見ると負荷(電流を流す先)となります。もし、この抵抗の値が低いとオペアンプの出力電流は本来の負荷と共にRfにも多く流れる事になります。このことはオペアンプ回路の抵抗を決める一つの指針になります。Rfが10kΩ以上あれば、1kΩ以上を想定しているオペアンプであっても出力への負担は軽微です。但し、1MΩなどの大きすぎる値だと抵抗が出すノイズの影響などが出てきます。オペアンプのRfの値は通常10kΩ以上とする理由がここにあります。

ここまで主にLM358とNJM4565で比較をしてきましたが、特性だけを見るとNJM4565の方がかなり良いように見えます。しかしLM358はNJM4565に比べて単電源でかつ3Vという低い電源電圧から使う事ができる大きなメリットがあります。両者を比較すると、扱いやすさのLM358と性能のNJM4565と言えます。

以上で交流アンプを考える場合に最低限知っておいた方が良い項目について書いてきました。交流アンプでもう一つ重要な項目に雑音特性がありますが、雑音については少し説明が長くなりそうなので後に回したいと思います。

さて、この後はオペアンプを直流増幅で使う場合の事とノイズの事になりますが次回にまわす事として、少し寄り道でもしてみたいと思います。



ジャンク堂 番外編 “今日のジャンク”

ジャンクという言葉は我々アマチュア無線家には馴染み深い言葉です。通常、ジャンク(Junk)は故障していたり古くなったりして使いものにならなくなった物やガラクタの事を言います。皆さんの中にもジャンク(古い無線機や測定器、或いはそれらから取り外された部品など)に妙に心引かれる方がおられるかと思います。たとえそれが使い物にならないと分かっていても、何となく欲しい、手に入れたい、とか、あれに使える、これができるかも、と妄想が広がるのではないでしょうか? (私はそうです。)

ジャンクという言葉の定義としては使いものにならないという意味が含まれているのですが、別に故障していない物であっても、使う予定がなく引き出しや押し入れで眠っている物もジャンクと定義できるように思います。せっかく手に入れて喜んでいるのに家族から「このわけの分からない物はどうするの? 何に使うの? 捨てないの?」などと言われると、例えそれが新品であっても家族から見れば“ゴミ=立派なジャンク”となります。ましてや汚れたモノだと有無をいわさずジャンク(ゴミ)扱いとなります。

唐突ではありますが、今回はオペアンプの記事とは別にジャンク好きの私が持つジャンクを一つ紹介したいと思います。と言ってもFBニュースの品位を下げるといけませんので、なるべくゴミに見えない物を紹介します。

今回取り上げるのはダイヤルです。50年以上前の70mmバーニヤダイヤルと、つい最近入手したロータリーエンコーダー(パルスエンコーダー)です。どちらも袴部分の目盛がレトロな無線機に似合うと思いませんか?(最近の無線機のダイヤルやツマミから目盛が無くなりスッキリはしているのですが、少し寂しいです。)


(左)バーニヤダイヤル、(右)ロータリーエンコーダー

バーニヤダイヤルの方はコロナ騒ぎが起きる少し前に永年お付き合い頂いているOMのところからやってきました。私が開局した当時からそのOMとの間でジャンク(部品)の行ききがあり、多分これは私が開局前にSWLで使用していた高一中三(RF1段,IF3段の事。当然真空管式です)の7MHz受信機で使っていたものがOMのところに渡り、数十年の時を経て再度手元に戻ってきたものだと思われます。

ロータリーエンコーダーの方は、本当はジャンクではなく、数ヶ月前にAmazonを覗いている時に偶然見つけて使う当てもないのにポチってしまったものです。立派な新品で\2.5k前後だったと思います。このエンコーダーを見た時にバーニヤダイヤルに通じる格好良さに引かれました。アルミ色のものもありましたが、何故か一番安かったという事で黒色のものを手に入れました。しかし現時点で具体的に使う当てがないので可哀想ですがバーニヤダイヤルと同様にジャンクの位置づけです。

ジャンクの紹介として本来はバーニヤダイヤルの方が主役かも知れませんが今回はエンコーダーの方を取り上げます。斜め横からと裏から見るとこのようになっています。




裏の端子はVcc(電源)と0V(グランド)、AとBの出力とA,Bそれぞれの反転出力の端子があります。また、このエンコーダーは回すとカリカリとしたクリック感があります。目盛が100等分で、クリックも目盛に同期しています。電源電圧は5Vという事ですが、3Vでも何とか動いているようです。そこで、取り敢えず出力の波形を見てみました。

画像はそれぞれ右に1クリック回した時と左に1クリック回した時のAとBの出力です。


右に1クリックしたときの波形(縦軸2V/div 横軸50mS/div)


左に1クリックしたときの波形(縦軸2V/div 横軸50mS/div)

尚、1クリック回しただけでも時々下のように余分なパルスが出る事があります。


接点の誤接触があるようです。機械式接点のように思われます。

早回しした時です。手で回せる範囲で早く回しても問題なくパルスは出てきます。


(縦軸2V/div 横軸2.5mS/div)

連続して早回しした時は波形のデューティが良いようです。

5V定格のようですが、3Vでも一応は使えそうです。(オシロの縦軸は1V/divに変えました)


(縦軸1V/div 横軸50mS/div)

自作無線機などでチューニングダイヤルに使えると思いますが耐久性は分かりません。(アイコムのリモートエンコーダーRC-28にこんなのが付いているとカッコ良いと思うのですが)

まぁ格好良いのでしばらくカリカリと空回しでもして愛でてやろうと思います。その内に何か良い使い道ができるかも知れません。

オペアンプから横道に逸れましたがジャンク堂の看板を掲げているので不定期にはなりますが時々は手持ちのジャンク(パーツなど)の紹介もしてみたいと思います。お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは 73&88

<記事中のグラフは下記より引用>
 ・LM358 データシート : テキサス・インスツルメンツ社 公開データシート
 ・NJM4558 データシート : 新日本無線株式会社 公開データシート
 ・NJM4565 データシート : 新日本無線株式会社 公開データシート

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