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FB LABO ~エレクトロニクス研究所~

【激レア】旧西ドイツ製無線機を徹底分析【1974年製】

JP3DOI 正木潤一

“教科書通り”のシンプルな回路

それでは、基板のパターンを追って信号の流れを見ていこう。この無線機の回路に関する情報はインターネット上でほとんど見つからなかったため、基板のパターンと部品情報から信号の処理を推察することになる。ただ、確実に言えるのは全体的にごく標準的なダブルスーパーヘテロダイン方式の回路構成ということだ。高い信頼性が求められる軍用無線機だけに、できるだけシンプルにしているのだろう。ただし、送信波と局発を生成する発振回路は独特で非常に興味深い。

受信回路


受信基板全体。受信信号は上から「U」の字に流れながら処理される。

アンテナからの受信信号は、アンテナスイッチのある送信回路基板を経由して、同軸ケーブルで基板に入力される。


受信回路のブロック図。第2中間周波数は455kHzと標準的だが、第1中間周波数が20MHzと珍しい。また、第1IFアンプが無い。

1. RFアンプと第1IF回路
受信信号はフィルターを介して赤茶色く塗り固められたモジュールに入力される。このモジュールの次は第1IFミキサーなので、高周波増幅回路(ローノイズアンプ)を内蔵しているはずだ。


受信信号は、BPF(手前のボビンコイル)を通った次にモジュール(写真中心)に入力される。出力は後ろにあるミキサーIC(金属缶)に入力される。

モジュールの出力は、ボビンコイルにて“不平衡-平衡変換”されてから第1IFミキサー “S042”へ入力される。そして周波数生成回路(OSC UNIT)からの第1局発信号(受信周波数+20MHz)と混合され、20MHzの第1IF信号となる。

データシートによると、“S042”は200MHzまで対応しているバランスドミキサーIC。100MHzにおける変換利得が15dBある。外部の発振回路から局発を入力、混合して中間周波数を生成している。発振回路を内蔵しているので、後述のように水晶発振子を付けて固定周波数の局発信号を作ることもできる。

第1IF信号は大型の20MHzの水晶フィルターを通って、そのまま第2IF回路へと入力される。なんと、第1IFアンプは無いのだ。前述のように、ミキサーの変換利得が15dBあるのでゲイン配分上の問題は無いのだろう。第1IFフィルターは、その大きさから当時としては優れた周波数特性を有していると思われる。


基板上で存在感を示す、大きな第1IF用水晶フィルター。フランスの『COMPAGNIE D'ELECTRONIQUE ET DE PIEZO-ELECTRICITE(C.E.P.E)社』製(現存していない)

2. 第2IF回路
第1IF信号は、同じく“S042”を使った第2IFミキサーに入力され、第2局発信号と混合されて455kHzの第2IF信号に変換される。第2局発信号は周波数が固定のため、“S042”に内蔵された発振回路と外付けの水晶によって19.545MHzを発振させている。第2IF信号はセラミックフィルターを通り、モジュールに入力される。第1IFに水晶フィルター、第2IFにはセラミックフィルターという組み合わせは現代の無線機と同じである。

このモジュールへは、入力、出力、電源パターンしか無いことから、単に増幅しているだけだと思われる。また、過入力リミッター用のダイオードが見当たらないことから、このモジュールに内蔵されている可能性がある。


第2IFのセラミックフィルターは、なんと村田製作所製。フィルターの右に寄り添うモジュール(赤茶色)には第2IFアンプが内蔵されている。

第2IFアンプモジュールの入出力信号レベルを測定してみた。


モジュール入力前(左)と出力後(右)の第2IF信号波形

240mVrmsが1.56Vrmsに増幅されていることから、電圧比で6.5倍、したがって20×log(6.5) = 16.26。つまりこのモジュールは455kHzにおいて約16dBのゲインがあるアンプであることが分かる。

モジュールで増幅された第2IF信号は復調回路に入力される。

3. 復調回路
増幅された第2IF信号は、IC “S041”に入力される。データシートによると、これは6段のIFアンプとクワドラチャ検波回路を内蔵したFM復調IC。現代の無線機に使われている復調ICにはRSSI回路やスケルチ回路なども内蔵しているが、このICは第2IF信号を飽和増幅して検波する機能だけを持っている。

FM検波回路にディスクリミネーターは使われておらず、455kHzに共振させたコイルとコンデンサの並列回路でS字カーブ特性をつくり、周波数の変化を振幅の変化に変えている。6.8kΩのダンピング抵抗が共振回路に入れられていることから、カーブ特性をなだらかにして復調音声帯域を広げているようだ。


復調コイルの裏側に穴がある。ここからボビンコイルのコアを回してインダクタンスを調整できる。

復調された音声は、最大音声出力レベルを設定する可変抵抗器(=音量調整ダイヤル)を介して音声増幅回路へ入力される。

4. 音声回路
スピーカーを鳴らすための音声増幅回路にはAFアンプIC “TAA611” が使われており、少ない部品でシンプルにできている。データシートによるとこのICは、最大1.15W(8Ω負荷時、9V電源時)の出力が得られるとのこと。筐体側面の音量調整[VOL]ダイヤルでICへの入力レベル、つまりスピーカー音量を調節するようになっている。


缶入りAFアンプIC “TAA611” (ドイツSGS社製)

増幅音声はAFコネクターに出力され、ヘッドセットまたはスピーカーマイクに入力される。

5. スケルチ回路
FM復調ICからの検波信号は、スケルチ回路を構成するモジュールに入力される。このモジュールは、無信号時の検波信号中のノイズ成分を抽出する、アクティブ・フィルターを内蔵していると思われる。モジュールからの出力は、5つのトランジスタで構成されたノイズアンプによってひたすら増幅される。


ノイズフィルターモジュール(赤茶色)と、その下にあるノイズアンプ回路。

ノイズが存在するとき、つまり無信号時にはスケルチ回路から電源回路にHighが出力され、AFアンプICの動作を止めて音声出力をミュートする仕組みだ。

なお、電源スイッチが“EIN”(=ON)の時はスケルチが強制オープンとなるのでスケルチ回路は動作しない。また、“RSP. ”(=スケルチ)の時はスケルチ回路が動作すると同時に、後述のように各回路への電源が間欠供給となる。

次号へとつづく

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