新・エレクトロニクス工作室
DBMチェッカをネットで検索すると、光とマイクロ波のレベル計がヒットしました。つまりdBmを測る電力計の測定器です。しかし私が考えたのは全く異なり、ダイオードを使ったミキサーのDBMを簡易的にチェックするものです。これを写真1のように作製しました。
写真1 このような簡易的なDBMのチェッカを作製
私のジャンク箱の中には、どこで仕入れたのか記憶にない写真2のような古いDBMがあります。これはネットで探しても規格やピン接続が解りません。この他にも写真3のようなジャンク基板にハンダ付けされたDBMもあります。これは写真を写した後で外しました。
写真2 ピンが不明のDBM
写真3 ジャンク基板のDBM
このようなジャンク系のDBMは使えるのであれば早めに使ってしまいたいのですが、実際には長く残ってしまいます。何しろ基板にハンダ付けしてから、ピンの間違いやDBMの不良に気が付くと後が面倒です。従って、意に反して使うのは後回しになります。そのため、簡単にチェックができる冶具があれば便利と考えました。もちろんGHzや高IPのテストは考えていません。目的としては使用可否の確認、ピン配置の確認、IFポートがDCから使えるかの確認です。実際問題として、この3点だけ解ればシビアな使い方以外は概ね大丈夫でしょう。データシートがあるジャンクであれば、動作の確認だけですので簡単です。シビアな用途には規格が解っている新品を使いますので、このような問題にはなりません。もちろん、ほとんどありません。
IFポートがDCからの確認は、目的によっては全く問題ありません。私がここに注目するのは、ダイレクトコンバージョンの受信機に使えるか、またGPSDOに使えるか、等々の判断になるからです。GPSDOはBEACONのNo.189で作った、周波数の比較に使えるのかの確認になります。9MHz程度のIFに落とすなら全く関係ありません。
DBMはDIPタイプのICとピン番号の振り方が異なります。1ピンの位置は同じですが、上から見て図1のように数えます。これはメーカが異なっても同じようです。
図1 DBMのピンの位置
写真4の左側のように、R&KのDBMは右下にドットがあります。これはデータシートには「DOT OVER PIN7」とあります。この下がピン7という事は解るのですが、データシートの年代によっては「GND MARK」と書かれている場合もあります。どのような深い意味があるのか私には解りません。写真4の手前と奥のDBMは方向が同じです。R&Kは下側から見ると1ピンの根本だけが白くなっています。これが1ピンのマークです。写真4の中央はTDKのDBMです。ピン番号が振ってありますので、一番解りやすいと思います。しかし、写真では見にくいのですが、8ピンの根本だけ緑になっています。これがどうしてなのか8ピンなのです。7ピンはグランド直結です。写真4の左側はミニサーキットのDBMです。1ピンの根本だけ青くなっています。これは1ピンのマークのようです。2ピンはグランド直結です。このように、メーカによっても表示に微妙な相違があるようです。この部品特有の歴史があるのでしょう。グランドに直結しているピンは製品によっての相違で、メーカによって決まっているのではありません。
写真4 DBMのピンは表示がマチマチ(左からR&K TDK ミニサーキット)
8ピンのDBMにターゲットを絞る事とし各メーカのカタログを調べたところ、ピン配置が何種類もあって少々ガッカリしました。8ピンに絞っただけでも全てのチェックは不可能で、このようなチェッカは無理かと思いました。とりあえず、表1のように手持ちの8ピンDBMをデータシートで調べてみました。一部4ピンも入れてしまいました。もちろんこれが世の中の全てではありません。表1を見ると、3,4ピンをショートしてIFに使うパターンと5,6ピンを使うパターンがあります。これはピンが異なるとしても反対に入れると合うと気が付きました。つまり1ピンと8ピンを逆に入れる方法です。DBMの装着にソケットを使えばこれは容易です。3,4ピン間をショートしておけば、反対に入れた時には5,6ピン間のショートになります。3ピンだけを使うパターンもありますが、そのDBMは4ピンがNCなので問題はないはずです。他のピンは1ピンか8ピンですので、同じパターンで済みます。これ以外の接続のDBMについては無理という事になりますが、これは仕方ありません。私の手持ちのDBMで接続の解るものについては、一応カバーできる事になります。多くがこのパターンのようですので、まあ何とかなりそうです。
表1 手持ちのDBMを調査
基本的にRFとLOポートに発振器出力を入力し、IFポートはオシロやスペアナに接続してDBMの動作を確認します。もちろんスペアナでなくても、広帯域の受信機で確認する等の方法もあります。DCの確認はAFアンプに接続するとか、PCを使ったFFTアナライザ等で確認する等の方法はあると思います。ただ、動作をひと目で確認できるのがスペアナの良さです。逆にIFに音声信号を入れてLOに高周波を入れ、RFでDSB信号を確認する方法もあります。DBMの特性もありますし、自分が作りたいものによっても変わるのでしょう。要は決定的な方法はありません。しかしオーソドックスな方法を考えると、RFとLOポートに発振器出力を入力し、IFポートで低めの周波数を確認するのが良いのだと思います。IFポートがDCまで使えない場合は、一番低い周波数を出せるポートを探すしかありません。これでザックリですがDBMの使用可否と、IFポートが解るはずです。発振器の出力レベルが同じですので、RFポートとLOポートの区別はそもそもできません。一方をLOポート用として+5dBmにレベルを上げたとしても、恐らく区別はつかないと思います。そもそもDBMは図2のような回路ですので、RFポートもLOポートも基本的には同じです。
図2 基本的なDBMの回路
また、RFとLOポートはショートに近い抵抗値になりますが、IFポートはダイオードが入るため抵抗値があがります。デジタルテスターを使って見当を付ける事も可能ですが、少ない電流値でダイオードを測る事になります。良く解らない値から、良く解らない回路を推測するのは混乱のもとです。しかし、ショートであればRFかLOらしいという目安にはなると思います。
正常に動作をするかの確認だけですので、DBMに入力する信号は特にピュアで無くても何とかなります。しかし、周波数は動かせた方が調べやすいと考えました。信号はRFポートとLOポートの両方に入れる必要があります。発振器には、秋月電子で購入した30MHzまでを出力するLTC1799を使ったモジュールを2台使いました。このモジュールの出力はインピーダンスが高いので、2SC1815のエミッタホロワでローインピーダンスに変換しました。VRを1MΩとすると1kHzより発振できますが、そんなに低く発振させても意味がありません。5kΩのVRを使って7.5~30MHzを発振させました。更に狭くしても良いのかもしれません。このような出力を2組、図3のように作っただけの回路図となります。
一般的なDBMは製品によって多少の違いはありますが、LOポートに+5dBm以上のレベルが必要です。DBMによって異なりますが、+5~+20dBm程度まであるようです。これはRFポートとIFポート間を最小限のロスで周波数変換するためですが、これより低くても動作しないという事ではありません。出力レベルは低くなりますが、DBMが正常であれば出力はします。
実装図を図4のように作製しました。秋月電子の部品面にアースの付いたC基板を使っています。このハンダ面が図5になります。アースは部品面のメッシュ部分にハンダ付けします。図4の緑の点がメッシュにハンダ付けするところです。ちょっと失敗したところがあります。回路図ではLPFを付けていたのですが、実装図で入れるのを忘れていました。これでも何とかなるかと思って試したのですが、あまりに高調波が多く少々問題でした。そこで強引に30MHzのLPFを後から追加しましたので、コイルがチップになってしまいました。そのためハンダ面にコイルを付けています。この部分は少々首をひねるような実装になってしまいました。とりあえず写真5のように作製しました。そのハンダ面が写真6になります。
図4 実装図
図5 ハンダ面
写真5 このように基板を作製
写真6 ハンダ面
一番の問題となるのが、DBMをどうやって抜き差しするかの工作です。専用のソケットなど見た事もありません。多少無理をしても使えれば充分と考えるしかないのでしょう。そこでICソケットから始めてみました。丸ピンのソケットには全く入りませんが、写真7のタイプは少々きつい感じですが入る事が解りました。そこで14ピンのソケットを使う事にしました。しかし、幅が異なりますので、このままでは使えません。そこでニッパで中間をカットしました。ヤスリで少し削ったのが写真7の右側です。但し、普通にICソケットのように並べるとピン間の間隔が合いません。写真8のように同じ方向にする事で入れる事ができます。太さ的に少々無理がありますので、もっと良い方法があるかもしれません。クリスタル用のソケットを並べる方法も良さそうと思ったのですが、微妙に緩すぎて使えないようです。
写真7 ICソケットを加工し右側のように分割して使用
写真8 向かい合わせではなく同じ方向で使用
最初はソケット部分もメインの基板に含めようと考えたのですが、DBMだけの小型基板を写真9のように作りましした。基板はアースの付いたC基板の端切れを使っています。ケーブルの取り回しがしやすいようにSMAコネクタを使っています。基板のエッジ用のコネクタです。ハンダ面が写真10になります。簡単な回路ですが、一応実装図を図6のように作っています。ハンダ面は図7になります。このようにしておけば、SGを2台使った試験にも応用できると考えたためです。また特殊接続があった場合でも、この補助の小型基板だけ作製するのは容易です。無理がたたってソケットが破損しても、この部分の作り直しで済みます。
写真9 作製したDBM基板
写真10 そのハンダ面
図6 DBM基板の実装図
図7 そのハンダ面
このような冶具ですので、短めのSMAのケーブルがあると便利です。これも写真11のように作っておきました。
写真11 専用ケーブルも作製
写真12のようにしてDBMが正常かのテストをしました。最初はIFらしきポートにスペアナを接続していました。これで出力が確認できるのですが、音声帯域やDCまで使用可能かは良く解りませんでした。そこでオシロスコープで確認するとDCまで可能と確認できました。いずれにしても発振周波数は不安定ですので、きちんとしたDC出力は確認するのが大変です。そうするとDDSでも良かったかなと思います。
写真12 測定の様子(左側のケーブルの行先はスペアナ&オシロ)
これを使ってジャンク基板から外したDBMをテストしてみました。何個が試しましたが、取り外した時の熱の影響は無いようで正常に動作しました。もちろん細かい劣化状況等は不明です。これでピン接続が不明だったDBMも使える事が解りました。DCまで出力しましたので、そこはIFポートと解りました。しかしRFとLOの相違が明確には解りません。まあ、シビアでない使い方であれば十分でしょう。DCが使えるポートが見つからないとIFポートが解りません。一番低い周波数まで出力したのがIFポートと考えられますが、明確には解りません。
このような実験をしていて気が付いた事があります。全部の端子がそのままピンに出ているパターンのDBMが図8になります。普通はこれを外部で図2のように配線して使います。外付けのVR等を付ける事で、微調整が可能なタイプになります。但し、必ずこのように接続されているとは限りません。この図8のようなDBMの場合、細かい事を気にしなければ1ピンと8ピンを逆にしても使えそうです。興味があったので実際に作ったチェッカで試しましたが、ほとんど使えました。つまり本来のIFポートは3,4ピンなのですが、ここをGNDとして5,6ピンをIFポートにしても使えるという事です。もちろんデータシートとは異なる接続になります。これができなかったのがR&KのM21で、データシートを確認したところ5,6ピンは内部でGNDでした。下側から見ると分離しているように見えたのですが、外からだけでは判断はできないという事です。
図8 全てのDBMではないが、図の番号がピン番号となる
このように作りましたが、記事としてまとまりません。いかにDBMが解り難い面倒な部品かと改めて思ってしまいました。それは性能を最大限に出すためなのでしょう。微妙に回路を変えたり工夫を加えた結果なのだと思います。
作って使って気が付く事もあります。もう少し使いやすく、解りやすくするためには、両方の周波数を可変する必要は無いと感じました。LO用としてクリスタルを使って+5dBm程度を作り、RF用の信号としてある程度の幅を持って発振させる方がスマートのように思います。例えば15~19MHzをクリスタルで発振させ、DDSで0~40MHzを発振させれば十分と思います。このような感じで作るのも良さそうです。スプリアスが少なく作れますので、周波数の確認とレベルの確認が容易になります。しかし、それでもRFとLOの相違は解らないと思います。早くも「DBMチェッカ2」の構想ができてしまいました。実際に作るかは別ですけど。
新・エレクトロニクス工作室 バックナンバー
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