ジャンク堂
2023年4月3日掲載
ご無沙汰しております。閉店致しましたジャンク堂ですが、過去に紹介した記事に好ましくない回路がありましたので改訂のために臨時開店をいたします。
もう1年以上前(2022年2月と3月)の記事になりますが、ジャンク堂(7)と(8)でBird43のピークパワー計化の回路設計を紹介しました。
いまさらですが、そこで採用したオフセット調整回路が正しく動作しない場合があることに気がつきました。当時、私が製作したものは特に不具合もなく現在も使用していますが設計の視点で見ると好ましくない回路となっていました。
そのため、 オフセット調整回路に関連した回路の改訂をいたします。
記事では回路の前段部分であるピーク検出回路部分でオフセット調整を行うように設計しています。オフセット調整の基本回路としては下図のような回路を採用しました。
オペアンプに入力オフセット電圧(以下、オフセット電圧)がある場合、等価的にプラス入力端子に入力電圧が加えられていると見なせます。例えば、オペアンプの入力オフセット電圧が+10mVだとすると、入力電圧が0Vであっても10mV×ゲイン倍の電圧が出力されます。
そこで、上記の回路ではRxを介してマイナス入力端子も10mVとなるように電圧を加えます。そうするとプラス端子とマイナス端子の電位差がなくなり、出力端子は0Vになります。オフセット電圧がマイナスの場合も同様です。
上記の回路は通常のオペアンプ回路のオフセット調整回路として正しく動作します。
Bird43の記事ではこの回路をピーク検出回路に盛り込みました。(下図)
このピーク検出回路ではプラス入力端子からのゲインを約11倍に設定しました。したがって、仮にオペアンプのオフセット電圧が+10mV(NJU7043のスペック上限)とすると、出力には約110mVの電圧が出力されます。(入力信号がなくても)
そこで、オフセット調整用の半固定ボリューム(以下、VR)を調整して、マイナス入力端子が+10mVになるようにします。そうすると、プラス/マイナスの両入力端子の電圧が等価的に等しくなり、出力が0Vになるはずです。
ところがこの回路の場合、完全には0Vとならないのです。理由は、出力端子のDiを介してフィードバック抵抗Rfが接続されていることにあります。
この状態を図に表してみます。動作を追いかけるためにオフセット電圧を見える形にして、回路を少し簡略化しています。プラス入力端子の10mVが入力オフセット電圧に相当し、マイナス入力端子の10mVがオフセット調整電圧になります。この状態でプラス/マイナスの両入力端子が同じ電圧のために、出力は0Vになります。
なお、この回路では図からわかるように、Diによって青い矢印の方向には電流が流れますが、赤い矢印の方向はDiが逆バイアスとなり電流が流れません。そのためマイナス入力端子に加えられたオフセット調整電圧の10mVはRfを通してDiのカソード側に現れてしまいます。もし、Diがなければオペアンプの出力端子に電流が流れ込むために0Vとなります。つまり、このオフセット調整回路ではオフセット電圧がプラス方向の場合は完全に0Vまで調整できません。
なお、オフセット電圧がマイナスの場合はオフセット調整電圧がマイナス電圧となるために、Diを通してフィードバックが掛かるためにオフセット電圧をキャンセルすることが可能です。また、オフセット電圧がプラスの場合も、ここでの例ではオフセット電圧による出力電圧が11倍(110mV)になりますが、取り敢えず1倍(10mV)までは低減することは可能です。
今回の対策では基本回路を下図のようにしました。Diのカソード側とマイナス電源の間にRxを追加します。これによって、オペアンプの出力からDiとRxを介して電流が流れるためにDiの逆バイアス状態が回避されます。Rfからのオフセット調整電圧はオペアンプの出力端子からの電流とともにRxを通して流れ、Diのカソード側が0Vに落ち着きます。オフセット電圧がプラスでもマイナスでも0Vに調整できるようになります
ただし、ピーク検出のための時定数を構成するC(下の全体回路図のC2)に蓄えられた電荷がRfとRxの両方から放電されるためにディケイタイムが短くなります。その分はCの容量を増加して時定数を合わせました。
全体回路図は以下のようになりました。赤枠で囲った抵抗が追加した抵抗で、今回は2.2MΩにしました。また、横の時定数用のコンデンサC2は2.2µFから3.3µFに変更しました。(実際は元の2.2µFに1µFを並列接続しました)
実は今回採用した回路以外の方法も少し考えたのですが、意外と回路が面倒になります。プラス入力端子にオフセット調整電圧を加えるとオフセット調整はできますが、Bird43の検波器(エレメント)のダイオードに調整電圧がバイアス電圧として加わり、検波器の特性に影響を与える恐れがあります。これは設計段階でも気付いていたことで、最大で40mV程度しか出力されないダイオードに10mVものバイアス電圧を与えると影響は大きいと思われます。もちろん、回路を工夫して検波器へ加わる調整電圧を軽減することもできますが、影響度合いが想定できません。
また、前段(ピーク検出回路)ではなく、後段のバッファ回路のほうで前段のオフセット電圧も含めて調整する方法も考えられます。しかし、前段のオフセット電圧がマイナスの場合、Diのために出力にオフセット電圧が表れてこないために、後段ではそれを補償することができません。このときマイナスのオフセット電圧は信号として入力される電圧を等価的に減算してしまうので出力電圧が低下することになります。
結局、ピーク検出回路のオフセット電圧がマイナスの場合は現状の回路(前段)で補償を行い、プラスの場合は後段のバッファ回路にオフセット調整回路を設けてオフセットの補償を行うことになります。これでは回路が複雑になり調整も難しくなります。
今回修正する前の回路では、オペアンプのオフセット電圧がプラス方向に大きい場合は調整を行ってもメーターが0まで下がらずに少し浮いた状態になります。私が作ったものはオペアンプのオフセット電圧がマイナスだったために問題なく調整できてしまっていました。
オペアンプの実力としてはオフセット電圧がスペック最大値の10mVまで達するものは少なく、もっと小さいと思います。Bird43の検波器の最大出力を40mVと仮定すると、ピーク検出回路のゲインは約11倍なので440mVとなります。仮にオフセット電圧が3mVの場合、無調整の場合330mVになりますが、元の回路でも3mV程度まで低減できます。バッファ段のオフセット電圧と合わせても6mV程度の出力となります。これだとオフセットによるメーターの浮きはフルスケールの1/73となり、振れ角で1.2度程度になります。
その程度であれば実使用上は問題ないといえるかもしれません。しかし、オフセット電圧が10mVのものがないとはいえず、また回路としては設計段階で意図した妥協であればともかく、意図していなかったので設計ミスを認めざるを得ません。
これ以外にも私の記事で意図しない誤りなどがあるかも知れませんが、今後も気付いた場合は訂正をして行きたいと思います。
Best 73 and 88!
ジャンク堂 バックナンバー
アマチュア無線関連機関/団体
各総合通信局/総合通信事務所
アマチュア無線機器メーカー(JAIA会員)
©2024 月刊FBニュース編集部 All Rights Reserved.