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テクニカルコーナー

My Project/第4回 【テレビ映りを改善】地デジ用ラインブースターの製作【広帯域高周波アンプ】

JP3DOI 正木潤一

年末年始、大晦日から三が日にかけて、TVはどのチャンネルも一日中特番を放送しています。もし、TVの画面にモザイク模様(ドロップノイズ)が現れたり音声が途切れたりしたら、それは受信電界強度が足りていないか、アンテナ信号をHDDレコーダーなどに分配することによる信号ロスが原因かもしれません。今回は、地上波デジタルTVの電波を増幅する簡易ラインブースターを製作します。

※注意:TVの映りが悪い原因が信号の弱さとは限りません。強力な近接波による抑圧なども考えられます。このブースターは、信号レベルが少し足りない場合に有効です。

仕様

  • 利得: 約20dB(19~22dB)
  • 周波数範囲: 470~710MHz
  • 入出力インピーダンス: 75Ω
  • 電源: +5V(ACアダプターより供給)
  • 消費電流: 約20mA

部品表


※チップ部品は1608サイズを使用

広帯域高周波増幅回路

地上波デジタルTVには、470~710MHzという広い帯域が割り当てられています。今回使用する負帰還増幅回路は、トランジスタのコレクタ-ベース間の“並列帰還抵抗”とエミッタ-GND間の“直列帰還抵抗”により、電流帰還と電圧帰還の2つの負帰還で、広帯域に渡って入出力インピーダンスマッチングを取るようにしました。この回路は、マッチング用のコイルやコンデンサが不要なので、高周波増幅ICに採用されています。増幅素子には、比較的入手性のよい
汎用高周波トランジスタ“2SC3356”を使います。

<参考: チップトランジスタ“2SC3356”>
2SC3356はトランジション周波数(fT)が7GHzの高周波用ローノイズトランジスタで、主にUHF帯における増幅や発振に使用されています。データシートによると、今回のようにコレクタ端子に10mAを流した時の雑音指数(NF)は1.1dB程度と低くなっています。

回路の設計

キーサイトテクノロジー社製の業務用回路シミュレーターを使える機会があったので、シミュレーションを繰り返してカット&トライで定数を決定しました。それだけでは芸が無いので、増幅部の部品の定数を“4”と“7”で統一して、覚え易くしてみました。増幅回路は、一般的に入力信号の周波数が低いほど利得が上がるため、低域で異常発振が起こり易くなります。今回は入力にHPFを設けて、帯域以下の信号をカットしました。特に、FM放送波などの強力な信号が入力されないようにしています。

4.7Ω(直列帰還抵抗)により入力インピーダンスを一旦上げ、470Ω(並列帰還抵抗)によって入出力インピーダンスを整合させています。バイアス抵抗(47kΩ)に並列に入れた470Pによって高周波信号をバイパスさせています。


シミュレーション結果

この回路の周波数対ゲインの関係は、帯域下限470MHzにおいては24dB程度(m1)、上限710MHzでは20dB程度(m2)となるようです。240MHzという広い帯域ですが、ゲインの差はわずか4dB以内に収まりそうです。また、中心周波数におけるSWRは1.5程度、安定係数“K”は全域にわたって2以上となっており良好です。

<参考: 増幅回路と安定係数>
高周波増幅回路は、異常発振させないように作るのが難しいところです。寄生パラメーターやGNDへの配線で生じる共通インピーダンス、出力信号の入力側への回り込み、インピーダンスのミスマッチなどにより発振してしまうことがあります。高周波増幅回路の安定性を表す指標に、『安定係数』があります。この係数が1以上となる周波数では、どんな負荷を繋いでも発振しないとされています。回路シミュレーターには、このような計算のための関数が用意されており、自動で計算されます。

部品の実装


部品実装図

ユニバーサル基板を7×4マスに切り取り、裏面に銅箔テープを貼って、ランド面に部品を実装していきます。(My Project/第2回を参照してください) 0.7mm径のメッキ線を20mm切り取ってL字に折り曲げ、基板上にハンダ付けしてF型コネクターの芯線にします。コネクターのGNDとショートしないように、10mmに切り取った2mm径の熱収縮チューブを被せておきます。


部品を実装した状態

基板をケースに収める

部品を実装した基板を、10mm角可変コイル(例:10SサイズのFCZコイル)の金属ケースに収めます。こうすることでシールド効果と物理的強度が得られます。ケースの両端にはF型コネクター(メス)をハンダ付けして、同軸ケーブルを直接取り付けられるようにします。(コネクターの突き出た部分は、予め根元から切り取っておきます)


F型コネクターをシールドケースにハンダ付けする

基板のGNDとケースの隙間に黄銅タワシを詰めて導通させます。(My Project/第3回を参照してください)
ケースを被せる前に、ケースの穴から電源のリードを引き出しておきます。(リードが出ているほうが出力側)


電源ラインにはDCソケット(メス)を取り付け、ACアダプター(出力5V/50mA以上)を接続します。最後に熱収縮チューブを被せると、見た目はよくなります。


熱収縮チューブを被せてDCコネクターを付けたところ

<参考:電源の供給方法>

・地デジコンバーターから供給する
地上波デジタル放送に切り替わったばかりのころ、我が家のテレビは地デジコンバーターを使っていました。当時、コンバーターを分解して、5Vの電源ラインからブースターの電源を取っていました。回路の消費電流は20mA程度なので、コンバーターの動作に影響を与えません。

※この方法は、配線を間違えるとコンバーターを壊してしまう恐れがあります。


コンバーターから電源を取り出す

・ アンテナ直下アンプ
このブースターは、手軽に画質の乱れを改善する簡易的な物です。本来ラインブースターは、アンテナの直下に挿入して、受信信号が減衰する前に増幅させます。下記の回路を挿入すれば、同軸ケーブルを介してブースターに電源を供給することができます。(この場合、アンプ出力側にあるコンデンサ(1000P)をショートさせます)


同軸ケーブルにブースターの電源を重畳させる回路

特性の確認


廉価版スペクトラムアナライザーによる測定結果

出来上がったブースターの特性を測定しました。帯域下限470MHzにおけるゲインは23dB程度、上限710MHzでは17dB程度と、シミュレーションで算出したゲインよりも1~3dBほど低くなっています。およそ300MHz以下でHPFの効果が表れています。

次に、TVのチャンネル設定画面で信号レベルを確認しました。なお、我が家には十分に強力な地上波の信号がケーブルTV局から届いています。そのため、手持ちの75Ω系アッテネーターを総動員して合計39dBの減衰を発生させ、弱電界状態を再現しました。


39dBアッテネーターで減衰させた状態(左)とブースターを挿入した状態(右)

我が家のTVの場合、“C判定”は、映像に欠損(ドロップノイズ)や音声の途切れが生じる状態です。ブースターによって、状態が“A判定”に改善されています。※TVに表示される「アンテナレベル」や「受信レベル」は、信号強度と雑音指数などを元にした指標であり、電界強度を直接表したものではありません。

最後に

実は、今では広帯域で高利得、しかも低ノイズのワンチップ高周波増幅ICが手に入ります。高周波回路はチップ化され、あるいは機能まるごとモジュール化されて、ますます使い易くなりました。さらに、ハードウエアで構成されていた高周波回路はソフトウエアによる処理に置き換わりつつあります。

しかし、この潮流が、電子工作の醍醐味を無くしてしまわないか?と不安に思います。高周波回路を自分で組んでみることで、高周波信号の独特な振る舞いが見えるようになります。私自身、過去に何度も高周波アンプを発振させてきました(発振回路を組むと発振せず、増幅回路を組むとなぜか発振してしまうのです)。このコーナーで紹介させていただいている内容は、そのような経験から得たものです。時代は変わっても、電子回路や電波の面白さは変わりません。人間のモノ造りへの欲求も無くならないでしょう。

注意

このブースターは、地デジ入力端子に直接繋がる同軸ケーブルに挿入します。同軸ケーブルにBS/CSのIF信号が混合されている場合、それらの信号が減衰*されてしまう可能性があります。また、BS/CSアンテナへの電源が同軸ケーブルに重畳されている場合、ブースターの挿入によって電源が断たれてしまいます。

*BSのIF周波数では利得がありますが、CSでは若干減衰してしまう可能性があります

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