My Project
この記事が皆さんの目に触れるのは、木枯らしの吹くたいへん寒い頃かもしれませんが、2018年の夏は全国各地で最高気温を更新して、猛暑を超えた酷暑となりました。もはや、空調の無い室内で過ごすと命を危険に晒すことになります。特に直射日光の当たらない屋内にいても温度が危険なレベルに達しても、それに気が付かないまま熱中症になってしまうことが多いそうです。熱中症の予防には、水分補給に加えて継続的に温度をモニターして、適宜空調を使う判断が必要なようです。もし、家中の温度をリアルタイムでモニターして、その情報をいつでもどこでも見ることができたら生活に役立ちそうです。
関ハム2018での屋外温度モニター。当局は屋外で1日中売り子をしていた。
『IoT』という言葉を耳にしたことがあると思います。IoTはInternet of Thingsの略で、「あらゆるモノがインターネットに繋がる」というキーワードで、家電や自動車に取り込まれている技術です。イマイチしっくりきませんが、「モノのインターネット」と訳されています。広義では「データをインターネット上に置いておき、いつでもどこでも利用できるようにする」というものです。身近な電子機器をインターネットに繋いで、データをネット上のいわゆるクラウドに蓄積します。
さて前置きが長くなりましたが、今回は4か所の温度データを無線でパソコンに送信して表示、グラフ化、さらにインターネット経由でSNSに投稿する『ワイヤレス温度モニターシステム』を製作します。スマートフォン上で温度データをリアルタイムで見たり、パソコンに記録したりすることができます。
“My Projectの精神”に則って、回路の設計から通信データフォーマットの策定まで、すべてを手作りします。電波法で定められた微弱電波の範囲内で無線データ通信を楽しみます。
今回製作するのは、4つのセンサータグで測定した温度データを315MHzでパソコンに送信、リーダー(受信機)で受信してアプリケーション画面上に表示・グラフ化、さらに温度情報をリアルタイムで短文投稿サイト『ツイッター』に送信するシステムです。
システム概要図
・センサータグ
周囲温度に比例した電圧を出力する温度センサーを内蔵。検出電圧をPICマイコンのA/Dコンバーターに取り込んでデジタル化します。また、汎用スイッチ端子を付けて、その状態(High/Low)も温度データと共に発信するようにします。温度を測定するだけでなく、マグネットスイッチを使ってドアや戸の開閉状態を検出したり、明るさセンサーを使って周囲の明度を検出したりします。
データの送信は、My Project 2017年12月号の制御データと同じ方法です。PICのポート出力で発振回路をスイッチングさせ、315MHzの電波にOn Off Keying (OOK)変調を掛けます。
センサータグ(アンテナを内蔵させた例)。
センサータグは4個まで使用可能なので、4か所の温度を同時にモニターできます。興味深いのは、すべてのタグの送信周波数が全く同じということです。というのも、データの送出は一瞬(34ミリ秒間)で終わるので、タグ同士で送出タイミングが重なることは滅多に無いため、データの収集にはほぼ影響ありません。
タグの発信する電波は微弱ですが、通信速度が2kbpsという超低速であることと、後述のように受信回路にRFアンプを付けたことで、木造家屋であれば家のどこででも受信可能です。
・リーダー*(受信機)
受信回路には、My Projectではお馴染みの超再生検波方式を使います。回路は2017年12月号とほぼ同じですが、今回は感度アップを図るためにRFアンプを追加、さらに受信信号強度(RSSI)を検出できるようにしました。復調したデータはUSBポートを介してパソコンに入力します。電源はPCから供給します。
*テレメトリーや無線タグのデータを受信する端末はリーダーと呼ばれます
タグからの電波を受信してPCに送るリーダー。アンテナはVダイポール型。
・アプリケーション
受信した温度データを表示・グラフ化します。また、自分のツイッターアカウントやメールアドレスに自動で送信します。データをCSVファイルとしてPCに保存することもできます。
温度モニターソフト。
不要なCHや情報はウィンドウを縮小させて隠すことができる。(改良により画面は変わることがあります)
ところで、センサーICは精度にバラツキがあります。そこで、チャンネルごと(タグごと)に補正係数を入力することでバラツキを吸収できるようにしています。温度表示をダブルクリックして補正値(例:1.05)を入力できます。
センサータグ
プラスチックケースに収めたところ。温度センサーが外気に触れるように穴を開けている。
・温度センサー(サーミスタ)
温度を計測するセンサーにはMicrochip社製リニアアクティブサーミスタIC『MCP9700』を使います。リニア補正回路を内蔵しており、ほぼ温度に比例した電圧を出力します。このICは電源電圧が2.3Vから動作する低消費電流設計なので、今回のようなコイン電池で長期間動作させる回路に最適です。PICマイコンと同じメーカーだけあって、センサーの出力電圧をPICのA/Dポートに直接入力できます。
データシートによると、センサーの出力電圧は下記の式で求められるとのことです。
出力電圧=周囲温度 × 温度係数(10mV) + 0℃における出力電圧(100mV)
これを変形して、
周囲温度= (出力電圧-0℃における出力電圧(100mV)) / 温度係数(10mV) ×補正値*
*前述のように、センサーICのバラツキを補正するため、係数を掛けます。
検出電圧のデジタル化にはPICマイコン『12F675』(以下PIC)を使います。8ピンDIPの小型パッケージながら6つのI/Oポートを持ち、A/Dコンバーターも内蔵しています。
・汎用スイッチ端子(デジタル入力ポート)
PIC12F675のGPIO 3ポートは汎用入力に設定して、マグネットスイッチやフォトダイオードなどを付けます。そして、このポートの状態(ロジック電圧:High/Low)も温度と共に送信データに載せます。つまり、このセンサータグは温度を測定するだけでなく、使い方によっては扉の開け閉め(*)や照明のON/OFFなども検出することができます。例えば、部屋の温度と窓の開閉状態、冷蔵庫の温度とドアの開閉状態などを同時にモニターすることができます。
*発信間隔によっては、ポートの状態が変わっても次に発信するタイミングまでに元に戻った場合はポートの変化を検出できません。また、センサー回路によってはタグの消費電流が増えて、稼動期間が短くなることもあります。
例1) 明かりセンサー
フォトダイオードを使った明暗センサーです。暗いとLow、明るいとHighになります。部屋の照明が点いているか・消えているかを検出できます。明るさを判定する閾値は、フォトダイオードに直列に入れる抵抗値によって調節します。ただし、蛍光灯は120Hzで点滅しているため、そのまま検出させてしまうと、入力はONとOFFを繰り返すことになります。そこで、コンデンサを付けて入力電圧を平滑させてロジック電圧”High”を得ています。
ケーブルの先にセンサーを取り付け、汎用スイッチ端子に接続。
例2) マグネットスイッチ
磁石の接近で接点が点いたり切れたりすることで、扉などの開閉状態を検出できます。
例3) プッシュスイッチ
緊急の連絡など、ボタンを一定時間(タグの発信間隔)押し続けることで、メールやツイッター上に通知されます。
汎用スイッチ端子の使用例(明かりセンサー)
・発振回路
My Project 2017年12月号の『腕時計型ハンディー機リモコン』と同じ、SAW共振子を使った発振回路です。
発振回路実装図
基板に実装する前にブレッドボードで動作を確認中のセンサータグ(4個)
(リードトランジスタのようなものが温度センサー)
センサータグ実装図
4チャンネル分のセンサータグ。
・変調データ
A/D変換した温度データは、プリアンブルやタグIDなどと共にデータを構成します。データの”1”と”0”に合わせてPICの出力ポートのHighとLowを切り替えることで発振回路をON / OFFさせます。1ビットが0.5m秒なのでボーレートは2kbpsです。
315MHzの発振回路には、My Projectではお馴染みのSAW共振子を使います。発振回路の出力は、小容量のコンデンサを介してアンテナを接続します。アンテナは、出力が微弱電波の範疇に収まる程度の長さにします。
受信回路からPICに入力される復調信号(上)とPICからPCに入力するデータ(下)
<参考:なぜOOK (On Off Keying )変調か?>
CWのように、もっともデータ変調を掛けやすい方式のためです。ビットが”1” (High)の間しか発振しないので、バッテリーの消耗が少なく、弱い信号でも復調できるというメリットもあります。コイン電池で長期間動作させる用途に合っています。ただし、キャリアの有り無しでデータビットを表すのでノイズには弱いです。
・電源
データは間欠送信させるので、PICは常にアクティブではありません。1度データを送信すると、次に送信するまでの間は休止状態にさせます。温度だけの測定であれば、送信間隔は1分間に1回で十分だと思いますが、今回は汎用スイッチの状態もモニターするので、15秒に1回送信させます。休止状態と稼動状態の割合は、およそ59:1なので、小型電池で長期間動作させられます。
電源にはコイン電池(CR2032)を使いました。Wikipediaによるとこのタイプの電池容量は225mA/hとのことで、発信時の電流が5mA、休止状態(次の発信までの間)は僅か3uAなので、数ヶ月間は使用できます。
なぜ待機電流をこれほどまでに減らせるかと言うと、秘密はマイコンの節電機能にあります。マイコンには、使用していない間の消費電流を最低限にまで下げる「スリープ機能」があります。そして、WDT(Watch Dog Timer)というタイマーが、その名前の通り番犬(Watch dog)のように、設定した時間が過ぎるとマイコンの眠りを覚ます働きをします。このようにしてスリープ期間を設定することで間欠動作させています。
また、温度センサーへの電源をマイコンから供給することで、休止状態(次の発信までの間)は温度センサーの消費電流をゼロにしています。なお、データシートによると温度センサーの立ち上がりには800μ秒かかるので、プログラム中で、A/D変換の前に1m秒間待っています。
<参考:センサータグへのID割り当て>
各タグには、識別のためのIDを割り当てて発信データに載せます。今回は、PICマイコンの2つのポートをIDの設定に使用しました。1、2、3、4の4種類のIDを割り当てられるので、4個のタグを同時に使えます。
ところで、PIC内部には、プログラムを保存するメモリ領域以外に書き換え可能なメモリ領域も持っています。ライターでプログラムを書き込む際に、このメモリ領域にIDを書き込めば、256種類のIDを割り当てることができます。つまり、最大256個のタグが同時に使用できることになります。
My Project バックナンバー
2022.11.15
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2022.6.1
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6月4日(土)、JH1CBX/3が14MHz SSBに初オンエアします。
入感がありましたらぜひお声がけください。
2022.5.16
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5月14日(土)、JL3ZGLはオペレーターにMasacoさんを迎えHAMtte交信パーティに
参加します。詳しくは4月号のニュースをご確認ください。
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連載記事 Masacoの「むせんのせかい」はコロナ禍の影響により、取材ができない状況が続いており、状況が改善されるまで不定期掲載とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
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連載記事「今月のハム」はコロナ禍の影響により、取材ができない状況が続いており、状況が改善されるまで不定期掲載とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
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JARD、eラーニングでのアマチュア無線国家資格取得を呼び掛けるお知らせを、臨時休校で自宅待機中の小中高生に向けて発表。詳しくはこちら。
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2017.9.15
What a healthy time! ~健康を応援する特別なお料理~/第3回 食物繊維たっぷり! 海藻の和風リゾット、FB Monthly Fashion/第9回 秋っぽい柄&色コーデ、子供の無線教室/第9回 「アンテナの形や大きさに注目!!」を掲載しました
2017.9.4
<速報>ハムフェア2017を掲載しました
2017.9.1
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2017.8.17
What a healthy time! ~健康を応援する特別なお料理~/第2回 和風のポトフ 納豆ソース添え、FB Monthly Fashion/第8回 夏のお出かけコーデ、子供の無線教室/第8回 「無線機にはどんなものがあるの?」を掲載しました
2017.8.1
8月号をアップしました
2017.7.18
What a healthy time! ~健康を応援する特別なお料理~/第1回 メロンの冷製スープ ナッツのアイスクリームのせ、FB Monthly Fashion/第7回 コットンTシャツコーデとボーイズコーデ、子供の無線教室/第7回 「電波はどうやって海外や宇宙に届くの?」を掲載しました
2017.7.1
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2017.6.15
What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第9回 FB Girlsの野望 with ムースと甘エビのタルタル、FB Monthly Fashion/第6回 雨の日コーデと親子コーデ、子供の無線教室/第6回 「電波はいろいろなところで大活躍!!」を掲載しました
2017.6.1
6月号をアップしました
2017.5.15
What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第8回 番外編 春うらら♪豪華弁当でお花見、FB Monthly Fashion/第5回 ブラウス&シャツを使ったコーディネート、子供の無線教室/第5回 「周波数によって変わる、電波の特徴」を掲載しました
2017.5.1
5月号をアップしました
2017.4.17
What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第7回 ARDFの思い出 with 2種類のソースのカルボナーラ、FB Monthly Fashion/第4回 Gジャンを使ったコーディネート、子供の無線教室/第4回 「電波の性質を覚えよう」を掲載しました
2017.4.1
4月号をアップしました
2017.3.15
What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第6回 初めてのQSOの思い出 with グリーンのアクアパッツァ、FB Monthly Fashion/第3回 ピンクを使ったコーディネート、子供の無線教室/第3回 「電波はどうやって伝わるの?」を掲載しました
2017.3.1
3月号をアップしました
2017.2.15
What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第5回 FB Girlsの試験の思い出 withウマ辛和風スープ、FB Monthly Fashion/第2回 デニムと明るめニットのコーディネートを掲載しました
2017.2.1
2月号をアップしました
2017.1.16
What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第4回 YLハムを増やす秘策とは?! withおなかにやさしいお料理、【新連載】FB Monthly Fashion/第1回 アウター別おすすめコーディネート(ライダース・ノーカラー・ダッフル)を掲載しました
2017.1.5
1月号をアップしました
2016.12.15
What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第3回 YLハムの行く年来る年 with ブイヤベースの洋風お鍋を掲載しました
2016.12.1
12月号をアップしました
2016.11.15
FB Girlsが行く!!~元気娘がアマチュア無線を体験~/<第3話>元気娘、秋の休日を楽しむ!!(後編)!、What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第2回 YLハムの悩み解決!with サケのフレンチトーストを掲載しました
2016.11.1
11月号をアップしました
2016.10.17
FB Girlsが行く!!~元気娘がアマチュア無線を体験~/<第3話>元気娘、秋の休日を楽しむ!!(前編)!、【新連載】What a tasty time! ~グルメYLたちのGirl'sトーク♥~/第1回 FB GirlsのプライベートQSO with 土瓶蒸しのリゾットを掲載しました
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