新・エレクトロニクス工作室
2023年5月15日掲載
週刊BEACONのNo.182で、この発振器の1号機を写真1のように作りました。GPSのモジュールをパソコンで設定変更し、1PPSの出力を10MHzにして出力するものです。このようにGPSアンテナを内蔵しているモジュールですので、プラスチックケースに入れ出窓に置いて受信していました。もちろんプラスチックケースの蓋はします。
写真1 週刊BEACONで作った10MHzのGPS発振器
この出力周波数10MHzは正確なのですが、揺らぎがあります。時々20mHz程度すーっと動く事もあります。そこで直接使用する事はせずに、10MHzのOCXOとの位相差をCPUで読んでD/A出力で発振周波数を微調整するというGPSDOを作製しました。これを週刊BEACONのNo.189で紹介しています。
ソフトをバージョンアップさせていますので若干表示は変わっていますが、写真2のように位相の変化を回転で表します。矢印にある点が、その時点での位相です。この点が米印を1秒で1回転すれば1Hzのズレになります。20mHzのずれであれば50秒で1回転する事になります。一般的な周波数カウンタでは、ゲートタイムを相当に長くしない限り測れないような誤差です。位相で見ると20mHz程度は簡単に認識可能です。一般的にはSGでも周波数カウンタでも20mHz程度の誤差であれば立派な性能ですが、GPSDOに使って更に精度を上げようという試みでした。
写真2 GPSDOでは位相の変化を回転で監視
矢印にある点が、その時点での位相
今回はGPSDOの大元となるGPS発振器が継ぎ接ぎだらけになってしまったため、リニューアルしようと考えたものです。最初に作った時にはGPSモジュールに付いているアンテナを使っていました。写真1の右上にあるのがアンテナです。しかしGPSアンテナを週刊BEACONのNo.211のように整備し、分配器から供給するようにしました。そのため、アンテナ入力の付いたGPSモジュールに交換しました。ところが入力コネクタのスペースがなく、外にケーブルで出していました。更に月刊FBニュース2022年7月号の本稿第3回で10MHzのクリスタルフィルタを使ったため、これも外付けになってしまいました。写真3のような状態となっていましたので、これを整理したかったのです。
写真3 継ぎ接ぎでこのような状態に・・・
このように考えて、写真4のように作り直しました。これまでの回路を合わせただけですので、特に新しい部分はありません。
写真4 再度作った10MHzのGPS発振器
基本的には今までと同じで、図1のような回路としました。GPSDOの内部でレベルの調整ができますので、本来FETの入力にある半固定VRは不要です。しかし、他の発振器と入れ替える度にGPSDOを開けて調整するのでは使い難くて仕方ありません。そのために入れた半固定VRです。これだけでずっと使いやすくなりました。もっと容易に調整できるように普通のVRを使い、ケースの外にツマミを出す方法もあったかもしれません。
使用した部品ですが、USB-TTLの変換は、aitendoのキットを使っています。一般的にはパソコン側はUSB-Aで、機器側はUSB-Bを使うのが普通です。しかし、何故か機器側にUSB-Aを使うキットが多くあり、接続にUSB延長コードを使う事になってしまいます。以前はUSB-Bのキットもあったのですが、現在はUSB-AかマイクロUSBのキットが多いようです。もちろん、ケーブルが接続できれば問題はありません。
GPSモジュールは、新しく仕入れたu-bloxのNEO6M-ANT-4Pを使う予定でした。もちろん、同じ部品でないと使えないという事ではありません。このGPSモジュールを使ったところ後でトラブルになり、結局は古いモジュールを使いました。これは後述します。
GPSモジュールは1PPSによってLEDが点滅するタイプで、そのLEDの端子から出力を引き出します。製品によっては1PPSの出力端子があるものがあり、その方が使いやすいと思います。また、アンテナの入力端子があるもの、アンテナが直付けのものがあります。アンテナと入力端子の両方付いているものもあります。どちらでも良いのですが、一番重要なのは1PPS出力があって10MHzに変更できる事です。
この基板を作る前に、どのようにまとめるかの検討をしました。もちろん普通は最初に考える事です。ケースにYM-90を使うつもりで進めたのですが、コネクタ等をケースにねじ止めすると明らかにスペースが足りなくなります。ケースを大きくしたのでは、デッドスペースが増えてしまいます。そこで、全てのコネクタや基板を生基板上にハンダ付けをし、ケースの上側から入れるだけの構造にしてみました。
USB-TTLの変換基板は写真5のように裏側に絶縁テープを貼り、短いメッキ線を使って生基板上に直接ハンダ付けする事としました。GPSモジュール基板と、シールドメッシュのD基板は、生基板に金属製のカラーをハンダ付けして固定しました。BNCコネクタもフランジ部分を直にハンダ付けしています。
写真5 USB-TTL変換は裏面に絶縁テープを貼る
基板は図2のような実装図を作成してから、ハンダ付けを始めました。ハンダ面は図3となります。使用した基板は、秋月電子のD基板です。普通のタイプではなく、部品面がグランドとして使えるシールドメッシュ基板です。緑の点で部品面のシールドメッシュにハンダ付けします。
GPSモジュールからの出力は、点滅させているLEDから写真6のように取り出しています。もちろん1PPSの状態では点滅が見えますが、10MHzに設定すると薄暗く見えるだけになります。1PPS出力のあるGPSモジュールであれば、それを使う事ができます。
写真6 10MHz出力はLEDから取る
作製した基板等を生基板上に固定して、配線した様子が写真7になります。カラーは生基板にハンダ付けしています。反対側から見ると写真8になります。当然ですが、この状態で正しく動作する事の確認をしています。
写真7 配線をした様子
写真8 反対側からはこんな感じに
ケースはタカチ電機のYM-90を使い、上からハンドニブラで切れ込みを入れました。ヤスリで仕上げて写真9のようになりました。もちろん、基板がちゃんと入るように仕上げる必要があります。基板を入れると写真10のようにピッタリ収まります。まあ、入らない部分はヤスリで削ったというのが正しいのですが・・・。
写真9 ケースには切れ込みを入れました
写真10 このように全体が収まります
ケースとしてはこれで良いのですが、このままだと上下左右に振動してしまいます。もちろんショートするような心配が無いようには作っています。しかし、多少カタカタしても問題はない「はず」とは言え、思いもよらぬトラブルの原因になるでしょう。そこで、ホットボンドを使って簡単に固定をしておきました。あまり頑丈に固定するよりも、メンテがしやすいように簡単に外れる程度にする方が良いと思います。
一応ハードとしては完成という事になりますが、1秒パルスの出力を10MHzに設定変更する必要があります。この方法については使用するソフトによって微妙に異なります。基本的には「View」→「Configuration View」→「TP5」に入り周波数を10MHzとして、duty比を50%にします。これで動作の確認を行います。この設定を一時的ではなく毎回行わなくて良いように、「Receiver」→「Action」→「Save Config」をクリックます。これで電源を入れると常時10MHzを出力するようになります。u-blox社以外のGPSモジュールについては、使用した事がなく解りません。
これで完成したと思ったのですが、少し動かしてから思いもよらないトラブルに気が付きました。10MHzに設定変更をして出力はします。ところが安定しないのです。今までのGPSモジュールに比べて1桁か2桁不安定になってしまいました。これは簡単なチェックでは全く解らないもので、完成したと思って数時間動かしてから気が付いたものです。使ったのは新しく仕入れたu-bloxのNEO6M-ANT-4Pでした。同時に仕入れたもう一個で試しましたが全く同じでした。設定も全てを確認比較しましたが相違は見つかりませんでした。これでは使用できませんので、過去に使っていたものに交換すると安定しました。不本意ですが、この古いモジュールを使う事になりました。とりあえずは良いのですが、これでは少々困ります。しかし、これがクレームの対象になるのかは良く解りません。
今回の作品として問題はないとしても、GPSモジュールの試験をする必要がありそうです。しかし、このままではモジュールの試験器としては使い難いので、簡単な試験器を作って良く確認しようかと思っています。
2022年7月号の本稿第3回で紹介した10MHzのクリスタルフィルタについて、今回も内部に使用しています。JARL栃木県支部が行う「ハムのつどい」が今年の3月5日に久しぶりに開催され、私は個人ブースを出して自作品の展示をしました。ここで、月刊FBニュース読者の方が来られ、このフィルタについての質問がありました。ロスが20dBくらいと大きいのですが・・・ という事でした。その時には瞬間的に「うーん」の他に明確に返答できませんでした。5~7dB程度のロスは出ると思いますが、20dBは桁違いに大き過ぎます。
直後に気が付いたのが、周波数のピークがずれていると考えるのが自然だろうと思いました。クリスタルは同じ10MHzの表示でも微妙に等価回路の値は異なります。図4のように、私は33pFで合わせられましたが、当然全てのクリスタルで試したわけではありません。
図4 33pFで10MHzに合わせましたが調整が必要な場合もあるでしょう
一般的にクリスタルは、同じメーカで同一ロットが最良です。メーカが異なれば、特性が異なる可能性があります。もちろん同一ロットでも信用せずに、クリスタル単体で直列の共振周波数を測るような測定ができるとトラブル時の対応が違ってくるはずです。ピークが合わないような場合は、1段のクリスタルフィルタにして、シリーズに入れるコンデンサをトリマーとしてピークを探るのが良いかもしれません。これを3つのクリスタルで試すと状況が解るはずです。普通の受信機で使うクリスタルフィルタは、中心周波数はあまり気にしません。ところが、この場合のフィルタは10.0000MHzちょうどに合わせる必要がありますので、少々考え方が異なります。
また一般的ではないトラブルとは思いますが、今まで動いていた発振器が突如止まった事があります。もう40年前ですが、クリスタルの交換で修理できました。何で発振しないのかとハンダを外して中を開けると、写真11のような状態でした。多少の振動は与えたと思いますが、割れるなんて信じられません。こんなクリスタルではフィルタにもなりません。このような事もありますので、いずれにしても100%は信じない事でしょう。
写真11 クリスタルの内部がこんな状態だった事も・・・
このように想定外のトラブルもありましたが、順調に動いています。GPSDOも問題なく動作しています。私の作業机の上もスッキリとして常時稼働するようになりました。
とりあえずモジュール交換後は、写真12のように横置きにして机の上で動かしています。GPSからの分配器を入れると写真13のようになります。この分配器も週刊BEACONのNo.211で作ったものです。
写真12 このように机上で稼働
写真13 上にあるのが分配器
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