From Steve's Workbench
2023年4月17日掲載
マグネチックループアンテナ(以下、マグループ)は、1960年代からアマチュア無線家の間で人気があり、主にHFアンテナの設置スペースが限られている固定局で使用されています。欠点もありますが、非常にコンパクトでどんな高さ、そして屋内でも驚くほどよく動作します。
高耐入力のマグループは、真空バリコンや自動モーター駆動など、重くて高価な部品を使いますが、最近は耐入力が小さく、持ち運びできるマグループが各社から発売されています(図1)。屋外での運用や、POTA(Parks on the Air)やSOTA(Summits on the Air)のような運用で非常に人気となっています。無線機を現地まで運び、時には困難な条件下で設置します。アンテナはシンプルなワイヤーアンテナやホイップアンテナが使われることが多いですが、マグループも効果的で軽量であれば有効です。この記事で紹介するものは、エレガントな構造ではありませんが、HF帯で非常によく機能します。三脚を含めても2kgしかなく、素早くセットアップすることができます。
図1. 実験用と市販品のマグループの一部。市販のアンテナは数百ドルしますが、自作ではもっと安価に作ることができます。
マグループは、基本的に静電容量によって特定の周波数に同調する大型インダクタです(図2)。共振回路は、高い循環電圧と電流により電磁界を放射します。受信の場合、高Qループは受信信号から比較的高い電圧を発生させ、その選択性と指向性は干渉を減らすのに役立ちます。このタイプのアンテナは、主に電波の磁気成分に反応するため、従来のアンテナほどノイズを拾わないとされていますが、実際のところはそうではないでしょう。
図2. 移動用マグループの重要部品。
メインループはアンテナの中で最も重要な部分です。銅やアルミのパイプ、同軸ケーブル、さらにはフラフープや自転車のアルミリムなどでも作ることができます。ループの抵抗は極めて小さく、円周長は使用周波数で波長の1/10程度にする必要があります。オンライン計算機では、特定の帯域に最適なサイズ、共振に必要な静電容量、その結果得られる効率、帯域幅、電流、電圧などを求めることができます。オンライン計算機Small Transmitting Loop Antenna Calculatorは使いやすいものですが、いずれも実験の出発点となります。
私は7MHzと18MHzのシングルバンドのマグループを作ったことがありますが、その性能には満足していませんでした。またマルチバンドのマグループが欲しかったのですが、うまく動作させるのはさらに難しいでしょう。妥協できるサイズのループであれば、同じ効率ではありませんが、複数のバンドで動作させることができます。例えば、計算機では円周4mのループで7~24MHzをカバーできると表示されましたが、最高と最低のバンドでは理想的なサイズではありませんでした。テスト用に作ったループでは、浮遊容量の関係で20.5MHzまでしか使用できず、円周を小さくし作り直しました。
このループの理論的な効率(ダイポールアンテナとの比較)は以下の通りです。低い周波数帯域では3~6dBの損失がありますが、高い周波数帯域ではかなり良好となりました。これらの計算された効率は、抵抗がゼロの理想的なループのもので、実際のループは効率が悪くなりますがあまり大きな差はありません(表1)。
表1 ダイポールと比較した理論的な効率。
私が最初に作った携帯用マルチバンドマグループは、1mの長さのアルミバーを4本使い、折りたたみ式のジョイントで抵抗が少なくなるように設計されています(図3)。性能は良かったのですが、持ち運びが不便で風の抵抗もあり、設置や使用は困難でした。
図3. 私の最初の携帯用マグループの詳細。
表面積の大きい接合部に高い圧力をかけることで、低抵抗を実現しています。
次のバージョンは、低損失の同軸ケーブル5D-FBを使用しました。これは持ち運び用に簡単に折りたたむことができ、セットアップも簡単で、運用もうまくいきました。小型モーター付きなので、数m離れたところからでもチューニングが可能でした。(図4)
図4. 2番目のバージョンは遠隔で調整でき、フィードラインを結合するために小さなループを使用しました。
「In Search of the Optimized Transmitting Magnetic Loop」というYouTube動画では、より大きな直径の導体を使用することでアンテナ効率が大幅に改善されることが示されており、これはオンライン計算機でも示されています。ビデオでは、効率的なマグループを作るための斬新な低コスト製作技術も紹介されています(図5)。
図5. マグループの効率は直径の大きさによって増加する(W6NBCのYouTube動画より)
大口径のループ導体は、RF電流が導体表面付近の領域にしか流れない表皮効果により、軽量で効率的、かつ安価な材料で作ることができます。市販のマグループに使われているRG-8などの同軸ケーブルは持ち運びには便利ですが、できるだけ軽量で効率的なものではありません。私は、大口径でありながら柔軟性があり、ループ形状を維持でき、かつ軽量で非常に低抵抗の素材を求めていました。
半硬質アルミダクトを使うことも考えましたが、非常にかさばるし、風の抵抗も大きいです。また、金属蒸着したプラスチック箔を使ったフレキシブルダクトは、スリンキーのように折り畳んで持ち運べますが、電気抵抗が高く、試作ではうまくいきませんでした。
図6. 金属蒸着したプラスチック箔の素材は、高い抵抗値を有していた。
FBシリーズの同軸ケーブルを見てみると、低損失・軽量で、厚い固体中心導体、発泡誘電体、アルミ箔、銅編組を使用しています。重量のほとんどは、中心導体、誘電体、ケーブル外被であることがわかりました。残りの銅編組は簡単に分離でき、優れた導体ですが、それだけでループ形状を保持することはできません。
図7. 中国のフィンガートラップのおもちゃが、銅編組を広げるためのひらめきとなった。
5D-FBケーブルの銅編組を7mほど切り離し、直径10mmのビニールチューブを4mほど押し込んで、剛性と軽さを兼ね備えた直径11mmのハイブリッド導体を作りました。簡単に折りたたむことができ、支えるとループ状になり、実際のテストでもうまくいきました(図8)。10D-FBケーブルの編組は直径20mmまで広げられるのですが、そのサイズにあうビニールチューブはかなりの重量です。そこで、8D-FBケーブル銅編組で直径16mmの細いビニールチューブで作ったものを現在使用しています。
図8. 5D-FB同軸の銅編組を10mmのビニールチューブに通したもの。自動車用のコネクタ端子を銅編組にハンダ付けした。
チューニング用のコンデンサはマグループに抵抗を追加するものではありませんが、優れた小型のバリコンを見つけるのは困難です。私が最初に使ったのは、プレート間隔が0.5mmで、10~50pFの可変幅を持つものでした。これは、12~25MHzのループを共振させ、並列に固定コンデンサを追加することで7MHzまで下げることができました。私は、5Wの電力がコンデンサに700Vをかけるという計算に注意を払わず、ある湿度の高い晩にアーク放電してしまった。そこで、1.0mm間隔で同じ容量範囲の、大きくて重いが50Wに耐えられるものに交換した。500Vのマイカコンデンサも燃えてしまったので、直列にもう1つ追加して、より高い電圧に対応できるようにしました。
循環電流も非常に大きく、5Wで4Aにもなります。私は、バリコンにボルトで固定した銅板で抵抗を減らし、ループに接続するために自動車用のコネクタ端子を使いました。これは大電流に対応し、素早く接続でき、軽くて安価です。
図9. VSWR曲線は高Qを示すが、残留抵抗が小さいため、理想的なマグループよりも帯域幅が広くなっている。
VSWR=2.0の範囲で測定された帯域幅は、理想的なループで計算された帯域幅のおよそ2倍です(図9)。これは性能を低下させるものとは思えず、バーニアダイヤルによる微調整を迅速かつ容易に行うことができます。校正済みのダイヤルには便利なプリセットマークがあり、チューニングモジュール全体は銅箔でシールドされ、手の静電容量の影響を軽減しています(図10、11)。
図10. 固定コンデンサ切り替え用のトグルスイッチを備えたチューニングコンデンサモジュール。
図11. バリコンと固定コンデンサを低抵抗で接続する。
高インピーダンスループをフィードラインにマッチングさせるには、小さなカップリングループを使用するのが最も一般的です。これは簡単に作ることができうまく動作しますが、異なるバンドに対して形状や位置を変える必要があります。ガンママッチはコンパクトで調整もほとんど必要ありませんが、アンテナの放射パターンをわずかに歪ませます。私は、フィードラインに接続された数ターンのワイヤを付けたフェライトコアにループを通すことで最良の結果を得ました(図12)。コアの大きさとループ上の位置は重要ではありませんが、巻き数は使用するバンドに依存します。私の最終バージョンでは、コイルのタップはロータリースイッチで選択され、最高帯域の2ターンから7MHzの8ターンまであります。これにより、すべての帯域でVSWRが非常に低くなり、複雑な作業に見合うだけの効果が得られるようになりました。
固定式やハイパワーのマグループでは、チューニング用バリコン(モーター付き)は通常上部に取り付けられ、高インピーダンスポイントは地上から遠く離れ、フィードラインはループのフィールドにありません。そのためコンデンサは通常、ループの底部、動作位置の近くに設置されます。この方が安定していて、低出力でも問題は生じません。
図12. コアとセレクタースイッチは、ループにぴったりとはまり、垂直の支持体に素早く取り付けることができます。同軸のシールド箔の残りで銅編組を保護しています。
アンテナの効率を上げ重量を軽くした分、支持構造も軽く、設置しやすいものにしたいと考えました。支柱は木や塩ビ管でもいいのですが、グラスファイバーの伸縮式釣り竿が軽くてコンパクトで剛性が高いです(カーボンファイバーは導電性があるのでNG)。下部の太い部分で全体の重量を支え、穴を開けて他の部品を固定するようにしています(図13)。
図13. ループは、伸縮する釣り竿と水平なグラスファイバー製のロッドで支えられています。ロータリースイッチを操作するための伸縮棒は、最も細い竿の部分から作りました。
マグループをセットアップする際の最初のステップは、導体の中心をポールの上部にクロスサポートで固定することです。クロスサポートはグラスファイバー製の細い園芸用杭で垂直ポールの穴にはめ込み、外側の端にはループを固定するT字型のパーツを付けています。
今までは地面に金属の杭を打ち込み、その上にポールの下端を挿し込みアンテナを立てていましたが、杭をしっかり打ち込んでいないと風で倒れてしまうことがありました。そこでカメラ用の軽量三脚を改造して脚を広げ立てました。またループの下端を地面からループ直径の1.5倍程度の高さにするのが有効な高さとされています。三脚の脚に取り付けたポーチには、現地で拾った石や砂を入れて重りにするとより安定します(図14)。
フィードラインをセレクタースイッチに接続した状態で、伸縮ポールを伸ばし、三脚に取り付けます。チューニングモジュールはポールに取り付け、ループの端に接続するとクロスサポートが固定されます。これによりわずか2分で安定したループが完成しました。
図14. 改造された三脚と、一時的な重りを入れるためのポーチ。
図15. 三脚とマグループの部品は、奥さんに作ってもらったバッグに収まります。
マグループを組み立て、トランシーバーを接続した状態で、チューニングコンデンサとセレクタースイッチを運用バンドに合わせてプリセットします。沖縄の7MHzは日中の伝搬が悪いので、10MHzから始め、順次上のバンドで運用します。バリコン位置をプリセットマークの中心に合わせると、バックグラウンドノイズが増加するのがわかります。他のアンテナチューナーは必要ありません。キャリアまたは長点を送信し、VSWRが急激に低下するのでバリコンでゆっくりチューニングしていきます。バンドを素早く変更できることは、SOTA運用において大きな利点であり、QRPでもハイバンドでDXとのQSOをもたらします。ループの向きを変えることで、受信信号の強度を上げたり、干渉する信号を減衰させることができます。3月12日のJA SOTA QSO PARTYでは、フルサイズのバーチカルアンテナとの比較を行いました。マグループを使ったレポートは、バーチカルアンテナとの差はS1以内に収まり、ノイズフロアはかなり低くなっていました。
まとめると、私は携帯用マグループに非常に満足しています。もし自分で作ろうと思ったら、マグループの理論や多くの実用的な詳細について、先に紹介したYouTube動画やhttps://www.nonstopsystems.com/radio/frank_radio_antenna_magloop.htmで見つけることができます。
図16. マグループは、はるかに大きなバーチカルアンテナと比較して遜色ありません。
参考
図1: W6NBC
図3: 月刊FB NEWS JACOTA 2021年10月号
図5: W6NBC
図7: https://youtu.be/sOLXVQZYwao
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