楽しいエレクトロニクス工作
D-STARシステムは、全国に多くのレピーターが設置されていることもあって430MHz帯、または1.2GHz帯のDuplexで使われていることが多いと思います。D-STARの音声通信であるDVモードは、レピーター運用に限らず他の周波数のSimplexで使ってもよいので、比較的バンドが空いている50MHzに変換するコンバーターを考えてみることにしました。
今回考えたダウンコンバーターのブロック図は次のようになります。
D-STARのデジタル音声モードDVの使える親機としてID-51を使うことにしました。ID-51は144MHz帯でもDVモードが使えるので、これを50MHz帯にダウンコンバートして使うことにします。
144MHz帯のデジタル呼出周波数は145.30MHzで、50MHz帯では51.30MHzなのでダウンコンバートするための局部発振周波数は94MHzになります。この構成でID-51の周波数を変えればそれに従って50MHz帯の周波数を変えることができます。
ブロック図中のBPF 144MHz、DBM(Double Balanced Mixer)、LPF 60MHzは送信時と受信時で双方向に信号が通るので切替えずに使用できます。BPF、LPFは極性がないので基本的に双方向ですし、DBMはダイオードのものを使えば双方向になり比較的高レベルの動作が可能です。
まず机上で考えた回路図は次のようになりました。
ダウン側の送信について説明しますと、親機であるID-51の出力は5W、2.5W、1W、0.5W、0.1Wと切替えできますが、このダウンコンバーターのDBMの入力としては0.1Wでも大き過ぎるため、さらに20dB落として1mW(0dBm)程度にする必要があります。このためID-51への入出力側で、受信時は直結とし、送信時は20dBのアッテネーター挿入をリレーで切替えています。アッテネーターの抵抗値は市販の抵抗を使ったため減衰量は19.7dB位になりました。
DBMの前に144MHzのフィルターを挿入しています。送信側ではID-51本体でスプリアスが十分低減されているのでこのフィルターは必要ないのですが、受信側ではイメージ信号による妨害など不要なスプリアスを抑えるために入れています。
このフィルターはこの連載の「第49回 スペクトラム拡散通信 その2」にも使った同じものです。
フィルターを通過した信号はDBMに入力され94MHzの局発信号で50MHz帯に周波数変換されます。今回使ったDBMはTDK製でサイコロ形をしており、価格も比較的安かったこともあって多量に市場に出ていました。当時のものを多数持っていたので、これを使うことにしました。詳しくは巻末の資料をご覧ください。
DBMの出力(受信では入力)に60MHzのLPFを付けています。50MHz帯のBPFの方が理想的ですが50MHz以下の不要信号が発生する可能性が低く、同じLCの数で構成した場合、LPFの方が特性が取りやすいのでLPFにしました。50MHz帯は上端が54MHzですが余裕を見てカットオフを60MHzとしました。スプリアスとして現れる局発の95MHzと入力信号の145MHz付近の周波数がより落ちるようフィルターの減衰極に近付くよう少し調整しています。
局部発振回路は94MHzの信号が欲しいのですが、都合のよい水晶発振子が見つかりませんでした。ネット通販で色々探し、見つけた中では目的周波数を作るのに一番都合がよく、94MHzの1/4の周波数である23.580MHzの水晶発振子を購入しました。
この水晶発振子を4逓倍すると94.62MHzとなり、目的の周波数より620kHz高くなりますが他に見つからないのでやむを得ません。これを昔式のアナログ方式で4逓倍してもよいのですが、ロジック回路を使って4逓倍してみました。
ロジック発振回路で23.58MHzを発振させますが、水晶発振子がオーバートーンタイプのためその用途の発振回路でないと基本波で発振してしまいます。そのためオーバートーン発振回路にしました。
基本波発振回路とオーバートーン発振回路
発振回路からの信号は、IC1Bのインバーターのバッファーを通した信号と、もう1段インバーターIC1Cを通して遅延した信号を74AC86に入力すると、インバーター1段分とC32、R7の遅延差から10数ns幅のEXOR出力が得られ、見かけ上2倍の波形が得られます。同様にIC2B、C33、R6の遅延回路でもう1段通し2倍にしてトータル4逓倍になっています。
これらの回路は周波数が高いので74ACタイプのCMOS ICを使用しました。
ロジック波形は歪が多くスプリアスを減らすため、アナログのバッファーをつけることにしました。ロジックIC2Cのピン8からの信号をC3でQ1のベースに入力し、コレクターのL2とC5、C6の同調回路で94MHzに共振してスプリアスを減少させます。C5とC6で分圧された出力をDBMに入力します。
DBMで周波数変換された信号は、DBMでMax 11dBの変換損失があるので、入力が0dBmでも出力は-11~-12dBmになってしまいます。DBMの後はDRIVE部にて、ゲインが20dB弱で飽和電力が+5dBm(3.2mW)程度のIC UPC1651で増幅し、その後トランジスター2SC2407で出力20dBm(100mW)程度まで増幅します。終段で10dB以上ゲインが取れると出力1W(+30dBm)になるハズです。
電力増幅の終段は適当なトランジスターが見つからず、数10年も前のトランジスター2SC1945が残っていたので試してみることにしました。D-STARのDVモードは変調方式がGMSKのため振幅方向に変化がなくリニアアンプは不要で、歪があってもよいことになるためこの点少し気が楽です。
送信ドライバーの2SC2407はSパラメーターの資料があるので回路設計の見当がつきますが、終段の2SC1945は参考回路だけでSパラメーターの資料がありません。入力も出力もインピーダンスは相当低いだろうとトランスでマッチングを試してみます。
終段の入力側はトランスのタップ位置を変え、出力側は巻数比を変えて最良点を探すことにします。2SC1945はドライブ電力が十分あればバイアス電圧なしでC級ドライブにしてもよいのですが、ドライブ電力が心配なため少しバイアスをかけ、バイアス用のR10で少し負帰還もかかるようにしました。このトランジスターは元々CB用であるため50MHzでどの程度のパワー、ゲインが取れるか分かりません
出力側には高調波などスプリアスを落とすためLPFが必要です。このLPFはDBMの後のLPFと機能は同じですが2つある減衰極の周波数を第2高調波100MHzと第3高調波150 MHzに近づけて減衰量を上げるようにしています。
送受で切替える部分が多くその切替えにリレーを使いますが、オムロンの小型リレーG5V-1をいくつか持っていたのでこれを合計4個使いました。駆動電圧は12Vで1Aまでスイッチできます。
受信部は、アンテナから入力された受信信号をQ4の2SK125で12dB程度増幅してDBMに入力します。この回路はGG(Grounded Gate)アンプで昔から相互変調歪に強いアンプとされてきました。
電源は+5V系と入力の13.5VをスイッチしたT12V系の2つにしました。T12V系は送信時だけに使い、送信部終段の電源も切替えるため電流も大きく手持ちの2SB435にして放熱板をつけました。
各ユニットはいつものように2.54mmピッチの穴開け基板に組立てます。送受の主な部分と、送信ドライバー、終段および受信高周波部分に分けて作りました。それぞれ3つの基板を100mm x 140mmのアルミ板の上に載せて、このアルミ板は終段トランジスターの放熱にも使いました。
全体の組立ができあがったので、各部をチェックしてみます。測定してすぐ気が付いたことは、まず局発の漏れが予想より大きかったことです。よく考えるとDBMの局部発振入力が仕様書通りの+7dBmもあり、DBMそのもののアイソレーションが期待するほどよくないためでした。60MHz LPFだけでは不十分なので、やはり後に50MHzのBPFを追加しようと思います。
また、DBMの後のアンプにUPC1651を使ったのですが、飽和電力が+5dBmしかなく、後の2SC2407がドライブ不足で、最初に少し懸念のあった通りになりました。そこで手元のICを調べてみると、UPC1678は飽和電力が+18dBmあるので、これに取り替えてみるつもりです。
終段の2SC1945も27MHz帯CB用のために、どうも50MHzではうまく動作しないことが解り、これも手元の古い部品の使用は取り止めて、トランジスターの選択から始めなければならないようです。
今回は課題を残した結果となりましたが、不都合点は解消できると思っています。完成した後も無線局の変更申請をしないと、このユニットから50MHzの電波は出せませんが、現在免許のあるIC-9100を使って51.3MHzで時々DVのCQを出しています。ただ残念なことにDVモードで応答されたことはまだありません。
今回、dBm表記が度々出てきたので整理してみました。
0dBm※ = 1mW (50Ω) を基準とした数値
※50Ωの負荷に信号を加え、その負荷で1mWを消費するときの信号強度を0dBmと定義)
0.1uV(100nV) = -126dBm程度が受信限界に近い値
mW = 10-3W uW = 10-6W nW = 10-9W pW = 10-12W fW = 10-15W
楽しいエレクトロニクス工作 バックナンバー
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