ものづくりやろう!
2023年4月3日掲載
・第二十一回で紹介した“周波数カウンタ”を組み立てました。
・ラジオの製作をする時に“有れば便利な計測器”を見ていきます。あくまでも私の持っている範囲内でですが。
・“有れば便利な計測器を使った測定事例”を実際のラジオの製作場面にあてはめて使い方を見ていきます。
今月号は“有れば便利な計測器”と題して私が持っている相棒(計測器)たちを紹介します。その前に、つい最近計測器の一員に返り咲いた周波数カウンタを紹介します。
1. どんなカウンタ?
この周波数カウンタは第二十一回の最後に紹介しました安価なキットです。以前所有していたカウンタが壊れてしまい、計測の必要性に迫られて安価なカウンタキットを買いました。性能の概要は以下です。
①周波数範囲: 1Hz~50MHzまで5桁表示
②水晶発振子テスト範囲: 4MHz~48MHz
③マイコンにより制御
周波数表示のためのLEDが5つしかありませんが、私の用途ではHF帯での使用を想定していますし、さらにHz単位までの精度を要求しないので分解能1kHzまであればよいと割り切り購入しました。
さて、月刊FB Newsの2023年2月号の記事が公開された後にJN1CMW局さんからこの周波数カウンタに関する情報をメールでいただきました。紹介いただいた情報はここになります。このキットの組み立て手順や、回路図、PICマイコンのソースコード、また長年このキットを製作・使用された経験から見た性能面に関する情報等満載されていました。私もこのキットを組み上げる時、いただいた情報を大いに参考にさせていただきました。
いただいたメール中にこのキットの性能の簡潔な紹介が記載されていましたので、要約して記載させていただきます。
【キットの特徴】
①水晶発振子の周波数を測定できるように作られている
②周波数を計測する場合、外部入力はマイコン直結で感度は低め
③何年も動かしっぱなしですが大丈夫ですので信頼性は十分
④ラジオ等の中間周波数を設定して足し引きして表示出来るのが便利
⑤50MHzは十分にカウントする
“水晶発振子の周波数を測定できる”というのが私の購入理由の一つでもあります。また、周波数混合回路を使用する回路などでは局発の周波数に中間周波数をプラス/マイナスした周波数が受信周波数になるため、④のような機能があればそのまま使えるというありがたさもあります。また私の場合にはさらに、ある程度の精度があるのならば同時に複数の周波数表示が必要でしたので、複数台の購入を前提にキットを購入する気持ちになりました。キット製品ですから自分で組み立てる必要がありますので、組み立てにどれくらいの時間や手間がかかるのかチェックする目的で1台購入しました。
2. 組み立て
開封して部品を並べて見ました。写真1のようにこれだけです。7セグメントLEDもICソケットも基板に載っているだけですのではんだ付けする必要があります。それでもそんなにはんだ付け箇所が多いキットではありません。
写真1 周波数カウンタキット(組み立て部品)
あとは、はんだごてを握って組み立てるだけです。2時間もかからずに組みあがりました。組み立てたものを写真2に示します。
組み立ての途中でコンデンサが1個ないことに気がつきました。欠品のコンデンサについては手持ちの部品箱から持ってきて組み立てました。組み立て後に違う容量のコンデンサが1本余っていました。間違い部品が入っていることもありますので組み立て前に注意して確認しましょう。
測定に使用する端子は写真2の“水晶振動子接続部”(右と左の穴に水晶をさします)と“周波数測定用”(INとGにケーブルをつなぎます)を使って計測します。
3. カウンタによる計測
実際に簡単な周波数計測をおこなってみました。
・水晶振動子の発振周波数
写真2の水晶振動子接続部に測定したい水晶を接続します。昔の水晶振動子は軸が太くて入りませんが、短いケーブルを接続してテストしてみてください。写真3がその測定例です。あまり長い配線はしないでください
写真3 水晶振動子の発振周波数測定
この周波数カウンタに関しては、マイコンを制御・計測装置として使用しているため、信号レベルがあるレベル以上なければ誤動作を起こすようです。また、計測の上限周波数が50MHz近辺というのは低すぎるなどの意見があるようです。このためネット上では、信号レベルをアップするためにプリアンプを付けたり、計測周波数を拡大するためにプリスケーラを付けたりと、改造の記事がたくさん載っていました。このまま使用される場合はこのような特性をよく理解して使用してください。まだ長期にわたって使っているわけではありませんが、安価で制限はありますが使い方次第でよく働いてくれる測定器だと思います。(先日ポチっとしようと思い、前回注文した店と同じ店に注文しようとしましたら、お届予定日が2週間ほど先になってました。以前ポチっとしたときには翌日受領できましたが・・・)
1. 私の道具箱(計測器編)
アマチュア無線家の中には高級な計測器をお持ちの方もおられます。HP等を覗いていると「これはすごいな、スペックもすごそうだな、高そうだな!」と思える計測器がさりげなく写真に写っていたりして,そういう写真を見るとつい型番から性能諸元や金額を検索してしまいます(ついでに私の口からヨダレが・・・)。しかし、無銭家(おっと失礼“無線家”でしたか)の私の現実はそうはいきません。次に紹介するように私の場合、安価で性能も大したことのない計測器たちを使っていますが、私の工作には無くてはならない大事な計測器たちです。写真4の様な計測器でいろいろ試みています。
写真4 私の計測器
それと忘れてはいけません。やはり一番お世話になっているのが、“年代物のオシロスコープ”です。目に見えない電気の現象を可視化してくれる夢のような機械(と、昔は思いました)、これがなければ何もできませんでしたから。写真の中にみられるようにデジタルオシロスコープはあるのですが、古いアナログオシロスコープを、これが手放せないんです。そうです、私のBuddy(相棒)です。いつも机の横で老犬のごとく横たわっています。
写真5 年代物のオシロスコープ
2. 計測器
それぞれを簡単に説明しましょう。
①テスター
ご存じ、なには無くともテスター。テスターは電気を扱う人にとっては基本です。抵抗値、電圧、電流を測るのになくてはならない存在です。
②LCRメータ
コイルのインダクタンス、コンデンサの静電容量を測るのに使用します。周波数カウンタキットを含め、いつもキットを組み立てる時には、LCR部品をひとつずつLCRメータに入れては特性値をはかりました。他のキットを組み立てるときにもLCRメータで測ってから基板に組み込んでいます。(老眼が来てからは特に目視で確認できなくなってきたのでこういう部品の値がチェックできるのは助かります)
③周波数カウンタ
今回の記事でも紹介しました。
④アンテナアナライザ
型式名「NanoVNA」です。アンテナをつくるときやフィルタの特性を測るときに欠かせない計測器です。この頃(と言ってもかなり前からですが)、いろんな雑誌で紹介されてます。安価で便利です。私はこれを高周波信号源の代わりにも使っています。CW信号(すなわち周波数一定の連続波)を出すことができますので重宝します。
⑤デジタルオシロスコープ
PC上で信号波形を見ることができ、また、電圧や周波数までも表示してくれるのでありがたい計測器です。また筆者の持っているものは信号発生器も持っていますので重宝します。
⑥アナログオシロスコープ
デジタルオシロスコープは便利ですね。でも私のところでは、まだこのアナログオシロスコープがあるためにデジタルオシロの出番が少ないです。このアナログオシロのようにボタンがいっぱいあるところが好きですね(無線機も同じで、スイッチのたくさんある装置がたまらなくいいですね。あくまでも個人の意見です)。
※オシロスコープの思い出
昔、働き始めてすぐにオシロスコープで無線機の調整をしました。数日後に上司が来てオシロの画面を指さして、「この信号の周波数と周期いくら? 言ってみて」と言われてすぐに答えられずにいたら、「はじめてだからわからないよね。これから勉強していこうね」とおっしゃいました。上司のやさしさに感激し、わたしも同じように指導しようとおもいました。指導したときに答えられない後輩が大部分でしたが、冗談交じりに「オシロの使い方もわからないの。もっと勉強しないといけないね。これぐらい答えられないんだったら罰として、腕立て伏せ100回くらいかな、腹筋一時間くらいかな、はたまた100ボルト感電3回、罰はどれがいい?」と上司が言ったのと同じような意味(?) にすこし味付けして言ってました。サディスティックで性格悪いと思われたでしょうね。
⑦スペクトルアナライザ
NanoVNAと同じ大きさで画面も同じようなものです。受信信号やその他の信号の周波数分析に便利です。
この一か月近く、LA1600というラジオICを使用した7MHzのダイレクトコンバージョン受信機を作ってみようと頑張っていましたが、あちこちで躓いてうまくできていません。この製作途中で上記計測器をどんな場面で使用し、どのような判断を行ったのかを計測事例として紹介してみます。
1. 製作しようとしたシステムの概要
製作をしていたのは次の構成図を持つダイレクトコンバージョン受信機です。
部品の整理をしていましたらLA1600というラジオICが3つもでてきましたので、これを有効利用してみようと思いました。7MHz帯のCW専用で使用するつもりでつくっていました。図6のような構成です。
構成ブロック毎に回路を作成してみました。それが写真7です。
写真7 7MHzダイレクトコンバージョン受信機ブロック
各ブロックが単独で機能することを確認してシステムとして動かしていきました。
・写真7の右端にあるのがNanoVNAです。この位置にアンテナがあると考えてください。信号が右から入ってきて、左に送られて音声信号が取り出されるというイメージです。
・NanoVNAの左にある小さなプリント基板のブロックが帯域フィルタです。7MHz帯の信号以外を減衰させます。回路的には可変コイルと固定コンデンサの同調回路です。
・中央のブレッドボード上にはラジオ受信機ICのLA1600があります。ここで高周波増幅と混合を行います。
・ブレッドボードの下にあるのが局部発振器です。LA1600の混合回路に信号を送り込みます。
・混合された信号はローパスフィルタを経由して、左のスペクトルアナライザの位置に置いてある音声増幅回路に送られ、音声増幅されてスピーカーやイヤフォンに出力します。
音声増幅回路は写真8のようにLM386というオペアンプICで構成しています。
これらは配線を外した状態です。(うまく動いてくれなかったので配線を外しました)
写真8 音声増幅回路
2. 計測器の使用事例
各部のチェックを行うために計測器が活躍しました。回路単独での調整はつぎのようにおこないました。
例1 帯域フィルタ(7MHzを通過させる)の調整 ~NanoVNAによる調整~
フィルタ調整のためには、
・入力側にNanoVNAのCH0(チャンネル0: 信号出力)を接続し、出力側にNanoVNAのCH1(チャンネル1: 計測入力)を接続しました。
・NanoVNAの出力設定をスイープモードにして、例えば5MHzから9MHzまでを周波数変化させると、その時のフィルタ出力の大きさがNanoVNAの画面に表示されます。
・この出力が目的の帯域で最大値となるようにコアを調整します。
この調整では簡単なフィルタですが、複雑な回路では複数のコイルをコアで調整しなければならず、目に見える形にしないと調整は難しいです。
例2 局部発振器の周波数設定 ~周波数カウンタ~
局部発振器は受信周波数と同じ周波数範囲を動かす必要があります。使用した発振器はLTC1799というICを使用したオシレータモジュールです。1kHz~30MHzの発振をおこないますが、ポテンショメータで可変できるようにしました。しかし、7.000MHz~7.050MHzという狭い範囲をポテンショメータで正確にコントロールすることはできませんでした。そこでポテンショメータでは7.025MHz近辺に合わせ、あとの±25kHzは別の値の小さな可変抵抗器を使って可変することにしました。可変抵抗器を回転範囲の真ん中に合わせて、ポテンショメータで7.025MHzに調整しました。この時、周波数カウンタで周波数を見ながらゆっくり回していく必要があります。
単独で調整するブロックは音声増幅回路ですが、このチェックはマイクをつないで「あー」と言えば、スピーカーから「あー」と音が出ることと、ボリューム調整が可能なことをチェックします。オシロスコープで波形をみて確認するのも大切なことです。
例3 混合回路の動作確認 ~NanoVNA~
ブロック単独の確認が終われば回路連携のチェックを行います。
写真7のように回路を接続します。アンテナを付けずにNanoVNAを接続し、LA1600の混合出力にスペクトルアナライザを接続します。NanoVNAから7MHzの信号を入力するとLA1600の混合出力に繫いだスペクトルアナライザには、回路が正常に機能していれば、局部発振器と7MHzの和の周波数と差の周波数の信号が出てきます。一方は音声帯域の周波数、もう一方は和の周波数である14MHz帯の信号が出てきます。これを観測することで混合器がうまく働いているのかが分かります。
例4 「うまくいかないな」と思ったら・・・
計測器を使って組み立てていけば楽にできそうですが、なかなか思ったようにいかないのが世の常です。LA1600の情報が仕様書からはっきりわからないなと思いながら回路を組み、バイアスを変えたりパスコンを付けたりとやっても、出力音声の雑音下に何か音らしきものが入ってくるけどわからない、なかなか7MHz帯のモールスが聞こえてこない、という悶々とした日々を送っていたある日、局発のボリュームをぎゅっと一杯に回すと音声が入ってきました。
「やった」と思ったのもつかの間、AM放送じゃないのかという疑問。しばらくして「FM・・・」とか聞こえる。よーく聞いていると聞いたことのある声です。これはABCラジオ(朝日放送)ではないか。チューニングのための局発を回すとまた別のMBS(毎日放送)。
「FM・・・ とかいっているのはFM補完放送? ABCのAM放送の出力は50kWあるけどここから20km以上ははなれているぞ、FM補完放送アンテナは4kmほど。そういえばこのあたりはFM信号強いな、もしかしてFMをひろっているのでは?」と思って、製作中のラジオにつながっていたアンテナにスペアナをつないでみると、写真9のようなスペクトルが見えました。
周波数が70MHz近辺と92MHz近辺にとても大きなお山があります。我が家は生駒山頂にある出力7kWや10kWあるFM放送のアンテナ群からわずか4.2kmしか離れていません。70MHz付近の信号も10kW。他の信号をかき消す強力さです。「FM変調なのになぜDC受信器に勝手にはいってくるの?」と聞きたいですが、パワーは理屈を凌駕しています。「こんな電波野獣地帯のような場所でDC受信機なんかで聞こえるのか」と思ったとたんにDC受信機は遠ざかっていきました。
「いやー、スペアナって便利ですね」(涙)
ほかに回路上の問題点があるのかもしれませんがDC受信機計画頓挫させました。Hi
写真9 我が家の受信信号のスペクトル
何か回路を作ろうと思えば計測器が必要になってきます。しかしこの頃、最強の計測器は無線機ではないかと思うことがよくあります。IC-7300やIC-705(私の持っているものですがHi)のようにスペクトルスコープを持っており、さらに広帯域受信機もあります。これはスペクトルアナライザそのものです。私はスペアナやNanoVNAを持っていないときはテスターやオシロ、そして無線機で回路動作を確認しながら作っていました。多少不便はありましたがエイヤーでやってました。その時一番頼ったのは無線機でした。周波数もわかればスペクトルも信号レベルもわかります。
こんな頼もしい無線機を、通信だけではなく計測のためにもどんどん使い倒そうではありませんか。
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