FBのトレビア
Dr. FB
コンピュータプログラムを作成される方々にとっては「if文」といえばお手のものでしょうが、電子回路を組むハード屋さんには馴染みが薄いかもしれません。それでも昔ベーシック言語を少しかじった人ならif文といえば「もしXが何々ならば、Yを実行せよ、そうでなければZを実行せよ」といったプログラミングの命令文を思い浮べられるかも知れません。
ソフトウェアとハードウェアの違いはあるものの、if文と同じような動作をするハードウェア、つまり電子回路があります。AとBを比較してA>BならHレベル、A<BならLレベルといった動作をする回路です。コンパレータがその代表格と言えるかもしれません。そのコンパレータには、オペアンプのLM358を使い実験を行いました。
本号のShort Breakには、単電源のオペアンプLM358を使った過電圧防止装置の製作記事が紹介されています。この記事と合わせて読むことで、よりコンパレータの理解が深まると思います。
さて、LM358のデータシートには、8ピンのデュアル・オペアンプと説明されています。1つのパッケージには、2つのオペアンプ回路が内蔵されています。オペアンプの名前の由来は英語のOperational Amplifierで、一般的には簡略化してOp-Ampとよく表記されます。「オペアンプ」と英語らしく発音すると海外でも通じます。
オペアンプは、下記のような特性を持っています。
(1) 増幅率が非常に高い
(2) 負帰還を掛けることで増幅度を変えることができる
(3) 高入力インピーダンス、低出力インピーダンスの増幅器
(4) 2つの入力端子間(+)(−)の電圧の差を増幅する
この最後の2つの入力端子間の電圧の差を増幅するといった機能は、オペアンプ本来の機能なのですが、単に(+)端子か(−)端子に信号を入れると出力信号に反転あるいは非反転信号として取り出すことができる増幅器としてよく知られています。
このオペアンプの(+)と(-)の2つの入力端子をコンパレータとして使うことができます。コンパレータは、英語でComparatorと綴ります。語源は、比較という名詞のComparisonです。動詞はCompareです。比較するものということでComparator(コンパレータ)と呼ばれています。このコンパレータが正にプログラミングでいう「if文」に相当する部品と思っています。
まずは、このICに内蔵されているオペアンプのピン配置を図1に示します。1つのパッケージに2つのオペアンプが内蔵されています。見るところ、それぞれの増幅器には2つの入力端子と1つの出力端子があるだけで特に難しい名称のピンはありません。「何か使えそうだ!」と感じるICです。4番ピンと8番ピンは、それぞれの増幅器に共通のGNDとICを動作させる電源端子です。よく見かける別のオペアンプのデータシートには電源としてV+とV−といったプラスとマイナスの2電源の記号が記されています。例えば+5Vと-5Vの2つの電源を用意するのは簡単な電子工作に使用するには少し面倒です。このLM358は単電源で使用できる特長を備えており、電子工作には使いやすいと思います。
図1 LM358のピン配置
オペアンプの持つコンパレータ機能について説明します。コンパレータとは文字通り比較器あるいは比較回路のことを指します。2つの信号を比較して、一方の信号レベルが他方の信号レベルより高ければHあるいはLレベルの信号を出力する回路です。
例えば増幅器の(−)端子に5Vを加えておき、この信号を基準値とします。(+)端子の信号レベルを上げていくと、その信号のレベルが基準値の5Vを越えると出力の1番ピンのレベルがLからHレベルに切り替わります。逆に最初から(+)端子に5V以上の信号を加えておき、その信号レベルを徐々に低下させると、その信号が基準値を下回ると今度は出力がHからLレベルに切り替わります。これがコンパレータの基本的な動作です。
図2のような回路を、LM358を使って作ります。コンパレータの典型的な回路です。ユニバーサル基板に部品をはんだ付けで組んでもOKですが、ここは先ずは実験のため部品の取り外しに便利なブレッドボード上に部品を配置します。LM358のパッケージの中には2つの増幅回路が内蔵されていますが、実験では5番ピン、6番ピン、7番ピンに接続されている増幅器は使いません。
図2 (左)実験に使用する回路図、(右)ブレッドボードに部品を配置
各端子の電圧を計算と実測で求めます。計算値と実測値は図3に示しています。電源には定格1.2Vの2次電池4本を直列に接続します。計算では4.8Vですが実測値は5.2Vでした。8番ピンは電源に直結ですから5.2Vです。2番ピンは5.2Vの電圧を2つの同じ抵抗の分圧ですから5.2Vの半分の2.6Vです。実測では2.4Vでした。3番ピンの電圧は、22kΩの固定抵抗と50kΩの可変抵抗器の分圧で求めることができます。50kΩの可変抵抗器の抵抗値がゼロのとき、3番ピンはGNDと同電位ですから0Vです。最大の50kΩとなったときは、5.2Vの22kΩと50kΩの分圧ですから計算では3.6Vとなります。つまり3番ピンに加わる電圧は、可変抵抗器を調整することで0~3.6Vの範囲で可変できることが分かります。この電圧は、実測でも0~3.6Vでした。
図3 各ピンの計算値と実測値の電圧
図4(a)~(e)のようにマルチメータ2台を回路に接続して、3番ピンの入力電圧の変化と1番ピンの出力電圧の変化を同時に観測します。50kΩの可変抵抗器の抵抗値を変え、3番ピンと1番ピンの電圧の変化をグラフにしたものが図5です。50kΩの可変抵抗器を回し3番ピンの電圧を0Vから徐々にアップしていくと2.6V付近で出力1番ピンの電圧は、急に約3.4Vにアップします。図4(b)~(d)の電圧表示を見ると分かりますがこの2.6V付近にちょうど閾値(しきいち)があるようです。3番ピンの電圧が2.6Vよりほんの少しアップすると1番ピンには3.4Vが出力され、ほんの少し下がるだけでほぼゼロの出力となります。
図4 回路にマルチメータを接続して入力電圧と出力電圧の関係を見る
図5 3番ピンの入力電圧 vs 1番ピンの出力電圧特性
LM358をコンパレータとして使った実験を行いました。今回は2番ピンの電圧を固定して3番ピンの電圧をゼロから徐々にアップしていくと2番ピンの電圧をちょうど超えた電圧で1番ピンの電圧がHレベルとなりました。
逆に3番ピンの電圧を一定とし、2番ピンの電圧をゼロから徐々にアップさせると、今度は1番ピンのレベルは、最初はHレベルであったものが、3番ピンの電圧をちょうど超えたあたりでHからLレベルにダウンすることが分かります。
このコンパレータの機能を使うといろいろな応用ができると思います。例えば2番ピン、3番ピンに接続する抵抗の代わりに光によって抵抗値が異なるCdSを使うと、光の強弱で何かをスイッチングさせることも可能となります。これ以外にも、いろいろな応用例を考えることができます。チャレンジしてみて下さい。
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