FBのトレビア
Dr. FB
VHF帯、UHF帯の主な伝搬モードは直接波、反射波、回折波ですが、安定した通信には通信を行う二点間には通信の妨げとなる障害物がなく、直接波による見通しが条件となります。VHF帯、UHF帯の移動体通信では、これらの条件を絶えず確保することは困難であり、このことから高い山の上にレピータを設置し、そのレピータを介して通信を行うことで見通し通信を確保しています。レピータの果たす役割は大きいですが、その設置費や維持費を考えるとアマチュア無線では常に困難な問題として残ります。
今回、このレピータの代わりに指向性アンテナを二本使い、Back to Back(B2B)アンテナを構成し、それをパッシブレピータとして動作させることはできないかという仮説を立て、フィールド実験を行いました。この図1の構成がパッシブレピータとして実用になるのかどうか、細かい計算をすれば机上で解析ができるのでしょうが、ここはアマチュア精神を奮起しフィールド実験を行いました。
結果は、以下の条件ではパッシブレピータとして動作しませんでした。動作しなかった原因は詳しく解析する必要がありますが、感触として移動体から発射される電波の信号強度が弱かったように感じています。機会があればもう一度チャレンジしたいと思っています。今回は、フィールド実験の様子を報告します。
図1 Back to Backアンテナを使ったパッシブレピータの概念図
図2のようにホイップアンテナと八木アンテナで信号を受けたときを考えてみます。送信地点から電波を発射します。受信地点ではホイップアンテナと八木アンテナで受信し、それぞれのアンテナでの信号強度を無線機のSメーターで測定します。当然八木アンテナで受信したときの方がSメーターはよく振れます。これは理論で解説するまでもなく多くのアマチュア無線家が実体験されていることです。
図2 ホイップアンテナと八木アンテナの比較
次はその受信した超微弱信号を、アンプを使わずできるだけ強い電波でアンテナから輻射することを考えます。それには、図3で示すようにホイップアンテナで送信するより八木アンテナで送信したほうがより強い電波を一定方向に輻射することができることは経験則で知っています。要は、アマチュア無線でいうQRPP運用です。この図3に示す超微弱信号とは、図2で示した八木アンテナで受信した信号です。
図3 超微弱電波を遠くに飛ばす
まずは、Back to Backアンテナの製作から始めました。Back to Backアンテナは、実験のため山の上にまで持ち運ぶ必要があることから、軽量でゲインのある第一電波工業の10エレ八木A430S10R2を選びました。アンテナは2本購入し、下の写真のように反射器を背中同士が合わさるように組み上げました。組み立ての際、若干下向きの俯角を付けピンポイントで電波の発射地点に向くようにも考慮しました。
図4 Back to Backアンテナ
事前の机上計算なしにいきなりフィールド実験としました。移動地と中継局の地理的関係は図6に示しました。2020年12月2日、1000JSTに実験を開始。実験周波数は、438.03MHz DVとし、中継地点(山頂)の西側(大阪府側)A地点にはA局が、東側(奈良県側)B地点にはB局が、それぞれID-31とIC-705を持って待機。まずは、A局とB局が直接通信できないことを確認しました。
図5 A地点、B地点の確認(三角形の白地図大阪府と奈良県を元に加工して掲載)
図6 三点間の断面図(実業之日本社カシミール3D入門で作成したデータを引用して加工)
最初は、Back to Backアンテナを接続する同軸ケーブルは外し、Back to Backアンテナを動作させない状態で実験を開始しました。実験は、A地点、B地点とどれくらいの信号強度で交信できるかと、八木アンテナの13dBiのスペックの効果を確認することにしました。ホイップアンテナは、第一電波工業NR770Rを使用。このアンテナは、144MHzと430MHzの2バンド対応ですが、今回の実験では430MHz帯のみ使用としています。メーカーの仕様では、430MHz帯は5/8λ、2段ノンラジアルタイプで利得は5.5dBiと記載されています。
予備実験は図7、図8にあるようにお互いの信号強度をSメーターで確認することから始めました。いずれのテストでも、デジタルの信号強度が低い時のいわゆるケロケロ音とはならず、明瞭に通信できました。
中継地点からホイップアンテナ、5Wで送信した場合のA地点、B地点でのSメーターはフルスケールにはならなかったものの、八木アンテナに変更すると共にフルスケールになりました。八木アンテナの効果が大きいことが分かります。このとから、5Wよりはるかに弱い微弱の信号でも中継地点から送信すると、A地点、B地点では、音声に復調はならずともケロケロ音程度には受信できるのではないかとの仮説を立てていました。
図7 中継点でのSメーターの振れを測定
図8 中継点から送信した時の各受信点でのSメーターの振れ
図5に示したBack to Backアンテナの中継ケーブルを接続し、水平方向の角度は、一方は90°(東)、一方は270°(西)にコンパスを使って設定しました。また、今回使用するBack to Backアンテナのビームパターンは、パラボラアンテナのようにシャープではありませんが、それでも予め距離と標高から計算しておいたマイナスの俯角にセットしました。その計算が図9です。
図9 アンテナの俯角の計算
A局からB局、あるいはその逆もお互いコールを数回行いましたが、いずれのコールに対しても相手局の反応はなく、電波は全く届いていないことが分かりました。今回のBack to Backアンテナがパッシブレピータとして実用にはならなかったということです。想像ですが、これはアンテナが問題なのではなく、A地点、B地点で使用するアンテナの利得や送信電力に課題があると考えています。受信地点にスペアナがあればどれくらいの信号強度であるかを測定できたのですが、今回は設備の関係でできませんでした。
次にDVやFMよりはるかにS/NがよいSSBでトライしました。A局、B局ともIC-705とホイップアンテナを使用し、ウォーターフォールスクリーンに信号が入感していることを示す白い筋が見えるかどうかを注視しましたが、見えませんでした。つまり、SSBの信号でも中継できるまでには至らなかったということです。
IC-705は、ポータブル機でありながら固定機と同等のウォーターフォール機能を備えていますので、今回のように簡易測定器としても使えます。信号を受信しているか否かをウォーターフォールスクリーンでビジュアル的に観測できるのでたいへん便利な機能です。
SSBモードでもA局からB局、あるいはその逆のパターンでコールを行い、通信の可能性をいろいろ確かめましたが、いずれの場合もDVやFM同様、Back to Backアンテナはパッシブレピータとして機能しませんでした。
DVやFMモードで受信信号を検波して音声に復調するには結構強い信号が必要です。今回は、机上での計算なしにいきなりフィールド実験となり、Back to Backアンテナによる中継はできず、実験は失敗に終わりました。
例えば、SSBやCWではSメーターの振れが1つでも交信は可能です。Sメーターを1つ振らせようとすると各社それぞれの無線機で異なると思いますがおよそアンテナ入力はマイナス数dBµの信号強度が必要ではないかと推測しています。
つまり、中継点から送信し、20km離れた受信機のアンテナ端にマイナス数dBµの電圧を誘起させるには、何ワットで送信すればよいか、あるいはどのような利得のアンテナを接続すればよいか、これは机上計算できそうです。あるいは、FT8やJT65を使えばそれほどパワーを入れなくても、またそれほど利得の大きいアンテナを使わなくても通信に至る可能性もあります。実にアマチュア的でおもしろそうです。次回は十分事前に検討した上でいずれまた実験を行いたいと考えています。
FBDX
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