Monthly FB NEWS 月刊FBニュース 月刊FBニュースはアマチュア無線の電子WEBマガジン。ベテランから入門まで、楽しく役立つ情報が満載です。

FBのトレビア

第十三回 ゲルマニウムラジオは何故シリコンラジオと呼ばれないか?


Dr. FB

半世紀ほど前、「鉱石ラジオ」と呼ばれたラジオがありました。かまぼこ板の上にコイル、バリコンの他、二、三点の部品が置かれ、それにイヤホンが接続されているだけの簡単なラジオです。電池がないのにイヤホンからラジオの放送が聞こえたのには感激しました。最近では鉱石ラジオではなく、「ゲルマニウムラジオ」と呼ばれています。

ゲルマニウムラジオと呼ばれるわけは、受信した信号の検波にゲルマニウムダイオードが使われているからです。昨今、半導体の性能は大幅にアップしましたが、未だに「シリコンラジオ」と呼ばれていません。それならLED(発光ダイオード)もダイオードの一種なのでゲルマニウムラジオの検波用ダイオードに使えるのではないかと思い実験を行いました。今回はそのゲルマニウムラジオについてお話します。


図1 製作したゲルマニウムラジオ

1. なぜゲルマニウムラジオというか

結論から先に書きます。LEDでは受信できませんでした。非常におおざっぱな説明ですがゲルマニウムダイオードを使うとラジオ放送が受信でき、きれいな音で聞こえました。スイッチング回路で使われるスイッチングスピードの速い高性能なシリコンダイオードを使ってもラジオ放送は受信できても音にならないのです。これがゲルマニウムラジオと呼ぶ理由です。

2. ゲルマニウムダイオードとシリコンダイオードの違い

ゲルマニウムダイオードとシリコンダイオードの違いについて少しお話をします。ラジオの放送が受信できる、できないを分ける大きな要因がダイオードの特性にあります。ダイオードに電流を流すにはアノードに(+)、カソード (-)の電圧を加えます。その電圧を0Vから徐々に上げていくと、ゲルマニウムダイオードでは約0.2V、シリコンダイオードでは約0.7V以上となると電流が流れます。つまり電流が流れるイコールラジオが聞こえるということです。このアノードとカソードに加える電圧で電流が流れ出す電圧を順方向電圧といいます。メーカーのスペックではVFと表記されています。

ゲルマニウムダイオードではVF=約0.2V、シリコンダイオードではVF=約0.7Vとなり、この差0.5Vがラジオの電波を受信する、受信しないを分けています。ゲルマニウムダイオードのVF=0.2Vというのは極めて低い値で、ゲルマニウムダイオードの大きな特長です。

3. ゲルマニウムラジオのダイオードを変えて受信してみよう

ゲルマニウムラジオといえばその検波に使われているダイオードは1N60が定番ですが、オリジナルの1N60は生産中止となっており、その同等品の1N60Pや1N60Hが出回っています。今回は、各ダイオードのVFの違いがAM放送の受信にどのように影響するか、実際の電波を受けて確認してみました。

実験のためにゲルマニウムラジオを製作しました。冒頭に示した図1がそのラジオの完製品で、図2がその回路図です。検波用のダイオードは交換しやすいように取り付け部分をターミナルにしました。図3はそのダイオードの取り付け部分のアップ写真です。


図2 製作したゲルマニウムラジオの回路図


図3 検波用ダイオードの取り付け部

<参考>
冒頭、図1のゲルマニウムラジオのコイルの写真を見てください。コイルの周りに多くのタップが出ていますね。本来コイルとコンデンサの並列共振回路の共振周波数f0は、2・π・√・L・C分の1で求めることができます。バリコンの容量は、購入時のパッケージに220pFとの記載がありました。NHKラジオの第一(666kHz)、第二(828kHz)の放送を受信しようとするとコイルは概ね200µHと計算できます。ところが、コイルのインダクタンスを測定する測定器の持ち合わせがなかったため、0.3mmのポリウレタン線15mをスパイダー巻きに90ターン巻き、カットアンドトライで受信できるところを見つけるようにしました。10ターン毎にコイルのタップを取り出したことからコイルの周りから端子が多く出ることになりました。

4. 各種ダイオードのVFと受信レポート

手持ちのデジタルマルチメーターには、VFを測定できる機能が付いています。その機能を用いて各ダイオードのVFを測定しました。測定値を下の表図4にそれぞれを記載しました。


図4 実験結果

5. 測定結果の検証

まず最初の測定は、NHK第一放送の送信所(100kW)があるところから直線で約9kmの地点です。直線で9kmといえば強電界地域と思います。製作したゲルマニウムラジオには、3mぐらいのビニール線をアンテナとして接続しました。

その結果、受信できたダイオードは、1N60P(1N60同等品)、1N60H(1N60同等品)、1N34A、1N270、それにロシア製の2種類でした。ゲルマニウムダイオードであれば、どれでも受信できると思っていましたが、受信できないゲルマニウムダイオードもありました。NHK第二放送は300kWで送信しているので聞こえるかと思い試しましたが結果は同じでした。

受信する地域にもよりますが、実験した場所(大阪南東部)では、明瞭に受信できたダイオードのVFが0.2V台のもので、それ以上のVFを持つダイオードでは耳を澄ましても聞こえませんでした。

結論として受信できる、できないはダイオードの順方向電圧VFに起因すると分かります。

一つ不思議に感じたことがありました。ロシア製のダイオードD311のVFは、0.17Vと群を抜いて低いです。このダイオードを検波に使うと受信音は1N60Pの時に比べて大きな音で聞こえました。ところが、イヤホンから出る音がなめらかではないのです。むしろひずんでいるように聞こえました。

6. VFの高いダイオードにバイアスを掛けて見かけのVFを低くする

受信できなかったダイオードのVFは図4で見ると概ね0.3V以上です。このダイオードに図5のように1.5Vか3V程度の乾電池に1MΩの抵抗を直列に接続してバイアスを掛ける方法があります。こうすることであらかじめダイオードをONさせておき、弱い信号でもダイオードを通過できるように見かけのVFを低下させます。

その結果、聞こえなかった信号も聞こえるようになりバイアスの効果を実感できます。反対に明瞭に聞こえていたダイオードにバイアスを掛けることで、かえって聞こえてくる音声がひずむこともありました。


図5 ダイオードにバイアスを掛けて受信を試みる

7. 100kWのアンテナ直下ではLEDを検波ダイオードとして使えるか

100kWの送信アンテナの直下ではLEDが検波ダイオードに使えるのではないか、また点灯するのではないかとの興味が湧き、そのアンテナ直下に直行し実験をしてみました。結果は、NG。聞こえませんでした。LEDも点灯しませんでした。バイアスを掛けても同じでした。

さらにそのアンテナから数100mの距離にあるNHKラジオ第二放送(300kW)では、変化を見ることができるのではないかと思いまた直行しました。300kWでもNGでした。その代わり、ゲルマニウムダイオードで検波した音声は、イヤホンを耳の近くにもっていくだけで聞こえそうなほど結構大きな音声が出ました。

ゲルマニウムが検波に向いているのは、VFの低さもさることながら、その立ち上がり特性もなだらかであるからです。AMの振幅を電圧の強弱に変換するのに1N60は向いているといえます。


図6 NHKラジオの送信アンテナ
(左)第一放送/666kHz、100kW (右)第二放送/828kHz、300kW

参考ですが、知り合いのアメリカ人にこの話をすると日本でゲルマニウムラジオと呼んでいるのは、アメリカでは「Crystal Radio」と呼ぶそうです。

FBDX

FBのトレビア バックナンバー

2020年6月号トップへ戻る

次号は 12月 1日(木) に公開予定

サイトのご利用について

©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.