新・エレクトロニクス工作室
2023年2月15日掲載
第8回では「AF部&電源部テストボード」を紹介しました。その続きとなる「IF部テストボード」を紹介します。目指しているのは50MHzのAMトランシーバですので、IF部にはそれに合った作り方や考え方があります。全ての回路を実験するのは無理ですので、ここではLA1600を使用しました。このICをAMで自在にテストしようと考えたものです。
LA1600はAMラジオ復調用ICで相当前から使われているICです。ところがAMのトランシーバの実験をしようとしたところ、トラブルとなりました。以前に使った事のあるICだったので簡単に進めると思っていましたが、全く動きません。そこで何が良くないのかを先に実験してみたくなり、作製した写真1のようなテストボードです。目的は「LA1600をAM用に使う実験をする」です。
写真1 IF部をテストするLA1600のボード(コイル等を差し込んでいます)
そのトラブルについてですが、トランシーバで作ろうとしたIF部分は図1のような回路でした。生基板上に空中配線で組んでいましたが、全く感度が出せず受信機になりません。LA1600の8ピンの電圧を切っても何も変化しません。という事は455kHzではアンプとして全く動いていないという事になります。
図1 失敗した回路で問題があります
普通は入れる455kHzのセラミックフィルタを省略しましたが、これには理由がありました。LA1600の入力には10.7MHzのクリスタルフィルタを入れるつもりでしたので、50MHzのAM用として2つのフィルタを入れる必要はないと考えました。従って455kHzはコイル1個で済ませる事になります。第一IFの10.7MHzでフィルタを入れれば、イメージ的にも有利になります。もちろん、理想的には両方にフィルタを入れる方が良いのでしょう。
おかしいと思いながらテストボードを作っている時に、7ピンを455kHzのコイルで直流的に地絡させたのが失敗だったのかなと気が付きました。テストボードを作ってから試そうと考えながら、本機のハンダ付けをしていました。その結果は想像どおりで、ここにコンデンサを入れれば正常に動作しました。一般的な回路のようにセラミックフィルタを入れると、直流をカットしますので問題になりません。後から気が付いたのですが、ICのデータシートには図2のようにコンデンサを入れてDCをカットするように書いてありました。この図の4と7がICのピン番号のようです。
図2 このように直流的な地絡を避けるように記述があった(ICのデータシートより)
別件ですが、このICには以前からクセがあるように感じていました。図3のように、3ピンと電源の間にコイルとコンデンサを接続してLOの周波数を発振させます。ところが、この組み合わせによっては発振しないのです。テストボードがあれば、コイルとコンデンサを自在に交換して状態の確認ができます。このような目的も頭によぎったため、テストボードの作成を後押ししました。実際に基板を作ってから発振しないと、後の修正が面倒になります。
図3 3ピンにLとCを入れて発振させるが・・・ (ICのデータシートより)
試してみた結果、やはりLとCで周波数が合っていれば発振するという事ではなさそうです。この場合10.7-0.455=10.245MHzを発振させるのですが、10.7MHz用のコイルでは発振しませんでした。インダクタンスの値によるのかもしれません。7MHz用のFCZコイルに47pFを組み合わせると発振して受信ができました。このようなコイル交換が容易ですので、発振可能なコイルとコンデンサの組み合わせを確認する事ができます。
ニッチな作製でのトラブルですが、地味でもトラブルに対処しないと先に進めません。このように動作を確認して、トランシーバに発展させる事ができます。
ラジオというよりも、無線機の実験がメインです。データシートや今までの回路を参考にして、図4のような回路にしました。AM用に限定すれば、概ね組めると思います。ソケットがたくさんある以外は、特別な仕掛けはありません。コイルとコンデンサの丸印のところがソケットになります。電源には12Vと書いてありますが、実際には7~15Vで使えます。
このボードをSSBとCW用に使う事は考えていません。SSB用であれば、セラロックを使った発振回路を入れておくのも良いかもしれません。ただ、本格的なCW、SSB用受信機としては力不足と思います。
なお、入力側はコイルとコンデンサで同調させる場合もありますので、どのような使い方も可能なようにしています。同調用のコンデンサは、どちら側でも入れられるようにしました。
このようなテストボードを作るにあたり、コイルの交換を自在にできる構造が一番大事になります。シールドケースのアース接続は困難なため、これは最初に諦めました。巻線部分だけの接続になりますので、目的は実験だけでしょう。しかし、コイルを容易に交換できるのは大きなメリットがあります。
使用するコイルは7mm角のコイルにしました。これは一応ユニバーサル基板のピッチに入るからです。秋月電子の写真2の「丸ピンICソケット(1P)SMD」を用いてコイルを抜き差しするようにしました。秋月電子のICソケットのカテゴリーで見つける事ができます。USB顕微鏡写真なので巨大に見えますが、この中にICのピンが入るサイズです。
写真2 使用した丸ピン用のソケット
しかし、7mm角のコイルの足とユニバーサル基板の穴の位置には微妙な相違があります。普段はこれを強引に入れていますが、そのままソケットを使うのは少々問題がありそうです。そこで穴の位置を修正しながら広げて、ハンダ付けしました。そのために、モノタロウで写真3のような0.6mmの針ヤスリを仕入れました。フニャフニャと先の方が曲がるヤスリです。上側のチューブは付属していた保護用のチューブです。これでコイルを入れる穴の位置を修正しました。その後で、1.5mmのドリル刃で広げる必要があります。
写真3 モノタロウで購入した極細の針ヤスリ (コイルは比較用)
図5のような実装図を作製してからハンダ付けを開始しました。ハンダ面が図6になります。使用したのは秋月電子のCタイプのユニバーサル基板ですが、部品面にシールドのメッシュがあるタイプを使っています。そのため、アースには部品面の緑丸で接続します。ハンダ付けの済んだ様子が写真4になります。裏側が他と接触しないように、C基板に合ったアクリル板をねじ止めし写真5のようにまとめました。部品面から見るとピンだらけになります。
写真4 ハンダ付けが済んだ様子
写真5 このように完成
入出力にはジャンパーピンを使うために、分割ロングピンソケット(メス)を使用しました。これは第8回の「AF部&電源部テストボード」と同じですが、写真6のように電源には赤を使用し、アース側は黒で印を付けました。AF系は黄色を使用し、同様にアース側は黒で印を付けました。高周波のIF入力は写真7のように緑を使用し、アース側は黒で印を付けました。この色は私が勝手に決めたものですので、特段なる意味はありません。
写真6 電源には赤、AFには黄色のソケットを使用しアース側は黒印
写真7 高周波には緑のソケットを使用しアース側は黒印
アクセサリーとして、セラミックフィルタを写真8のように3端子に工作しました。これで簡単に接続できるようになりました。写真では解りませんが、ハンダ部分をエポキシ系の接着剤で固めています。
写真8 セラミックフィルタは3端子に工作
また、入力用のインピーダンス変換のために、1:1と4:1と9:1のトランスを写真9のように作りました。台は7mm角のコイルです。これは入力側のコイルに使いますが、この場合は同調用のCは使いません。1:1はノイズフィルタを流用していますが、フェライトビーズに巻いても同じです。4:1にはフェライトビーズ巻いたトリファイラ巻きを使っています。9:1はトリファイラ巻きにプラスして、追加を巻いています。いずれにしても単なるインピーダンス変換ですので、特にトリファイラ巻きにする必要はありません。巻き数比だけを考えて巻けば大丈夫です。
写真9 7mm角のコイルの台を使ったインピーダンス変換トランス
次に問題となるのが、本機の前段に置くクリスタルフィルタとの接続です。このようなフィルタはサイズや形状の種類が多く、基板を使った接続は困難でしょう。そこで苦肉の策ですが写真10のような冶具を作製しました。写真11のようにクリスタルフィルタを接続します。クリスタルフィルタとRF部との間もこれで接続します。普通はフィルタのケースもアースに接続するのですが、それは簡単ではありません。試したところ発振もせず、特段の問題はありませんでした。もちろん、それで良いという意味では無く、今回は問題が無かったという事なのでしょう。IF部を高利得で作ると問題となる可能性もあります。後から気が付いたのですが、何でソケット側の緑に色を合わせなかったのか・・・。
写真10 クリスタルフィルタ接続用の冶具
写真11 このようにクリスタルフィルタを接続
クリスタルフィルタのアース側がネジのような場合は、別の冶具を作る必要があります。タマゴラグを使って短く作れば良いと思います。
これは目的外の付け足しなのですが、使ったICがLA1600ですので簡単にラジオになります。この場合に455kHzのセラミックフィルタは必須です。写真12のように接続して短波ラジオにしてみました。右側に見えるのは第8回で紹介したAF部&電源部になります。LOのコイルを回して発振周波数を変える事で受信し、入力の同調を別にとるという事になります。このままでは周波数が読めませんが、一応受信はできました。ポリバリコンを使うようにして、受信周波数を記入すれば短波ラジオとして十分にまとめられると思います。
もちろん、IF周波数が455kHzになりますので、あまり高い周波数には向きません。入力には写真13のようなBNCコネクタの接続冶具を使っています。
写真12 短波ラジオを試した様子
写真13 入力に使用するBNCコネクタ用冶具
このようにLA1600を使ったラジオの実験にも使えそうですが、ポリバリコン一個でトラッキングさせるのは構造的に簡単ではありません。もちろん、ラジオにしやすいような工夫もあると思います。中波ラジオにするためには、アンテナ側のコイルにも工夫が必要でしょう。短波ラジオよりも難しいとは思いますが、不可能ではないでしょう。
これだけ交換が簡単にできれば、少々迷うようなLA1600の回路も簡単に答えを出す事ができそうです。ただ、使えば良かったと思ったのがICの6ピンのチェック端子です。ここにはAGC電圧が出ますので、テスターを接続すれば正確に調整する事ができます。使いやすくするためにも付けるべきでした。スペース的には余裕があります。このままの配置でも容易で、10μFのケミコンのアース側の下を通せば問題ありません。記事を書く都合があり、通常はアースポイントの下の配線は避けています。解り難いのを避けるためですが、図7のようにすれば解りやすいと思います。
図7 このようにして6ピンの電圧チェックができると便利
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