Topics from Around the World
2023年5月15日掲載
DL7JU ジェンツ ユーリッヒ(Jens Uhlig)は、昨年2022年11月、家族旅行で来日。そのついでにアイコム本社のショールームを訪問されたことを月刊FB NEWS 2022年11月号で紹介しました。今回、氏が立ち上げている自身のブログの中で、ヨーロッパで人気が高まっているQRPトランシーバ(tr)uSDXのキットの組み立てを紹介しています。今回、氏の許可を得てその記事をご紹介します。
筆者: ジェンツ ユーリッヒ (Jens Uhlig, DL7JU)
抄訳: 月刊FB NEWS編集部
(tr)uSDXは、マヌエル クラエリグ(Manuel Klaerig, DL2MAN)とPE1NNZが共同で開発したSSB/CWの実験用マルチモードQRPトランシーバキットです。このキットは、ドイツではオンラインショップで、約80ユーロで購入することができます。完成品は約160ユーロぐらいです。(tr)uSDXの特徴や機能を簡単に紹介します。
(tr)uSDXは、出力段がクラスEモードで動作するQRPトランシーバです。PAの効率は高く、非常に低消費電力で動作します。トランシーバのサイズはタバコの箱ほどで、下記に示す3種類のバージョンが用意されています。
HF High(HI)バンドバージョンには、20m、17m、15m、12m、10mの5バンドが搭載されています。HF Low(LO)バンドバージョンには、80m、60m、40m、30m、20mの5バンドが搭載され、そしてクラシックバージョンと称するバージョンには80m、40m、20m、15m、10mの5バンドが搭載されています。モードは、SSB(USBとLSB)、FM、AM、CWです。CWモードではCWをデコードするだけでなく、予めメモリしたテキストを送信することもできます。
余談ですがフォックスハンティング用の送信機にも高価なエレクラフトのKX3の代わりにこのトランシーバを使うことで安心できます。ケースの色もさまざまな色が準備されているようです。
(tr)uSDXには、もちろんUSBポートも搭載されています。このミニUSBインターフェースを介して、コンピュータによる制御が可能です。必要に応じてFT8、FT4、RTTY、そしてWSPRなどのデジタルモードの運用も可能です。PCやAndroidスマートフォンを接続することでサイクリング中にFT8のQSO画面をワッチすることもできます。
このトランシーバのもう一つの利点は、ユニットがモジュール化されていることです。トランシーバは複数のモジュールで構成されており、それぞれのモジュールを交換することで自分の運用にあったバンドを選ぶことができます。ここで必要なのは、対応するバージョンのファームウェアをインストールするだけです。
このシリーズでは、私は最初にLOバンドバージョンを作りました。先にも記述しましたようにこのバージョンでは、80m、60m、40m、30m、20mバンドの運用が可能です。同じロジックユニットと別のRFユニットを使えば、HIバンドやHIバンドとLOバンドのミックスである「クラシックバンド」の実現も可能です。また、オートアンテナチューナーユニットなど、(tr)uSDXに付加機能を加えることができる拡張ユニットも充実しています。
(tr)uSDXを自分で作りたい人のために、プロジェクトのGitHubページやDL2MANのWebサイトには、それらに関するドキュメントと回路図が掲載されています。マニュアルには、必要な部品のリストやキットの組み立て方の説明も含まれています。(YouTubeのリンクはこちら)
この(tr)uSDXは、多くのQRP愛好家にとっては興味深いものです。コンパクトであり、モジュール性があり、デジタル動作であるため、ポータブル運用やもちろんQRP運用に適しています。私が製作したLOバンドバージョンの写真をPart 2、Part 3にも掲載していますので参考にしてください。
- 動作範囲 (LOバンドバージョン): 80m、60m、40m、30m、20mバンド
- RFパワー: 0.5W(5V時)、5W(13.8V時)
- PA: クラスE (効率約85%)
- 動作モード: CW/SSB(LSB/USB)/AM/FM
- 動作電圧: DC5~15V
- 受信時の消費電流: 約80mA
- 送信時の消費電流: 約500mA(13.8V、e=85%時)
- スピーカ: 23mm プラスチックコーン、32Ω/0.25W、外部スピーカ接続可能
- マイク: オンユニット ECM(外部マイク接続可能)
- ディスプレイ: OLED 2色 0.96インチ、I2C付き
(tr)uSDXのパフォーマンスについてはPart 1で簡単に説明しました。次にそのキットの組み立てを進めていきます。
届いたキットを開梱するとすべての部品やユニットは帯電防止のビニール袋に梱包されています。私は少し前に、接地ブレスレット付きの帯電防止マット(カフ+接地プラグを含むMinadax® ESD 帯電防止マット)を購入したので、安全のためそのマットの上で作業を行います。マットはよくできており、小さなSMDパーツを静電気防止用マットに落としても、跳ねてどこかに消えてなくなるようなことはありません。この(tr)uSDXのキットは2つのPCBユニットで構成されています。SMDパーツは既にPCBにハンダ付けされています。マシンで作られたのか、手作業なの分かりませんが、ハンダ付けはたいへんきれいです。まず、メインユニットのレイアウト図を見てください。
(tr)uSDXメインユニットの回路図 (出典: www.dl2man.de)
3つのジャックをPCBに挿入し、ハンダ付けします。さらに3つの小さなボタンも面一になるようにPCBに取り付けます(これらは後に、左からメニューボタン、エンターボタン、PTTまたはCWボタンとなります)。ロータリエンコーダが付属されています。PCBにしっかりと固定され、ハンダ付けも問題ありません。
メインユニット
プロセッサ、ロジック、および USBインターフェースを備えたメインユニットの裏面
メインユニット裏面 各部の拡大写真
残りのパーツは、小型のエレクトレットコンデンサマイクです。マイクエレメントは、プラス側とマイナス側の極性がありますので取付けに注意が必要です。極性の判別は、Manuel Klaerig (DL2MAN)のビデオを見れば、簡単に分かると説明されています。エレメントの周りのアルミカバーに対して低インピーダンス側の接続がグランドです。私の持っているバージョンでは、マイクエレメントにはGNDの印字がされていたので分かりやすかったです。
マイクエレメントの取付け
ディスプレイとスピーカの取付けも必要です。ディスプレイは、I2Cインターフェースを備えた通常の高コントラスト 0.96インチ OLEDディスプレイで、解像度は128×64ピクセルです。ハンダ付けの際にはC3とC4を取り外す必要があります。また5Vの電源の場合は、写真に示したようにU2とC6を接続します。ハンダごての熱で部品を壊さないように素早く行います。
U2とC6部の拡大写真(それぞれの画像をクリックすると拡大します)
スピーカの直径はわずか23mmです。インピーダンスは32Ωで、許容入力は0.25Wです。ジャックにヘッドホンを接続すると驚くほどよい音で聴こえます。
スピーカの取付け(それぞれの画像をクリックすると拡大します)
これでメインユニットは完成です。
メインユニットが完成したら、次はRFユニットを製作します。このユニットもSMD部品はあらかじめ取り付けられています。このユニットでも個々のバンドのリレーや出力段のトランジスタ(BS170)などの部品は基板の穴に投入してハンダ付けを行います。さらに今回は13個のフェライトコアに銅線を巻き、コイルを作る必要があります。巻き数は、回路図にも示されています。
完成したメインユニットとRFユニット
(tr)uSDX RFユニットの回路図 (出典: www.dl2man.de)
部品の取付けはリレーから始めます。リレーを取付けたあとはSMAコネクタを取付けます。
同梱されていたリレー
RFユニットにリレーとSMAコネクタを取付けたところ
RFユニットに取付けるコイルを製作します。コイルは、トロイダルコアに巻きます。これまで作ったことはありませんが、ゆっくり巻き数を数えながら行うと比較的簡単に作ることができます。
12個のコイルを製作します
巻き上がったコアを基板に取付ける際のアイデアをご紹介します。コアにコイルを巻いた後、巻き始めと巻き終わりに2~3cmの長さのワイヤを残しておきます。そのコイルの両端を基板の穴に通した後、下の写真のように両端のワイヤをねじることでコアに巻いたコイルが緩むことなくハンダ付けすることができます。ハンダ付けの後は、ニッパでそれぞれのワイヤをカットするだけです。
トロイダルコアのPCBへの取付けに関するちょっとしたアイデア
製作したコイルをRFユニットに順番に取付ける
製作途中に長い間、嗅いだことがなかった懐かしい臭いを感じました。そうです、指の皮膚が焦げた臭いでした。ドイツの古い格言: 鶏肉のようなにおいがする場合は、ハンダごての持つ向きが逆です。
大したことはありませんが、ちょっと目立ちます
次は、パワーアンプのドレインに取付けるコイルの製作です。トロイダルコアにコイルを22ターン巻きます。
Q1のドレインに接続するコイルの製作と取付け
最後に、インピーダンス変換用のトランスT1、T2の2つのコアを作ります。これも所定の位置に取り付けハンダ付けします。
インピーダンス変換用のT1、T2取付け部の回路
T1、T2を取付け完成したRFユニット
両方のユニットを合体させたのち、電源を接続します。
メインユニットとRFユニットの合体
電源を接続する
ブートローダは事前にインストール済みです。通電後、Hex Beamをアンテナ端子に接続しました。カスタムファームウェアをフラッシュする前でも、すぐにCWを受信してデコードすることができました。ソフトウェアのインストールは非常に簡単です。DL2MANのWebサイト(http://www.dl2man.de/)で提供されているリンクを使用して、ドライバーとファームウェアをダウンロードできます。これには静電防止袋に貼ってあるシリアル番号が必要です。
© 2023 DL7JU
<参考>
DL7JUのブログ ウィークエンドプロジェクト
https://freefall.de/wochenend-projekt-der-tr-usdx/
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